第73話 最強の一角

フッ

突然消えたと思われていた絶帝竜カイギスがエレメント種の疾風竜ウィンミーの前方に現れる。


何だ?何をした?。まるで至高竜メリンのような瞬間移動飛行のような感じだったけど。

だがマーガレット・ベルジェインの騎竜、エンペラー種メリンより絶帝竜カイギスの方が移動した距離が長かった。

至高竜メリンと同じ能力なのか?。いやしかし魔法を詠唱していた。つまりこの絶帝竜カイギスの移動飛行はスキルではなく魔法であることが推察される。


「最強の一角とされる絶帝竜カイギスの固有魔法よ。全ての物事を拒絶することで発動される魔法。空気、距離、空間、魔法、スキル、あらゆる事象、あらゆる攻撃、あらゆる魔法、あらゆるスキル、あらゆる物理的法則を拒絶し。なかったことにすることができる魔法。それだけじゃなく絶帝竜カイギスはあらゆる属性の魔法や攻撃を跳ね返す鱗も持っているわ。つまり絶帝竜カイギスは全ての魔法と全てのスキル全ての攻撃を拒絶し跳ね返す絶対的な防御を持ち。尚且つ全ての飛行、事象、空間との距離もなかったことにすることができるのよ。」


レインお嬢様の絶帝竜カイギスの固有魔法と特性の説明に俺は竜の額から冷たい汗が流れ落ちる。

それは最早チートじゃないか!。どうやって倒すんだよあんな化け物!?。あらゆる魔法、攻撃、スキルを跳ね返す絶対的な防御の鱗を持ち。尚且つレースで先頭や最後尾といった距離と空間、事象をなかったことにできるなんて。それはつまりレースでの先頭とか最後尾とかという距離も絶帝竜カイギスにとっては意味を為さないということである。完全なるチートである。レースにさえならない。絶帝竜カイギスがエンペラー種じゃなくてレア種じゃないのかと疑ってしまう。


「絶帝竜カイギスを倒せる可能性のある騎竜がいるとしたらこの世界で五頭とも言われているわ。」


レイン追い討ちの説明に更に唖然となる。

五頭もいるのかよ!。あんなチートレベルなドラゴンに対抗できる力を持った化け物が!。

俺は竜瞳を見開き絶句する。

最強の一角の騎竜がとてつもない強い竜だと理解していたけど。ここまで規格外だとは思っていなかった。

俺もレッドモンドさんからそれなりに強くしてもらったけど。気の効かない竜の意味がここでようやく理解した。つまり気の力さえも覆す物理的法則を壊す力を持ったドラゴンと言うことだ。どうやって倒すんだよこんなドラゴン。


「矢張追い付きましたね。絶帝竜カイギスの固有魔法では先頭や最後尾の距離の間隔など意味は為さないことは理解していました。しかし!。」


セランはかけた眼鏡をくいと上げる。


「絶帝竜カイギスが距離の間隔をなかったことにできても。絶対的な防御を持った竜だとしてもそれが当てはまるのは騎竜だけ。ならば!。」


セランはドラグネスグローブの甲に嵌められた宝玉をかざす。


「武装解放!。」


パアッ

何だ。あれ?。

髪止めの令嬢が宝玉付きの手の甲を翳すと光輝きそこから細いしなやかな鞭のようなものが現れる。


「どうやらこの競走、騎竜乗り同士の対人戦闘がありのようね。いい機会ね。アイシャは騎竜乗り同士の戦闘は初めてよね?。」

「うん···。」


アイシャお嬢様はぎこちなく返事をする。

父親から騎竜乗り同士の戦闘ありのレースに出場していなかった。対闘訓練でアイシャお嬢様は対人でも戦えることが解ったけど。まだ俺を乗せたままのレースでの戦闘は行っていない。


