第167話 欲求不満な令嬢

ドシドシ

森のトンネルを抜けアイシャお嬢様の寮を過ぎ校門付近にある俺の寝床来客専用竜舎にむかう。

ドシドシ


校門内に建つ守衛室が視覚に見えてくる。校門を入って左側に守衛室、反対側が俺の寝床である来客専用竜舎である。守衛室にいる守衛さんも俺の姿に目があうと嫌そうな顔をしてくる。ノーマル種がふてぶてしく校内を出歩いていることが気に入らないようである。まっ、実際、人化できないからアルナビス騎竜女学園の授業を受ける必要性もないので好き勝手に校内をうろついているのは事実だが。そのことでも主人であるアイシャお嬢様にきつく注意されていた。

だって仕方ないじゃん。暇なんだから。俺はそんなよそに俺の竜舎(来客専用竜舎)へ入る。竜舎内では学園の用務員で竜舎の管理もしているモロトフ・ツェッペリンとさんと。その娘さんであるオーバーホールに包まれた健康的で豊満な膨らみをお持ちな赤髪と鼻に小さなそばかすのついたチャーミングな印象のアンナ・ツェッペリンさんが竜舎内を丁寧に掃除している。


ギャアラギャアギャア

「ただいま帰りました。」


俺は二人に挨拶する。明確には帰ってきたわけではないが。ここも俺の大切な竜舎である。カーラさんに勝手に鋼鉄製にされたマーヴェラス邸の竜舎よりは愛着はある。


「おお、帰ってきたかい。久しぶりじゃのう。」

「お帰りなさいませ。ライナさん」

「七日間以上しかたっておらんが。お前のだらしない寝顔を暫く見れなくて寂しかったぞ。」


だらしないってひどいなあ~。

俺は竜舎内を見回し。綺麗に掃除がいき整えられていることに満足する。


「お前の寝床は藁を入れ換えて新しくしておいたぞ。」

ギャアラギャアガアギャアラギャアギャ

「ありがとうございます。モロトフさん。」


俺は心から感謝する。


「で、これからどうするんじゃ?。ライナ。来客専用竜舎はいつでも使えるぞ。」

「まだ寝るのに早いので学園校舎に見に行っこうかと思ってます。」

「また、あのお嬢さんにどやされんぞ?。」


家の主人のアイシャお嬢様のことを言っているのだろうが。あまり遠くに行かなければ叱られない筈だ(多分)。


ドシドシ

令嬢生徒達が通学に通る並木道を進み。学園校舎へとむかう。通学する令嬢生徒達は既に殆んど校舎の中に入っているようで並木道には人気はなかった。


ドシドシドシドシ


「ああ!?。ライナだ!。逢いたかったよ~。」


目の前の校舎玄関に差し掛かった時、聞き慣れた無垢な少年のような声が西の方から聞こえてくる。

視線を移すと男装の貴族の格好したブラウンの髪と瞳を染めているキリネ・サウザンドの姿が竜瞳に捉える。

キリネは笑顔でかけていき俺の竜の懐に飛び付く。

むにゅう♥️

オオー!、男装してわからぬほど着痩された豊満な膨らみが俺の胸の下辺りに押し付けられる。

ギャギャアラギャア

「キリネ、久しぶり。」

「ああ~、やっとライナに逢えた。寂しかったよ~。」

「キリネ、ライナとスキンシップするのは後にして頂戴。早くしないと一年のホームルーム終わっちゃうでしょう。」


後ろには艶をブロンド銀髪を靡かせるキリネの姉、セシリア・サウザンドが付き添っていた。キリネの騎竜である幻竜ラナシスさんもいる。ただ何故かセシリアの騎竜、魅華竜ソリティアだけは一緒に同行していなかった。方向からしてサウザンド家の別荘からきたようである。


