第141話 ブレス・オブ・ファイア

「残念だがレインお嬢さん。貴女のお願いでもこればっかりは無理だ。」

「そこを何とか。ガーネットに騎竜契約解消されてしまうと。私は騎竜乗りとしてやってはいけません。」


アイシャとレインはガーネットの兄である爆炎竜スプロスの説得を試みていた。銀晶竜のソーラは口を出さず。二人の様子を静かに静観している。


「家の妹ガーネットここの婚約者であるバーナーと結婚するのだ。諦めてくれ」

「燃えます燃えます。」


スプロスの隣には筋肉質とは違いどちらかというと美男にあたる紅い角を生やす若い炎竜族がたっていた。


「兄上、さっきも言いましたが!。私はバーナーと結婚するつもりはありません!。私はノーマル種とライナとツガイになるつもりです!。」


情熱的な赤いドレスを着飾り。紅い角とカールした滑らかな燃えるような赤い髪を流す炎竜ガーネットは兄(スプロス)に対して喰ってかかる。


「ガーネットお前は騙されているのだ!。ノーマル種が我等炎竜族に対等に渡り合えるわけがない!。」

「焼けます焼けます。」


さっきからこの炎竜族の人。燃えますと焼けますしか言ってないんだけど·····。

アイシャはガーネットの婚約者と思われるバーナーという炎竜族に様子に首を傾げる。


「もう、スプロスもガーネットも喧嘩をやめなさい!。貴方も何かいってくださいよ。」

「ふむ········。」


ガーネットの母親と思われる女性は兄妹喧嘩を宥めようとする。

父親の方は寡黙な様子で口数が少ない、。


「ふぉふぉふぉ、元気が良いのは良いことじゃ。好戦的な炎竜族はこうでなくては。」


炎竜族の長でもあり。炎竜族のまとめ役でもある村長ボルケンが長い白ひげを撫でて。面白げに口元に笑みがこぼれる。


「お父様まで·····。」


ガーネットの母親ははあっと深いため息を吐く。


「好きにやらせればいいさ。母よ。妹も弟も頑固者だ。こうなったらどっちも退かない。私としては妹が結婚するのは大反対だかなあ。」


ガーネットの姉にあたる炎竜族の大人びた女性は不貞腐れたように呟く


「もう、ブローまで。長女として弟と妹達

の喧嘩を止めてよ。」

「ふん!。」


ガーネットの家族の子の中で一番の歳上の姉は不機嫌に鼻を鳴らす。結婚に反対なのはガーネットの為ではなかった。炎竜族の家族で一番の歳上である長女ブローは何度もお見合いを行い。ことごとく惨敗しているからである。

何度もお見合いや合コンを行っては振られ続け。いつの間にか婚期を逃して今に至っている。故にガーネットの結婚を反対しているのは妹想いからではなく。ただ単に自分より早く結婚する妹のことが面白くないだけである。


「ガーネット、どうせそのライナというノーマル種が卑怯な手を使ったには違いない。」

「ライナはそんなオスでは断じて無い!。兄上は何も解っていないのだ。」


炎竜族の兄妹喧嘩は未だ終息が見えない。

ガーネットの家族はガーネットの結婚を長女以外は反対してはいなかった。強い子をもうけるために繁殖の時期と重なり。いい機会だと思っている。

しかしガーネットは頑なに婚約者バーナーとの結婚を拒んでいる。次男であるスプロスは妹であるガーネットを無理矢理にでも結婚させようとするが。ガーネットの親達は無理強いするほどでもないとも思っていた。



     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ドドドドドドド!!!


「凄い!凄い!速い!速い!。」


俺は炎竜族の少女を背に村中を走り回っていた。

炎竜族の村人は物凄いスピードで炎竜族の少女を乗せて走り抜けるノーマル種に驚愕な眼差しを向ける。


「おいっ!あれって長のとこのルビーじゃないか!?。」

「何でノーマル種なんかの背に乗っているんだ!?。」


炎竜族の村の者は物凄いスピードで村中を駆け巡るノーマル種のライナよりも村一番の炎を扱えるレア種である獄炎竜のルビーがノーマル種の背中に乗っていることに驚きを隠せなかった。


ドドドドドドド‼️‼️


「凄いわ!。こんなに速く走れる竜は村の炎竜族にもいないわ!。」

ギャギャア ギャア

「そりゃあ、どうも。」


ルビーはライナの背で嬉しそうにはしゃいでいる。

しかしライナは知らなかった。炎竜族が炎を発するのは交尾によってではない。炎竜が興奮状態時アドレナリンの分泌が発した直後に発現するのだと。


ドドドドドドド··········ボオッ!!


えっ!?。


それは一瞬だった。背中に乗せる獄炎竜ルビーの体じゅうから炎が発っせられ。それが一気に放出し火だるま状態になる。そしてその獄炎並みの炎の熱がそのままライナの背中へと伝わる。


熱っちっ!熱っちちちちち!!。うお熱っちゃあああーーーーーーーー!!


ギャああああーーーーーーーーーー!!


まるでブルース・リーの如く竜語の悲鳴が上がる。


「大変だ!!。ルビーが炎を発したぞ!。」

「近寄るな!巻き沿い喰らうぞ!。」


周りの炎竜族の村の者達は阿鼻叫喚に悲鳴をあげ。逃げまどう。


キャーーーー! キャーーーー!

