第109話 再起の令嬢

ギャギャガキャ

「次から次へと。」


精水竜アクラに乗るロコと草虫竜マームに乗るルルクルリと戦闘中に更に妖精竜マティに乗るエルフのシャルウィが加わる。ライナの戦闘はより過酷により混迷を迎えていた。


「お嬢様·····。」


ナーティアは観客席で指を絡ませ祈る。黒眼竜ナーティアは信心深い方ではなかったが。今日だけは竜の神である神足る竜に祈りを捧げる。


「カーラどうしよう?。ここまでピンチな状況初めてだよ。私の時よりライナが相手する騎竜が多過ぎる。」


観客席で見守るように観戦していたアイシャでもライナの窮地と呼べるレースの状況に不安を覚える。


「大丈夫ですよ。あの駄竜はこんなところでそう簡単にへこたれないことをお嬢様がよく理解しているではありませんか?。騎竜が一頭いようが二頭いようが三頭いようが大丈夫です。」


とは言ったもののカーラは冷静を装っていたが握り締めている掌の竜券(賭け券)が汗だくになって震えていた。


『姐さん、ノーマル種の戦闘に加わると言うとりますが。言っときますけどわいはからっきし戦闘駄目やねん。』


山吹色の竜の顔色が落ち込むように曇る。


「オワシの騎竜の戦闘には何も期待はしてませんよ。」


アキナイはサラッと毒を吐く。


『酷っ!めっちゃ傷付くわ~。』


事実ではあるが。直球で言われるとやはり宝輝竜オワシにとってショックである。


「誤解しないでね。これでも私は貴方の能力を買っているのよ。確かに戦闘はダメダメだけど。それ以上に貴方の宝輝竜の能力には魅力的な部分が多いわ。」

『さいですかい。商人で言う上げて落とす奴ですね。わいそんなチョロくありませんがな。』


宝輝竜は山吹色の長首を動かし不機嫌にそっぽを向く。


「ホホ、まあ、そんなに機嫌悪くしないで。貴方がいないとあの三人の強豪の騎竜乗りに力が与えられないよ。」


アキナイは困った顔を浮かべオワシを説得する。


『と言いますと姐さん。実際に戦闘に加わらず補助すると言うことですかい。』


それならば宝輝竜オワシにもできる。実際に戦闘に加わわるような危ないやり方は主人であるアキナイ・マカランティーヌがするわけないのだ。


「ええ、貴方のスキルと魔法なら取り敢えず強豪の三人のうち二人は効果ありそうだし。宝輝竜の能力は『金に興味、執着するものに力を与える』のが貴方のスキルと魔法の本質だからね。。」


アキナイの小さな紅色の唇がニッコリと微笑む。

宝輝竜は大判、小判を生み出す宴会芸のようなスキルだけではない。確かに黄金竜のように本物の黄金を生み出す力はないが。宝輝竜には金(かね)という欲にまみれた者に力を与える能力、権能があった。宝輝竜は商人にとって商売の竜(ドラゴン)と持て囃されていたが。それ以前は邪竜として意味嫌われていた頃があった。それは宝輝竜の性質が金に興味、執着するものに力を与えるところから来ている。欲にまみれた者に力を与えるとあって神竜聖導教からは危険視され迫害されたりもした。しかし西方の商会がこの宝輝竜を取り入れたことにより。福をもたらす縁起物の騎竜として重宝され。邪竜から一気に縁起物の竜(ドラゴン)として出世した稀有な運命を辿った騎竜なのである。


『そんじゃ、わいの力をみせまっせ。』


宝輝竜オワシは山吹色の両腕を上に掲げ。胸を前につきだす。両腕の竜の素手を握り拳にした腕を一気に力を込めて折り曲げる。

ボディビルダーで言うフロント・ダブル・バイセップスの形をとる。


『金剛力!!。』


ピッカーーーーーーん

ポーズをとる宝輝竜オワシはから山吹色の光が放たれる。


ギャギャア!?

「な、何だ!?」


カアーーーー

山吹色の光が三人の騎竜乗りと騎竜に充てられる。


「な、何よこれ!?。何か力がわいてくる。」

『これは精霊とは違う。主人を通じて注ぎ込まれてくる。』

「ルル、何か漲るルル。今なら24時間働けるルル。」

『これは···宝輝竜のスキル金剛力ですか····。あまり喜ばしい補助では有りませんが。』


エルフのシャルウィが乗る妖精竜マティとシャービト族のロコが乗る精水竜アクラが活性化する。


「何か二人の様子が変わった。マーム解る。」

ジジジジ


宝輝竜の影響を受けていない小人族のルルクルリと草虫竜マームが揃って首を傾げる。この一組だけは無欲故に宝輝竜の効果は現れなかった。


「これなら行けるわ!。さあ、マティ、ノーマル種を倒すのよ!。金、金、金、」

「ルル!、アクラ!。エルフより先にノーマル種を倒すルル。金金金。」


二人の瞳は完全にお金になっていた。


ギャア!?ギャアガアギャアガアギャアギャ?

