第166話 予測不能
「ルぅ~~ライナあ~!。」
ぴょん!!
むにゅう♥️
おっ!!久々の毛並みの付きの2つの柔らかな感触。
俺の背中に飛び付いた真っ白な体身の毛並みを持つ半人半獣の少女は細長い白い尻尾を嬉しそうに揺らす。
ギャアギャラギャアガアギャ
「おはようルゥ。元気そうだな。」
「るぅ、ライナも久しぶ········。」
突然会話が途切れた。ルゥが押し黙るような何かじっと俺の背中を見つめてくる。
「··············。」
ギャギャア?ギャ
「どうした?ルゥ。」
「ううん······何でもない。」
ルゥは頭を振り。気をとり直したのか。再び真っ白な獣耳ぴくぴくさせ。ぎゅっと俺の背中に引っ付いてくる。
『ルゥ様、はしゃぐとまた転びますよ。あ!?。ライナさん。』
森緑色の鱗に覆われた竜がルゥが来た森から現れる。
ギャアギャアガアギャアラギャ
「おはようございます。ロロさん。」
『はい、おはようございます。ライナさ·····。』
突然ロロさんも何故が途中で会話が途切れた。じっと俺の姿を凝視し。森緑色の竜瞳の瞳孔が細くなる。
ギャアギャガギャア?
「どうかしましたか?。」
二人のとった同じ態度に俺は長首を傾げ困惑する。
『いえ····何でもありません····。気のせいですね···。』
ロロさんはちょっと言葉を濁したように気にしないで下さいと会釈する。
『それよりもどちらにいかれるのですか?。』
ギャガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャア
「はい、リスさんに挨拶を兼ねて顔を見せにいこうかと。」
『そうですか。リストルアネーゼ様はまだ森におられますので逢いにいったら宜しいでしょう。私はルゥ様を連れ学園に向かうつもりでした。』
「るぅ、ルゥはライナと遊ぶ!。」
ルゥは俺の背中でくねくねと身体をくねらせ。駄々をこねる。
「ルゥ様、学業は疎かにしてはなりません。休み時間にまた遊べますから。」
「るぅ·····解った·····。」
ルゥはしょんぼりした顔で俺の背中からロロさんの背中にぴょんと飛び移る。
「それでは、ライナさん。また。」
ロロさんは俺に会釈するとルゥを背中に乗せたまま学園の校舎の方向へと歩んでいく。
離れていくルゥとロロさんを遠目ながら俺は見送る。
後方のライナの姿が見えなくなると同時にルゥがロロに話しかける。
「るぅ。ライナ、大丈夫かなあ?。」
ルゥは一応気にしないでいたが。ライナの体の中に何かが宿っていることに感覚で感じとっていた。害はないと何となくルゥの獣の勘がそう告げていたのでスルーしていたのだ。
「ライナさんの体に何か憑いているようですけど。大丈夫ですよ。周囲の精霊と同じような感覚がするので精霊だと思います。ただこの大陸では見掛けない精霊ですね。他の精霊とは違い異様な感じがします。でもライナさんに害をなすようなものではありませんから安心してください。ルゥ様。」
ロロは神精樹のある東方大陸からあまり出たことがないので北方大陸に存在する銀氷の精霊の存在をあまり知らなかった。ただ前にライナとレースしたプラリスナーチとかいう名の絶滅したとされる白銀竜のレア種が扱った精霊と同じ気配がした。
「またまたライナさんは連休中に色々あったようですね。」
