第130話 飛翔

わーーー わーーー


『さあ、今宵もやって参りました。成り上がりレースブリジット杯。私実況を務めさせて頂きますカルボ・ナラと申します。宜しく。さてブリジット杯はあの庶民出でありながら幾多のレースに出場し。連勝し続け。貴族にまで成り上がった騎竜乗りブリジット・カスタネットを称賛するためにできたレースです。。ブリジットは騎竜乗りを夢見る庶民の少女でしたが。偶然森の中で幻のレア種雷電竜を見つけ。瞬く間にレースを勝ち続け連勝圧勝したそうです。そして貴族に成り上がった初めての庶民の騎竜乗りなのです。』


わーーー! わーーー!

実況のレースの解説に観客席に座る庶民達の歓声が盛り上がる。

何だろう·····。

俺は微妙な竜顔を浮かべる。

確かに庶民から成り上がったというけれど。何かレア種を運よく手に入れて成り上がったように聞こえるのだが。庶民の騎竜乗りが能力の高いレア種を偶然手に入れて。成り上がっても正直俺としてはあまり嬉しくない。絶え間無い努力をして庶民から貴族として成り上がったなら理解できるけど。このエピソードは恵まれて成り上がってる気がする。俺の心が狭いのだろうか?。すさんでいるのだろうか?。


『解説には庶民代表の現役の騎竜乗りクレネール・リストールさんに御越しいただきました。宜しくお願いしますクレネールさん。』

『宜しく。』


ヘアバンドを着けたサラサラヘアー若手の貴竜乗りの娘がペコリと頭をさげる。


『今宵のブリジット杯はどうでしょう。』


実況のカルボ・ナラは隣のサラサラヘアーにヘアバンドを着けた若手の騎竜乗りクレネールに質問する。


『一通り見ましたが。まさか貴族の中でレースにノーマル種を騎竜にして出場する騎竜乗りがいるとは思いもよりませんでしたよ。』

『え?どこ、どこ、何処です?。』

『あそこです。』


放送席に座るクレネールは緑色の騎竜に指を指す。

観客全員の視線が一斉に指差す竜の方向へと向かう。

ちょ、やめてよね。悪目立ちするから。

レース会場内で注目の的になり。俺は居心地の悪さを感じる。


『ああ、本当ですね。このブリジット杯を参加する騎竜乗りが庶民が貴族に成り上がった騎竜乗りのレースだと知らないのでしょうか?。貴族も普通に出場しているレースなのですけど。』


実況カルボ・ナラは首を傾げる。


『でも騎竜乗りは見たところ貴族のようですけど。』


クレネールはノーマル種の隣に寄り添う騎竜乗りの少女に視線を注ぐ。

アイシャお嬢様の格好は背中にブーメラン用のホルスター着け。身なりが整った清潔感のある服装をしていた。


『確かにみたところ貴族のようですね。はて?貴族がノーマル種を騎竜にしているのですか?。庶民がノーマル種を騎竜にするなら解るのですが。』


俺とアイシャお嬢様に取り合わせに更に実況者のカルボ・ナラは首を傾げて困惑する。

ブリジット杯が庶民から貴族に成り上がった騎竜乗りのレースだとわかるけどさ。家は貧乏なんです。ノーマル種しか飼えないんです。ほっといて欲しい。家は家、他所は他所なんだから。

俺は不満げな竜顔を露にする。

ブリジット杯のレースコースは街を抜け運河を越えた先の船着き場がゴール地点のようだ。整備されたレースコースではなく。既にそこにある建物や自然を活用したレースコースである。確かに無いものが無いならあるもので活用しようという庶民の昔ながらの知恵というものが感じられるレースコースである。


マチェーテのレース会場にあるスタート地点に集まった騎竜乗りと騎竜は飛び立つ準備をする。

アイシャお嬢様はブーメランがドラグネスグローブに収納しているのではなく。背中のホルスターに収められたブーメランを手に馴染ませている。


「本当は武器が収納できるドラグネスグローブにしたかったんだけど。高くて買えなかったの。」


アイシャお嬢様はがっかりした様子で肩を落とす。

どうやらアイシャお嬢様は三年生の学園のホープであるシャルローゼお嬢様が使っていた収納機能付きドラグネスグローブが欲しかったようだ。使用していたドラグネスグローブは学園の備品で貸し出し可能だが。連休に関しては返却する義務がある。だから貧乏な家には収納付きドラグネスグローブは高価で手にいれる術がない。


