第104話 宝輝竜


「というわけよ。」

「なるほど、つまりあのノーマル種はレェンドラ(貸借竜)した騎竜なのね。このまま決闘仕掛けて手に入れようかと思ったけれど。主人が別にいるなら話は別ね。」

「じゃ、取引は無しなの?。」


シャルウィは残念そうに眉を寄せる。

西方の商家の令嬢のアキナイとエルフのロリっ娘シャルウィはレース開始直前密談していた。


「いえ、このままパトリシア・ハーディルとノーマル種に仕掛けて良いわよ。パトリシアがコレクションを喪うほどの強さを持つノーマル種の実力も知りたいし。」

「そう、それは良かった。私はお金さえ貰えれば文句はないわ。他の二人もそうよ。でもごめんなさい。ルルクルリだけは意図でないにせよ口を滑らせてしまったわ。」

「別にいいわよ。パトリシアのことだから私の思惑もとうに見抜いているようだし。」


西方の商家の令嬢アキナイにとって駆け引きなど些細なことであり。西方の商家の令嬢パトリシアとは商いで何度かぶつかっている。商いの駆け引きはいかにして優位にたつかで決まるが。西方の商家の令嬢アキナイにとってはそれもまたゲーム感覚に近い。西方大陸の牛耳る商家の令嬢アキナイは悦楽主義者である。思考は単純に面白いか面白くないか。つまらないかつまらなくないかで物事を決める。しかしそんな思考で商いがまかり通るなら馬鹿でもできる。アキナイはその微妙な一線を見極めるだけの技量と知識を持ち合わせる才に長けた商家の令嬢であった。


『姐さん。あのノーマル種にちょっかい出すの止めや。あれは絶対にヤバい奴ですやん。』

「それほど宝輝竜が恐れを抱くなんて実に興味深いわ。」

『はあ~、怖いもの見たさというのもどうかと思うに。どうなっても知りませんで。』


アキナイお嬢様の性格を知る宝輝竜オワシは深いため息を吐く。



『さあ、いよいよロリ杯が始まろうとしています。』


放送席からレースの開始が伝えられる。

俺は長首を落とし。パトリシアお嬢様の身長差にあわせて飛び乗れるようにする。パトリシアお嬢様はいつものような黒揚羽を模したフリフリのゴスロリドレスではなく。身軽な軽装をしていた。

パトリシアお嬢様が小柄の身体が俺の背中に飛び乗る。

パトリシアお嬢様のドラグネスグローブを嵌めた小さな掌が背中に置かれる。


「いつもナーティアにしか乗っていなかったから他の騎竜に乗るのも新鮮だわ。」


どうやらパトリシアお嬢様はコレクションした騎竜には実際乗っていなかったようである。全て観賞用に邸内に飾らているだけのようだった。

実況の開始の放送とともにスタート位置横に用意された台にスタート開始役のスターターが上がる。

台に立ったスターター役は何故か叔父さんのような年配者ではなく。フリフリなアイドルの服を着た小さな女の子だった。

え、あんな娘がスターターするの?。

ロリ杯の名がつくのだから普通のスタートじゃないと思っていたけど。まあドラGoー‼️やドラパルティールのような変なスタート合図があるのだから驚きはしないが。


スターター役のフリフリのドレスを着た女の子が台に立つと手をハート形にしてかざす。そして可愛らしい大きな声を発する。


『萌え?萌え?。』

〘きゅん♥️きゅん♥️。〙


スターターのアイドルようなフリフリした服装の女の子が可愛らしい大声を発すると観客席から返事を返すように揃って大きな声が返ってくる。


バサァ!バサァ!バサァッ!

突然レーススタート地点に騎竜乗りを乗せた騎竜が一斉に飛び立つ。


ギャ?ギャ?ギャガアギャアラギャ?

