第52話 もっとぶってえ!!

今日野外授業で行われるのは調教訓練、武装訓練、対闘訓練である。初めの調教訓練は主人と騎竜の主従関係をより強くする為の訓練である。調教訓練という響きにアイシャお嬢様の学生寮でいち早く反応したのが言わずとも知れたマーヴェラス家メイドのカーラさんである。カーラさんが調教訓練というキーワードの言葉に鼻息を荒げ。かも興奮したかのようにその内容を聞いてくる。

調教とついているからってカーラさんが望む調教とは意味合いが大分違うとおもうのだけど。

現に今学園塀外の訓練場所である平原の遠くの岩陰から令嬢生徒達の訓練の様子ををギラついた視線でカーラさんは見学(覗き見)しにきているのだ。

無視しよう。カーラさんのペースに入ると疲れるだけだ。

俺はアイシャお嬢様と一緒にカーネギー教官から調教訓練の説明を聞く。


「いいか、調教訓練は騎竜乗りと騎竜の信頼関係を確かめる訓練でもある。レースでは他の騎竜や騎竜乗りはいかなる力や能力で他の騎竜と騎竜乗りのコンビネーションを阻害してくる。それに対処するために確固たる騎竜と騎竜乗りの信頼関係を築く必要がある。」


ガーネット教官の調教訓練に俺は竜耳を立てる。

最もな話だ。俺とアイシャお嬢様の関係は長い。信頼関係は一応築けている筈だ。


「これより行う調教訓練は主に騎竜にとっての弱点を使い。主人との信頼関係を築く訓練である。炎竜なら氷、水竜なら雷、土竜なら水その各々の騎竜の弱点であるものを使い我慢耐えることで主人との信頼関係を築くのだ。」


ん?何か言葉の意味合いがおかしいことを言っているきがする。騎竜の弱点を使って我慢して耐えることとカーネギー教官が言っているのだ。それは言い換えればカーラさんが好きそうなしつけというか調教というやつに似ていた。

俺の緑の竜顔が青ざめる。

何か····やな予感がするな···。

物陰に隠れているカーラさんの眼光がキラッ!と怪しげな光を放つ。


「ガーネット、行くわよ。」

『うむ、どんと来るがよい。』


レインは正方形の氷の塊をガーネット紅い竜の背中にポトンと置いた。


『ひゃ~ん。』


ガーネットは可愛いらしい女の子のような思念の叫び声を上げる。


「レイノリア、行きますよ。」

『はい、お嬢様。』


パールお嬢様は猫じゃらしのようなものでレイノリアの巨体の身体に腹部をくすぐる。

こちょこちょ


『うふふ、あはははは。』


レイノリアの竜の巨体が笑い転げる。

何だこれは·····。

調教訓練が思っていたのと全然違っていたのだ。どちらかと言えばカーラさんの好きそうな『調教』に入っている。


「ライナ·····。」


俺はアイシャお嬢様に竜の視線を向ける。

目の前のアイシャお嬢様は長い黒い鞭ようなものを握り閉め。困った顔をしていた。


「どうしよう·····。」


どうしようって言われても俺もどうすればいいのやら。

これが調教訓練だなんて本当に調教の訓練だよっと突っ込みをいれたいくらいである。


「すまんなあ。ノーマル種の弱点が何なのか正直分からなかったから鞭にした。」


カーネギー教官はすまなそうに俺達に謝罪する。弱点分からないからってよりによって鞭だなんて。俺は遠くで岩かげに隠れ潜むカーラさんにそ~っと視線を向ける。

カーラさんは岩かげでハッスルしたかのように瞳をランランとさせ歓喜していた。グッとポーズや👍まで付ける始末。そんなに俺が鞭で叩かれるのが見たいのかっ!と言わんとばかりに。


