第44話 収集家


ザッ ザッ

藁の寝床に寝そべりながら赤毛のアンナさんの竜舎内でのピッチフォークで藁の入れ換えの様子を観ている。今日はトレーニングをせず身体を休ませている。身体を鍛えることと身体を休ませることのバランスが一番大切だと師であるレッドモンドさんの教えである。

ザッザッ


「へえ~、ここがライナさんの新しい竜舎ですか。凄くしっかりとしていて綺麗ですねえ。」

「全くですね。家の駄竜に勿体無いくらいです。」


ボイン キリッ

見慣れたメイド姿の二人組が来客用竜舎に入ってくる。

一人はエプロンから盛り上がるほど大きな膨らみとよく弾む胸をお持ちのリリシャさん、もう一人はキリッとした眼鏡をかけてどSの眼光を放つカーラさんである。


「あの?どちら様ですか?。」


初対面であるリリシャとカーラさんに赤毛アンナさんは困惑顔で問い掛ける。


「失礼しました。私達はマーヴェラス家に仕えるメイドのリリシャと申します。」

「私はカーラと言います。以後とお見知りおきを。」


リリシャとカーラさんは軽く会釈する。


「ああ。アイシャ様のメイドさんですね。私はこの来客用竜舎を管理するアンナ・ツェッペリンです。ライナさんのお世話係もやらせております。」


ペコリ

アンナさんは丁寧にお辞儀をする。


「駄竜のお世話係···。」


カーラさんはアンナさんの言葉にぴくっと反応し。キリッとした眼鏡の視線でアンナさんの容姿を見定めるように眺める。

スッ

そしてカーラさん辺りを見回し。何故かカーラさんは来客用竜舎内の窓際に向かってゆく。


「··········。」


カーラさんはじっと窓枠を注視し。そしてスッと人差し指を窓下の溝に線を引くようにさする。

スーー

さすった人差し指を裏返しにして目の前に提示する。


「ホコリがついていますね。掃除を行き届いていない証拠です。」

「あ、す、すみません!。」


アンナさんは慌てて竜舎内にホコリが付着している窓の掃除を始める。

カーラさんは窓際で偉そうに胸を張ってしてやったりみたいなドヤ顔を決める。


あんたは意地悪などこぞかの鬼姑かっ!!。


俺は心の中でそう突っ込む。

そもそも竜舎なんだから汚れていて当然でしょうに。

俺はカーラさんの大人げない箇所を垣間見た。


    ・・・・・・・・・


昼休みはアイシャお嬢様と校庭内散歩することが日課になっていた。一緒に人化して一部の授業にしか出れないのでせめて休み時間だけでもお互いの時間を作ろうと計らいである。何か恋人みたいな感じだな。

人間とドラゴンだけど·····。

学園の中庭の柱の廊下を一緒に歩く。

学年の三つの建物が囲む中に広い中庭があった。校舎には入れないので中庭には飛んで降りてきた。

校舎の外郭の庭はマーガレット・ベルジェインとメリンの戦闘による破壊で今は復旧中である。

中庭は一学年と二学年と三学年の建物と繋がっているので他の上学年の令嬢生徒達も見受けられた。


コツコツ

ドシドシ

柱が連なる中庭の廊下は丁度俺の竜サイズに収まり進むことができた。


「あら?アイシャ・マーヴェラス嬢ではありませんか。」


中庭の廊下を進んでパープル色の髪を揺らし。黒薔薇を模した黒いドレスをきた小柄の少女と出会す。少女の後ろには控えるように見事に折り曲がった羊のような黒角をはやし。盲目のように閉じた瞳と鮮やかな黒髪を流したメイドが立っていた。

俺は角を生やす黒髪のメイドの胸を凝視する。


うむ。これはでかいな。リリシャさんほどでもないが成長したパールお嬢様と良い勝負だ。メイドのエプロンから堂々とそそりだす膨らみ、まさにヴィーナスと言っても相応しい。

それにパープル髪の小柄の黒ドレスの少女の胸をみいいる。小柄であるが体格に似合ってふっくらと膨らんでいる。ロリ巨乳といるだろう。体格に似合わないほど胸の大きい小柄の少女のことだ。体型とあわないほどアンバランスな巨大な胸を持つロリの少女がそれが良いというマニアな男もいるが。パープル髪の小柄の少女の胸は小柄な体型にマッチした巨乳であった。小ぶりの巨乳と言うべきか。その小柄の体型に相応しいお胸をお持ちだった。

俺は竜瞳でその胸をガン見する。


是非!。そのそそりたつヴィーナスの膨らみと小柄の体型に物言わさぬ小ぶりの豊かな膨らみを我が竜の背中に押し付けて貰いたいっ!!。

俺はそう心の中で熱願する。


「貴方は確か····。」

「覚えて貰えなくて残念ねえ。私はパトリシア・ハーディルよ。宜しく。」


パトリシア黒いドレスのスカートをたくしあげ。小さな唇がニッコリ微笑んだまま軽く会釈する。


「私はお嬢様に遣える騎竜、黒眼竜のナーティアと申します。」


ナーティアと言う騎竜のメイドは無表情無感情のような振る舞いで坦々と答える。

黒眼竜?伊達政宗みたいな名前のドラゴンだなあ。あっちは独眼竜だけど。もしかして盲目のように瞳を閉じているのは魔眼か?。よく武将の伊達政宗の題材にしたアニメやゲーム、漫画には右目の眼帯に隠された瞳は魔眼という設定がよくある。ナーティアという騎竜はその両方の両目を閉じているようだが。


