第129話 ブリジット杯

メルドリンのお茶会を終え。帰った頃にはどうやら銀晶竜のソーラさんはマーヴェラス家の客人として迎え入れられることになったようである。数日間宿泊するらしい。何でも俺とアイシャお嬢様の騎竜乗りと騎竜の実力を見学したいそうだ。

といっても連休なんで俺とアイシャお嬢様は暫くぐ~たらな生活するつもりなのだが。


ドラゴンウィーク二日目、俺は頼んでいないのに、カーラさんに勝手に改装(改造とも言う)された鋼鉄製の竜舎の藁の寝床で寝そべっていた。トレーニングは今日は休む。客人もいることだし。今日は藁の寝床でぐ~たら生活をするつもりだ。

俺は寝床の藁で何度も寝っ転がる。 


「ああ、ライナ、今日はトレーニングサボり?。確かにドラゴンウィークで騎竜を休ませる連休だけど。ずっと寝すごすのもどうかと思うけど。」


アイシャお嬢様は俺のぐ~たら姿に呆れ顔で眺めている。


ガアギャア~

(そうですねえ~)


俺は藁の寝床で間の抜けた返事をする。


「ライナ、銀晶竜のソーラさんが私達がレースをしているとこ見たいと言うんだけど。どうする?。私はこのままライナを休ませても構わないんだけど。ここから少し離れた街でブリジット杯って言うレースが開催されているんだけど。出場してみる?。事前予約エントリーじゃなくて飛び込みOKなレースなんだけど。」


ガア?

俺は寝そべっていた竜の図体を揺り起こす。


ブリジット杯か····。肩慣らしに出場しても良いかなあ。実際暇してたし。

俺は頷き相づちを打つ。


「そう、なら準備してソーラさんも一緒に乗せるから。」


ガア

アイシャお嬢様の提案で俺はブリジット杯というレースに出場することになった。


バァサッ バァサッ

マーヴェラス領牧場上空をアイシャお嬢様とソーラさんを乗せて飛行する。


「すみません。私の我が儘に付き合ってくださって。どうしても貴女方のレースをこの目で見たかったのです。」

「いえ、私のライナも暇してたとこですし。」


ギャアギャアガアギャ

「気にしないで下さい。」


ブリジット杯が開催される街。マチェーテに到着する。何か刃物名みたいな物騒な名前だなあ。

マチェーテの街のレース会場には既に騎竜乗りや騎竜が集まっていた。

俺はマチェーテのレース会場の広場に着地する。

アイシャお嬢様と銀晶竜のソーラさんを背中に降ろす。

あれ?何か···

レースに集まっていた騎竜乗りの身なりが小綺麗だった。その他にも色んな竜種の騎竜がレースに参加する騎竜乗りに従えていた。

どう見ても出場している騎竜がノーマル種じゃないだが。それに出場している騎竜乗りもどう見ても庶民じゃなくて貴族なんだが。


ギャアギャアラギャアギャアガアギャアガアギャアギャギャア?

「あのアイシャお嬢様。ここ貴族の騎竜乗りが出場するレースですか?。」

「解らない。私適当に近くで開催されるレースを選んだから。」


適当って····俺は微妙な竜顔を浮かべる。

肩慣らしのつもりが本気で挑まなきゃならなくなった状況に俺は複雑な心境にかられる。

それに他の貴族の騎竜乗りが従える騎竜は殆ど上位種であり。ノーマル種である俺は完全にこのレース場では浮いていた。


「貴女もしかしてノーマル種の騎竜で出場するつもり!?。」


レースに参加すると思われる騎竜乗りの令嬢の一人が声をかける。


「はい、そうですけど。」


ケロッとした顔でアイシャお嬢様は返事を返す


「何考えているの!?。このレースは貴族が出場するレースよ。貴女もみたところ貴族のようだけど。普通ノーマル種を騎竜として出場しないわ!。あっ!?もしかしてその灰銀色の角を生やした人化した綺麗な騎竜が貴女の本当の騎竜かしら?。それなら納得いくわ。」

「いえ、私はただの見学者です。この方達のレースを観戦しにきただけですよ。」


銀晶竜のソーラはニッコリと微笑みを浮かべ否定する。

出場する騎竜乗りの令嬢が目が点になり絶句する。


「な、何考えているの!?。ここは確かに街主催のレースだけど。出場している騎竜乗りはほぼ全員貴族よ!。このレースのブリジット杯の成り立ちは庶民だったブリジット・カスタネットが騎竜乗りとして成果を上げ。貴族の仲間入りしたことから始まったのよ。ここでレースに出場する貴族はだいだい庶民出の騎竜乗りが貴族の仲間入りした連中なのよ。」


