第64話 救われる価値

パトリシア・ハーディルの邸は学園から数キロ離れた場所にあった。令嬢生徒には他の大陸から入学するものもいるので海越えしなければならないこともあるが。パトリシア・ハーディルのハーディル家はこの東方大陸を根城にする商家の貴族である。故に東方大陸で幅を効かせる商人であって財力は王家の次の次にあると言われる貴族である。そして問題のパトリシア・ハーディルという令嬢はその財力を用いて騎竜収集に勤しんでいるのである。だが騎竜収集と言っても市場で買い取るより。他の騎竜乗りから決闘や商いの取引で悪質に奪うようなやり方をしている。パトリシア・ハーディルは純粋に他者から騎竜を手に入れようとする傾向があり。故に渾名が収集の令嬢とも言われていた。


バァサッ バァサッ

学園特別外出届けが申請され。俺とアイシャお嬢様とパールお嬢様はパトリシア・ハーディルの邸に向かう。レインお嬢様と炎竜のガーネットは残念ながら決闘の関係者ではないので認可されなかった。学園で不満たらたに俺達の決闘の結果の帰りを待っている。アイシャお嬢様とパールお嬢様が俺の背中で2人乗りをして飛行している。

う~ん、二人乗りだと二人分の胸の膨らみを背中に押し付けて貰えないから残念だ。俺の背中に前にアイシャお嬢様が座り。その後ろにアイシャお嬢様の身体に掴まるようにパールお嬢様が座っていた。故にアイシャお嬢様の胸の膨らみを感じてもパールお嬢様の胸の膨らみの感じることができないのである。寧ろアイシャお嬢様がパールお嬢様の育ちまくったはち切れんばかりの爆乳を感じることができる状況なのである。


「見えてきたわ。あれがパトリシア・ハーディルのハーディル家の邸よ。」


パールお嬢様が指を指す。

前方に壮大な敷地とデカイ豪華な邸そそりたっていた。家のマーヴェラス家の牧場の敷地と邸より数倍のデカさと広さがあった。

装飾が施され白い大理石により作りこまれたハーディル家の邸はドラゴンサイズでもすっぽり入れる位のデカさと大きさであった。


「あれがパトリシア・ハーディルの邸······。」


アイシャお嬢様はきゅっと唇を力強く閉める。




     ハーディル家豪邸内



レイノリアはとある一室にいた。部屋には高価な椅子や机、タンス、化粧台など揃えられており。一室を充てた主の気前の良さが窺える。


「·········。」


レイノリアは一室に椅子に腰掛け。行儀よく姿勢を保ち沈黙を保っていた。


ガチャ

一室の部屋の扉が突然開かれる。

扉から羊のように見事に曲がりくねった角を生やし。盲目のように瞳を閉じたメイドの女性が入ってくる。

羊角を生やす瞳を閉じたメイドはレイノリアの為に用意した食事をテーブルにそっと置く。レイノリアの他の騎竜とは違い特別待遇である。


「昼食を用意致しました。」

「ありがとう·····。」


元メルドリン家のロード種であった騎竜の様子を羊角を生やすメイド、パトリシアの騎竜ナーティアが確認する。他の騎竜と違い落ち着いていた。本来なら主人から引き放された騎竜は落胆し。心が喪失したかのように絶望気落ちするのだが。レイノリアというロード種はそれが微塵も感じられなかった。


「主人と離ればなれにされてよく落ち着いていられますねえ?。」


本来余計な口を出さないのだが。あまりにもレイノリアの様子が不自然すぎるほど冷静で落ち着いているのでナーティアは思わず声を掛けてしまう。


「そうでしょうか?。完全に諦めているのかもしれませんよ。」


レイノリアはそう言って微笑み返す。


「私からすれば貴女は全然諦めているようには見えませんが。もしかして?白馬の王子様が現れて自分を連れ出してくれるなどと思ってはいませんでしょう?」


ナーティアは意地悪な質問を投げ掛ける。白馬の王子など助けに来るなどありはしない。現にこの邸に他の騎竜乗りから奪われた騎竜達を助ける者など現れなかったからだ。嘆き悲しむ素振りをみせない騎竜に個人的にナーティアは自分らしからぬ意地悪をしてしまったのだ。


「白馬の王子様なんていませんよ。それに私達は騎竜です。誰かを乗せる立場ですよ。誰かを乗せる立場の存在に白馬の王子様が助けるわけないでしょう。私達は主人に遣える騎竜、ドラゴンですよ。」


