第63話 決意
「それは完全にパトリシア・ハーディルに嵌められたわね。」
レインは腕を組み険しげに眉が寄る。
ベンチに座り涙をポロポロとこぼすパールお嬢様を優しくアイシャお嬢様が慰める。
「ぐすんっ、メルドリン家とハーディル家と提携でとある商会と大きな商談の取引をしていたの。その時お父様が取引が上手くいかなく破談になったら全部の被害をハーディル家が立て替える代わりに一頭担保に騎竜を差し出す約束をしていたんです。でもまさか私の騎竜ロード種のレイノリアを指名するなんて。正式な誓約書も書いていたので約束も反故にもできず。レイノリアが差し出され。うう、うわあああああ~~。」
ポロポロ
パールお嬢様はアイシャお嬢様の胸のなかで泣きじゃくり胸辺りの学生服が涙で滲む。
「授業に出ておらず。何か企んでいるとは思っていたけど。メルドリン家のロード種を狙っていたのね。」
レインは眉を吊り上げ険しい表情を浮かべる。
「アイシャ、お願い!!。ライナを貸して!。私、パトリシア・ハーディルと決闘する!。そしてレイノリアを取り返すわ!。」
「いいわ!パール!。親友の頼みだもん。無料(ただ)でいいわ!。」
え?俺タダなの?。
アイシャお嬢様の無料発言に戸惑う。別にタダでもいいけどノーマル種だし。いや寧ろパールお嬢様を俺の背に乗せるということだよね。それはつまりあの成長しまくった零れんばかりのパールお嬢様のたわわな大きな膨らみを····。ゴクリ
俺は竜の生唾を呑み込む。
よし!パトリシア・ハーディルからレイノリアを救いましょう!。そしてパールお嬢様の決闘を勝利に導きます。そんでもってパールお嬢様のたわわな大きな胸を我が竜の背中に押し付けて貰うために!。じゃなくてレイノリアを救うためにパールお嬢様の胸を押し付けて貰ううために!ってあれ?。
俺は動機と理由と思考があべこべになっていた。
「駄目よ。アイシャ!。騎竜契約は絶対よ!。ここはちゃんと線を引かなきゃ。大丈夫。メルドリン家の次期当主として正式に騎竜契約を結ぶわ。アイシャのノーマル種ライナをレェンドラ(貸借竜)するわ!。」
「別に遠慮しなくてもいいのに····。」
そしてアイシャお嬢様とパールお嬢様の間で騎竜契約を結ばれ。俺はパールお嬢様にレェンドラ(貸借竜)されることになった。
「それでパトリシア・ハーディルは今何処なの?。」
「パトリシア・ハーディルは今日は授業に出ていなかった。おそらく外出休暇届けを出し実家の邸で自分のコレクション(奪われた騎竜達)を眺めながら優雅にお茶でもしているはずよ。あの令嬢はそんな悪癖なところがあるからね。授業も家の都合とか言ってしょっちゅう休んでるし。」
レインお嬢様は怪訝で不快な顔で吐き捨てる。
「それじゃ学園外出申請書も出さなくちゃいけないわね。でもレース以外で申請を通るかなぁ?。」
アイシャお嬢様は心配症に金色の眉が寄る。そういえば学園では家の用やレースで学園外出申請書を出さなきゃいけなかったなあ。レースじゃなく決闘だからなあ。学園許可してくれるかなあ?。
「カーネギー教官に相談するわ。私の家の事情とパトリシアとの因縁を話せば理解してくれるはず。」
パールお嬢様の真珠色の瞳が決意したかのように煌めく。
学園職員室
「学園外出申請書を通して欲しいと。理由を述べよ!。」
正面校舎二階にある職員室でカーネギー教官は教員のデスクに座り。一睨み効かせ理由を問い詰める。何故なら家の都合と理由付けで学園をずる休みする令嬢が耐えないからである。学園は騎竜乗りになるための学舎である。お遊びで来るところではない。
