第168話 ゴージャスエレガントカップ(成金杯)

「お願いします!。アイシャ様!ライナ様!どうか、もう一度、もう一度お嬢様をライナ様の背中に乗せてレースに出場してくれませんか!。」


お昼休み中に久しぶり一人一匹で中庭でランチをしていた俺とアイシャお嬢様の目の前でマーガレット・ベルジェインの騎竜である至高竜メリンが頭を下げお願いする。


「お嬢様のあんな不憫な姿をもうみていられません!。もう一度ライナ様とレースに出場すればお嬢様もきっと元気な姿をみせると思うんです。お嬢様はうわ言のように何度もライナ様の背中に乗りたいとおっしゃておりました。どうかもう一度。もう一度でいいんです。お嬢様と一緒にレースを出場してくれませんか。お願いします!。」


至高竜メリンのキラキラしたカチューシャついた頭が落ちる。

俺は困った竜顔を浮かべる。

隣のベンチで弁当をほおばっていたアイシャお嬢様の流し目が俺をチクチク責め立てる。


「···ライナ。マーガレットさんと一緒にレースに出場してあげて。」


至高竜メリンの切なる訴えに心打たれアイシャお嬢様は俺に懇願してくる。

俺の竜顔が渋い表情をする。


あの····アイシャお嬢様····。すみませんが。マーガレットお嬢様と一瞬にレースを出たら出たで取り返しのつかないことになるんですけど········。


俺は内心マーガレットお嬢様のことを伝えられずにいた。


マーガレット・ベルジェインがどんな理由で鬱ぎこんでいるか察したからだ。

マーガレットの内なる性癖を俺のBoin走行で開花させてしまったのが原因である。暫く彼女から離れて。その記憶を薄れさせ風化させようとしたが。そうはならなかったようである。


「お願いします!。ライナ様!。」


メリンは懸命にお願いしてくる。


「ライナ、私からもお願い!。」


続いてアイシャお嬢様もお願いしてくる。

弱ったな~。断りたいのに断れない状況になってしまった。マーガレットお嬢様とは関わりたくないのだけれど·····。

マーガレットお嬢様はドラゴンウィークの休み明けの授業にも欠席したらしい。かなりの重症のようである。


······ギャアラギャアガアラギャアギャ

「·····解りました。これっきりですよ。」


拒否することが叶わぬと知り俺は断念する。


「ありがとうございます。お礼に私もライナ様の背中に抱きつかせて頂きます。ライナ様は背中に抱きつかれることが好きと聞きましたので。」

ギャ、ガア、ギャアラギャアガアラギャアガアラギャアギャアガアギャ?

「ん、まあ、それはいいんだけど。出場するレースって決まっているの?。」


俺はメリンに出場するレースを聞いてみる。

何せよ。マーガレットお嬢様の出場するレースだ。早々に早く終わらせたい。


「はい、既にエントリーをすませております。毎年マーガレットお嬢様と私が出場し優勝しているレースです。ライナ様の実力なら圧勝ですよ。」


メリンは俺を褒め称える。


ギャ~ギャアガアラギャ?