レイノリアはそう返事を返す。

そう我々は騎竜、白馬の王子など不必要。何故なら我々は誰かを乗せる立場であり。結して王子様に愛されるようなかよわい王女の立ち位置にはいないのだ。だが····


「ですが、もしかしたらあのマーヴェラス家のノーマル種の騎竜が貴女を助けに来てくれるかも知れませんよ。」


本来ならマーヴェラス家のノーマル種の騎竜がメルドリン家のロード種の騎竜を助ける義理はないだろうが。パールティ・メルドリン嬢とアイシャ・マーヴェラス嬢は友人関係にある。その伝手でもしかしたら助けに来るかもしれない。


「ライナが私をですか?。それなら絶対にあり得ません。」


レイノリアはキッパリと断言する。


「何故?。」


ナーティアは眉を寄せ困惑する。

マーヴェラス家のノーマル種ライナを観察したところレイノリアはルポンタージュ家の炎竜ガーネットと口喧嘩するほどあのノーマル種のライナにご執心だった筈。

なのに焦がれている筈のノーマル種が助けにに来ないとキッパリ断言するのだから腑に落ちない。


「何故なら私はマーヴェラス家の騎竜ノーマル種ライナを最初は蔑み見下していましたから····。」


意外な回答にナーティア閉じた瞳の眉がつり上がる。


「マーヴェラス家の寿命で亡くなった騎竜のことを知っていますか?。」

「ええ、マーヴェラス家の象徴たる竜、神足る竜のことですよね?。」

「っ!?。」


神足る竜の名が出た時レイノリアは少し動揺したように顔が硬直したが。直ぐに冷静さを取り戻す。


「なるほど。ハーディル家はそこまで知っていましたか。王家七大貴族の隠蔽も大したことは有りませんね。」


レイノリアははあっと何とも言えないため息を吐く。


「マーヴェラス家の象徴たる神足る竜が死にマーヴェラス家に新しく騎竜が迎え入れられました。それは平凡な何処にでもいる。貴族なら絶対に騎竜にしないノーマル種のドラゴンでした。最初パールお嬢様にアイシャお嬢様が自分の騎竜を紹介した時は私はそれはそれはとてもとても不憫で憐れで惨めだと想いました。マーヴェラス家の象徴たる神足る竜を喪い没落し。ノーマル種の騎竜にまで手を出さなくてはならならなかったのですから当たり前なのですが。それでも我が主人であるパールお嬢様は笑顔で祝福しました。しかし私だけは内心マーヴェラス家に新たに迎え入れたノーマル種の騎竜であるライナを蔑んで見ていたんですよ。」

「·······。」


レイノリアの独白にナーティアは言葉を詰まらせる。あれほど自分が多少は羨ましいと想えるほどノーマル種のライナに恋していた様子であったのにそれが最初は卑下していたのだという真実に普段冷静であるナーティアも動揺を隠せなかった。


「でも、貴女があのノーマル種ライナに恋したきっかけみたいなのはあったのでしょう?。」


そうでなければここまで心変わりはしない。


「そんなきっかけは有りませんでしたよ。私は恥ずかりやな性格でしたから。不本意ですが炎竜ガーネットのおかげで少しは恥ずかしがりやな性格も和らぎはしましたけれどね。私は最初ライナに声を一切かけず観察していました。彼はずっとマーヴェラス家の牧場を走っていました。飛行するときもありましたけど。季節が過ぎてもずっとマーヴェラス家の牧場を走り続け何をしているかと思えばトレーニングしていたんですよ。私は心から想いました。嗚呼~何て無駄なことをしているのだろうと。ノーマル種がどんなにトレーニングを積もうとも上位種の能力、力には遠く及ばないのに。魔法もスキルも使えないそんな騎竜がレースに勝ち残れるなんて到底想えないと私はそう心の底から思っていました。それでもずっとライナは走り続けました。無駄なことをしていてもライナは一切迷いせずに走り続けていたんです。何故そこまで何の迷いもなく頑張れるのだろうと私は思いました。そして何年か過ぎる内にいつの間にか私は彼を目に追うようになっていたのです。」

「·········。」

「だから私は白馬の王子様から救われるような価値はないんですよ。」


レイノリアはニッコリとぎこちない笑みを浮かべた。


   ・・・・・・・・・


「ここがハーディル家の邸····。」


巨大な建造物が塀に囲まれ。目の前にそびえ立っていた。竜のサイズからみてもでかかった。


「行きましょう。アイシャ。」


真剣な真珠色の瞳を輝せ。パールお嬢様のボリューム溢れる胸が強く揺れる。


「ええ、ライナ行くよ!。」

ガア



俺は鳴き声上げ返事をする。

ドシ ドシ

堂々とハーディル家の邸の門戸を歩む

俺とアイシャお嬢様とパールお嬢様はパトリシア・ハーディルの邸に決闘、もとい殴り込みへと向かう。

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