第133話 絆の涙

『どうやら口先ばかりだけのノーマル種というわけではないようですね。エレメント種の風魔竜アラン。ロード種の破王竜セルンもこうもいとも容易く敗れるとは。』


目の前に庶民出の貴族アリア嬢が騎乗する最後に残ったエンペラー種は二匹の上位種が目の前で倒されたところを目撃しても動揺もせずに余裕をかましていた。


    《長文竜言語変換》


『どういう手品ですか?。貴方は本当に騎竜の中で最弱とうたわれたノーマル種ですか?。』

「秘密は修行とトレーニングの数々と。後、筋肉だな。師に恵まれたんだよ。」


気に関しては教える義理もない。精霊を使役できるのも師となった妖精竜ナティのおかげである。


『まあ、善いでしょう。エレメント種やロード種に勝てたところで階級種の強さには抗えないのですから。』

「階級種の強さ?。竜種と強さは関係ないと思うがな。レア種でもエンペラー種やロード種より強くないものもいるし。エレメント種でももしかしたらレア種やエレメント種ロード種より強い竜がいるかもしれないじゃないか?。」


人間が決めたとされる階級種でも単純に騎竜の強さはそこから図れないとおもうのだが。


『確かにレア種にはエンペラー種やロード種に劣るレア種は存在する。それは能力は優れているだけで。強さに関しては他のエンペラー種やロード種に劣るものもいるからだ。エレメント種でも炎竜族という竜の個体差があるゆえ。そこから階級種として区分されることもある。』

ギャあ

「なら。」

『だからですよ。竜の階級種は絶対です。能力が優れたものがレア種であることは至極当然であり。エレメント種、ロード種、エンペラー種、レア種の順に能力と強さが区分けされるのもまた事実。そして私はエレメント種やロード種よりも遥かに強い。』


ここまで余裕をかませるのはどうやら目の前のエンペラー種はさっき倒したエレメント種の風魔竜やロード種の破王竜よりも強いらしい。


「ちょっといいかしら?。」


驚きのあまり沈黙していた庶民出のリーダー格であるアリア嬢が口を挟む。


「アイシャ・マーヴェラス。貴女に聞きたいことがあります。」

「私ですか?。」


突然アリアという令嬢は俺ではなく俺の背に乗るアイシャお嬢様に言葉をふる。


「貴女はノーマル種を騎竜にして後悔していませんか?。」


突然何の脈絡の無い質問がアイシャお嬢様に投げかけられる。アイシャお嬢様は少し戸惑ったが。直ぐに気を取り直し。ニッコリと微笑み笑顔で返事を返す。


「全然。ノーマル種のライナが私の騎竜で本当に良かったと思っています!。」


アイシャお嬢様は何の躊躇いも迷いもなく堂々と言い放つ。


「そう·······。」


庶民出のアリアという令嬢は何か思いつめたように重く唇を閉じる。


『さて、これで終わりにしましよう。ノーマル種が上位種に勝つ奇跡などこれ以上起こり得ないことを証明致しましょう!。』


アリアが乗るエンペラー種は翼を大きく広げた。


俺は両腕に気を練り込む。


「武装解放。」


庶民出の令嬢アリアは宝玉の付いたドラクネスグローブのからハルバートをとり出し。握りしめる。


「ライナ、援護するね。」

ガア


『名乗っておりませんでしたね。私はエンペラー種、威圧竜ハルバンヌ。威圧を得意とする竜です。』


威圧?威圧が何の役に立つんだ?。

俺は竜首を傾げる。

威圧っていうのはガンを飛ばすとかプレッシャー与えるようなものだ。攻撃というよりは挑発の類いに近い。


『疑問に感じているようですね。私の威圧はあらゆるものを平伏すのです。』


威圧竜ハルバンヌはオーラを放つ。


『ディンヌぃティプレッシャー(威厳なる圧)』


くわっ!

ぶああああーーーー!!

ギャ!

