第154話 海底レース

『貴様、覚悟はできておろうな。海を統べる我が海王竜に牙をむけることがとういうことか!。』

「知るか!。あんたこそ!家のご主人様に手を出したことを覚悟は出来ているんだろうなあ!。」



巨大なヒレを逆立て巨大な青い鱗に覆われ長い胴体をくねらせる。海王竜リヴァインは極小の平凡な竜(ドラゴン)を睨み付ける。緑の鱗に覆われた平凡な小さな竜(ドラゴン)も負けじと地面から睨み返す。


『どうやら身の程を弁えぬようだ。矮小なる脆弱なノーマル種が。』

「あんたは身の程を外れた愚か者だろうが!。」


ライナは臆することなく海王竜リヴァインに牙を向く。


「何なのですか·····。あのノーマル種は。」


人魚の女王アニス・アビラニスは口が半開きになったまま絶句している。ノーマル種が突然割り込んできて人魚族の守護竜でもある海を統べるとうたわられる海竜の王に攻撃を加えたからだ。海の中でも竜の中でノーマル種と言う竜種は一番に脆弱であり。矮小で無能であることは世間的に知られていること。それなのに目の前のノーマル種は何の躊躇なく自分達の守護竜である海王竜に牙を向いたのだ。しかもノーマル種でありながら何か分けの解らない見たこともない力を使い海王竜リヴァインを一瞬怯ませた。それだけではない。北方大陸に住むと言われる幻の竜、銀晶竜までいるではないか。銀晶竜がどれ程の強さを持つがわからないが。二頭の予想外の出現に気丈な女王でも焦りだす。

人魚族の守護竜である海王竜リヴァイン様が敗けるはずないと人魚族の女王サラスに自分に言い聞かせ平静を保つ。


「か、海王竜様。そ、その不届きな者達とーマル種を早く殺してしまって下さい!。」


人魚の女王は罵声をあげる。

女王アニスはさっさとパールの関係者であるシェーク達を始末したかったので海王竜リヴァイン懇願する。


『無論だ。ノーマル種、こやつらには引導を渡してやろう。』


海王竜リヴァインの無数のヒレが逆立つ。

ざああああ

海王竜の長い胴体に水色の粒子が集まる。


「お待ち下さい。お母様!?。」


海王竜リヴァインとノーマル種ライナが一触即発の場所で制止するように声が張り上がる。

二匹の間に下半身魚の尾っぽをくねらせ。ベールのドレスに身を包むショートカットの真珠色髪の王女が間に入る。


「何をするですか!ファソラ。海王竜様の邪魔してはなりませぬ。その侵入者である不届き者達を早急に処分しなくてはならないのですから。」

「処分?お言葉ですが。どうみてもこのもの達はパールの関係者でしょうに。無理やり連れてこられて人間族が取り返しにきたに違いありません。」 


ファソラは母親に反論する。


「だから何です?。私達は新たな人魚族の女王を迎え入れるのです。人間族の介入など邪魔でしかありません。」 

「しかしお母様、どう見ても私達の方に非があるのが明白。人間族と事を荒立ててはいけません。お母様が人間族とどうしてもやり合うというのなら人間族式の勝負方法で決めるべきです。人間族もそれならば納得して帰るはずですから。」

「人間族式の勝負とな?。」

「はい、レースというもので白黒つけましょう。」


ざわざわ

周りの人魚族達が騒ぎ出す。

アイシャお嬢様達もポカーンと口を開けたまま女王と王女の会話を聞いている。

この王女様一体何を言ってるのだろう?。

俺も人魚族との戦いは避けられないと思っていたが。いきなりレースを提案されるとは。この王女の意図が解らない。


「人間界では騎竜乗りというものが騎竜にのり。レースを行い。荒事を決める時もレースで勝敗をきめ。白黒つけると聞きます。」

「決闘のことですね。しかしそれはお互い益があって成り立つもの。ファソラ。彼等の求めるものが私達にあっても。私達が求めるものは彼等にはない。故に決闘も成立しないのですよ。決闘もする必要性はありません。このまま彼等は即侵入者として処分すべきなのです。」


人魚族の女王は冷淡に言い放つ。


「では私が益を提示します。」


ファソラはベールのドレスに隠された胸をつきだす。


「何と!?。」


娘の言葉に女王サラスは驚愕する。


「私はあのノーマル種が欲しいです!。お母様!。」


え!?俺?。

思わぬ所で自分の名前が飛ぶ。


「主人に従順であり。リヴァインにも臆することなく立ち向かう。私はこのノーマル種が気に入りました。私はあのノーマル種が欲しいです。これで益が成立したでしょう。」



ファソラの進言に人魚の女王サラスは言葉を失う。


「ライナを·····。」


アイシャお嬢様は困った顔を浮かべる。


「ファソラ、考え直しなさい!。たかがノーマル種ですよ。何処にでもいる平凡な竜であり。竜種の中でも最弱とうたわれた竜(ドラゴン)です。手にいれる価値もありません!。」


女王サラスは自分の娘が気が狂ってしまったのかと疑ってしまう。竜種の中でも最弱であり。何処にでもいるような平凡な竜を自分の娘は欲しいと言うのである。


「お母様。何処にでもいる最弱で平凡な竜ならレースで海王竜リヴァインが敗けることはないはずです。レースでこのノーマル種と海王竜リヴァインとレースで勝敗を決めれば人間族との無益な戦争も回避できましょう。私はこのノーマル種が欲しいのです。レースで勝負したいのです。お願いします!お母様!。」

「くっ、む、むう·····。」


人魚族の女王サラスは真珠色の眉が渋るように深く寄る。娘がそのノーマル種が欲しいというなら断る理由もない。レースで勝敗を決めれば確かに人間族とのわだかまりも残さず事なきを得ることが出来るかもしれない。人魚族の女王サラスは玉座に座り込み暫く考えこむ。


「解りました·····ファソラ。久しぶりの我が娘の儘。レースで決めることにしよう。その者達もそれでよいか?。」


ギロッと人魚族のサラスの真珠色の鋭い視線が人間達に向けられる。


ギャアギャ!

