第111話 忘れていた喜び

『モウカリマモウカリマモウカリマモウカリマモウカリマモウカリマモウカリマモウカリマ』

『ボチボチデンボチボチデンボチボチデンボチボチデンボチボチデンボチボチデンボチボチデンボチボチデンボチボチデン』


片寄った商い言葉を連呼し続ける妖精竜と清水竜、目の前で観察するとシュールである。宝輝竜が邪竜と観なされた要因が何となく解ったきがする。金に執着する者に力を与えるというのは別に問題はない。金に執着した者を隷属させることに問題があるのだ。言わばこれは金の奴隷と言うべきだろうか。金に対して欲望が連動され。そのまま騎竜にまで影響を及ぼす。正直宝輝竜が扱うのは洗脳型のスキルと言われても申し分ない。この世界に戦争があるかどうかは解らないが。もし戦争でこのスキルが使われていたならば敵側の傭兵にとっては脅威でしかないだろう。何故なら傭兵はお金目的で働いているからだ。金に執着し金の欲望を倍加させ。洗脳までできるのだ。金に執着しない人材など聖職者以外いないだろう。いや寧ろ金に執着する聖職者がいないとも限らない。この世界の宗教である神聖竜導教会が危険視したのも解る気がする。


俺は目の前に二頭の騎竜と対峙する。

妖精竜と清水竜が相手か。妖精竜は全ての精霊を使役し。清水竜は水の精霊と水の魔法とスキルを得意とする。


「ライナここから二頭相手しなくてはならないわ。しかも宝輝竜の魔法とスキルで能力も倍加されている筈。理性がなくても竜(ドラゴン)としての本能で戦うから理性持ったよりも厄介かもしれないわ。」


パトリシアお嬢様のアドバイスに俺の竜顔は険しげに渋る。

厄介ねえ···。目がいっちゃってる時点で厄介なのは明白なのだけど。妖精竜と清水竜に騎乗する二人の騎竜乗りも今でも金金金と連呼している。

単発の攻撃じゃ矢張対応できないか。

俺はふと妖精竜ナティの訓練を思い返す。


「大分様になったわね。よこしま竜。」


森の奥深い広場で妖精竜ナティは人化した青と白のコントラストのチェッカーに染めた髪を靡かせる絶世の美女になってライナに精霊の扱い方を教えていた。


    《長文竜言語変換》


「でもナティさんのように2つ一辺に精霊を使役できないですけど。」


妖精竜ナティは多数の精霊を利用した複合魔法や複合スキルが可能であった。

二つ同時に使役するなど今の俺には不可能であった。一呼吸でせいぜい一種類しか精霊を呼び寄せることができない。


「当たり前なのです。幾つもの精霊を同時に使役するのにどれだけ修行したと思っているのですか?。自惚れるのも甚だしいですよ。よこしま竜。」


ナティはふんふんと鼻息を鳴らし胸を張る。折角の人化した美人顔が台無しである。


「呼吸法が精霊呼ぶ手段と解りましたけど、手っ取り早くというか精霊を一辺に呼ぶ方法とか無いんですか?。俺の技ほぼ単発しか放てないんですよ。精霊を一つしか呼べないから。」


妖精竜のナティは器用に精霊を2つ3つも呼べるのだ。俺の技は一呼吸の度に一種類の精霊の一つの技だからほぼ単発である。二種類同時の精霊を使役した技などは放てないし。連続的に色んな種類の精霊を使役した技も放てない。


「一つだけ精霊を一辺に呼び出す方法がありますよ。よこしま竜。」

「えっ!?あるんですか?。」


俺は竜瞳を見開き驚く。

精霊を一辺に呼び出す方法があるなんて最初から教えてくれれば精霊を呼ぶ呼吸法を教わらなくても良かったんじゃないかと思えてくる。


「ただ、よこしま竜がこの方法で呼べるかどうか解らないですけど。何せよこしま竜ですから。この方法は純粋な清き乙女、特にエルフのリスのような穢れ無きエルフしかでき無いことです。よこしま竜みたいな不埒で穢れで不純物の塊のような竜はほぼ無理です。」