「ヘぇ~それでレース名は?。」


毎年出ているということは常連の大会らしい。

メリンはニッコリと微笑する。


「ゴージャスエレガントカップです。」

「········。」

·

俺は微妙な竜顔を浮かべる。


え?何その成金主義満載のレース名は。

名前からして嫌な予感しかしないんですけど·····。


「安心してください!。この大会には強豪の騎竜乗りはおりません。出場するのはお嬢様のような裕福な家庭の貴族だけです。」


その裕福というキーワードが物凄く気になるんですけど····。


「それではお嬢様のこと宜しくお願いします。ライナ様。」


ペコリと深くメリンはお辞儀をする。

こうして俺は至高竜メリンのお願い(依頼)により再びマーガレットお嬢様を乗せてレースに出場することになった。


はあ~行きたくねえ~。令嬢を背中に乗せて胸を押し付けて貰える機会があるのに。ここまで出場したくないレースがあっただろうが。

あわよくば無難に終わりますようにと取り敢えず異世界の神、或いは俺をこの世界に転生させてくれた女神アルピス祈ってみる。

そういえばあれ以来女神アルピス様とは連絡とってないな。色々あって忙しかったので音信不通状態になっていた。暇なときにも連絡でもしてみよう。



   ゴージャスエレガントカップ

      レース会場


キラキラ じゃらじゃら


「オホホ、貴女の騎竜の装飾品は中々素晴らしい価値のある宝石が付いているですわね。」

「そんなことないですわ。貴女のほうこそ騎竜の鱗肌、中々艶々しく輝いて綺麗ですわね。」

「そうですの。いい騎竜専用の高級エステを見つけたのですのよ。オホホ」

「そうなんですの?。是非教えて下さいませ。」

「オホホホ、良いですわよ。」


何だこれは·····


じゃらじゃら キラキラ


3日後、騎竜都市ドラスヴェニアから少し離れた土地で開催されたゴージャスエレガントカップのレース会場にきたのだが。そこには宝石をちりばらめた装飾品を着飾る騎竜と豪華なドレスと紳士服に身を包んだ高価なアクセサリーを着けまくる貴族と騎竜乗りが集まっていた。騎竜乗りである貴族の令嬢も皆豪華なドレスとじゃらじゃらと派手な宝石類の装飾を身に付けている。騎竜もじゃらじゃらと宝石類の首輪や腕輪、足輪などこれでもかという風に豪華に派手に着飾っている。

どう見てもレースしにきたような雰囲気じやない。どちらかというと仮想パーティーに近い。


「ゴージャスエレガントカップは富俗層の貴族の間で毎年行われるレースです。みなさんはあんな風に貴金属や宝石類などアクセサリーなどを着けてレースに出場するんです。レースだけでなくいかに豪華さときらびやかさと華やかさを誘いゴージャスさとエレガントさを誘うレースでもあるんですよ。」


至高竜メリンはゴージャスエレガントカップの説明を坦々と始める。

·············

何て趣味の悪いレースなんだ。金持ちの見得と意地と成金根性が見え隠れするようなレースである。て言うかどう見ても俺は場違いだろう。

出場している騎竜は皆上位種であるが。ほとんど騎竜はかなり手入れされていて鱗肌がぴかぴかと輝いている。俺の鱗肌は地味な緑色であり。他の騎竜とは比べられないほど貧相である。

何か···帰りたくなってきた·····。

俺は段々帰りたくなってきた。


「ああ~~♥️、ライナ様~~~♥️。」


当の出場するマーガレットお嬢様は他の豪華な姿をした貴族や騎竜に目もくれず。俺の竜体にマイペースに抱きつきすり寄ってくる。

レース会場にいるじゃらじゃらした宝石の貴金属を装飾を着飾っているドレスの騎竜乗りの令嬢とは違い。マーガレットお嬢様の格好はタイツというかレオタードのようなぴっちぴっちのほぼすっぴんであった。寧ろ前に出場した泥噴杯(マッドジェットカップ)の時に今の格好をすればいいのに何故今になってその格好をするんだよ。

俺は眉間を寄せ複雑な竜顔を浮かべる。

周りの豪華に着飾る貴族達は俺達のことを奇異な眼差しでみつめてくる。


ギャアラギャアギャアラギャアガアラギャアギャア?

「それよりも何でカーラさんまで来ているんですか?。」


何故だが解らないがメイドのカーラさんまで同行していた。


「駄竜、貴方にはわからないでしょうけど。ゴージャスエレガントカップは良い稼ぎ所なのですよ。」

ギャア?