(望むところだ!。)


「受けてたちます!。」


俺とアイシャお嬢様は力強く人魚族の女王サラスに言い返す。


わーーーーー!!

人魚族から歓声がわきあがる


こうして人魚族の王女ファソラの提案でレースで勝負することになった。


     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 


わーーーー! わーーーーー!


人魚族とのレースはレースコースはそのまま海底で行われることになった。レースというものを人魚族はやったことはないようだが。シンプルにスタートとゴール地点を決め、戦闘も可であり。珊瑚礁出来た座席に都市に住む人魚達は観客のように座る。


俺とアイシャお嬢様はレースコースのスタート地点にスタート開始の準備をする。一応ドラグネスグローブを持って来てはいたが。ドラグネスグローブは海中でも使えるのだろうか?。防水仕様であるか少し心配。


「全く何を考えているのですか!。よりにもよって海王竜リヴァインにレースをするなんて。無謀にもほどがありますよ。」


人化している水空竜ソイリの耳辺りのヒレがひらひらさせる。


「仕方ありません。もうこれしかパールお嬢様を取り返す術がないのですから。アイシャお嬢様。どうかパールお嬢様の事をお願い致します。」


シェークはアイシャお嬢様に頭を下げる。


「任せてください!。」


アイシャお嬢様は自信満々に笑顔で返す。


「でも本当に無謀ですよ。何せ相手はあの海を統べる海王の竜ですよ。伝説の神足る竜に並ぶほど自然界の海や水も操るといいわれている伝説のドラゴンです。勝ち目なんてないです。」

「大丈夫ですよ。ソイリ。何せライナは最強の一角である絶帝竜カイギスと最強の竜種、白銀竜二頭とともに一緒にレースし。善戦して敗北したんですから。」


青宮玉竜レイノリアは自慢げに呟く。

レイノリア。それフォローになってないから。

俺は微妙な竜顔を浮かべる。

相手が海を統べるという海王竜だろうとアイシャお嬢様を傷付けたことは絶対に許さねえ!。絶対にお礼参りしたる!。

俺はグルルと唸り声を鳴らし息巻く。


「ライナさん。」

ギャア?

「ソーラさん?。」


ソーラさんが俺の傍に近寄る。


「ライナさん。世界の息吹を感じてください。水の流れを読んでください。察すればきっとスフィアマナン(世界の通り道)も応えてくれる筈ですから。」

ギャギャア····

「は、はあ·····。」


銀晶竜のソーラさんは俺に意味深な言葉を残して去っていく。


     

       ファソラ視点


人魚族の王女であるファソラは人間に変身していた。下半身が魚の尾っぽではなく。すらりとした滑らかな長い素足で海王竜の青い鱗に覆われ長い胴体に股がっている。


「ありがとね。ファソラ。アイシャのことを助けてくれて。」


海王竜の長い胴体の真下にボリューム感溢れる膨らみを宿した真珠色の髪と瞳をした令嬢パールがお礼を言う。


「何のこと?。私はただあのノーマル種が本当に気に入っただけよ。本気で手にいれるつもりよ。だから残念だけど手をぬくもりもないわ。」

「そう·····。」


パールは自分の遠い従姉妹にあたる人魚族の女王の娘ファソラに声援送るべきか迷った。本心ではアイシャに勝って欲しいのだが。自分のせいでここまで大事になってしまったのだ。申し訳なさと不甲斐なさにパール・メルドリンはいたたまれなくなる。


『ファソラ。あのようなノーマル種はさっさと消してしまえばよいのだ。』


ファソラを背に乗せる海を統べる王、海王竜リヴァインは不機嫌に鼻を鳴らす。油断したとはいえ竜族の中で矮小であるノーマル種に攻撃を加えられたのだ。海の統べる王として内心プライドを少し傷付けられた。


「駄目よリヴァイン。私はあのノーマル種が気に入ったの。欲しいと思ったのよ。絶対に殺さないで。」


海王竜リヴァインにファソラは激しく叱咤する。


『ならば半殺し程度で善いか?。我はあのノーマル種をどうしても倒さぬばきがすまぬ。』


リヴァインのいくつもあるヒレは逆立っていた。

ファソラは肩を落としはあと深いため息を吐く。


「解ったわ。ある程度は許すけど。結して殺さないで。傷付けるといっても重傷を与えることは私は許さないから。」

『ふむ、安心しろ。ほんの少しひねり潰すだけだ。』


海王竜リヴァインは不適な笑みをこぼす。

双方の人魚族の王女と人間族の令嬢はお互いの竜に跨がり。レーススタートの準備をすすめる。




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