第174話 示すもの



俺は気を身体中に気を練り込む。

無能を示すと啖呵をきったが。それを示す為に俺は魔法に似た攻撃をしないことにした。それが純粋なる肉弾戦である。気は扱うが飛び道具のような技は一切使用しない。純粋なる力による攻撃である。Boin走行は加速スピード上げる為のものであり。相手の懐に飛び込むのに使う。煌輝竜アルベッサがどのような能力を持っているかは知らないが。無能な力を示すには力ずくでねじ伏せるしかない。超常的な魔法のようなものを扱うわけにはいかないのである。


『弁解してもいいのだぞ。おまえが精霊を使役できることを知っている。そして強いことも。無能の力を示すなど無意味なことだ。持てる力を晒さぬことに意固地にならなくても良いだろう。』


煌輝竜アルベッサはそううめき俺を挑発する。俺にどうしても精霊の力を使わせたいようである。奴にとって有能であることと能力があることが全てなのだろう。能力があることが強敵であり強豪であり好敵手であるということなのだ。俺は奴に有能さを示すつもりはない。無能で奴を倒すと俺は心から決めている。確かに俺は意地や意固地になっているのかもしれない。無能といっても一応気は使う。体内に気を練り込み肉弾戦で奴を倒すつもりなのだ。だが気は放ちはしない。

俺はあくまでも拳だけで奴をねじ伏せるのに固執している。他の者が見たら馬鹿者だ愚か者だと罵られるだろう。それでも俺はどうしても無能を否定されることが許せなかったのだ。


ギャアラギャガアギャラギャギャア

(話はもう良いか。アルベッサ。行くぞ!。) 


『ふん、全くくだらんことにこだわるな。ノーマル種ライナ。能力があれば存分に使えばよいものを。言っとくが全力を出さなければ俺には勝てぬぞ。』

ギャアラギャガアギャアラギャギャア!

(全力は出すさ。ただし。この拳でだ!)


俺は翼を広げ鉤爪の掌を構える。


「行きますわ!ライナ様!。」


マーガレットお嬢様は胸を押し付けたまま俺の背中で左右に揺する。

すりすりすりすりすりすり


マーガレットお嬢様のぷるんとした張りのある2つ膨らみが俺の背中に左右に均等に擦れる。


「な···何をしているの?。マーガレット・ベルジェイン····。」


高貴で上品な財界の有力者でもある令嬢マーガレット・ベルジェインがお嬢様らしからぬあわれもない行為に純白の乙女のリーダー、レカーリヌは愕然とする。


『面白いことをしているな。何か意味でもあるのか?。』


煌輝竜アルベッサはライナの姿にほくそえむ。


ギャアラギャギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャギャアラギャギャ!

(ああ、俺の背中に胸を押し付けられ擦られると。おもいっきりやる気がでるんだ!。)


俺は正直に言葉を返す。


『はは、面白いなあ!。ならばそのやる気とやら見せてもらおうか!。』

ギャアラギャ!

(望むところだ!。)


バサッ!

俺は翼を広げダッシュする。

Boin走行の効果で加速スピード上昇し。直ぐに煌輝竜アルベッサの懐に入る。


「なっ!。」

『むっ、速いな。』


鉤爪の右掌を握りしめ竜の胴体の脇腹辺りを殴り付ける。


ドォッ!


『くっ!。』


拳がクリンヒットし煌輝竜アルベッサは苦悶な表情で呻く。


「援護するわ!。アルベッサ。」


純白の乙女のリーダー、レカーリヌは手の甲に装着した宝玉で武器を取り出そうとする。


「余計な真似をするな!。レカーリヌ!。お前の手はかりん!。相手の力量も解らぬ者に手を出されては足手まといにしかならん!。引っ込んでろ!。」


主人であるはずのレカーリヌにアルベッサは容赦ない罵声を浴びせる。

罵声を浴びせられた純白の乙女のリーダー、レカーリヌはふるふると震えだし。白粉の厚化粧顔の目には微かにだが涙を滲ませる。


ギャアラギャギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ

(アルベッサ。一応レースは騎竜乗り同士の戦いでもあるんだぞ。)


『ふん、無能な主人に遣わされるほど憐れな騎竜はいない。お前もそう思うだろう?。』


アルベッサは俺に同意を求める。

俺は無能という言葉にぴくと反応する。アルベッサの背に騎乗していた純白の乙女のリーダー、レカーリヌの厚化粧の顔は悔しげに唇を歪ませていた。

········

そんな彼女の表情に俺はぐっと鉤爪の掌を強く握りしめる。


ギャ····ガアギャアラギャギャアラギャ!ギャアラギャガアギャラギャ!!

