第142話 俺の屍を越えて行け!

わあーーー!! わあーーー!!

キャーーー!! キャーーー!!


炎竜族の村衆は獄炎山の麓に集まり血気盛んに吠え盛り上がる。

ライナは獄炎山の目の前にそびえ立つ麓の広場で準備をする。ガーネットとその妹獄炎竜ルビーを除いて村長の炎竜族の家族が全員足並み揃うように並んでいる。


『さあ、久々にやって参りました!。炎竜族に伝わる伝統レース、ブレスオブファイア。私実況を務めさせて頂きます。炎竜族の語り手メラ・ゾウマと申します。そして解説を務めるのは村長の孫娘ガーネット様の婚約者でもあらせられる焼炎竜のバーナーさんです。』

『燃えます燃えます。』


設置された放送席でメラという炎竜族の実況と美男の容姿をした婚約者バーナーが座ってた。


『さてブレスオブファイアという我が炎竜族に伝わる伝統レースの歴史を説明致しましょう。』

『焼きます焼きます。』


さっきから解説の放送席に座る炎竜、燃えますと焼きますしか言ってないような気がするんだが······。

ライナはガーネットの婚約者、焼炎竜バーナーに対して長首を困惑する。


『ブレスオブファイアというレースは炎竜族が他の炎竜族の家族を迎え入れる為の儀式のようなレースです。我々は好戦的でしられていますが。そのぶん情が熱く。炎竜族の者が他の炎竜族の家族として迎え入れることは そう容易いものではありませんでした。時には一組の炎竜族の家族の中でも自分よりもより強い相手でないと婿として認めないという所もありました。故に嫁ぎにいく炎竜族は自らの強さを相手の家族に認めさせる必要性があったのです。その時にできたのがブレスオブファイアという炎竜族に伝わる伝統レースなのです。ルールは簡単。ゴール地点である獄炎山リプカフラマの火口にまでむかうだけです。しかしそれまで嫁ぎ先である炎竜族の家族が次々と火山の箇所に立ち塞がります。彼等を退き。火口にまで辿りつくことができれば。晴れて嫁ぎ先の家族から婚約者として認められるのです。嫁ぐ相手の家族を全て倒すことができれば正式な家族として迎え入れられるのです。つまり俺の娘をもらいたければ俺達の家族の屍を越えていけ!!。』みたいな感じの家族レースなのですねえ、はい。』


実況メラ・ゾウマは坦々とブレスオブファイアというレースの成り立ちを説明する。

いやいや、家族の仲間入りを果たすのに家族の屍を越えて行け!は可笑しいだろ!!。

俺は色々突っ込み所満載のレース内容にドン引きしてしまう。


「アイシャ、ご免なさいね。変なことに巻きこんでしまって。」


炎竜ガーネットの主人であるレインは申し訳そうに詫びる。


「いいのよ。」


アイシャはニッコリと微笑む。

俺の背中にはレインお嬢様を乗っている。原因を作ったのは自分のせいだと責任を感じて。レインお嬢様が俺の乗り手を勝ってでたのだ。ノーマル種ということもあり。特別に騎竜乗りの同行をゆるされた。寧ろ炎竜族がノーマル種の俺を舐めているともとれる。

レインお嬢様には炎竜の加護を持ち合わせており。マグマが吹き荒れる獄炎山のレースコースの熱炎でも耐えられるのだ。


「でも、ライナ。私よりもBoin走行が速かった。その時は·······。」


ゴゴゴゴ

アイシャお嬢様のただならぬ圧を込めた凍りつくような視線が俺の竜身に強烈にふりかかる。


ギャギャギャアガ!ギャギャ!ギャアガアギャア!

