第132話 間引き

『おおっと!運河に入る前に三頭の上位種とノーマル種が戦闘を始めたぞ!。どうなるんだ!!。』


わーーーー!! わーーーー!!


ガルボ・ナラの実況に観客席の声援に熱が上がる。


「上位種三頭といきなり戦闘を始めますか。どう立ち回るか見せて貰いますよ。ライナ。もし貴方が神足る竜、プロスペリテと近しい力を発揮するならば。私は貴方に託してもいいとおもっています。」


何かを決意したかのように静かに観客席に座る灰銀色の角と瑠璃色の髪を流すソーラは目を細め見定める。


「リストラ!。あの例のノーマル種三頭の上位種と戦闘始めたわよ。どうなるの!?。」

『落ち着けサブリナ。丁度いいではないか。あのノーマル種の実力を知る良い機会だ。』


鎧を纏うように甲殻に覆われ竜は翼を止め。静観に徹する。

他の騎竜達は皆運河にむかっていたがリストラはそれに対しては特に気に止めることもなかった。


『ノーマル種。あなたの言い分に間違いがありますよ。この方達は選ばれたのです。自ら技術と技量を高め。間引きしたことにより貴族として迎え入れられたのです。』


リーダー格であるアリアが乗るエンペラー種が竜口を開く。


ギャギャア?

「間引きだど?」

『レースとは我々騎竜にとって間引きのようなもの。優れたものが勝利し。そうでないものは敗北する。正に弱肉強食ということですよ。』


ニヤリと上位種の三頭の一頭であるエンペラー種が不適な笑みを浮かべる。


『ノーマル種は主人にとっての踏み台でしかなかった。現にここにいる令嬢達は今でもノーマル種を扱ってはいないではありませんか。それが証拠です。』


もう1頭のロード種はさも当然だという様子に断言する。


「·······。」

「·······。」

「·······。」


上位種三頭に乗る三人組の騎竜乗りの令嬢は俯いたように重く唇を閉じている。


『確かに主人達を貴族にまで出世させたのはそのノーマル種達のおかげかもしれない。しかし最早それも今となっては不要。貴族の仲間入りを果たした我が主人達には最早ノーマル種など不必要なのですよ。』


最後の一頭であるエレメント種は偉そうに鼻息を鳴らす。

·········

確かに貴族の仲間入りを果たしたならばノーマル種を騎竜にしてはやってはいけない。それは重々承知している。それでも·····それでも彼女達が培った絆をなかったことにされるのは矢張俺としては納得はできない。

ライナの竜顔が表をあげ瞳孔を光らせる。


ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアラギャアギャアラギャアガアギャアラギャアギャギャア!

「わかったよ。お前達がレースを間引きだとほざくというのなら。ノーマル種の俺が!お前等を!間引きしてやるよ!。」



『戯れ言を!』

『身の程を弁えぬことを通り越すなら。最早それは滑稽でしかありませんね。』

『私達に勝てるというその慢心時点で救いようがありません。』


三頭の上位種の騎竜は威嚇の唸り声をあげ戦闘態勢をとる。


ギャアラギャアギャアラギャアガアギャアギャア

「すみませんアイシャお嬢様。少し寄り道しますね。」


背中でブーメランを握り構えているアイシャお嬢様に俺は謝罪する。


「ううん、いいよライナ。私も正直納得できていないから。私はライナのことを一度も踏み台とか。出世の道具だとは思ったことないよ。」


金髪を靡かせ。澄みきった青い瞳を輝やかせる令嬢はあどけないとびっきりな笑顔をみせる。

俺のくちばしは緩みにやける。

嗚呼~この娘が俺の主人で本当に良かったとしみじみ感じる。


『さて、この無駄で無意味で無用な戦いを早く終わらせてしまいましょう。早々に決着を着けなくては。』

ギャラギャアギャアガアギャアラギャアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャ

「そうだな。決闘ならともかく。レースで時間をくうことは命取りだ。さっさと終わせよう。」


バァサッ!!