(そうか····。アルベッサ·····。はっきり言う!。俺はあんたが大ッ嫌いだ!!。)


サッ 

俺はすかさず踏み込み脚を使い蹴りを入れる。

ドゴッ‼️


『ふっ、嫌われるとはなあ。俺はあんたがノーマル種だとしても強く買っているのだがなあ。』


アルベッサは苦笑しながら俺の蹴りをまともにくらい耐える。 


パンッ パンッ

俺は拳を交互に放ち。煌輝竜アルベッサも負けじと打ち返す。

アルベッサは俺の蹴りと拳を全て受け。多少はダメージが入っているようだった。

暫く拳と蹴りだけの打ち合いをしたがアルベッサは一端俺から離れる。


『肉弾戦だけでこれほどやるとはな。無能を示すとはこういう意味か?。だが、肉弾戦とて限界はある。竜の戦闘は能力に左右される。己の魔法、スキル、固有能力をそれをどう生かすかで騎竜の戦闘の勝敗が決まる。』


俺は煌輝竜アルベッサが正確な正論を言って更に勘に触る。確かにアルベッサは実力を持った騎竜なのだろう。相手の力を認め。自分の力に驕りをもっていない。貴族社会の見た目だけを重要視するのではなく。本当の実績と実力と戦績でのぼり上がった騎竜なのだと知る。

だからこそ有能無能かを見極め。簡単に切り捨てられるのである。それは言い換えれば未熟な騎竜乗りを成長させるつもりもないということである。有能無能以前にこのドラゴンは人間の成長を信じていないのだ。そんな態度が俺を更に勘に触らせた。主人であるアイシャお嬢様も昔はおぼつかないほど未熟な騎竜乗りであった。レースを重ね。戦績を積み上げ、学園で訓練に励み。見違えるほど成長している。故に無能が有能になることを否定することは主人であるアイシャお嬢様までも否定することと同意義にかんじたのだ。俺は無能ではあるけれど。成長できないわけではない。だからこそ無能を示さなくてはならないのだ。


『では煌輝竜の能力を御見せしよう。あまえがスキルや魔法、精霊といった力を使わず無能示そうとも。俺の能力なら力を使わず入られないのだからな。』


ニヤリとアルベッサの竜口が不適な笑みを溢す。


『喰らうがいい!。これが煌輝竜の力だ。フラッシュロスト(閃光喪失)』


くわあああああああーーーーッ!

煌輝竜が鱗が閃光を放ち輝きだす。

くっ、やっぱ煌めきというからには光を放つタイプの竜か。俺は眩しさをこらえ。薄め目ながらも閃光のような光を放つアルベッサの鱗を目を逸らさず直視する。


あああああああああーーーー················、

輝く光が静まると俺は竜瞳をしばたたかせる。

何だ?。何も起こらんぞ?。俺はスキルが不発に終わったのかと勘違いをする。しかし目の前の煌輝竜アルベッサは勝ち誇ったような笑みを絶やすことがなかった。


『残念だったな。ノーマル種ライナ。俺の姿を直視せず目を瞑っていればまともに喰らわずにすんだのにな。』

「何っ!?」


ぶあああああ~~~~~~

何だ!?目の前が真っ暗に·······

俺の竜瞳の視界が段々と薄暗くなり。金貨の山の金色の景色さえも真っ黒に染まる。俺の視覚が完全に喪い。何も見えなくなってしまった。


『これが俺の煌輝竜の能力、スキルだ。相手を目眩まし、いや視力を喪失させる。』


くっ、こいつデバフ系の竜だったのかよ!。状態異常を得意とする竜だとは思わなかった。外見が美しい鱗を持っているが攻撃がえげつない。寧ろ攻撃がビームやレーザーの方がましだった気もする。


『俺のスキルはあの魔眼持ちの魔眼竜さえも視力を喪失させる。効果はほんの数分程度だが戦闘するのには充分だろう?。』


わーーーー! わーーーー!