「だ、大丈夫です!。ギリギリ!大丈夫ですから!。」


俺は冷や汗を垂れ流しながら弁明する。

アイシャお嬢様が幼い頃に出会った時より美人に成長したレインお嬢様ではあるが。胸もかなり成長していたが。ギリギリ家の主人であるアイシャお嬢様の方が勝っていた。レインお嬢様はどちらかと言えば無駄な肉がないすらりとした体型のご令嬢で。美脚持ちの美人である。美脚に対して俺はそんなフェチはないが。騎士として鍛えている理由か解らないが。とにかくすらりとしたスタイルの良い美脚の令嬢である。


『ふぉふぉふぉ、久々に腕かなるのう。』

『お父様、もう歳なんですから無理しないでください。』

『·········。』

『邪魔したる!邪魔したる!邪魔したる!。』

『家の妹達は絶対誰にも渡さん!!。』


ガーネットの家族一同皆人化を解き。赤い鱗に覆われた炎竜に変わっていた。

はあ~何で俺が炎竜の家族まとめて戦わにゃあならんのよ。


遠くの方ではその原因要因を作った炎竜のガーネットとその妹、獄炎竜ルビーはうっとりとた視線と嬉しそうな笑顔で俺の姿を観戦している。


『では村長家族一同。スタンバイをお願い致します。』

『あい、解った。』


バァサッバァサッ

ガーネットの炎竜族の家族一同は獄炎山向けて皆散らばるように飛び立つ。各々獄炎山に配置され。待ち構える手筈のようである


臨時に炎竜族の村で設置された観客席には銀晶竜のソーラさんの姿がある。観客席に座る炎竜族の村衆は北方大陸に住むと言われる幻の種である銀晶竜の姿を目にして驚愕の眼差しを向けていた。


「ライナ、今度は個体差のあると言われている炎竜族と闘うようですね。どうやら貴方は強者と闘う星の運命にあるようです。貴方がプロスペリテに成り変われる逸材か。ここで見定めて頂きます。」


物静かに銀晶竜ソーラはライナを見据える。

審判役もといスターター役の人化の炎竜族の1人(一匹)の中年が近付く。


「ふん、ノーマル種が炎竜族に闘いを挑むとはなあ。無謀を通り越して馬鹿のようだな。」


スターター役の炎竜族の中年は偉そうにふんと鼻をならす。

俺はそんなスターター役の炎竜族の中年を無視する。無駄なエネルギーを使いたくない。レースでは炎竜族家族一同(妹達除く)と闘わにゃあならんのだ。個体差がある炎竜族には実力がロード種やエンペラー種、レア種に匹敵するものもいる。そんな奴等をレースコースでまとめて続けて闘わにゃあならんというのだからいらん無駄な体力もエネルギーも気力も使いたくない。


「ふふん、恐怖でガッチガッチのようだな。無理もない。村長の家族は炎竜族の中でも村一番の実力竜だ。村の中で村長の家族に叶うものなどおらん。」


スターター役の中年の炎竜族は勝ち誇ったようにニヤリとした見下すような笑みを浮かべる。

そんな嫌な朗報聞きたくなかったんだが···。

大きなお世話だという感じで俺は嫌そうに竜顔をしかめる。


『どうやら準備完了したようです。スタート開始をお願いします。』


魔法具のモニターに獄炎山の様子が写しだされる。モニターから獄炎山の様子と実況者達の放送が通る仕組みだった。

俺はスタートの準備をする。

スタートラインというものはない。合図で飛び立つ段取りだ。まあ、レースと言っても一着二着を決めるレースではなく。獄炎山に待ち構える炎竜族の家族を倒し。火口にまで辿り着くのが目的である。スピードとか順位とかはあまり関係がない。


「それじゃレイン。私は観客席でライナ達を応援するね!。」

「ええ、アイシャ。私頑張るわ!。絶対ガーネットを取り戻してみせる!。」

「レイン!頑張って!。ライナも絶対に勝ってね。」


ガア·····

「はい·····。」


俺は力を抜けたような竜の鳴き声を発する。

アイシャお嬢様は元気に手を振って観客席に戻る。

はあ~本心では帰りたい。しかしアイシャお嬢様とご友人の為にも勝たなくては······。

俺は覚悟を決める。

スターター役の炎竜族の中年は手を振り上げる。

炎竜族に伝わるレース開始の合図はシンプルに手をふり下げるだけのようだ。


バッ

スターターの炎竜族の中年はぴんと頭上に上げた掌を一気に下げる。


バァサッ!! バァサッ!!。


俺は赤みを帯びた土を蹴り上げ。筋肉の緑の翼をばたつかせ。目の前にそそりたつ。溶岩と熱が噴き上がる獄炎山リプカフラマの火口目指して飛び立つ。

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