「くっ!。」


威圧竜ハルバンヌの竜顔が真顔に変わると衝撃破のような圧が放たれる。竜破掌という気の衝撃破とは別の精神から肉体までくる圧力である。

俺は威圧竜ハルバンヌの威圧を耐えると気の練り込んだ竜の掌をハルバンヌに叩き込もうとする。


くわっ!

ぶああああーーーー!!

ハルバンヌがまた真顔に変わると俺の竜の身体は後ろに押し戻される。

ち、近付けない。ならば

俺は気を練り込んだ竜の掌をハルバンヌに向ける。


ギャアーーー!!

「竜破。」


くわっ!

『ディンヌぃティプレッシャー(威厳なる圧)。』


ぶああああーーーーーーー!!

ハルバンヌの威圧を帯びたオーラが俺の気の技を中断させる。

くっ!技が発動できない。


『貴方の奇妙な動作で何かしているのをさっきの戦いで理解しましたよ。そんな隙は与えませんよ。』


威圧竜ハルバンヌの竜口が不適な笑みを浮かべる。

竜破掌が見抜かれている。

こいつ強い。エンペラー種というよりは戦い慣れしている。さっきエレメント種 とロード種の戦いを静観していたのは俺の戦いを観察するためか。

ならば 精霊で·······


ごおおおお~はあああ~~~

俺はハルバンヌとの間合いをとり。炎の呼吸を行い火の精霊を右の竜素手に集める。


ギャアああーー!!

「竜炎掌!!。」


ごおおおおおおおお

炎がアーチとなり威圧竜ハルバンヌに襲い掛かる。

くわっ!

『ディンヌぃティプレッシャー(威厳なる圧)。』


ぶああああああーーーーーーー!!

ばしゅうううう

なっ!?。

竜炎掌で放った炎のアーチがハルバンヌの威圧のオーラにあてられ。弱まりかききえる。

火の精霊が威圧竜ハルバンヌの威圧に怯えて炎の効果が消えたのだ。


『貴方が精霊を使役できるのもさっきの戦い理解しましたよ。ノーマル種の貴方が何故精霊を使役できるのか疑問に感じますが。私は妖精竜をまかした経験があるのですよ。故に貴方の戦いは私にはききませんよ。』


