第122話 新たな指標


銀姫シーア・メルギネットと白銀竜のプラリスは校門前にいた。送り迎えにシャルローゼと絶帝竜カイギス、セランと疾風竜ウィンミーも付き添いできている。

既に競争の賑わい失せ。いつも通りの学園の日常に戻っていた。競争での勝敗はシーアと白銀竜プラリスの勝利で終えた。ノーマル種のライナはゴール地点まで辿り着けず。実質棄権敗北となった。


「それではシャルローゼ様。私はこれで」

「ええ。」


気品に満ちたシャルローゼの素顔が笑顔で挨拶を返す。


「シャルローゼ様、あのライナというノーマル種のことですが。矢張あのノーマル種は神足る竜等ではございません。あのノーマル種が神足る竜であるならばあまりにも····。」

「弱すぎますか?。」


シーアはゆっくりとこくりと頷く。

伝承にある神足る竜であれば精霊の使役があの程度ではすまないのだ。火の精霊ならばマグマを吹き出し火山を噴火させ。森林を焼き付くし。水の精霊ならば大津波程の波を起こさせ。都市を埋め尽くす程の洪水を引き起こす。地の精霊ならば地面を裂け。大地を震わし。地形さえも変えてしまい。風の精霊ならば多数の竜巻を巻き起こし。あらゆる建造物を吹き飛ばす。ライナは確かに精霊を扱ってはいたが。伝承の神足る竜と比べるとあまりにその力は貧弱でちんけである。神足る竜が精霊を使役したならばあの程度ではすまないのだ。更にあのノーマル種ライナは銀氷の精霊は使役していなかった。神足る竜は銀氷の精霊さえも扱う。もし神足る竜のように銀氷の精霊を使役できていたなら相棒の白銀竜プラリスに対抗出来たかもしれない。互角とはならないだろうが。


「そうですか。貴方の考えは解りました。しかしライナもアイシャ・マーヴェラスもまだまだこれからですよ。伸び代はあると思いますが。」


シャルローゼは彼等は今でなくても今後更に強くなる可能性があると思えた。


「アイシャ・マーヴェラスならともかくライナというノーマル種に関しては伸び代はないと思いますが。私の見た目では精霊を使役できてもあれが限界だと思います。竜種的にも能力的にも。」


ノーマル種が精霊を使役してもあの程度なのだから。今後も期待はできないとシーアは判断する。



「そうでしょうか?。私にはまだ未知の何かをノーマル種のライナは秘めているような気がしてならないのですが。」


シャルローゼはノーマル種ライナを買いかぶりなほど入れ込んでいた。

その姿を何とも言えない冷めた表情でシーアは視線を向ける。


「シャルローゼ様。期待するのは勝手ですが、あまり入れ込みすぎないようにしてください。ノーマル種は何処へいってもノーマル種なのですから。」


シーアは控えめに返しお辞儀をする。

シャルローゼとの別れの挨拶をすませシーアは学園を後にする。

白銀竜プラリスナーチは帰路につく主人についていく。


『シーア帰るの早いよ。ライナというノーマル種に私は逢いたかったのに。』

「プラリス、アイシャ・マーヴェラスならともかく。ノーマル種と仲良くする必要性はありませんよ。特に貴女は身分の高い最強竜種なのですから。何処で角がたつか解ったもんじゃないわ。」


どうやらプラリスはあのノーマル種のライナに興味を持っているようだ。最強の竜種がノーマル種に興味を持つなど貴族社会でどこで角がたつか解らない。特に王から信頼されるメルギネット家なら尚更である。救世の騎竜乗りの子孫であるアイシャ・マーヴェラスならともかく。その騎竜であるノーマル種のライナには友好関係を結ぶべきではないとシーアは判断する。

白銀竜は長首が項垂れるほどがっかりしている。


『残念だな。もう一度あのノーマル種の背中に抱きつきたかったのに。』


白銀竜プラリスはあの沼で初めて出逢って沈んだノーマル種ライナの背中にもう一度抱きつきたいとそう思った。



       来客専用竜舎


ギャハッ!


