第108話 勝目とやる気

ジジジジ

ブウウウーーん


ガアギャッ!ギャアガアギャアラギャアギャアガギャア

「くっ、速い!。蜂というよりは蝿のようなスピードだ。」


小人族ルルクルリが乗る騎竜、草虫竜マームがライナの周囲を駆け巡る。


草虫竜は竜の位置付けられてはいるが。その生態系は一般の騎竜とは異なる。殆ど虫と変わらない生態系を持つ。ノーマル種も人化できないが。生態系が異なる草虫竜もまた人化できず思念を使った意思疎通もできない。草虫竜は主に貴族ではなく小人族が騎竜にしている。外見からして虫系なので貴族の変わりもの以外は嫌悪して。草虫竜を自分の騎竜にしたがらない。能力的にも身体的にも優れているのだが。外見で損している騎竜とされている。


ブブブブ


「マーム、全力で行く。あのノーマル種強い。手加減すると怪我する。」


ジジジジ

メルクルリの指示に草虫竜マームは羽根を鳴らす。


ぶうーん

マッハ速度というよりは臨機応変に翔び方に変化を加えている。あの虫系の騎竜は俺のBoin走行と違い変則的な加速飛行が可能らしい。

ぶう~ん ぶう~ん


ガア、ギャア!

「くっ、この!。」


俺は赤い光の粒子集めた右の鉤爪を振りかざす。


ボオオオーー!!

草虫竜は炎のアーチを掻い潜り向かってくる。


「こっちも忘れるなルル!。」


小人族の乗る草虫竜に翻弄される中、精水竜に乗るシャービト族のロコが戦いに加わる。


「アクラ!今だルル!。ノーマル種が草虫竜を相手する隙に膨大な水を生み出して溺死させるルル。」

『そうなったら失格になりますけど。』


精水竜アクラのツッコミながら長い胴体に水色の光の粒子が集まり出す。

膨大な水の精霊が集まっている。大技がくるのか!?。精水竜が膨大な水の精霊を集め出したことに危機感を覚える。


「マームの特技やる。全力出す。」


ルルクルリの指示にマームは特殊な鳴き声を発する。

ブオオオオーーーー


草虫竜の鳴き声に呼応し。周囲にざわざわと羽根音が騒ぎだす。それは虫、虫、虫、虫、虫羽根を持つ膨大な虫の大群である。

ひぃ~~気持ち悪い。

俺の竜背がぞぞぞぞと鳥肌が立つ。


「マームのスキル『ローカスト・スオーム(蝗害)』だ。受けるといいノーマル種。」


小人族はルルクルリは草虫竜のスキルに自慢するように言い放つ。虫の大群はライナ目掛けて虫羽根を動かす。




水の精霊を集めた精水竜アクラの上空に大量水泡ができていた。


「水を大量に集めたアクラのとっておきだルル。受けるがいいルル。ノーマル種。」

『アクアルンダウン(水塊流落)』


俺は二人の強豪の騎竜乗りを見比べ。嫌々気に竜顔がしかめる。

こいつら遠慮というものがない。二つの大技が同時にきたらどうなるか解るだろうに。

金で買収されたとはいえここまで自分勝手に振る舞えるのだから呆れを通り越して感心する。


「どうする気?。ライナ絶対絶命みたいね。」


俺の背中でだんまりを決め込んでいたパトリシアお嬢様が口を開く。


ギャアガアギャアラギャアギャア

「そう思うなら手伝ってくださいよ。」


正直言えば猫の手もかりたいほど行き詰まっている。三人の強豪の騎竜乗りを相手することがこんなに疲れるとは思わなかった。別に苦戦とかじゃなく。寧ろチームワークが良けければやりやすかったのだが。こいつらときたら好き勝手に攻撃して連携もとらずに攻撃してくるのだ。


「何故諦めないの?。私は別にこのレースに優勝しなくても構わないのよ。降参したらすむことじゃない。」


パトリシアお嬢様はどうやら俺が降参すると思っていたようだ。段々とこの背に乗る天の邪鬼お嬢様に腹立ってきた。彼女は分析でレースで勝ち目があるかないかで勝敗を判断している。商家の貴族なのだからその考えは当たり前なのだろう。だが今やっているのは商いの取引ではなくレースなのだ。商いの駆け引きとレースの駆け引きは違う。実力の能力と知識、環境と運で勝敗を決めるのだ。ここで敗けるのも勝つのも結局のところメンタル面が主に左右される。力の差や物量の差でパトリシアお嬢様は勝目を判断しているが。レースにその考えは通用しない。


ギャアガアギャアギャギャアラギャガアギャアラギャガアギャアギャギャア!