「稼ぎ所?。」


俺は不思議そうに長首を傾げる。


「それでは私は用事がありますので。お嬢様観戦楽しんできて下さい。」


メイドのカーラさんアイシャお嬢様に丁寧に頭を下げる。


「うん、それはいいけど。どっか行くの?カーラ。」

「はい!レースコースに行って参ります。」

「レースコース?。」

「では、また。」


カーラはそう言うとスキップしながら何処かに行ってしまう。何か心配だな。悪い予感しかしない。レースの邪魔だけはしないでくれよ、カーラさん。俺はそんなことを切に願う。



「あら?アイシャにライナじゃないの。」


俺は声をかけられ。振り返るとパープル色の髪を揺らし。黒薔薇を模した黒いドレスをきた小柄の少女と羊ように折り曲がった黒い角を生やす盲目のように瞳を閉じたメイドが立っていた。


「あれ?パトリシアさん。どうしてここに?。」


アイシャお嬢様は不思議そうに首を傾げる。


「私はここのレースの主催者なのよ。今日はいち解説者として頼まれたのよ。」

「へえ~そうなんですか。」


アイシャお嬢様は頷き納得する。

道理で成金主義満載なレースだと思った。パトリシアお嬢様が主催者なら合点はいく。


「いっとくけど、私は仕方なく金持ち代表として主催者になってるだけよ。金持ち加減を見せびらかすのは私の趣味じゃないわ。」


俺の思考を察したのか。パトリシアお嬢様は不機嫌に強く否定する。


「それにしてもライナ様はどうして此方に?。」


ナーティアは不機嫌になってしまった主人をよそに俺に聞いていくる。


ガアギャアラギャアガアラギャアギャアガアギャアラギャ

「ああ、頼まれてね。マーガレットお嬢様と出場するんだ。」


ぴく

パトリシアの細いパープルの眉が寄る。


「へえ~それは面白そうね。」


目ざとくパトリシアお嬢様はパープル色の薄紅に染まった小さな唇が上がり機嫌が良くなる。俺とマーガレットお嬢様がゴージャスエレガントカップに出場することを面白げに小さな唇がつり上がる。


「ここは成金貴族達が集まる豪華さを競うレースよ。それをノーマル種で出場するなんて。それも毎年優勝者であるマーガレット・ベルジェインが出場するんだからこんな面白いことはないわね。どういう考えがあってのことかしら?。ねえ、マーガレット・ベルジェイン。」


パトリシアお嬢様は興味津々にマーガレットお嬢様に聞いてくる。


「ああ~~ー!。ライナ様ライナ様ライナ様ラ・イ・ナ・さ、まああああん♥️~~ーーー!!!。」


すりすりすりすり

マーガレットお嬢様は俺の図体にべったりと体を擦り寄せる。

あの····話聞いてませんよ·····。後、彼女全然考えていません。

俺は心の中でパトリシアお嬢様にそう訴える。


「ま···まあ··いいわ。レース楽しみにしているわね。」


パトリシアお嬢様丁寧に挨拶をすませ会場の放送席に向かっていく。


「それじゃ、私達は観客席に行くね。ライナ、頑張ってね。」

「ライナ様もお嬢様もお気をつけて。」


アイシャお嬢様は手を振り。至高竜メリンはペコリとお辞儀をし。ゴージャスエレガントカップの観客席がある場所へとむかう。

さてと俺達もレースのスタート位置にむかわないと。

俺は抱きついて離れないマーガレットお嬢様を引き摺ったままゴージャスエレガントカップのスタート開始地点にむかう。


ここがスタート開始地点か。

豪華な装飾を着飾る騎竜と騎竜乗りの令嬢が集まっていた。


ギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャアラギャアギャア

「いい加減離れて下さい。マーガレットお嬢様。レース始まりますよ。」

「はああ~♥️、ライナ様、やっとやっとやっとわたくしを乗せて下さいますのね。」


マーガレットお嬢様は恍惚な表情でべったりと俺の体を抱きついたままホールドする。

全然聞いちゃいねえよ·····。

俺はガックリと肩を落とす。


「マーガレット・ベルジェインー!!。これは!一体どういうことですのーーーっ!。」


突然かん高い絶叫に似た大声がゴージャスエレガントカップのレース会場に響き渡る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る