ナティは気分よくふんふんと鼻息を鳴らし。美人顔がドヤ顔を決める。

はあ~このメス竜色々台無しだよ。

妖精竜ナティは人化すれば美人なのだが、中身がそのまま竜のままなので折角の絶世の美女の容姿が色々台無しに残念なことになっている。


「とりあえずその方法教えて下さい。無理かもしれないけどやらないよりはやってあきらめたいので。」

「ふふん、仕方ないですね。いいですか?。よこしま竜。ちゃんと最後まで覚えるのですよ。」


················

「ライナ、どうかしたの?。ぼーとしていたけど?。今はレース中よ。」


パトリシアお嬢様はぼーとしている気付き注意する。


「大丈夫です。パトリシアお嬢様。少し対策を考えていただけです。」

「それで何か方法があるの?。」

「試す価値はあると思います。上手くいけば妖精竜と清水竜の攻撃の牽制にもなりますから。ただ本当にそれで精霊が応えてくれるかどうか解りませんが。」


俺は険しい竜顔を浮かべる。

正直あれはぶっつけ本番で上手くできるか保証はない。俺は歌唱力が優れている方でもないのだから。 

びゅううーー

精霊竜と妖精竜が行動を起こす。

アキナイが乗る宝輝竜は隠れるように後列で身を潜めている。


『モウカリマッモウカリマッモウカリマッ』

『ボチボチデンボチボチデンボチボチデン』


魂が抜けたように二匹の騎竜は詠唱を行い大気に漂う精霊達を呼び出す。。


『エレメント・フレイム(精霊の炎)』

『バニッシュ・ウォーター(消失する水液)。』


ぼおおおおおおーーーー!

ぶしゅうううーーーーー!


熱気を帯びた炎と透明度の高い流水が放射される。


俺は気を練り込んだ竜の素手でまず精霊竜の放った炎をかきけす。続いて清水竜の放った水にも触れようとする。


ぱっひゅん

清水竜が放った水が目の前の視界から消える何っ!?

ドオオオオーーー!!

視界から消えた流水が再び現れ俺の竜の背中に直撃する。

くっ!

ライナの竜の図体は数メートル流水によって押し出される。

その様子を二匹の騎竜の後方からアキナイと宝輝竜オワシは確認する。


『大分上手くいったみたいやわ。一時どうなるかと思いましたわん。』


宝輝竜オワシは自分の所にまでライナが向かって来なくて安堵する。


「ホホ、このまま二匹の騎竜を盾にしていればノーマル種ライナの体力は削られ。弱体するものも時間の問題。その隙に私達は安全コースでゴール辿り着く寸法よ。」


アキナイは優雅に扇子を扇ぐ。


『ほんま、えげつないですわ~。わいらなんも努力しておりまへんがな。』

「何を言っているの?。これも戦略のうちでしょ。戦わないことも戦略よ。」

『さいですか。まあわいは痛い目にあわなきゃ。どちらでもいいですけど。』


オワシはホッと山吹色の胸を撫で下ろす。


「大丈夫?ライナ。」

「はい、少し油断しました。」


清水竜にこんな魔法があるとは。視界から消える攻撃なら防ぎようがない。反応するにも限界がある。

俺は覚悟を決めスッと空気を吸い込む。妖精竜ナティさんから教わった精霊を一辺に呼び出す方法を試す。鼻唄交じりの竜口から静かに竜言語がもれだす。


『おおっとパトリシア・ハーディルが乗るノーマル種は妖精竜、精水竜の二匹の竜に苦戦をしいいられております。どうなるのでしょか?解説のセルリア様オロゾフ様。』

『それは断然ロリの勝利に決まっているじゃありませんか?。』

『全くですじゃ。偽物のロリよりも本物のロリこそがこのロリ杯の勝利者に相応しいのですじゃ。偽物のロリは早々にこのロリ杯に退場すべきなのですじゃ。』


解説者二人は口々に言いたい放題パトリシア・ハーディルに苦言をていす。


ル~ ルルル~~

ル~ ルルル~~


『な、なんじゃ?。』

『な、何ですの?。』


魔法具のスクリーンから竜言語まじりのハーモニーが流れ出す。二人は驚きのあまり解説の会話が止まる。


世界の意志は2つに別たれた。

二匹の竜は代わりに応えを示す。


『な、何や?。』

「これは···まさか!?精霊歌?。」


アキナイはライナの竜の歌声に眉をよせる。


繁栄か~?

滅びか~?。

2つの意志を紡ぐ


「精霊歌ですってエルフが儀式やお祭りに好んで唄うという。精霊の子守歌。」


パトリシアはいきなりライナが精霊歌をうたいだしたことに驚愕する。

ライナの周囲に赤、茶、黄緑、青の光の粒子が漏れだす。

ライナの周辺が精霊達で覆い尽くされる。


『何や?あのライナっちゅうノーマル種は何するつもりなんや!?。』


宝輝竜オワシは得たいの知れないライナの行動に寒気を覚える。


双極の竜は世界に路を捧げる

永遠の問いは無限の応えを示す


繁栄か~?