「今日は休むよ。ライナと逢えたし。今日1日ライナといちゃいちゃする。」


屈託のない笑顔でキリネは俺にべったりとくっつく。


「キリネ、ちゃんと授業受けて下さい。旦那様がこのまま授業をずる休みするなら邸に連れ戻すとセシリア様から聞かされていたでしょうに。」


幻竜ラナシスさんは困った顔で嗜める。


「くっ、あの忌々しい糞親父め!。何処まで僕の自由を奪えば気がすむんだ。」


キリネは苦々しく顔を歪ませる。


「これでも旦那様、キリネを数年自由にしていましたよ。学園の授業を受けないまま落第し続けるキリネに旦那様も痺れを切らしたのでしょう。このまま落第続けるか。それともライナ様と一緒に学園を卒業するか選んで下さい。キリネ。」


「ぐぬぬ、仕方ない····。ライナと離ればなれになるのは嫌だし。はあ、真面目に授業を受けるよ。」


キリネは堪忍したようで低く肩を落とし項垂れる。

ギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャアラギャア?ギャアガアギャア

「セシリアお嬢様。相棒のソリティアはどうしたんですか?。傍におりませんが。」


俺は疑問をキリネの姉セシリアお嬢様に聞いて見る。


「今はソリティアは別荘に引きこもってて、でてこないのよ。前は暇な時はオスの騎竜をしょっちゅうひっかけて誘惑して遊んでいたんだけど。今じゃオスそのものに嫌悪し。恐怖を抱くほど男性恐怖症になってしまって。」


セシリアははあっとなんとも言えない深いため息を吐く。それほど魅華竜ソリティアのトラウマが重症なのだろう。その原因を作った張本竜は俺なのだが。全く持って俺にはその記憶が一切ない。

キリネ達を学園の玄関に入るのを見送った後、俺は玄関前でポツンとつっ立っていた。

さて、ここにいても埒があかない。また学園をうろうろしていたらアイシャお嬢様にどやされるかもしれないし。さっさと竜舎に帰ろう。俺はもときた並木道を戻ろうとする。


ドドドドドド!!!

遠くの校門の方から物凄い土煙があがって何かがこちらに駆けてくる。

竜瞳を凝らすと学園の制服をきた二人の令嬢生徒であった。


「アーニャ!。あんたねえー!休み明け早々に遅刻すんじゃないわよ!。」

「ふええ、ごめんなさい~!。カリス~。」


ふりふり ふわふわ

ポニーテールをふりふり揺らし。膨らみが全くないぺったんな令嬢カリスとふわっふわっとわたあめのような軽さを秘めた爆乳を雲のように揺らす令嬢アーニャが慌てて目の前の並木道を駆けてくる。

スッ

いつもの通りに遅刻したであろう二人の令嬢はそのまま何事もなかったかのように俺の前を通りすぎる。そのまま学園の玄関に駆け込んでいってしまう。

続いて後を追うように角を生やした小柄の青髪の少女と角を生やしたドレスを着た大人びた女性が現れる。先に学園の玄関の入った主人を追うように騎竜である二匹は入っていく。弩王竜ハウドは一瞬俺が視界に入るとまるでロックオンしたかのようにキラッと眼光を放ち。凝視ながら通りすぎていく。(こ、怖え~~)

