第48話 脚元に御用心

『さあ!今宵もやって参りました!。私。この噴泥杯(マッドジェットカップ)の実況を務めさせて頂くサルソンと申します。そして今宵マッドジェットカップの解説をして頂くのはベテランの騎竜乗り。不蓮の二つ名を持つシャルネ・ポーカーさんです。どうぞ宜しく。』

『·····宜しく。』


シャルネ・ポーカーは無愛想な態度で返事を返す。噴泥地帯で唯一平地である場所に観客席と放送席が設置されていた。


『さて、マッドジェットカップのレースコースの説明の前にコース場所である噴泥地帯が何故泥が吹き上げられるかご存知でしょうか?。噴泥地帯は元々湿原であり。泥が吹き上げるのは。この土壌に風の精霊が集まる性質があるからです。風の精霊が何故この泥土に集まるかは不明ですが。風の精霊が泥の土壌に集まり。泥の奥深くの底で風の精霊達が圧縮し凝縮し一気に爆発することで泥が上空へと吹き上げる仕組みになっているのです。精霊の行動基準に関してはいまだ不明な点が多く。その謎は救世時代まで遡ると言われております。かの伝承に伝わる神足る竜と精霊も密接な関係を持つとも言われております。しかしその殆どは解明には至ってはおりません。」


魔法具のスピーカーから流れた実況者サルソンの噴泥地帯の現象の説明に俺は頷いて納得する。

なるほど。だから泥が上空に噴き上げられるのだな。よくみれば無数の黄緑の光の粒子が灰色の泥の地面に集まっていた。

昔マーヴェラス邸で夜に6色の光の粒子と遊び相手をしていたことがあったけど。どうやらそれが精霊だったようで。レッドモンドさんの四年にわたるトレーニング中に発覚した。レッドモンドさんいわく精霊は精霊竜や妖精竜以外は人や竜にそう簡単に懐かないそうだ。何故俺に懐いているのかと訪ねるとマーヴェラス家が関係してるとだけ言ってそのあと何故か言葉を濁していた。


『レースコースである噴泥地帯は一定の間隔で土壌から泥が上空まで噴き上がります。それらを回避してゴール地点まで辿り着かなくてはならないのです。』


なるほど、一種の障害物レースに近いなあ。

マーガレットお嬢様は俺の竜の背中に乗る。


「あまり乗り心地宜しくないですわ。」


マーガレットお嬢様は俺の背中で悪態をつく。

悪かったなあ。乗り心地悪くて。

俺は我が儘なお嬢様のお付き合いがこんなに疲れるものだとは思わなかった。アイシャお嬢様が主人で本当に良かったよ。ずっと付き従っているエンペラー種の至高竜メリンの苦労が今なら理解できるような気がする。

魔法具のスピーカーから実況者の放送が流れる。


『余談ですが。ここの噴泥地帯の泥は汚くありません。土壌に集まった風の精霊により泥は浄化され。しかもその泥は女性陣にとって嬉しい美肌効果も有るそうです。』

「本気(まじ)ですのっ!?。家に持って帰ろうかしら?」


マーガレットお嬢様はテンション上がったように有頂天に歓喜する。

いや、レースに集中してよ····。

俺は微妙な竜顔を浮かべる。


パア~パパー パア~パパー


噴泥地帯にラッパの演奏が鳴り響く。

審判役の人が台に上がる。

二つの旗を回し始める。

どうやらこれがここのレースのスタートを始める合図のようだ。

俺は翼を広げ身構える。

他の騎竜乗りを乗せた騎竜も興奮したかのように鼻息をあらげる。


むにゅうう~♥️

マーガレットの胸の脹らみが俺の竜背に強く押し付けられる。

思っていたとおりマーガレットお嬢様の素晴らしいものをお持ちのようである。いつも胸を張る時にぷるんと揺れるのでさぞや素晴らしい弾力と膨らみをお持ちなのだろうと予想してはいた。案の定予想通りである。