滅びか~?


「え?私は何を?。」

「ルル、懐かしい歌が聞こえるルル。」


金金金と連呼していた二人のエルフとシャービト族の騎竜乗りはライナの歌声に反応し我に返る。


「まさか···精霊歌で正気を取り戻したの?。」


アキナイの優雅な振る舞いも動揺は隠せなかった。エルフもシャービト族も自然とともに生きる種族である。故に精霊歌は最も身近な子守歌でもある。金に魅力された二人でも精霊歌の子守歌に反応し。正気を取り戻すことができたのである。それはいわゆる二人の心が童心に返ったとも言える。


『姐さん。これ不味くありまへんか?。』


宝輝竜オワシは山吹色の竜顔が険しくなる。


繁栄か~?

滅びか~?


2つの(2つの)意味を紡ぐ


ライナは二匹の騎竜の前へ翔ぶ。

二人の騎竜乗りが正気を取り戻したことで二匹の騎竜も洗脳は解けずとも身動きが取れないほど動きを止まってる。


ギャアああーー!!

「竜水掌!!。」

ギャアああーー!!

「竜風掌!!。」



びゅうううううう

ぶあああああああ


ライナの両爪の竜の素手が水と風を起こし二匹の騎竜にぶつかる。


「きゃああ!!。」

「ルルーー!!。」


ロリエルフシャルウィとシャービト族のロコは悲鳴を上げ騎竜もろとも地上へと落ちる。

バァサッ

ライナはそのまま後方に隠れているアキナイが乗る宝輝竜の元に向かう。


『ヤバいわこれ!銭投げ!。』


宝輝竜オワシは小判を生み出しライナに向けて放つ。

キン

ライナはメッキ製の小判を軽く弾く。

銭投げは唯一宝輝竜の攻撃スキルである。


『銭投げ銭投げ銭投げ銭投げ銭投げ銭投げ。』


キンキンキンキンキンキンキン

次々と繰り出される小判の応酬にライナは竜の素手で全て弾き返す。


『アカン。これ、絶対アカンやつや!。』


宝輝竜オワシの山吹色の竜顔がサァーと青ざめる。


「アキナイ・マカランティール。どうやらこちらのノーマル種ライナの方が一番上手だったようね。」


パトリシアお嬢様はアキナイにたいして社交辞令のような笑顔をつくる。

宝輝竜オワシに乗るアキナイの紅色に染まった小さな唇がふっと力の抜けた微笑みを浮かべる。


「ホホ、そのようね。乾杯だわ。」

ギャああ!!

「竜破掌!!。」


ドゴォッ!!。


ライナの放った気の衝撃波はオワシの腹部に直撃する。山吹色の図体はそのままゆっくりアキナイとともに地上へと落下していった。

ライナはそのままゴール地点へと向かう。

バァサッバァサッ

ロリ杯のゴール地点は巨大なフリフリの少女像のてっぺんに乗っかるとゴールである。

俺は翼を広げ巨大なロリ少女像の頭に降り立つ。


『今宵ロリ杯優勝はノーマル種に乗るパトリシア・ハーディル!。』


わーーーー!!わーーーー!!


観客席から歓声がわきだつ。


『そんな~、私のかわいいロリっ娘達が全員敗北するなんて。』

『ああ、シャルウィちゃんもロコちゃんもルルクルリちゃんももアキナイちゃんも全員敗けてしもうたああーー!!。』


解説者二人は涙目になり阿鼻叫喚如く泣き叫ぶ。


わーーーーーーー!!。


パトリシアはふとゴール地点に設置された魔法具により歓声が沸き上がる観客達の映像を眺める。


『今宵のレースの優勝者はレア種黒眼竜に騎乗するパトリシア・ハーディルだああ!!。』


わーーーー!!。わーーーー!!。

懐かしい記憶の映像がパトリシアの脳裏に蘇る


「忘れていたわ。初めてレースで優勝した喜びを。」


パトリシアは幼い頃ナーティアと一緒に初めてレースに出て優勝したことを思い出した。


「それで、勝った感想は?。」


俺は最後に天の邪鬼でひねくれていたパトリシアお嬢様の感想を聞いてみる。


「ええ、そうね····。」


パトリシアの小さな顔がゆっくりと空を見上げる。


「悪くないわね·····。」


わーーーーー!!わーーーーーー!!


パトリシアはレース場内に響く歓声を聞きながらパープル色の薄紅の小さな唇がふっと含み笑いを浮かべた。


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