「何だ!?。何でいきなりこんなに元気に?。」

「これは····宝輝竜のスキル、金剛力····。」


背に乗るパトリシアお嬢様は小さな顎に手をあて考えこむ。

エルフとシャービト族が乗る二頭の騎竜が元気よくライナの周囲を飛び回る。


『アクアストーム(水流の嵐』

『エレメント・ウィンド(精霊の風)』


ぶああああああーー!!

びゅうううううーーー!

激流の水と風の塊がライナに襲いかかる。


ギャアああ!!

「竜気掌!!。」


パンパン

双方から繰り出された激流の水と巨大な風の塊を両手の竜の素手で打ち消す。


「またのかルル!。」

「全くノーマル種の癖に忌々しい能力を持っているわね!。」


二人は悔しげに唇が歪む。

ライナは遠く離れたエルフのシャルウィが乗る妖精竜に竜の素手を向ける。


ギャああーー!!

「竜破掌!!。」


ドォッ!!

見えない衝撃波が妖精竜マティの胴体に直撃する。


『グフッ!。』

「マティ!?。」


続いて左の竜の素手をシャービト族の乗る精水竜に向ける。

ごおおおお~はあああ~~~

火の呼吸を行い赤色の光の粒子が左の竜の素手に集まる。


ギャガあーーー!!

「竜炎掌!!。」


ごああああ~~~~~~!!。

巨大な炎舞が回るように放たれる。

シャービト族が乗る精水竜に弧を描くように包まれる。


「熱ちっちっ。ルル、何だルル!?。」 


シャービト族ロコの栗色の背中に炎が上がる。


『くっ、火の精霊まで味方にするなんて。私にとって炎は天敵です。』


一人と騎竜は背中に炎を灯し熱そうに慌てふためく。


『ゴールドシャワー(金欲英気)。』


サアッーーーーー!

山吹色の光が上空から射し込む。

なっ何だ!?

シャルウィが乗る妖精竜が竜破掌が撃ち込まれた場所が瞬時に癒える。シャービト族が乗る妖精竜も背中に燃え上がる炎が消えていた。


何だこれは?。一体何が!?。

攻撃してダメージを喰らわせた筈が一瞬にして炎が沈静し。竜破掌で喰らわせた傷も完全に 回復したことにライナの竜瞳は見開き驚く。


「まさかアキナイ・マカランティーヌが参戦するとはね。それほどノーマル種のライナが欲しくなったのかしら?。」


俺の背中で暫く沈黙していたパトリシアが口を開く。


ギャガギャラギャガアギャギャ?

「アキナイ・マカランティーヌ?。」

『あの強豪の騎竜乗り二人の騎竜が回復したのも宝輝竜の能力よ。宝輝竜は金に執着するものに力を与えるの。妖精竜も精水竜も無欲だけど主人が金に欲を持っていればそれを通じて力を与えることもできるわ。』

ギャギャガア?

「何だそりゃあ?。」


お金に執着するものに力を与えるってどんなチートだよ。


「金に欲を持つあの強豪の二人組をどうにかするか。宝輝竜を倒すしか解決策はないわ。騎竜乗り同士の攻撃禁止のレースのルール上宝輝竜を倒すしか手立てないわね。」


宝輝竜を倒す。

パトリシアお嬢様の提案に俺は視線を後方で飛行していると思われるアキナイが乗る宝輝竜に竜瞳を向ける。

アキナイが乗る宝輝竜は先頭の三人の強豪の騎竜乗りと騎竜から隠れるように離れて飛行していた。


「ライナ、私も手を貸すことにするわ。西方の商家の令嬢が出ばるなら東方の商家の令嬢として黙っていられないから。」


初めて背にのるパトリシアお嬢様が闘争心を燃やしていた。それほど西方の商家の令嬢とは因縁があるのだろうか?。


ギャアガアギャアガアギャラギャガアギャアギャ

「やっとやる気出しましたね。パトリシアお嬢様。」


俺はフッと竜口が含み笑いをする。


「不本意だけど。仕方ないわ。多分アキナイのことだから三人の強豪の騎竜乗りと騎竜を盾にして攻撃を防ごうとするけど。貴方なら三人の強豪の騎竜乗りの騎竜を何とか出きるのでしょう?。」


パトリシアお嬢様のパープル色の瞳は見透かすような視線を送る。


ギャア、ガアギャアギャアガアラギャガアギャアラギャガアギャアガアラギャガアギャアギャ

「まあ、何とかなるでしょう。倒すことを前提にしなければ宝輝竜までたどり着けると思います。」

「それは上々ね。便りにしているわ。ライナ。」


ふっとパトリシアお嬢様のパープル色の薄紅に染まった小さな唇から笑みがほころぶ。


ギャギャアギャ!!

「おまかせあれ!!。」


バサァッ

ライナは力強く緑色の翼を広げる

ノーマル種のライナは再起した令嬢を背に三人の強豪の騎竜乗りが乗る三匹の騎竜と金欲の者に力を与える宝輝竜に戦いを挑む。

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