竜瞳が見開き起き上がる。


ギャア·····

(ここは·····。)


俺は長首を使い辺りを確認するとそこは俺のmyHomeの竜舎の藁の寝床である。

どうやら俺の藁の寝床で寝かされていたらしい。

まだ記憶が曖昧だ。確かシャルローゼお嬢様と絶帝竜カイギスに戦いを挑んで歯が断たず。それで仕方なく世界最強の騎竜乗りシーア・メルギネットと最強の竜種、白銀竜に戦いを挑み返り討ちにあったと。

記憶が蘇るにつれ。かなり無様に敗北したことを思い出す。竜の全身には怪我はなく。すっかり治療されていた。


はあ~ここまで無様に敗けるとは。矢張最強の竜種は手強かった。竜(ドラゴン)だけでなく騎竜乗りも手強かった。最強の一角の名は伊達ではない。あんなやつらとこれから渡り合わねばならないのか·····。


「·······。」


しばらく敗北を味わっていなかったなあ···。


敗けた···俺が敗けた···。


ポロポロポロ

あれ?何だ?。

俺の竜の頬に冷たいものが伝う。

それが敗北したことによる悔し涙なのだと解る。

最強一角相手に何も出来なかった己の不甲斐なさが後から相当堪えているらしい。


「ライナ、あっ!?目覚めたんだね。」


アイシャお嬢様は元気よく笑顔で竜舎に入ってくる。

ギャア!ギャアラギャギャアラギャア!?

ギャアラギャアガアギャア?

(あっ!アイシャお嬢様。大丈夫ですか!?。何処か怪我はありませんか?。)


俺は悔し涙を誤魔化すように竜の素手で拭い。アイシャお嬢様の様子を心配する素振りをみせる。


「大丈夫だよ。ライナ。私は怪我してないから。」

ギャアギャ······

「そうですか·····。」


アイシャお嬢様に関しては悔しそうな素振りはなく。何処か晴れ晴れとしている。


「ライナ、敗けちゃったね···。」

ギャアギャ·····

「そうですね·····。」


アイシャお嬢様の一言が強く俺に重くのしかかる。最強の相手に敗けて当たり前の筈なのに。俺は何処か悔しくて悔しくて堪らないのだ。それは勝敗よりも何も出来なかったという己の不甲斐なさから来るものであり。あの時ああしていれば良かった。ああしなければ良かった。ああすれば敗けなかったと選択肢を何度も間違えたと前世の頃に何度も己を悔やんだものである。それが今になって悔しさと惨めさから後悔として苛まれるのである。

そんな俺の竜顔をアイシャお嬢様は易しげに眺める。


「ライナ、私絶対強くなるね。私気付いたの。ライナばかり頼っちゃ駄目だって。私自身も強くならないとって。だからライナ一緒に頑張ろう。一緒に強くなろう。」

ギャアギャアギャ······

「アイシャお嬢様······。」


俺はアイシャお嬢様の笑顔に竜口が強く締める。そうだ!。悔しがってはいられない。強くならなくては。アイシャお嬢様は強くなると決めたなら俺も強くならなくてはならない。最強の竜種が何だ!。物理的法則を覆す魔法やスキル持ちの竜(ドラゴン)が何だ!。それで俺が諦めることにはならない。これからそいつらのような竜(ドラゴン)とごまんと相手にしなくてはならないのだ。こんなところでくすぶってはいられない。今はまだ手立てはないかもしれない。だがそれでも俺はあいつらのような最強の竜種に対抗する術を絶対に見つける!。見つけ出す!。


このままで終わらせるものか···。


緑の鱗に覆われた竜身をライナは力強く奮い起たせる。

一人の令嬢と一匹の平凡な騎竜は新たな指標をその胸に定めた。



     学園入学編   完


    

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