第71話 何の·····ことでしょうか?

岩壁の路を抜けたゴール地点である平地には既にレイノリアとアイシャが待機していた。決闘で奪われた騎竜達も決闘の勝敗を知るために尻尾を振り。そわそわしながら竜だけに首を長くして待っていた。


バァサッ バァサッ


「あっ!ライナっ!?。」


レースコースである岩壁の路から聞きなれた翼の音が聴こえる。アイシャは直ぐに自分の騎竜だと気付く。

周囲の騎竜達も興奮したかのように鼻息を鳴らす。

平地からレイノリアは自分の主人と自分が想いを寄せる騎竜を目前に涙が込み上がる。


バァサッ バァサッ バァサッ


ゴール地点である平地にパールお嬢様を乗せたライナが降り立つ。

パールお嬢様はゆっくりと俺の背中から降り立つ。


「勝者!パール・メルドリン。」


レイノリアは決闘の結果を告げるとガチャリと何かが開くと音がした。

ハーディル家の門戸が開かれる。

決闘の誓約書に騎竜達の解放が記されたことにより魔法印の効力が発動し。ハーディル家の門戸が開かれたのだ。

解放された騎竜達は大喜びでハーディル家の門戸に向かう。ハーディル家の門戸が勝手に開かれたことに塀の外で集まっていた騎竜乗り達も訝しげに門前から様子を窺っていた。


ドシドシドシ

ハーディル家の敷地内から騎竜達が飛びだし門戸前にいる各々の騎竜乗り達の元へと向かう。騎竜乗り達は二度と逢えないと思っていた自分の騎竜が再び自分達の前に戻ってきたことに涙を浮かべ歓喜する。

騎竜乗り達は自分達の騎竜を強く抱き締める。


「ああ·····。私の···私の···コレクションが·····。」

「·········。」


何とか決闘のレースコースから戻ったパトリシアは解放されたコレクションのドラゴンを目にし。邸前でへなへなと力が抜けたようににへたりこむ。

その隣にはメイド姿の人化した黒眼竜ナーティアは静かに佇んでいた。


「レイノリア!!。」

「パールお嬢様!!。」


パールお嬢様はレイノリアとの再会に激しく抱き合う。

俺はその横目に竜の口元がつり上がり笑みを浮かべる。


「良かったですね。アイシャお嬢様。」


アイシャお嬢様は隣でパールお嬢様とレイノリアの再会の様子をじっと見守っていた。ただ何故かアイシャお嬢様は友人の相棒の騎竜の再会や騎竜乗り達から奪われ囚われた騎竜達の解放されても笑顔で喜んではいなかった。寧ろ何処か憤怒に満ちているような····。


「うん、それはいいんだけどねえ······。ねえ?、ライナ。」


アイシャお嬢様の言葉一つ一つに何処か冷たい圧が込められている。


「前にも同じようなことがあったけど。何で?私のBoin走行よりもパールのBoin走行が速いの?。」


「··············。」


アイシャお嬢様はジロリと睨みを効かす。一つ一つの言葉にに芯を貫くような竜の背筋を凍らせるほどのゾクリとした冷たい威圧感を与えてくる。


「ねえ?何で?何でなの?。」


無垢な透き通る青い瞳をしているアイシャお嬢様だが。今に限ってはヤンデレのように凍りつくほどの濁った鋭い眼光を放っている。


ギ·ギャ·······ギャアガアギャ····?

「な、何の·····ことでしょうか····?。」


俺はそろ~りと竜瞳の視線を右に反らす。


「ねえ?何でまた瞳を反らすの?。人と会話するときは目を合わせるって教えたよねえ。」


ゴゴゴゴ!!

アイシャお嬢様の後ろから何処からともなく地鳴りのような轟音が響く。


········ギャガ!ガ!!ギャあああーー!!

「······失っ!礼!!しましたあーー!!。」


ぴゅう~~~~~~~ん!!


ドドドドドドドド‼️‼️‼️


俺はその場を限界MAX猛ダッシュで疾走する。


「あっ!?ライナまた逃げるつもり!。今度こそちゃんと理由を話すまで逃がさないからね!!。」


アイシャお嬢様も本当に人間なのか?と思えるほどのスピードで俺に追いかける。

それから暫く俺が観念するまでハーディル家領地内で俺はアイシャお嬢様に追いかけ回され続けた。



       学園長室



トン サッ トン サッ

デスクに座る学園長は机に並ぶ資料に魔法印を押す。


押された資料を教頭は丁寧に揃え束ねる。


「そういえばそろそろ一年生にも他校との合同訓練を行う時期が近いですね。」


学園長はふと思い出したように眉を上げる。


「そうですね。ですが、その前に上級生との訓練も初めるべきだと思います。一年生にも今の実力は分からないでしょうから。二年生や三年生と一緒に訓練することで彼等にとっていい励みになるでしょうし。」

「そうですね。では二年生から初めましょう。三年生でも宜しいのですが。いきなり三年生を相手にするのは一年生にとっては酷でしょうし。」

「そうですね。」


教頭は深く頷き同意する。


サッ トン サッ トン


「して、もし他校との合同訓練するとなればどこの学校になりますか?。」

「はい、いつも通り王立シャンゼルク竜騎士校です。あそこは我が校とは友好関係ですから。」

「そうですか···。矢張バザルニス神竜帝国大学だけは断りましたか。」

「はい、というよりはあそこの学園長とは学園長と仲が宜しくなかったでしょうに。」


教頭ははあと力の抜けたため息を吐く。


「私としては喧嘩しているつもりはないのですけどね。バザルニス神竜帝国大学の学園長が未だ昔のことを根に持っているだけなんですけどね。」


学園長は笑顔で返す。

その要因を作ったのは学園長でしょうに。

教頭は内心そう呟く。

アルナビス騎竜女学園の学園長とバザルニス神竜帝国大学の学園長とは若い頃はライバル同士であった。お互い何度もレースで激戦繰り広げた相手である。バザルニス神竜帝国大学の学園長は女傑と呼ばれた家の騎竜乗りの学園長に何度も敗北し。バザルニス神竜帝国大学の学園長はここの学園長にとてつもない執着を持っているのだ。現にバザルニス神竜帝国大学との生徒達とのレースでは此方が敗けているのである。

別にアルナビス騎竜女学園の生徒や騎竜が弱い訳ではない。寧ろ優秀な生徒や優れた騎竜は此方の方が揃っている。それでもバザルニス神竜帝国大学とのレースでは敗北するのだ。だがその要因は騎竜乗りではなくとあるドラゴン、騎竜にあるのだが····。


「そういえばアイシャ・マーヴェラスの様子はどうですか?。」

「はい、調べたところ決闘したマーガレット・ベルジェインに相棒のノーマル種ライナをレェンドゥラ(貸借竜)させ。あのマッドジェットカップ(泥噴杯)を優勝したそうです。」


「ほう······それはとても面白いですね。」


マッドジェットカップは貴族の令嬢ならとても嫌がる泥レースである。しかし学園長は貴族だが。面白いレースなら貪欲に出場したがる性格である。


「今はあの問題児であるパトリシア・ハーディルと決闘する為にレンドゥラ相手であるパール・メルドリンと一緒に学園外出申請書を出し。学園を外出しております。」

「ほう、それは素晴らしいですね。私も若い頃は学園を外出して私の相棒とよく一緒に決闘したものです。ふふ、アイシャ・マーヴェラスはもしかしたら私のようになるかもしれませんね。」


デスクの机上でふふと学園長は含み笑いをする。

出来れば学園長のようにはなって欲しくないんですけど····。


教頭は心の底からそう切に願う。









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