三頭の上位種の騎竜は攻撃を仕掛ける前にライナが飛び出す。

まずはエレメント種からだ。

エレメント種は属性に偏った騎竜である。相手の騎竜は黄緑色であり。風の精霊が近くにいるところから風に精通した騎竜だと推察できる。

俺は直ぐに飛び込みエレメント種との間合いを無くす。


『なっ!早い!?。』


エレメント種は魔法陣を展開させ。風の魔法を発動させようとする。


『速いから何ですか!!。私の風魔法に抗う術などない。ウィンドブロー(風の衝撃)!。』


エレメント種の周囲に風が集まる。


ギャアああーー!!

「竜破掌!!。」


ドゴォッ!!

ギャッ ハッ!

エレメント種に竜の胴体に見えない気の衝撃破を喰らい。竜瞳が白眼を向く。


「アラン!」


背に乗る庶民出の貴族令嬢が叫び声を上げ。アランというエレメント種の風魔竜はゆっくりと真下に落下していく。

先ず一匹···。

俺は残り二匹の上位種に竜瞳で睨む。


『馬鹿なっ!。エレメント種であり。風魔法得意とする風竜族、風魔竜アランがこうもいとも簡単に····。』


ロード種の騎竜は竜瞳を見開き動揺する。

あのエレメント種はどうやら風魔竜というらしい。正直言って学園の令嬢達の騎竜と比べてあまりにも弱すぎる。

力を慢心しすぎて戦闘訓練を疎かにしているのではないかと思われる。庶民出の令嬢は戦闘経験がありそうだが。その騎乗する上位種の竜(ドラゴン)は慢心で訓練を疎かにしている様子である。



「セルン!油断しないで!。あれは普通のノーマル種じゃないわ!。信じられないかもしれないけど。油断したらこっちがやられるわ。」


ロード種に乗る庶民出の令嬢は冷静に動揺する自分の騎竜を宥める。

さすが経験豊富な騎竜乗りだ。即座に的確に判断と分析している。


エンペラー種に乗るリーダー格のアリアという令嬢は驚きを隠せないようであった。


『くっ!油断などするものか!。ノーマル種に敗けたとなれば。恥以外何ものでもありません!。』


セルンという名のロード種の騎竜はむきになったように翼を扇ぎ飛び掛かる。

ロード種に乗る令嬢は槍をアイシャお嬢様に向ける。

キン


「くっ!。」


アイシャお嬢様は既にブーメランを投げており。

槍の切先が投げたブーメランにより絡めとられる。


『誇り高きロード種が無能なノーマル種に敗ける道理などないのだ!!。』


ぶああああーーーーーーーー!!

接近したロード種は口からブレスを吐き出した。どうやらあのロード種の必殺技のようなものらしい。


ギャアああーー!!

「竜気掌!!」


パンッ

気の練り込んだ竜の掌をブレスの前にかざすとブレスが触れた途端かききえる。


『なっ!?。』


ひゅうううう こぁおおおーーー


俺は竜のくちばしから息を吸い込み吐く風の呼吸を行い。黄緑の粒子を右の竜の鉤爪の素手に集める。


ギャアああーー!!

「竜風掌!!」


ごおおおおああああああーーーー!!

強烈な旋風がロード種アランと庶民出の令嬢を吹き飛ばす。


「きゃああああああーーーー!!。」

『馬鹿なっ!?。ノーマル種が風の精霊を操るだと!有り得ないっ!!。』


ロード種の騎竜セルンは令嬢もろとも街のある方向まで吹き飛んだ。

これで二匹目と。

俺は竜瞳は最後の一匹であるエンペラー種と庶民出の令嬢アリアに向けられる。


ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャア

「さあ、あんたらで最後だ。間引きを始めようか。エンペラー種。」


目の前の信じられない光景にアリアという令嬢は目を見開き震えたドラクネクローブを握りしめる。弱い無能とされたノーマル種をアリアの視線は強く捉える。

アリアを乗せたエンペラー種の騎竜は不機嫌にふんと鼻息を鳴らし。憤怒の唸り声をあげ目の前のノーマル種を睨み付ける。

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