マーガレットお嬢様の二つ膨らみは俺の竜の鱗の背中に押し当てられ。押し付けた膨らみの肉厚が均等に背中にはみ出る。

嗚呼~良い~。性格に難があるけど素晴らしい胸をお持ちだ。

俺は彼女の胸の膨らみの感触に感動に酔いしれる。


二本の旗を持つスターター役が旗をくるくる回し天高く掲げる。

変わったスタートの合図だなあ。レースによってはスターターのスタートの合図は独特であった。


『いよいよマッドジェットカップが開始されようとしています。』


観客席の観客は息をのむ。

二本の旗を掲げたスターター役の男性は掲げた旗を一気におろした。


「ドラGOー!!!。」


グラ

俺はスタート地点で脚元が揺らぎこけそうになる。


「ちょ、ちょっと、何ですの!?。」


背中に乗っていたマーガレットはいきなりバランスを崩したライナに戸惑い狼狽える。


バサッ バサバサバサバサッバサッ


スタート地点の平地から次々と騎竜乗りを乗せた騎竜が飛び立った。

俺も態勢を取り戻して上空へと羽ばたく。


「まったく!何ですの!?。いきなりこけるなんて。おかげで出遅れてしまったですわ!。」


ぷんぷん

マーガレットは大きく胸を揺らし憤慨する。


ギャアギャ·····

「すみません·····。」


俺は取り敢えず謝罪する。

ていうかその掛け声流行ってるのかよ!。


カーネギー教官のスタート合図が正式なレーススタートの合図であることに衝撃を覚える。


ドドド ドバアッーーーー!!


「キャアアアア!!」

「イヤあああーー!!。」


『おおっと!レース開始早々早くも脱落者だ!!。憤慨地帯の土壌から噴き上がる泥に騎竜ごと騎竜乗りが巻き込まれる!。』


わーーーー!! わーーーー!!

観客席から盛大な歓声が沸き上がる。


ドドド!! ドドッーーー!!

ひゅん

地面から噴きだす泥を俺は寸前で回避する。

あの間欠泉のような泥にぶつかると上に押し上がるんだなあ。

土壌から噴き上がる泥が上空を飛行する騎竜と騎竜乗りを上空まで押し上げ落下させていた。泥に意志があるのではなく。通り道にたまたま泥が噴き上がるタイミングが合わさったというだけである。


ドドドーーッ!! ボトボトボト


「やあ~ん。身体がべちょべちょ。」

「あ~ん、泥が胸の谷間に入っちゃった。」


噴き上がった泥が上空から飛び散り。空中中間に飛行する騎竜乗りの身体にふりかかる。身体全身にかかったり。軽装に身を固めている騎竜乗りの胸を露出した谷間に灰色の泥が入り込む。


『うっひょ~。良いですねえ。水も滴る良い男と言いますが。これは泥も滴る良い女ですね。ね、シャルネさん。』


実況のサルソンは解説のベテランの騎竜乗りのシャルネに同意を求める。


『言わないわよ!。全然!。』


無愛想なベテランの騎竜乗りシャルネは力強く完全否定する。


『あ、はい、そうですね···。』


サルソンはシャルネの威圧感のある否定的な発言に萎縮してしまう

ぷい

シャルネはレース状況を写す魔法具のモニターに視線を移す。


ドドドッ ドバッ!


「キャあーーーー!!。」

「いや~~~ん。」


次々に騎竜乗りを乗せた騎竜が間欠泉のように噴き上がる泥に巻き沿いとなり。上昇しておちていく。

マッドジェットカップは騎竜同士の戦闘も可ではあるが。無尽蔵に間欠泉のように噴き上がる泥を避けるのが精一杯でそんな暇を与えてはくれない。


ギィヤギィシャガギャ!

「ライナ、待っていたぞ!」


突如前方に竜の唸り声か上がる。

目の前にはノーマル種のルイードが立ち塞がるように前方の空中に止まっていた。


ギィシャギャアラギャアガアギャアギィシャギャア

「四年間にどれだけ強くなったか確かさせて貰うぞ。」


俺は微妙な竜顔でルイードに視線を向ける。


ギャガア······

「ルイード···。」

ギャシャ!

「何だ?。」

ギャアギャギャ····

「·····脚元。危ないぞ····。」

ギャあ?

「はあっ?。」



ドドドッ! ドッ パあッーーーン!!


ギャッ ふーん‼️

「ぎゃあああーーーー!。」


ルイードは背に乗る騎竜乗りのマーナさんごと天高く。高々に噴き上がる泥と一緒に上空へと舞い昇っていった。


「なっ!何ですの!?。」


俺の背に乗るマーガレットお嬢様はポカーンと呆然と口を開けたまま。今の状況を飲み込めなかった。


ギャアガアギャ·····

「さて、と、行くか·····。」


バサアッ


俺は間欠泉のように泥が噴き上がる噴泥地帯のコースを突き進む。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る