「貴女が戦う気がないなら構わない。けれども勝つ気がないなら黙ってろ!!。」


バァサッ!!

俺は竜の声をあらげ。翼を畳み真下へと急降下する。


「マームのスキルは逃げ切れない!。」

ジジジジ


「逃がさないルル!。」


ブオオオオオーーー

どっぱあーーーーーーん


羽根虫の大群と上空に水の塊が漂っていたものが一気に真下の地上に向かうライナに押し寄せる。

ライナは右鉤爪の腕に気を練り込む。

むぅ~~~~ほぉ~~~

竜の口と鼻息から地の呼吸を行う。

地上の地面から茶色の光の粒子が沸き上がり。気を練り込んだ右鉤爪の腕に螺旋を描くように注ぎ込まれる。


ギャアッーー!!

「竜地掌!!」


ドカッ!!。


地の精霊を集め気を練り込んだ竜の素手の右腕を硬い岩石の地面に叩き込んだ。


ドガガガガガガガガ‼️‼️‼️


地面が盛り上がり。突き上げるように営利な針の突起物が岩の地面から沸き上がる。針地獄のような景色を作り出される。

ぶおおおおおお

ドッパああああーーーーー!!

ばっしゃ~~~ん!


上空から落とされる大量の水と無数の羽根虫の大群は交じりあい。突き上げる針地獄の地面に全て叩きつけられる。ライナは防壁の針地獄の岩影に潜み無傷であった。


「何だルル!。当たらないルル。ふざけんなルル!。」


ロコは相棒の精水竜の攻撃が地面からわき出た岩石の針に全て遮断されことに癇癪を起こしながらぴょんぴょんと跳びはねる。


『地の精霊の加護も受けているのですか?。これではまるで伝説の神足る竜。』


精水竜アクラはノーマル種が起こした自然現象に目を点にし竜顔が唖然とする。


ジジジジ

「マームやっぱりあのノーマル種強い。精霊様全て味方に付けている。」

ジジジジ

「そう、マームもそう想う。」


小人族はルルクルリ何かに納得するようにその状況を見据える。


「これはどういうことなのかしら?。」


後ろで一部始終を眺めていたアキナイは扇子を唇にあて嗤うことさえ忘れる。


『だから言ったじゃないですか。あのノーマル種はあ・き・ま・へ・ん・と。』


宝輝竜オワシは微妙な竜顔を浮かべる。


「水、風、地、火を操っていたわ。」

『精霊があのライナっちゅうノーマル種に力貸してるんや。何故か解らんけど。だからわい姐さんにあれはヤバいと申したやん。わいの竜(ドラゴン)の視る目でライナっちゅうノーマル種に微量な精霊がまとわりついていたんや。それも一つ出なく複数も。』

「それを早く言いなさいよ!。まさかノーマル種がここまでとは···。パトリシア・ハーディルが欲しがるのも解らなくはないわ。あんな精霊を使役できるノーマル種なんてレア中のレアよ。大手の商会なら喉に手が出るほど欲しがるわ。」


アキナイは何とかあのノーマル種に手に入れられないか画策する。


『でも姐さん。東方の商家の令嬢パトリシアお嬢様が失敗したやから姐さんでも無理やで。』


宝輝竜オワシはオキナイお嬢様がノーマル種ライナに興味を持ってしまったことにやな予感がした。


バサバサバサバサ


「まだよ!。ノーマル種は私が先に倒す!!。」


金の亡者化したエルフのシャルウィは妖精竜マティを従わせて再びノーマル種ライナ目指して飛び出す。


『もう止めましょうよ。』


主人のシャルウィを背にのせる妖精竜マティはゲンナリしていた。

そんな一人と一匹の様子を一瞥すると紅色の小さな唇からホホと嗤いがこぼれる。


「いいことを思い付いたわ。私達も加勢しましょう。」

『本気ですかい?。姐さん?。』


レースで騎竜同士戦闘には一切関わらないようにしていたのに主人が自ら関わろうとすることにオワシは驚きよりも薄気味悪さを感じた。



「上手くいけば交渉に持ち越せるし。あわよくばそのノーマル種の主人とも接点ができるかもしれないし。」


華麗な和服を着こなす西方の令嬢は妖しげに時は金なりかかれた扇子を広げ。赤紅の唇に充てる。

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