パールは頷き前に出て進言する。
後ろには付き添いにアイシャ、レインも立っている。
「私、パールティ・メルドリンが決闘するためで御座います。」
パールは力強く宣言する。
ざわざわ
職員内教員が騒ぎ出す。何故なら決闘の理由で学園外出申請することが事態前代未聞だからである。
「ほう····決闘とは。相手は誰だ?。」
「パトリシア・ハーディルで御座います。」
「ああ、あいつか····。」
カーネギー教官は何かに納得したかのように頷く。他の教員も頭を抱え納得していた。どうやらパトリシア・ハーディルは教員からも問題児の令嬢のようである。
カーネギー教官はパールの様子が一瞥し。人化していない騎竜にいないことに気付く。
「なるほど、だが騎竜はパトリシア・ハーディルに奪われたのだろう?。騎竜はどうするんだ?。」
「私の親友アイシャ・マーヴェラスから騎竜契約を結び。アイシャ・マーヴェラスの騎竜ノーマル種ライナをレェンドラ(貸借竜)しました。」
「ほう·····。」
つまりアイシャ・マーヴェラスの騎竜ノーマル種ライナとあのパトリシア・ハーディルの騎竜、魔眼使いの黒眼竜ナーティアと対決するということか。
ふふっとカーネギーは含み笑いをする。
カーネギー教官は身体がざわつき。昔の竜騎士や騎竜乗りであった頃の血が騒ぎ出す。
「良いだろう。あの問題児であるパトリシア・ハーディルの鼻っ柱をへし折るいい機会だ。だが勝算はあるのか?。パトリシア・ハーディルの騎竜は強いぞ!。確かにエンペラー種程の攻撃の強みはないが。だがパトリシア・ハーディルの騎竜はレア種であり。魔眼持ちだ。レア種の中では戦闘能力は高い方ではないが。それを覆すほど魔眼の力を持つ。どんな騎竜でもあの魔眼の力には屈するドラゴンは後がたたない。耐えられるのはより精神力に強い騎竜か。或いは魅了も幻惑も効かない耐性を持った竜位だろうなあ。例えば同じレア種の最強の竜種である白銀竜や。三年生学園のプリンセスマドンナシャルローゼ・シャンゼリゼの騎竜、エンペラー種絶帝竜カイギス、或いは同じ魅了を得意とする二年生のセシリア・サウザンドの騎竜レア種 魅華竜ソリティアとかだな。で?勝算はあ?。」
「それは·····。」
パールはカーネギー教官の騎竜の力の差を説かれ言葉を詰まらせる。
「大丈夫です!カーネギー教官!。
私のライナはどんな騎竜だって敗けません!。相手がエンペラー種だろうがレア種だろうが絶対に家の騎竜が勝ちます!。」
アイシャはパールの前に出て堂々と強く言い放つ。
「アイシャ·····。」
パールの迷いにアイシャの力強いに発言に勇気づけられる。
「そうだな····。相手するのはアイシャ・マーヴェラスの騎竜ノーマル種ライナだったな。ふふ、後で結果を聞かせてくれ楽しみにしているから。」
「はい!。」
パールとアイシャは力強く返事をする。
カーネギー教官は久しぶりに笑った。この肉踊るような決闘に自分が立ち合えないのが残念でしかたがない。
ぶえっ ギャッシュ
ズズズ
ギャアラギャアギャガアギャアラギャアガアギャアガア?
「くしゃみしてしまった。誰か俺の噂をしているのかなあ?。」
ズズズ
俺は竜の鼻穴から流れ出した鼻水を戻す。
俺は正面校舎正門でアイシャお嬢様達が外出申請が通るのを待っていた。
アイシャお嬢様とパールお嬢様まだかなあ?。
俺は校舎玄関前でふりふりと尻尾を揺らし。主人とその親友の帰りを待つ。
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