「え?え?何?今のがスタートの合図なの?。」


俺は戸惑いながらもスタート地点から翼をはためかせる。完全に出遅れてしまった。


「何なの?あのスターター?。あんなふざけたスタート合図初めてきいたわ。」


俺の背に乗るパトリシアお嬢様もロリ杯のスタートの合図に困惑していた。

突っ込まねえぞっ!。俺は絶対に突っ込まねえからなあ!!。

ロリ杯のスタート合図があんなメイド喫茶に出てくるような挨拶の仕方なんて誰も思わないだろうに。

どうやらロリ杯というレースは俺が思った以上にかなり色々濃いレースらしい。


「カーラ、このロリ杯って変わったスタート合図の仕方をするのね。観客全員がスターターの合図に返事を返していたけど。私も一緒に応えたほうが良かった?。」


観客席からロリ杯のスタート合図の様子を見ていたアイシャは首を傾げ困惑している。


「いえ、これがロリ杯の独特なスタートの仕方なのですよ。お嬢様が真似る必要性はありません。それよりも·····。」


カーラのキリッとした眼鏡をかけた鋭い視線がスタート地点か遅れて飛び立つライナに向けられる


「コラッ!!駄竜!!。何出遅れているのですか!。貴方に私の給金の半分も賭けているのですよ!!。一位取らないと承知しませんよ!!。」


カーラは物凄い剣幕でライナを激しく捲し立てる。


「カーラ·····。」


そんな様子をアイシャは複雑そうに見つめる。


『姐さん。一応先頭とれましたで。』


先頭には山吹色のきんきらキンに輝くドラゴンが飛行していた。


「パトリシアのあのノーマル種はどうしたのかしら?」

『どうやらあの独特なスタート合図に戸惑って遅れたみたいや。』


宝輝竜の能力により状況を把握することができる。


「レースの内容やルールを事前に調査するものでしょうに。パトリシアも爪が甘いところがありますね。」


アキナイは時は金なりの扇子を口元にあてホホと小さな嗤いを浮かべる。


『買収した強豪の騎竜乗り三人もちゃんと後方についてますで。後はまあぼちぼち他の騎竜乗りもついとおります。』

「ではそろそろ初めましょうか?。さあ、オワシ。宝輝竜としての力を皆さんにおみせ。いえ、お与えなさい。」


『そんじゃいきまっせ!。わいの駄賃受けたとってや~。これがわいのスキル、大盤振舞(おおばんぶるまい)やあ~~~~!!。』


カアッーーーーーーーー!!

先頭を飛行する宝輝竜の山吹色の鱗の身体が光だす。

な、何だ!?。

俺は最後尾で至高竜メリンのような大技くるのではないかと身構えた。


ジャラン ザラザラザラ

これは·······。

それは小判だった。無数の大判小判が空から降ってきたのだ。

ザラザラザラ~


「きゃあ~きゃあ~大判小判よ!。」

「これは私のものよ!。」

「これで私も大金持ちよ~!。」


年配のロリの騎竜乗りの方々が空から降ってくる大判小判に飛び付いていた。しかし本当に歳若い幼い少女の方はキョトンした顔で空から降ってくる大判小判にはあまり見向きもしていない。

何だろう?。歳を増すことで人の欲深き業の深さを垣間見ているような気がする·····。

俺は小判に執着する騎竜乗りの歳違いの欲望の落差に何とも言えない空しさと空虚感を覚える。


ザラン ザラザラザラ

空から降ってくる山吹色に輝いた小判に竜瞳の視線が注ぐ。

この大判小判をかすめたらマーヴェラス家の財政難も少しは良くなるかも·····。

俺はそんな気の迷いが脳裏に過る。


「何をしているの?。」


ギクッ

パトリシアの声で我に返る。


「言っとくけど。この小判はメッキよ。」


メッキ······ふざけんなっ!。大判小判なら純金にしやがれ!!。

パトリシアの一言で俺の一瞬の気の迷いも一気に覚める。


「宝輝竜はスキルで空から小判を降らせることができるのよ。残念だけど宝輝竜と言っても純金を作り出すことはできないわ。できるとしたらレア種の黄金竜ね。遥か南方の砂漠島郡地帯あるシャーレンという名の王国に丁重に敬われている聞いているわ。」

ギャギャア?

「そうなのか?。」


本物の黄金を作り出せる竜がいるのだから世界はまだまだ広いようである。


「さて、そろそろアイシャ・マーヴェラスから教えてもらったBoin走行というなの加速飛行というのをやってみましょうか。それにしても本当に変わった加速飛行ね。胸を押し付けて背中に左右に擦りつけることに何の意味があるのかしら?。」


パトリシアお嬢様は不思議そうな顔をしていたが取り敢えず試してみる。


待ってました!!。

俺は有頂天な気分を抑え。大気から気を身体に吸収し。集気法行う。


パトリシアの小柄の身体がゆっくりと背中に密着する。

むにっ♥️

小ぶりだがそれでもバランスの良い膨らみと張りのある弾力が俺の背中に押し付けられる。そして左右にゆっくりと動かし始める。


スリスリスリスリスリスリ

小ぶりだが張りのある水風船サイズの膨らみが背中に満遍なく擦れる。


きたぁ!きたぁ!キタあーーー!漲ってキタあーーーーーーっ!!


ギャアあああああああああああーーーーーーーー!!


ライナの歓喜と愉悦感が交じる竜の咆哮が放たれる。

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