わーーーーー! わーーーーー!


「何の騒ぎだ?。」


ガーネットの実家の村長の殿内まで村中の騒音が響き渡る。


「はて?また村の若者衆が喧嘩しておるのかのう。ほほう、これは見物じゃ。見学しに行こうかのう。」


炎竜族の村長であるボルケンはさも嬉しそうに外に向かおうとする。


「ちっ、こんなときに。ガーネット、少し待っていろ。村の騒ぎをおさめてくる。いっとくがお前の結婚は決定事項だからな!。」

「ふん、私は認めぬ!。」


ガーネットは赤いドレスからつきだされる胸を揺らし。そっぽを向く。



キャーーーー!! キャーーーー!!

わーーーーー!! わーーーーー!!


バンッ!!


「煩いぞ!お前ら!。喧嘩なら他所でやれ!!。今取り込み中だ!。」


スプロスは玄関の扉を乱暴に開ける。


ギャアああああーーーーーーーーーー!! 

ボオオオオオオオオオオオ!!!

「きゃははは。きゃははは。」



「何だこれは·····。」


キプロスが村の様子を垣間見て唖然とする。


緑の鱗に覆われた竜。どうみてもノーマル種なのだが。背中から猛々しいほどの炎を舞い上がらせながら村中を駆け回っているのだ。

炎竜族の村の者達は慌てふためきながら逃げ惑い。パニック状態になっている。


「いったいこれは····。」


途方に暮れるキプロスの前に逃げ惑っていた一匹の炎竜族の若者が声をかける。


「キプロス!。あんたんとこの妹。獄炎竜のルビーがノーマル種の背に乗って炎をはっしてるんだよ!。村中大パニックだよ!。」

「何っ!?。」


ノーマル種の背をよく見ると確かに末の妹である獄炎竜のルビーが激しい炎を放出しながらしがみついている。

キプロスの体とふるふると震えあがる、くっきりと額から血管が浮き上がる。

ふつふつとマグマを煮出すような怒りが腹のそこから沸き上がる。


カッ!

キプロスの赤い縦線の瞳孔が赤く発光するとライナの背中に赤い粒子が集まる。


「メガ・エクソウドスリン(大いなる爆炎)!!。」


ドッ ガッああああーーーーーン!!。


ぎゃっ! ふーーーん!!


ずざざざざーー ザーー


ライナの背中が爆炎とともに爆発すると。その拍子に背中にしがみついていた獄炎竜ルビーが離れる。ライナは爆発の威力とともに地面にもろに顔面を擦り付けながらみっともない態勢で止まる。


ふう~ 助かったあ~。

ライナは頭部が逆さまな不恰好な姿だったが。背中の獄炎の熱に解放されて安堵する。


「貴っ、様ああああーー!。家の妹に何さらしとるんじゃあああーーーー!!。」


キプロスの血管がぶちギレ激昂する。


「あっ!ライナ!?。」

「何!?。」


後から出てきたアイシャにキプロスは反応する。


「貴様がガーネットが言っていたノーマル種のライナか。妹では飽きたらず末の妹に手をだすとは。」


え?ルビーはガーネットの妹なのか!?。

衝撃的な事実にライナは逆さまな不恰好な姿で驚く。

キプロスの燃えるような赤い髪が沸騰する。


「貴様、覚悟はできているんだろうなあ~。我等炎竜族の肉親に抱き着くことは。我等炎竜族の家族に婿入りをすると同義!。それをどう意味か解ってるだろうなあ~!!。」


スプロスの眉間に紫波が寄り。怒りの形相でドスの効いた赤い竜瞳で睨みつける。


ギャ?ギャアラギャガアギャアラギャガアギャア····

「へ?、何のことだ?。俺はただ遊んでいただけなんだが····。」


目の前のガーネットの兄と思われる炎竜族の青年に俺は不思議そうに竜の長首を傾げる。


「ライナ、何てことを···。プライド高い炎竜族を背中に抱きつかせることは好意の現れよ。しかもガーネットを背中に乗せた後に妹であるルビーも背中に乗せたとならば。それはもう炎竜族の家族の仲間入りを意味するのよ。」


何だって!?

レインの説明に俺はそ~と竜瞳を爆発によりはなれた獄炎竜の少女ルビーに向ける。

ルビーはてへという悪気丸出しの顔で舌をさらけ出す。


はっ嵌められた!。

俺は緑の額が青ざめる。


「もう、我慢ならん!。貴様にはブレスオブファイアに挑んでもらう!!。」


ガーネットの兄キプロスは猛々しくその言葉を言い放つ。

え?

何そのゲームタイトルみたいなネーミング?。


「うほ、ブレスオブファイアとな。こりゃあ腕がなるのう。」


家から出てきた村長のボルケンは嬉しそうに浮き足立つ。


「お父さんもう歳なんですから無理しないで下さい。私もつきあいますから。」

「ふむ、ブレスオブファイアとは懐かしい·······。」

「くっ、何でガーネットだけあんなにモテるのよ!。絶対に邪魔したる!。」


次々と殿の扉の前に現れるガーネットの肉親達に俺は戸惑う。


「ライナ、私の為に·····。」



最後に現れたガーネットは熱を帯びたうっとりとした表情で俺を見つめている。


そして俺はブレスオブファイアという炎竜族の訳の分からないものに挑むことになった。


はあ~本当に帰りたい······。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る