へ~、ここは言わゆる成り上がりした騎竜乗りのレースということか。なんか近親感をわくなあ~。俺とアイシャお嬢様も一応没落貴族と平凡なノーマル種から成り上がっているようなもんだし。そのレース名となっているブリジット・カスタネットという騎竜乗りにも親しみと共感を感じる。


「大丈夫ですよ。ライナは貴族の学園でも他の貴族の騎竜と対等に渡り合えますから。」


アイシャお嬢様は胸を張って言葉を返す。。


「貴女、何処か頭を打ったの?。ノーマル種を騎竜にして貴族の学園でやっていけるわけないでしょうに。」


レースに出場する騎竜乗りの令嬢は憐れみに満ちた残念そうな眼差しをアイシャお嬢様に向けてくる。

俺が上位種の騎竜と渡り合えることを全然信じてない様子である。学園内では有名でも東方大陸からしたらまだ俺とアイシャお嬢様は騎竜乗りとして無名である。幾つかのレースに出ているが。それでも大陸に名を轟かせるほど有名とも言えなかった。


「ねえ、見てよ。あの娘。ノーマル種を騎竜にして出場するみたいよ。」

「ふざけているのかしら?。それとも私達庶民出の貴族に対してのあてつけ?。」

「こらしめてやりましょうよ!。」

「そうね。成り上がったブリジット・カスタネットのレースの名を汚す輩には痛い目にあわせてやりましょうよ。」


遠くから様子を見ていた庶民出の貴族三人組はノーマル種を騎竜にする令嬢を対し。言われもない敵意を向けていた。


銀晶竜ソーラさんを観客席に送り。アイシャお嬢様がブリジット杯の受付でエントリーしている間、俺はレースに参加すると思われる騎竜達或いは人化している騎竜をキョロキョロと確認していた。

何だ····あれは····?


俺の目に入ったのは一頭或いは一匹の人化した騎竜だった。その人化した騎竜の姿があまりにもエロかった。レオタード、コルセットのようにぴっちぴっちに締め付けるような格好をしていた。それはどうやら服ではなく小さな鱗模様の肌のようで。胸や手足にまるで鎧を身に付けたように纏っていたのだ。その人化している騎竜は小さな鱗肌をそのまま服装にしているようだった。それはある意味裸同然とも言える。しかし鱗肌は見事に服装の役割を果たして違和感がない。

何か凄い格好だな。あそこまで竜の名残を残したままの人化した姿は初めて見たよ。鱗肌に覆われてでんとつきだされる柔らかな胸の膨らみを俺は強く凝視する。


「む?。」

「どうかしたの?リストラ。」


鱗肌の騎竜の主人と思われる令嬢が声をかける。主人の令嬢の格好も鎧を纏い。露出された鎧の胸部に谷間が出きるほどである。


「視線を感じた。どうやらあのノーマル種のようだ。」


鋭い目付きした鱗肌の騎竜は遠くから視線を送るノーマル種を睨む。


「ノーマル種?。まさかノーマル種がこのレースに出場しているの?。私達もこのブリジット杯に出場するのは初めてだけど。どう見ても出場しているのは上位種を騎竜にしている貴族だらけよ。」


鱗肌の騎竜の主人は眉寄せ困惑する。


「サブリナ、気を付けよ。あのノーマル種は強いぞ·····。」


鋭い目付きを放つリストラは険しい顔を浮かべる。


「え?強い。ノーマル種が?。」


サブリナと名を言われた令嬢は更に困惑する。


「もしレースでかち合うとならば、まず最初に障害となるのはあのノーマル種だ。」


嘘も冗談も一切言わない自分の騎竜リストラが強いと発言したのだ。サブリナは自分の騎竜の発言に疑問は抱いてはいなかった。それでもノーマル種が強い言ったことに対しては信じられなかった。


「貴女が強いと言ったのだから強いのでしょうけれど····。」

「油断するな!。サブリナ。どんな相手でも油断は命とりだ。例え下等で無能と言われているノーマル種でも絶対に手は抜くな!。」


リストラの鋭い目付きが主人を睨む。忠実で従順なリストラがここまで言わせるのだから只事ではない。


「解ったわ。どんな相手でも手を抜くつもりはないわよ。サブリナ。」


主人の返答にリストラの唇がふっと緩む。


「それで良いサブリナ。久々にこのレース楽しめそうだ。」


鱗肌の人化の騎竜は好敵手を見つけたかのように鋭い目付きをノーマル種に向ける。

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