俺の竜顔が愕然とする。

こいつ本当にエンペラー種か?。レア種の間違いじゃないのか!。強すぎる。

威圧竜の威圧の力がこれほどとは。レア種として言われても遜色がない。


「ライナ、私が何とかするね。」


ひゅん

アイシャお嬢様は手持ちのブーメランをハルバンヌに乗る騎竜乗りアリアに向けて投げ入れる。

くるくるくるくるくるく


「········。」


ガッ キッ


アイシャお嬢様の投げ入れたブーメランが何の茂なもなく庶民出の令嬢アリアがハルバートの手によって弾き飛ばされる

くるくるくるくる パシッ

弾かれたブーメランはアイシャお嬢様は手に戻る。


「ごめん····ライナ··。」


アイシャお嬢様は気落ちしたように謝る。

ギャ····

「いいえ···。」


庶民出の令嬢アリアはベテランの騎竜乗りなのだ。庶民から貴族に這い上がる為に惜しみ無い程の努力と力を付けてきたのだ。騎竜乗り同士の戦闘経験が彼方の方が豊富である。


「諦めなさい····。貴女達の実力は解ったわ。非礼を詫びましょう。貴女のノーマル種は確かに強い。でも私達には勝てないわ。」


アリアの発した言葉にアイシャお嬢様は悔しそうに唇を噛み締める。

俺の竜瞳は庶民出のベテランの騎竜乗りとエンペラー種威圧竜ハルバンヌに向けられる。

諦めるか····。確かに勝てない相手である最強の騎竜たいして俺は諦めるという選択肢をしそうになった。しかしアイシャお嬢様のおかげでそれを思い止まらせてくれた。

だから······

俺は竜顔をスッと上げる。


エンペラー種威圧竜ハルバンヌの威圧のスキルには発動させるのにはある法則性があると気づいた。

エンペラー種の威圧竜ハルバンヌの竜顔が真顔に変わる直後に発動されるのだ

簡単に言えばにらめっこである。

だるまさんだるまさんにらめっこしましょう。笑うと駄目よ。あっぷっぷっみたいな感じで威圧竜ハルバンヌのスキルが発動されるのだ。何故真顔になる必要性があるのかと疑問を感じるが。もしかしたら威圧竜にとってそのスキルが発動条件なのかもしれない。

真顔で威圧するというなら対抗策は一つしかない。


「アイシャお嬢様。少し試したい作戦があります。」


俺はアイシャお嬢様に威圧竜の対抗策を伝える。


「解ったよ。ライナ。私もやろうか?。」

「いえ、アイシャお嬢様はやらなくていいです。少し見たい気もしますが。今は俺だけで充分です。」

「解った。ライナの言う通りにするね。」


アイシャお嬢様は頷き了承する。


『無駄な作戦はすみましたか?。』


すましたようにエンペラー種威圧竜ハルバンヌは竜口に笑みを浮かべる。


「無駄かどうかやってみなきゃ解らないだろうが!。」

『無駄ですよ。私達とあなた方では経験差と種族の差が違うのです。』

「経験は解るが。種族に関しては根性でどうにかなる!。」


俺はキッパリと堂々断言する。


『ふん、種族の差が根性でどうにかなると考えているなら浅はかにも程がある。身の程をわきまえよ。』


バサッ

ハルバンヌは大きく翼を広げる。

来る!。

ハルバンヌの真顔になるまでの動作に俺は準備を始める。


俺は心の中で呟いた。


だるまさんだるまさんにらめっこしましょう笑たら駄目よ。あっぷっぷ!


くわっ!

くわっ!(変顔!!)

ハルバンヌの竜顔が真顔と変わる。

俺の竜顔もありったけの表情を力ませ変顔へと変わる。


「········。」


アリアの視線が点となる。


『ぶひゃひゃひゃ!!。何ですその顔は!?。』


ハルバンヌは腹を抱え爆笑する。

威圧のスキルが中断された。


今だあああっっーー!!

俺は気を練りこんだ鉤爪の竜の素手を爆笑しまくるハルバンヌに向けて放つ。。


ギャあああーー!!

「竜破掌!!。」


ドゴオッ!!


ギャッ ハッ

笑い抱える威圧竜ハルバンヌの腹部に上手く竜破掌が直撃する。


『くっ!卑怯ですよ·····。』


威圧竜ハルバンヌは身悶え苦しみたじろぎながら恨めしそうに俺を睨む。


「卑怯も何もハルバンヌ。これがあんたの威圧の弱点だよ。」


ハルバンヌの真顔に変わることが威圧の発動の条件ならその真顔を変えてしまえばいい。


『ちょこざいです!。この程度で私のスキルが破れるなど有り得ない!。』


ハルバンヌは翼を広げ再び真顔へと変わる。


『ディンヌぃティプレッシャー(威厳なる圧)』


くわっ!(変顔=ムンクの叫び)

俺は竜の素手を頬にあててムンクの叫びの表情の真似をする。


『ぶひゃひゃひゃひゃっ!』


ハルバンヌは笑い転げる。


ギャあーーー!!

「竜破掌!!。」


ドゴオッ!!