緑森竜ロロはふふと思い出し笑いするかのように竜口が緩む。
アルナビス騎竜女学園
一年教室
むっす~~!。
燃えるような赤髪と情熱的な派手なタンゴドレスを着飾る人化した騎竜は不機嫌にありったけの空気を頬に詰め込み。膨れっ面をしていた。机に片方の肘をつき。肘をついた掌を頬に抑える。窓側にそっぽを向き。目の前にいる話し相手の主人に拒絶な態度をとっている。
「もう、いい加減に機嫌治してよ!。ガーネット。」
ガーネットの主人であるスカーレット赤髪短髪の令嬢レイン・ルポンタージュは深いため息を吐く。
「せっかくライナと添え遂げられる筈だったのに····。それを·····むっす~。」
ガーネットは再び頬を膨らませ不機嫌になる。
「だから悪かったって言っているでしょ。仕方ないじゃない。貴女の婚姻を阻止する為にアイシャに協力してもらった手前、こののままライナと結婚させるわけにはいかなかったのよ。ライナが貴女と結婚してしまったら、騎竜乗りとして私も困るし。それにアイシャにも迷惑がかかるわ!。」
「それでも、せっかく結ばれるそうだったのに····それを、むっす~~。」
ガーネットは窓側にそっぽを向いたまま。眉間に紫波を寄せ。頬を更に不機嫌に膨らませる。
はあ~とレインは深いため息を吐く。
獄炎山リプカフラマからルポンタージュ家に帰ってからガーネットは機嫌が悪かった。ライナとの初夜を邪魔されたことをかなり根に持ってしまったようだ。ガーネットの家族からもあのノーマル種ライナを夫にするまでは帰ってくるな!と言われる始末。まあこれでかえってガーネットが婚姻させられる懸念は無くなったのだけど。その代わり相棒ガーネットとの関係がかなりギクシャクしてしまった。
「解ったわ。学園卒業したら貴女の恋愛を応援するから。だから機嫌治してよ!。」
ジロリとガーネットの据わった深紅の赤瞳の視線がむけられる。
「絶対だからな···。夜の夜景見える高級レストランを予約して。高級シャンパンも用意して。ライナとの情熱的の夜を過ごす為にも高級騎竜専用ホテルのVIPルームを貸し切りで結ばれるようにちゃんと段取りするのだぞ。」
「ええ~!。そこまでするの?。」
ガーネットの要望の多さにレインは眉を寄せ顔をしかめる。
ギロッ
「何か言うたか?。」
「いえ···何もありません···。」
ガーネットを堂々と腕を組み。情熱的なタンゴドレスの胸を張る。
はあとまた深いため息を吐き。主人であるレインはまたガーネットの機嫌を損ねないようにとご機嫌とりを続けるのであった。
東の深き森
ザッザッ
草木をかき分けエルフのリスさんがいる森の広場へとむかう。
「暫く来ていなかったけど。特に変わった所はないな。」
人の手がつけられてない大自然の森林は今も変わらずのどかに佇んでいる。
草木を横切り。リスさんがいつも座っている広場の大石を目指す。森奥の広場に出ると案の定リスさんは大岩上でに姿勢よく座っていた。
ドシドシ
俺はあまり騒がず静かにリスさんに近付く。
ギャアガアギャアラギャアギャ
「おはようございます。リスさん。」
「あら、ライナさん、おはッ。」
大石の上に静かに座るエルフのリスさんも会話の途中で何故か途切れた。じっと俺の竜姿を真剣な眼差しで凝らしている。
「··········。」
ギャア···ギャアラギャアギャ?