俺は身震いする。

地土竜モルスは鼻から鼻提灯だし。爆睡したまま器用に玄関に入っていく。

いつものおちゃらけな二人の令嬢と二匹の騎竜に俺は思わず苦笑する。

俺はとぼとぼと元きた並木道を歩み竜舎へと戻っていこうとする。

暫く並木道を進むと角を生やしたメイド姿が目に入る。

段々と近づくにつれ目の前を歩く騎竜が誰だかはっきりしてきた。


「おや?、これはこれはライナ様ではありませんか。」


げっ!マウラ····

三つ編み束ね角を生やしたメイド姿の正体がマウラだと解ると俺は嫌そうに竜顔をしかめる。


出逢いたくない断トツ一位の騎竜、冥死竜マウラに遭遇してしまった。

俺はかなり気分を害した。


「セーシャお嬢様がお世話になったようですね。私からも感謝しますよ。」

ギャアガアギャア····

「そりゃあ、どうも·····。」


白々しいほどのお世辞じみた感謝の言葉である。会話の中に俺に対する敬意や敬愛など微塵も感じられない。


「ドラゴンウィークは有意義な休日を過ごせましたか?。」

ギャアラギャアガアのギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャア

「全然だな。レースやら炎竜の結婚騒動やら人魚のお家騒動やらでまともな連休がとれなかったよ。」


親しみのある相手ではないが。取り敢えず連休に起こったことの愚痴を吐いてみる。


「それはそれは御愁傷様。何にせよ。貴女にはアイシャお嬢様の踏み台になってもらわなくては。」


ニコッとマウラの口元がにこやかに冷笑を浮かべる。

後から後から毒を吐いてくるなあ~。このドラゴン。ノーマル種である俺のことが気に入らないのだから仕方ないのだろうけど。


「貴女に言われなくてもアイシャお嬢様を立派な騎竜乗りにしてみせますので御安心を。」


俺は長首で軽い会釈しその場を去ろうとする。これ以上冥死竜マウラの嫌味たらしいお世辞を聞くきになれないので早々に立ち去る。


「それではご機嫌よう。ライナ。」


冥死竜マウラは捨て台詞を残すかのような別れの挨拶をする。


学園の玄関に到着すると冥死竜マウラはスッと一度振り返る。


「あのノーマル種に何か憑いてるような気がしましたけれど。まあ、私にとってどうでもいいことですね。あのノーマル種が戦績を積もうが力をつけようが。私には何も関係ないことです。ですが·····。」


冥死竜マウラの黒い冷たい瞳孔が背にするライナを鋭く捉える。


「あまりアイシャお嬢様よりも目立つことはよいものではありませんねえ。貴方はただの添え物。ノーマル種の分際で分を弁えて欲しいものです。」


冥死竜マウラは禍々しさを秘めた鋭く黒く淀んだ竜瞳はノーマル種ライナを下等な生き物のように蔑み見下していた。


       一年教室


「それでは点呼をとる。」


ドラゴンウィークの七連休と余裕期間を経て一年クラス令嬢生徒達は教室に集まっていた。遠出の故郷を持つ一年令嬢も無事学園に戻り一年教室に集まっている。


「大分生徒は戻ってきたようだな。」


カーネギー教官は点呼用の一年生名簿を読み上げようとする。


ガラガラ


「遅くなりました!。」

「ふええ~、遅くなったです。」


ふわ ふわ

カーネギー教官は点呼を始めようとしたが突然開いた扉の騒音と来訪者に中断され。不快に眉がつりあがる。


「休み明け早々に遅刻とはいい度胸だな。カリス・ナイン、アーニャ・ハウンデル。」


ゴゴゴゴ

カーネギー教官は圧をこもった怒気が強まる。


「も、申し訳ありません!。」

「ふえ、すみません。」


二人の令嬢の態度にカーネギー教官ははあっと深いため息を吐く。


「もういい、今日は休み明けだから特別に許すが。次はやったら腕立て100、グランド50周だ。分かったか!。」

「は、はい!。」

「はいです!。」


ペコリ ふわ

二人はお辞儀をし。騎竜と一緒にいそいそと席につく。


「では改めて点呼をとる。マーガレット・ベルジェイン!。」

「·······。」

「マーガレット・ベルジェインいないのか!?。」


カーネギー教官の張りのある声が飛び交ってもマーガレット・ベルジェインの返事はなかった。マーガレット・ベルジェインが座る席にはマーガレットはいなく。相棒である至高竜メリンも席にいない。