ギャバッ

再びハルバンヌに直撃する。


『くっ!またしても·····。』


ハルバンヌの竜顔が苦渋に歪む。

どうやら威圧竜ハルバンヌは見た目より笑いが弱いようである。


「ハルバンヌ終わりだ。」

『こんな馬鹿げた行為で敗けるなど。ならば目を瞑ればいい。貴方の顔さえ見なければすむことだ。』


威圧竜ハルバンヌはそのまま竜の瞼を閉じてしまう。

確かに目を瞑ってしまえばこのにらめっこは効かない。そこは盲点である。しかし目を瞑ると言うことは俺の居場所を把握することができないと言うことである。

バァサッ

俺はそのままハルバンヌの巨体を素通りし後方に広がる運河へと出る。


「ハルバンヌ!彼等が運河に入っ

たわ!。」

『何っ!?。まさか戦わずに我等を素通りするのですか!?。この卑怯もの!?。』



威圧竜ハルバンヌは戦闘を拒否し。自分達から逃げたのかと勘違いする。

しかしライナは逃げたのではなく運河に入ることが目的である。


すぅ~~はぁ~~~~~

水の呼吸を行い。水の精霊を集める。水の精霊を威圧で怯えさせて無効果させるといっても水そのものをどうにかする術はないはずだ。水の精霊の力をを勢いにだけ任せて。後は水そのものをぶつければいいはずだ。真下に流れる運河に水の粒子が集まる。水はありったけの量が昇り俺の頭上へとあがる。


「何なのこれは·····。」


運河の水が一気にに上空に上がったことにアリアはポカーンと口が開いたまま唖然とする。


「威圧竜ハルバンヌ!この水量を威圧でどうにかしてみせろ!。」


ライナの竜の素手を大きく振りかざした。


ぎゃああーーー!!

「竜水掌!!。」


どッ ザッ パアッーーーーーーーーん!!

おびただしい水流がアリアと威圧竜ハルバンヌに覆い被さる。そのまま真下に流れ落とす。


『こんな··こんなことが····有り得ない!。』


ドパあーーーーーーーーん!!

エンペラー種威圧竜ハルバンヌの絶叫の咆哮が轟き。威圧竜ハルバンヌと庶民出の令嬢アリアは運河の一部から昇った激流の水に巻き込まれ。真っ逆さまに落ちていく。

威圧竜ハルバンヌと一緒に上空をゆっくり落ちていく。アリアは水流に流れ落ちるなか。上空から視界に入るノーマル種をおぼろ気に見つめる。

庶民だった頃の記憶が徐々に蘇える。


「ソフィやったわ!。これで100連勝よ!。これで私達は貴族の仲間入りよ!」


ボロボロの皮鎧を着た少女が嬉しそうに相棒であるソフィというメスのノーマル種に話しかける。


ギャアラギャギャアガアギャアガアギャアラギャギャアガアギャアラギャギャアギアギャアギャアギャアラギャ

「おめでとう。アリア。私は少し疲れたので表彰式にはアリアだけ行ってきて下さい。私はここで待ってますから。」

「解ったわ。私が賞金と表彰とトロフィー持ってくるね!。」


アリアは嬉しそうにレース会場の表彰状へと向かう。


「ソフィ!賞状とトロフィーを貴族の主催者からもらってきたわ!。賞金もかなり多いし。今日は豪勢にパー···てぃ·····。」


アリアは相棒のノーマル種に駆け寄るとソフィというメスのノーマル種は眠ったように動かなかった。


「ソフィ!」


駆け寄り緑の鱗を触れる。竜の鱗の皮膚には体温なくひんやりと冷たかった。


「ソフィ!ソフィ!ソフィ!。」


冷たく動かなくなったメスのノーマル種の名をアリアは何度も叫ぶ。


「ソフィいいいいいーーーー!!。」


嗚咽をあげ。アリアは相棒のノーマル種の体に抱き着き涙をこぼしながら絶叫する。



ひゅ~~~~~

昔の相棒だったノーマル種の記憶がアリアの脳裏に鮮明に蘇る。

アリアの頬に涙が掠める。

アリアは遠くの上空から小さくなったノーマル種のライナの姿。手を差し伸べるかのように手の平を掲げた。


「ソフィ········。」


哀しげに秘めた表情を浮かべた令嬢は大切な昔の相棒(とも)を想い浮かべ。ゆっくりと地上へと落ちていく。


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