「········。」


調教訓練である以上やれねばならぬことを理解しているが。カーラさんを調子付かせることになるのは正直不満たらたらである。


···ギャアガアギャアギャアガアギャアギャアガアギャアギャ

「····取り敢えずアイシャお嬢様。俺を鞭で叩いてみてください。」

「分かった。」


アイシャお嬢様は頷くと長いしなやかな黒い鞭を軽く振りかざす。


「えい!。」


パチン

しなやかな黒い鞭は伸び俺の緑の鱗の皮膚にあたったが伸びた鞭は力なく落ちる。


「どう?。」


アイシャお嬢様は首を傾げて問いかける。

どう?って。俺は微妙な竜顔を浮かべる。

全然鞭に力を入れてないので痛くも痒くもない。これでは調教訓練にもならない。

仕方ないのでアイシャお嬢様に鞭の打ち方をアドバイスすることにした。俺も鞭で打たれた経験などあるわけもなく。一部の性癖を持つものにしかその良さも分からないだろう。それに俺は断じてアブノーマルではないのだ。ノーマル種だけに。


ギャアガアギャアギャアガアギャアギャアギャアガアギャア

「アイシャお嬢様。ではもっと強めに俺に鞭を打って下さい。」


正直自分達は何しているんだろうと疑問に思うところもあるのだが。授業なのだから仕方ないので真面目に調教訓練を始める。


ペシッ

まだアイシャお嬢様の鞭の打ち方がなっていなかった。


ギャギャア!

「もっと強く!。」

「えい!。」


ベチっ!

ギャアガアギャ!ギャアギャ!ギャアガアギャガアギャ!

「もっと激しく!。腰を使い!手首にスナップ効かせて!。」

「えい!えい!。」


ペシッ!ペシッ!

ギャ!ギャ!ギャアガアギャアギャ!

「もっと!もっと!!もっとしなやに!。」

「えいっ!。」


ペシッ!!

鞭が鱗にあたり微かな痛みを与える。


ギャガアギャ!ギャガアギャ!ギャアギャアガア!ギャア!

「そう、その調子!。もっと激しく!もっと強く!もっと大胆に!。」

「えい!えい!!。」


バシン!バシン!

アイシャお嬢様の鞭の打ち方が上手くなっていく。


ギャア!ギャギャアギャ!ギャアガアギャギャアギャ!ギャアガアギャガアギャ!

「そうです!その調子です!。さあもっと強くぶって!。もっと激しく打ち付けて!。」


俺はアイシャお嬢様を勢いづかせる為に声援を送る。


「えい!。」


ベチン!

アイシャお嬢様の放つ鞭が緑の鱗の皮膚に打ち付けられる。


ギャガア!ギャア!ギャアギャ!ギャアガアギャアガアギャ!ギャアガアギャガア!ギャアガアギャアギャ!ギャアガアギャ!!

ギャア!ギャア!!ギャア!!!

「そうです!激しく!打ち付けて!もっとなじって。もっと蔑んで!。もっと罵って!。もっと痛めつけて!。もっと見下して!!。もっと!もっと!!もっと!!!。」


俺はのめり込むように雄叫びを上げアイシャお嬢様を急き立てる。


「ラ、ライナ······。」


ハッ

俺はアイシャお嬢様の呼び声で正気に戻る。

鞭を止めるアイシャお嬢様の口もとがひきつくほどドン引きしていた。

周囲の令嬢生徒達も皆調教訓練の手を止め。俺達に何とも言えない眼差しを向けてくる。

クラスに入ったエルフのリスさんも陰からクスクスと笑っている


「ああ·····何だ.アイシャ・マーヴェラス。お前の趣味をとやかく言う筋合いはないが。ちょっと場を考えてほしい。」


カーネギー教官もいかにもいいずらそうにアイシャお嬢様に注意する。


「ラぁイナあ·······。」


アイシャお嬢様の圧を込めた視線が俺にふりかかる。


ギャガアギャ···

「スミマセン·····」


俺は反省の姿勢で長首が低く項垂れる。

遠くの岩の陰からカーラさんの哄笑が響いたような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る