第51話 女難の相

カラン カラン


「さて今日のホームルームは。」


カーネギー教官が教壇に立つ。


「失礼します。」


ガラガラ

教室の扉から優雅な琥珀色の髪をした耳長の少女が入ってくる。雪のような色白の肌と2つのふっくらした真っ白な雪見大福のような膨らみを持つエルフを教室の令嬢生徒達全員が見とれる。


「リストルアネーゼっ!?。珍しいなあ。貴女が森から出てくるなど。」


カーネギー教官は琥珀色の髪と瞳をした色白のエルフを目にして驚く。


「ええ、私もまた学園生活を味わいたくなったのですよ。」


リストルアネーゼというエルフの少女はニッコリと上品に微笑む。


「そうか·····。リストルアネーゼの席は···そうだな·····。」


カーネギー教官は視線を教室内の席に移す。アイシャ・マーヴェラスの前席が空いていた。


「ではアイシャ・マーヴェラスの前席にしよう。」

「マーヴェラス······。」


マーヴェラスという名の姓にリストルアネーゼは眉を寄せ反応する。


リストルアネーゼという名のエルフはそっと静かに自分の席に向かう。

窓際の後方から三番目の自分の席に歩みを止める。


「アイシャ・マーヴェラスです。宜しく!、」


後ろの席でアイシャは屈託のない笑顔でエルフの少女に挨拶をする。


「こちらこそ宜しく····。」


リストルアネーゼは静かに返事を返す。


「ふと、付かぬことお伺いしますが。貴女の騎竜はもしやノーマル種ですか?。」

「そうだよ。ノーマル種でライナというの。ノーマル種だけど上位種と対等に渡り合えるほど強いんだよ。」


アイシャは自分の騎竜を自慢気にこたえる。


「そうですか····。だからあの方の精霊を····。」

「あの方?。」


アイシャは首を傾げる。


「いいえ、こちらの話です。私はリストルアネーゼ・ベラ・ハフファーレ・ベイスと申します。リスとお呼び下さい。」

「解った。リス宜しく!。」


二人はお互い笑顔で自己紹介をすました。



       校舎玄関


ドシドシ

俺はマッドジェットカップを終えて並木道で考え事をしていた。マッドジェットカップのゴール直前に泥の間欠泉で放った竜気掌が普通の竜気掌とは少し違ったからだ。マーガレットお嬢様のある意味危機的状況に無我夢中だっためしっかり覚えていないが。確かに普通の竜気掌とは違い風を纏っていたのだ。緑の光の粒子が俺の右の鉤爪に竜手に集まっていたことに精霊が関連しているようなのだが。俺にもしかしたらまだ目覚めぬ未知なる力に目覚めたのかっ!と思いたいが女神アルピス言われたようにノーマル種なのでそんな力があるわけがない。レッドモンドさんなら何か知っていたのだろうか?。レッドモンドさんは俺に竜気掌を教えてくれた師である。精霊のことにも詳しかったのでこの風を纏った竜気掌のことも知っていたかもしれない。


ドシドシ

ふと校舎に向かう並木道を適当にぶらつくように歩いていると校舎玄関前でそわそわしながら待つ竜を見かける。

その竜は透明な翼を持ち。エナメル色の角を生やし。青と白のコントラストをした独特な鱗に覆われた竜である。

俺はその竜が前に森でエルフと一緒にいた妖精竜ナティという名の騎竜だと気づく。

ドシドシ

俺は校舎玄関に近付くとその透明な翼を持つ竜は俺の存在に気付く。


『お前は!不埒で邪な竜!!。』


エナメル色の角を生やす竜は威嚇するように低い唸り声をあげる。

俺は眉間に紫波を寄せ竜顔をしかめる。

出逢って早々その態度かよ。

初対面からしてあまり良い印象は持っていなかったは解っていたけれど。出逢って早々その態度は傷付くなあ~。


『お前のせいでリスは行く必要のない学園に通うことになったんだぞ。どうしてくれる!。』


エナメル色の角を生やす竜は殺気だって俺に野次を飛ばす。

とんだ言い掛かりだ。何でリスという名のエルフが学園通うことになったのが俺のせいなんだよ。

リスがどういう理由で学園に通うのかは知らんけど決めたのは個人の自由だろうに。

俺は嫌々気に竜顔をしかめる。

取り敢えず無視しよう。構ってられない。


俺は静かに考え事したいのでそのまま校舎玄関を右へと横切る。


『あっ!待て!!。邪竜(よこしまどらごん)無視するなあ!。』


もう俺のあだ名はよこしまどらごんにされていた。

俺は無視したまま校舎の壁沿いの花壇の路を進む。

ドシドシ

暫く進むと再び見覚えがある姿が竜瞳に写る。

三つ編みを束ね角を生やしたメイドの女性。確かセーシャ・ギルギディスの騎竜で名は確か····マウラだっけ。

確か彼女も俺に対してあまり良い印象を持ってなかったなあ。今日は厄日か。女難の相でもあるか。マーガレットお嬢様の件以来女難の相にあっている気がする。竜のメスを女性にカウントすればの話しだけど。