観客席から歓声が沸き上がる。成金貴族達は勝ち目が既に決まっているノーマル種と煌輝竜の戦闘を面白がって観戦している。


「ナーティア、あの煌輝竜の言っていること本当なの?。」


放送席の解説席にちょこんと座り。パープル髪の小柄な令嬢パトリシアは相棒である魔眼竜ナーティアに聞いてみる。


「はい、煌輝竜は我等魔眼竜の天敵とも呼ばれている竜(ドラゴン)です。私達の絶対的な武器である魔眼を唯一無力化できますから。」


ナーティアは眉を寄せ険しそうに巨大スクリーンに写る盲目となったノーマル種ライナの姿をみいいる。


「オホホ、これで決着はつきましたわね。パトリシア・ハーディル。視力を奪われたノーマル種など最早戦闘することも叶わぬでしょう。肉弾戦しか取り柄のないノーマル種だからこそ一層勝ち目はありませんわ。いえ、既にノーマル種とレア種では戦いにはならないですから。」


宝石を散りばめられた羽毛の扇を扇ぎ。もう1人の解説者であるサルマニア・サナナビッチ婦人は勝ち誇る。


「さあ···それはどうでしょうか。」


パトリシアは社交辞令ようなうっすらとしたつくり笑みを浮かべる。

くっ、生意気な小娘だこと。

パシッ

サルマニア婦人は不機嫌に扇を畳む。

もう二人とも喧嘩しないでよ~。

実況のアルヘビラは二人の険悪なムードに困り果てていた。



『どうする?。ライナ。視力を喪えば何処から攻撃くるか解らないぞ。精霊を使役するしか対応策はないぞ。』

「あんたに無能の力を示すと言っただろう。」

『頑固だな。それが命とりになるとも知らずに。』


煌輝竜アルベッサははあっと深いため息を吐く。


『ならば漆黒の暗闇の中で俺の攻撃を受け続けるがいい。』


アルベッサは空中で身構える。

視界が黒く塗りつぶされ何も見えない。感覚としてあるのはマーガレットお嬢様に押し付けられる胸の感触だけだ。


「ライナ様、右ですわ。」

『遅いわ!。』



マーガレットお嬢様の背中からの警告に俺は回避しようとするが間に合わず右腕に激痛が走る。

ぽたぽた

暗闇で解らないがど。うやら俺は右腕を引っ掻かけられ血が流れたようだ。


「あわわ、ライナ様~、どうしましょう。」


マーガレットお嬢様はあわてふためく。

視力が喪い確認はできないが。背中にあたる胸が何度もバウンドしているところからマーガレットお嬢様はかなり動揺しているようだ。


ギャアラギャガアギャアラギャギャアラギャガアギャラギャギャアラギャ

(落ち着いて下さい!。マーガレットお嬢様。もう一度指示をお願いします。)

「わ、解りましたですわ!。」


背中にバウンドする胸の感触が止まったので動揺がおさまったようである。


『人間の指示など騎竜の戦闘には何の役にも立たない。結局は竜同士の戦いはその竜の能力で決まるのだ。無能な主人の指示なら尚更であろう。』


煌輝竜アルベッサは吐き捨てるように言う。

言葉の指示では確かに反応速度では間に合わない。ならばどうする·····。

·············

俺は瞑想し考える。そして閃く。


ギャアラギャギャアラギャギャアギャア

(マーガレットお嬢様お願いがあります。)


「何ですの?。ライナ様。私でしたら何でも致しますわ。心も体もわたくしライナ様に一生捧げると誓いましたから。」


いえ、心も体も要りませんと突っ込み入れようとしたが思い止まり。俺はとある提案する。


ギャアラギャギャアラギャガアギャアラギャギャ

(マーガレットお嬢様。胸で指示をお願いします。)


「は、はい·······?····ですわ???。 」


俺の提案にマーガレットお嬢様は背上で眉を寄せなんども首を傾げ。???マークが何度も意味不明に頭上に浮かび上がる。

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