「ごめんなさい。面識あまりなかったから。」

「ふふ、パール・メルドリンが私のことを何も言ってこなかったのね。それはそれはとても残念ねえ····。」


小柄の少女はさも残念そうな表情していたがパープル色の薄紅染まった小さな唇はつり上がった笑みのままである。その仕草は何処か外見と違わぬ異様さと妖美さを醸し出していた。


「パールの知りあいなの?。」


パールの名を出てアイシャお嬢様の表情が緩む。


「ええ、私の家とパールはお家同士で取引相手なのですよ。良い商談関係を築いているわ。」


パトリシアはニッコリと社交辞令な笑みを浮かべる


「·······。」

「そうなの·····。」


パールの知人だと知り。アイシャの少し緊張が緩む。


「それにしても貴女のノーマル種のライナだったかしら。凄いのねえ。エンペラー種に勝つなんて。何処で手にいれたの?。」

「普通にお父様が市場で買ったと聞いていいます。」

「そう、特に特別な出生でもないのね。てっきり蒼白の神竜かと思ったわ。」


蒼白の神竜ってなんだ?。名前的にカッコいいなあ。


「蒼白の神竜?。」

「知らないの?。」


アイシャお嬢様は頭を振る。


「そう、と言うことは救世のことも教えられていないのね。まあ、騎竜は寿命で亡くなってしまったのだから教える必要性がないか。」

「?。」

「何でもないわ。貴女と仲良くなれそうね。マーヴェラス家が没落している聞いてるわ。金銭的に困ったことがあったら私に···。」

「アイシャっ!?。」


突然パトリシアの会話に割って入るように叫び声があがる。

声の主に視線をむけると真珠色の瞳と髪をしたパールお嬢様が険しげな表情で此方を向かってくる。

傍には青宮玉竜レイノリアとあまり仲良くない筈のスカーレット赤髪短髪のレインお嬢様と真っ赤なタンゴドレスを着た炎竜スカーレットもいる。


「パトリシア・ハーディル!貴女アイシャに何する気!。」

「ただの世間の話よ。そんなに怖い顔をしないで。」


パトリシアは笑顔で返す。

パールお嬢様は威圧するようにパトリシアという小柄な令嬢を睨む。


「パール本当よ。ただの世間話だから。」


いつもと様子が違うパールに気付きアイシャは宥めようとする。


「パトリシア・ハーディル!。アイシャに近づかないで!。」


パールはアイシャお嬢様の静止もきかずパトリシアに食って掛かる。


「嫌われたものね····。」


パトリシアは残念そうに眉を寄せる。


「当然でしょう。貴女の噂は聞いているわよ。収集家のパトリシア嬢。」


レインはパトリシアに冷たい軽蔑の視線を放つ。

パトリシアはその冷たい視線を何の茂もせず笑顔で返す。


「ふっ、まあ良いでしょう。挨拶はすませたし。ここは大人しく退きましょう。アイシャ・マーヴェラス。今度貴方のノーマル種のライナについてお話したいわ。」

「ええ、機会があれば····。」


二人の態度にアイシャお嬢様は戸惑いながらも返答する。

パトリシアとナーティアが去り。

暫く庭の緊迫した空気が薄れる。


「パールもレインもパトリシアをそんなに邪険にしなくても。」

「アイシャはあの娘のこと何も解っていない!。」


パールの非難めいた発言にアイシャは狼狽える。


「アイシャ、パトリシア・ハーディルという令嬢には気を付けて。彼女は収集家、コレクターよ。」


レインは険しい表情で苦言する。


「収集家?。」

「彼女は自分が気に入った騎竜を集めているのよ。どんな手段も関係なく。彼女に目をつけられた騎竜は彼女によって持ち主の騎竜乗りから奪われているわ。あの会話からするとノーマル種のライナに目をつけられたようね。」

「ふん、いけすかない小娘よ。学園でなければ火炙りにしてやったものよ。」


ガーネットは腕を組んで鼻息をならす。


「やめてよね。パトリシア・ハーディルのハーディル家は名のある商家の貴族よ。彼女と問題を起こせば商いの取引もままならなくなって支障が出るんだから。本当に辞めてよね。」


どうやらパトリシア・ハーディルという令嬢は商家において重鎮らしい。

レインは深いたため息を吐いていた。


「アイシャ、パトリシア・ハーディルには気を付けて。あの娘は気に入った騎竜を何が何でも手にいれようとするから。今でも何を画策しているか解ったもんじゃないわ。」

「解った、パールのいう通りにするよ。私気をつける。」


アイシャお嬢様は素直に頷く。

パトリシア・ハーディルか。俺なんか欲しいなんて物好きな令嬢もいたもんだ。俺なんか生まれてこのかた(転生前)一度も女の子から貴方が欲しいと言われたことないんだぞ。


ドラゴンになってモテることになって何だか複雑な気分である。

カランカラン


昼休みの終了の鐘が鳴り。アイシャお嬢様達は教室に戻る。俺は寝床である竜舎に戻った。

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