「カーネギー教官!。マーガレット・ベルジェイン嬢が席におりません。」

ざわざわ

クラスが騒ぎだす。


「マーガレット様どうしたのかしら?。」

「欠席だなんて何かお加減が優れないのかしら?。」


マーガレット・ベルジェインの取りまきである高貴で上品そうな二人の令嬢は心配そうにする。


「優等生であるマーガレット・ベルジェインが欠席とはなあ······。」


いつも休まずですわですわと繰り返す。プライド高い令嬢ではあるが。ずる休みする性格ではない。高飛車なところもあったが。今は至って落ち着いていた。いや、寧ろ落ち着いている方が彼女にとって異常なのかもしれない。連休前は落ち着いた雰囲気というよりは何か意気消沈で心ここにあらずというような状態であった。相棒である至高竜メリンもそんな主人を心から心配しているようだった。


カーネギー教官はふるふると頭を振る。

いかんな。ちゃんと令嬢生徒達のケアできないとは。

カーネギー教官は深く反省する。

昔の副団長をしていた経験からスパルタに向かう傾向があるが。生徒一人一人の悩みを聞けなくて何か教師かとカーネギー教官は己を強く叱咤する。


「マーガレットさん、どうしたのかな?。」



アイシャはマーガレット・ベルジェインとはマッドジェットカップ(泥噴杯)以来ライナを通じて親しくなった間柄である。ただ何だが逢う度にどんどんと元気がなくなっていくような気がしていたた。まるで物憂げにキョロキョロと何かを捜すようなそんな素振りを見せるときもある。そしていつも最後には深いため息をもらすのだ。


「マーガレットさん。大丈夫だといいけど。」


アイシャはマーガレット・ベルジェインのことを心配する。



      ベルジェイン家

      マーガレット自室


「はあっ·····。」


深いため息が漏れる。連休明けの学園の初登校であったのにマーガレットは生まれて初めて授業をボイコットしてしまった。

自室の二階のベランダから外を眺める。

メイドには今日は気分が悪いと伝えており。学園に連絡が伝わる筈だ。

ゆっくりとベランダの窓に近づく。


ぴと

ひんやりとしたベランダの透明感のガラス張りの窓に自らの張りのある胸の膨らみを押し付けてみる。

張りのあるふっくらとした形がむにっと平らな大福のように崩れる。ひんやりしたガラス張り窓から数歩離れると崩れた二つの膨らみが弾力帯びて再び元に戻る。


「はあ~、駄目ですわ。こんなのではわたくしの胸の疼きは止まりませんわ。」


はあっと再びマーガレットは肩をおとし。深いため息を吐く。

遠目でガラス張りの窓の外をみいいる


「メリンで試してみましたけれど。駄目でしわ。メリンのすべすべした背中の鱗肌では駄目でしたわ。やっぱりライナ様のようなゴツゴツとしたざらめの鱗肌でなないと。わたくしの胸を上手く擦りつけることはできませんわ。ライナ様の背中こそ唯一私の胸の疼きは止めることはできるのですわ。」


マーガレットは上気を帯びた頬が恍惚に染まる。

マーガレットはライナの鱗肌の背中に自分の胸を擦りつけたときのことを想像する。あのような電気を走ったような衝撃は生まれて初めてたる。ベルジェイン家としては恥ない生き方をしていたけれど。彼女が体験した経験は未知の体験であった。ある程度裕福な家庭で育ってきたが。自分の中でこれほど渇望したことがあっただろうか?。

英才教育を受け勤勉に務めていたマーガレット・ベルジェインだったが。ライナの背中に擦りつけた衝撃はそれ以上に勝るものであった。

もう一度もう一時だけライナの背中に自分の胸を擦りつけたいそんな欲求とかられるのだ。毎夜毎夜そんな想いを胸に馳せる。


「はあっ、ライナ様の背中にもう一度乗りたいですわ·······。」


うらめしげにぼやくようにマーガレットの唇から吐露される。


「お嬢様······。」


そんな元気のない主人の後ろ姿を心配そうに至高竜メリンはずっと見つめていた。

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