「よくみていて、あれが騎竜乗り同士の戦闘よ。騎竜乗りは騎竜乗りに攻撃したり妨害することが可能なの。」


ひゅん

しなやかな鞭をうちならし。伸縮したかのよつに鞭の先端が伸びる。鞭の先がカイギスの巨体の背に乗るシャルローゼへと向かう。

バチン ぽわん

しなやかに伸びた鞭がシャンゼリゼの軽装の胸部にあたり。シャルローゼの美しい美貌を持った二つの膨らみが激しく揺れる。

カイギスの巨体が動き鞭の範囲から逃れる。


『大丈夫ですか?お嬢様。』


巨体のカイギスは上目遣いで主人の心配する。


「ええ、矢張私を攻撃してきたわね。普通の攻撃では歯が立たないカイギスよりも操主である私を攻撃したほうが得策でしょうし。」


シャルローゼは上品な微笑みをする。


『どう致しますか?。お嬢様。私がウィンミーを攻撃して妨害しましょうか?。』

「いいえ、貴方の攻撃でも疾風竜ウィンミーのスピードにはついていけないでしょう。避けられて撹乱されるのがおち。」

『では······』

「私自身が対抗します。」


スッと巨体のカイギスに背にシャルローゼは立ち上がる。


「きゃあーーーーー!!。シャルローゼ様の弓舞が観れるわよ。きゃあーー!!きゃあーー!!。」


ギャラリーの令嬢生徒達がテンションがあがったように叫び散らす。


「弓舞?。」


アイシャお嬢様は眉を寄せ首を傾げる。


「シャルローゼ・シャンゼリゼが得意とする弓術よ。私のはルポンタージュ騎士流剣術なんだけど。シャルローゼ様の弓術は出所は解らないのよね。噂では秘匿とする王家武装戦術と言う噂もあるのだけれど。」


シャルローゼが宝玉のついたドラグネスグローブの手の甲を翳す。


「武装解放!。」


パアッ!!


装着された宝玉が輝き光だし。そこからアーチェリーのような形をした弓が現れる。綺麗な金の装飾が施され。弓の両端に先に滑車ようなものがついてあり。視力の高い俺の竜瞳で凝らすとなんとその弓にはサイトも付いていたのだ。まるでコンパウンドボウのようである。


巨体のカイギスに立ったシャルローゼは飛び回る疾風竜ウィンミーに狙いを定め。ドラグネスグローブの右手から光の矢が現れる。

魔法の矢と思われる矢を左手で持つ金の装飾を帯びたコンパウンドボウあてる。弦もどうやら魔法のようで弓の両端の滑車が回ると光の弦が繋がるように具現化する。

シャルローゼは光の矢を弓にあて魔法の弦で引く。

ギィリリリ

魔力の弦を限界まで伸ばし。矢の先端を弓のサイドの付いた丸い輪っかに疾風竜ウィンミーの姿を捉えると一気にドラグネスグローブの右手を放した。

ひゅっ

放した光の矢が物凄いスピードで飛び回るウィンミーの背中に乗るセランへと放たれる。


「っ!?。」


ビシッ

セランは即反応し。鞭でシャルローゼの放った光の矢をはたき落とす。


タタ ひゅんひゅんひゅん ダッ ひゅん


シャルローゼはすかさず光の矢をだし。セラン目掛けて光の矢を放つ。

カイギスの巨体の周りを飛び回る疾風竜ウィンミーなどなんのその。シャルローゼ自身もアクロバティックな動きでカイギスの巨体を駆け回り。飛びはね。体を横に捻って飛び。側宙というバクテンの横飛びバージョンの技で宙に回る瞬間に矢を放つ。

セランも物凄い速さの鞭さばきではたき落としながらシャルローゼ目掛けて鞭をしならせる。


「す、凄い····。」


猛攻とも呼べる二人の動きは目にも止まらぬ速さで拮抗を保っていた。

背中まで流れる金髪を靡かせるシャルローゼは宙を飛びはねながら射つ。その勇ましい容姿は正にバルキリーと言っても相違ない。


アイシャお嬢様はそんな光景を眉一つ動かさず凝視する。

俺もシャルローゼがアクロバティックに飛びはねる瞬間の刹那。美しき美貌の白い体から溢れる二つの膨らみ揺れる瞬間に目を奪われる。

二人の拮抗した戦いがいつの間にかゴールラインまで到達していた。

弓で応戦するシャルローゼに疾風竜ウィンミーで飛び回りながら鞭の攻撃を緩めない。

絶帝竜カイギスの巨体が先にゴールラインに到達した。


「勝者シャルローゼ・シャンゼリゼ。」


キャー!シャルローゼ様最高!!

キャー!キャー!シャルローゼ様!素敵!!


グランドに集まるギャラリーの令嬢生徒から歓喜の歓声が響く。

二人の令嬢は騎竜から飛び下りる。


「敗けたわ。シャルローゼ。あのまま貴女をゴール前にカイギスから引き離せると思ったんだけど。」

「いいえ、私も結構危なかったわ。流石はセランね。」


シャルローゼとセランはお互いの走りとたたかいを褒め称え握手する。


キャーーー!キャーーー!


令嬢生徒は歓声が沸き上がる。

アイシャは身を震わせ感動していた。


「ライナ、凄かったね。」

ギャアガアギャアラギャアギャア

「そうですね。凄い弾みようでした(胸)。」


アイシャとライナの感動する要点が少しズレていた。

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