「あの····どうかしましたか?。」
連続的に同じ態度とられると正直俺も困ってしまう。
「いえ····何でもありません····。気のせいですね····。」
リスさんはニコッと相手に安心感を与えるような笑みを浮かべる。
ギャアギャギャア····」
「はあ、そうですか····。」
一瞬はぐらかされたとおもえたが。リスさんはいつものような振る舞いをするので俺は返す言葉を失くす。
「ドラゴンウィークはどうでしたか?。有意義な休日をとれましたか?。」
ギャ····ギャガアギャアラギャアガアギャガアギャアラギャアガアギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャガアギャアラギャアガアギャアギャア
「はい····と言いたいところですが。全然ですよ。レースの出場することになったり。炎竜の結婚騒動に巻き込まれたり。海王竜とレースする羽目になったりと。」
「海王竜とレースをしたのですか?。」
リスは海を統べるとうたわれた海王竜にライナがレースしたことに大いに驚く。
ギャギャアラギャアガアギャア
「はい、何とか勝ちましたけど。」
「そ、そうですか·····。」
リスは微妙に眉を寄せる。
海王竜は水の精霊の加護が強く与えられた竜の筈。精霊扱う妖精竜が相手でも巨大な海の力を自在に操る竜では歯がたたない。精霊を使役するレベルが神足る竜と同格なのだ。水の精霊限定ではあるが。神足る竜程の水の精霊を使役できるのだからどちらにしろ驚異である。それをノーマル種であるライナが勝ったと言うのである。
「よく勝てましたね····。」
ギャアギャアガアギャガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャア
「はい、海底の真下にスフィアマナン(世界の通り道)なかったら完全に敗北していましたよ。」
「スフィアマナン(世界の通り道)ですって!?。」
ライナがさらっと吐いた言葉にリスの顔が絶句し硬直する。頬からもたらりと冷や汗が流れた。
ライナは確かに神足る竜の力の源泉であるスフィアマナンという言葉を口走ったのだ。私とナティはライナにスフィアマナンのことを教えていない。教える必要性がないからである。スフィアマナンは世界が流れるエネルギーの域場、普通の竜がそこからエネルギーを取り出すのことは不可能である。神足る竜である世界の意志の代弁者であるものしか扱えないのだ。それをライナは平然と使用したと言うのである。
「ライナさん。貴方はいったい·····。」
『ああーーっ!?。またリスにちょっかいしにきたのね!。このよこしま竜!。』
頭上から聞き慣れた思念の声が響く。
バサバサ
目の前に透けるような透明な翼を羽ばたかせ。鮮やかな青と白のコントラストの鱗に覆われた竜が舞い降り森の広場に着地する。鶏冠にエナメルのようにきらきらと輝く角は不機嫌に逆立っていた。
俺の精霊使役の師であるリスさんの相棒、妖精竜ナティナーティである。
ああ、久しぶりの罵り言葉。この言葉を聞くと本当に学園に帰ってきたんだなと実感する。不本意だが。
ギャアラギャアギャアガアギャア
「ただいま戻りました。ナティ師匠。」
俺は目上をたてるように師匠でもある妖精竜ナティナーティを敬う。
『ふん!これ以上リスにちょっ····かっ!?······。』
ピタッ
ナティの竜瞳の視線がライナの姿を捉えると凍り付いたように何故か固まる。
ギャアラギャアギャアガアギャガアギャアギャアギャアギャ
「今日は挨拶しにきただけですよ。ナティ師匠、それではまた。」
「ええ、ライナさんもいつでも遊びにきてくださいね。」
俺は礼儀正しく頭を下げ一礼しその場を去る。
ドシドシドシドシ
去る後ろ姿を凝視したまま固まるように佇む妖精竜ナティは暫くライナが離れた数分後に我にかえり。即竜口がひらく。
『りっ、リス!み、見た!?。』
「見たわ·····。」
『何であのよこしま竜!。体内に銀氷の精霊を宿しているのよ。連休中に何やらかしたのよ!。』
銀氷の精霊は北方大陸に存在するその地域特有の固有精霊である。精霊でありながら妖精竜に靡くことはなく。唯一銀氷の精霊が心許すものは最近絶滅したとされたが発見された最強の種、白銀竜と幻の絶滅危惧種、銀晶竜だけである。それなのにただのノーマル種であるライナの体内に銀氷の精霊が宿っているのだ。
「ナティ、それだけじゃないわ。ライナさんは連休にスフィアマナンを扱って海王竜をレースでまかしたそうよ。」
『なっ!。どこまでふざけたよこしま竜ですか!。冗談は性格と顔だけにしておいてほしいです!。』
妖精竜ナティはふんふんと鼻息をならし。いきり立っていた。
「何にせよ。銀氷の精霊、スフィアマナン。これらを何らかの手段でライナさんが手にしたいうなら注視しておく必要性があります。」
リスは真剣な真顔で遠く小さくなったライナの後ろ姿を強く凝視する。危険視するわけではないが。神足る竜が復活を遂げてない今、ノーマル種ライナの存在がこの世界に何をもたらすのか予想できないからである。
エルフと一匹の妖精竜は後ろ姿で去っていく平凡で予測不能な竜の姿を見えなくなるまで注視していた。
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