ていうカーラさんがマーヴェラス家の竜舎を鋼鉄製に改装するくらいならお嬢様の新品のドラグネスグローブ買ってやれよ。

元々ロリ杯で俺達が優勝した掛け金だろうに。

俺の不満げに竜顔をしかめる。



カチャ

スタート位置から少し離れた場所でプレートメイルに身を包んだ騎竜乗りはまるで体全身が甲殻に覆われているようは竜に騎乗する。

あの竜、さっき鱗肌をさらけ出して竜の名残を残したままの姿をしていた竜だよなあ。

俺はじっと硬い殻に身を包む騎竜を直視する。

竜化したらああなるのか····。

鱗肌の人化していた騎竜は甲殻と呼べるほど硬そうな殻が全身に覆っている。


「リストラ、今日はどうする?。」

『最初は様子見だサブリナ。あのノーマル種がどう対応するか解らない。運河に入るまでは大人しくしているつもりだ。』

「警戒しすぎじゃない?。貴女が強いといってもそこまでと思わないけど。騎竜乗りの方もまだ学生のようだし。」

『侮るなど家訓にも戒められているだろうに。どんな相手でも油断するなと!。』

「悪かったわよ!。相変わらず堅いわね。見た目通りに。」


はあ~とプレートメイルに着こなす騎竜乗りの令嬢はお堅い性格の自分の騎竜に力の抜けたように深いため息を吐く。


「いいみんな。私達が出発したら直ぐにノーマル種を攻撃するのよ。運河に入るまで肩をつけるわ。」


三人組の令嬢はノーマル種を討つ為の段取りを決めていた。

三人組の騎竜はエレメント、ロード、エンペラー種を騎竜にしている。色は左から青、黄、赤、信号機のように並んでいた。


『お嬢様、ノーマル種何か構うものじゃありませんよ。』

『そうですよ。』

『我々は高貴な上位種です。下等なノーマル種を倒しても何の自慢にもなりませんよ』


三人組の相棒の上位種の騎竜は口を揃って威張るように反論する。


「貴方達。いい、私達は三人は庶民出から貴族として成り上がったの。最弱であるノーマル種を騎竜にして汗水垂らして幾多のレースに出場し戦績を積み。やっとのことで貴族の仲間入りを果たしたのよ。」

「私達が苦渋を強いられながらも勝ち取った地位なの。この成り上がった者達の神聖なブリジット杯にノーマル種を騎竜にして貴族の令嬢が出場しているのよ。」

「それは私達の尊厳を土足で踏みじられたものと同意なのよ。」


三人令嬢は嗜めるように自分達の上位種の騎竜に言い聞かせる。


『はあ?。そうなのですか。』


三人組の一頭であるエンペラー種の騎竜が一応頷く。人間社会の地位のことなど騎竜にとっては到底理解出来ぬことである。


「ノーマル種を騎竜にして出場している貴族なんてどうせ私達庶民出の貴族を馬鹿にしているに違いないわ!。」

「そうよ!。そんなやつは私達が凝らしめるのよ!。」


三人組の庶民出の貴族の令嬢は互いに息巻いている。そんな主人の姿を三頭の上位種の騎竜は何とも言えない竜顔で眺めていた。


『それではこれより成り上がり者達の騎竜レースブリジット杯が開始されます。』


わーーー! わーーー!

アイシャお嬢様はドラグネスグローブを嵌め。俺の背中に股がる。他の騎竜乗り達も各々の騎竜に飛び乗り。飛び立つ準備をする。


ブリジット杯のレース開始はフラッグをおろすのが合図のようだ。

ブリジット杯のスターター役が巨大な旗を持ってスタート位置に設置された台に立つ。


スターターは大きな旗を頭上に振り上げ止める。

俺は爪を地面に食い込ませ身を低くする。

アイシャお嬢様も俺の背中に密着し。スタート開始を待つ。

スターターの大きな旗が一気に真下に振り下ろされる。


バァサッ


バサッバサッ


マチェーテの街の上空に無数の騎竜が飛び立つ。





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