マウラは俺を見るといかにも偽笑顔な作り笑いを浮かべる。


「おや?これはこれはアイシャ・マーヴェラスのノーマル種のライナでは有りませんか?。」


わざとらしい言い方である。特にノーマル種という発音だけ語気を強めている


「っ!?·······。」


マーヴェラスという名に妖精竜ナティは何処かハッと気付いた様子で押し黙る。


     《竜言語変換》


「マウラだっけ?。主人のセーシャと一緒じゃないのか?。アイシャお嬢様と一緒に授業の筈だぞ。」

「ええ、野暮用が有りまして。後ろの方は確か妖精竜のナティナーティ様ですね。」


ナティだけ様付けかよ。

妖精竜のナティはマウラに視線を向けると竜瞳の瞳孔が開いている。

ん?ナティという妖精竜。もしかしてマウラも嫌っているのか?。妖精竜のナティは俺を嫌ってるのは理解出来るけど。マウラも嫌っているとは意外だ。マウラはアイシャお嬢様に対しては母親と面識があり。親切だけど俺に対してだけは何と言うか偏見というか確実に見下すような素振りをしている。


『·······。』


ナティは何も思念を発っさず険しい竜顔したまま押し黙る。


「レェンドラ(借竜)でマーガレット嬢の騎竜としてマッドジェットカップに出場して優勝したことを知ってますよ。おめでとう。」


マウラはニッコリと優勝したことをほめる。


「ど、どうも。」


だがその笑みも何処か嘘臭い。


「ただ···貴方、少し頭に乗ってはいませんか?。」

「頭に?。」


いきなりマウラが俺に対して頭に乗るといった発言を発したことに驚く。貴族のように遠回し貶すと思いきや直球できたからだ。


「マッドジェットカップのレースを優勝したことは素晴らしいことです。戦績はアイシャ様の功績にも繋がるのですから。ですが本来マーヴェラス家は貴方のよう下等なノーマル種の騎竜がなるものではないのですよ。」


何を言ってんのだ?このメス竜?。

マウラは俺はアイシャお嬢様の騎竜に相応しくないと言っているようである。

そんなこと百も承知である。貴族がノーマル種を騎竜にすることじたい変なことだと理解しているのだから。


「マーヴェラス家は最も偉大なる名家です。最も気高き血を持ち。最も崇高なる血統の騎竜を持つそれがマーヴェラス家なのですよ。」


崇高なる血統の騎竜?。俺の前に寿命で亡くなった騎竜のことを言っているのか?。

俺とマウラの間にぴりぴりとした空気が流れる。


『貴女にそれを言う筋合いはないです!。』


いきなり後ろで沈黙していた妖精竜ナティが口を出す。


「おや?、貴女なら私の意志に同意してくれるものと思っていたのですがねえ。精霊を力を駆使する妖精竜のナティナーティ様。」

『あの方のことでとやかく言われる筋合いはお前にはないです!。特に貴女のような騎竜には!』


キィ

ナティは鋭い瞳孔の視線をマウラに放つ。

恐っわっ!。女同士というかメス同士の戦いだ。本当に俺、女難の相でもあるのだうか?。俺は稲光を散らす行き場のない空気になんとも言えない居心地の悪さを感じた。

互いにマーヴゥラス家で亡くなった騎竜の話をしているのかな?。面識ないから俺だけ蚊帳の外である。


「まあ····よいでしょう。私もギルギディス家の用がありますので。ではこれにて。」


マウラは軽い会釈をし去っていく。

俺はそんな後ろ姿を見送る。

俺の中では何故かあのメス竜だけは胸を押し付けて貰いたいという願望欲求が沸かなかった。彼女も良いプロポーションというかよい膨らみの形をした胸をしているのだが。印象が悪い以前に何か何処か危険な匂いがしたからだ。美しい華にはトゲか毒があるとかそんな感じである。


『二度と逢いたくないです!あの邪悪な竜。』


俺はイラついた妖精竜ナティをみて意外そうに視線を向ける。


「意外だなぁ。俺を嫌うのは解るけど。マウラまで嫌うなんて。外見的に性格が悪い方ではないだろうに。」


俺を見下すだけで無害だと思える。


『お前の竜瞳は節穴ですか!。あんな欺瞞と怠慢に塗り固められた邪竜など。破廉恥で邪な竜よりも達悪いです!。』

「よくわからんけど。前に亡くなったマーヴェラス家の騎竜に対して思ってくれていたんじゃいのか?。俺に対してすこぶる辛辣だけど。」


マウラはアイシャお嬢様とマーヴェラス家に亡くなった騎竜に対して思っていると思われる。俺がノーマル種だから下等として見下しているにしか過ぎない。



『ふん!、あれはあの方の力や種に対する上位意識からきているのです。心酔とか羨望とかからじゃないです!。』


ふんふん鼻息を鳴らし妖精竜ナティは機嫌悪そうにしている。


「そうか、じゃ!、俺も用があるので!。」


俺はさっさとずらかることにした。こんな状況じゃ考え事も出来やしない。


『あっ!待つのです!。まだ話は終わってないのです!。こら!よこしまどらごん!』


俺は妖精竜ナティに付きまとわれながらもあの風を纏う竜気掌を放つ方法を模索していた。


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