第25話 決意を胸に

バァサッ バァサッ


俺とアイシャお嬢様はクリムゾン杯を終えマーヴェラス邸に向けて上空を飛行していた。


「ライナ、ありがとね。ライナが諦めなかったらここまでこれなかったよ。」


ガア

俺は軽く吠え返事をする。


「私ね。アルナビス学園入学して立派な騎竜乗りになったら夢があるの。マーヴェラス家復興もそうだけど。私は世界を観て回りたいと思ってる。世界のレース巡りというのも面白くない?。」


ガア

俺は竜の首を縦に頷く。

それは俺としても願ったり叶ったりである。世界中のあらゆる人種に我が竜の背中にその豊満な二つの柔らかな膨らみを押し付けて貰える機会が恵まれるだから。


「世界最強の騎竜乗りと騎竜を決めるD1というレースもあるらしいよ。D 1に優勝するとあらゆる名声と富とかどんな願いも叶えられるんだって。」


アイシャお嬢様は笑顔でD1という名のレースの名を説明する。

D1か···。そのレースに優勝すれば世界中の美女から背中に股がって胸を押し付けて貰えるかもしれないなあ。

ギャフフ

俺の竜の口がニヤける。


「ライナ、真面目に聞いてる?。もう、ライナって背中に抱きついて貰うことしか考えてないでしょう。」


ギャアハギャ···

「いやはや面目ない···。」


俺は反省するように長首を項垂れた。

バァサッ バァサッ


「ライナ、これからも宜しくねえライナ。私学園に入学して立派な騎竜乗りになるから。」


ガアギャアガア···

「此方こそ宜しく。」


むにゅう♥️

アイシャお嬢様は俺の背中に優しく抱き締める。アイシャお嬢様の柔らかな二つ膨らみの感触が竜の鱗の俺の背中に伝わってくる。


バァサッバァサッ

互いの決意を胸に騎竜乗りの少女と騎竜乗りはまだ見ぬ未来の大空へと羽ばたく。



   アルナビス騎竜女学園



「学園長これを!?。」


眼鏡をかけた生真面目そうな女性が慌ただしく駆け寄る。装飾を帯びた年期の入った椅子とデスクに座るほどよい紫波を帯びた女性に用紙を手渡す。


「これは····。」


用紙に目を通し眉をひそめる。


「入学用紙の記入にノーマル種と書いているのですが····。」


学園長は目を凝らし入学用紙とその関連する資料を見通す。


「学園長。ノーマル種を騎竜にする貴族を入学するなど前代未聞です。即断りをいれましょう!。」


姿勢正しい眼鏡をかけた女性はそう訴える。


「しかし教頭、戦績表も賞状も全て本物。入学条件に十勝しているのは紛れもなく事実です。」

「戦績詐称しているかもしれないではありませんか?。」


学園長は首を振る。


「それはないでしょう。この羊皮紙で書かれた賞状は本物です。レースの大会ではその地方によって独自の羊皮紙を使われますし。それに賞状に貴族の紋章が刻まれた魔力の印璽がついたものもあります。偽物の魔力の印璽を造るなど今の魔法技術では不可能でしょう。」

「ですが、我が名門であるアルナビス騎竜女学園です。ノーマル種を騎竜にした貴族を入学させたと他の貴族達に知られたらどんな悪評が付くか!。」

「教頭、我がアルナビス騎竜女学園は確かに家系や竜種にこだわりますが。それとともに戦績も重要視されます。それにこの名前アイシャ・マーヴェラス。」


マーヴェラスという家名にぴくと教頭の眉間が寄る。


「マーヴェラス家ですか···。」


学園長はコクリと頷く。


「マーヴェラス家は没落したとはいえあのマーヴェラス家ですからねえ。救世の騎竜乗りの伝説は貴女でも知らないわけないでしょ?。」

「救世の騎竜乗りの伝説は私も知っています。ですが、その騎竜さえも既に寿命で亡くなっている始末。貴族は騎竜あってこその貴族です。ノーマル種の騎竜にしている時点で既にマーヴェラス家は落ち目になっています!。」


教頭は更に退かず食って掛かる

学園長は教頭の押しにも動じず落ち着いた雰囲気で口を開く。


「教頭、戦績表を見ましたか?。」

「戦績表ですか?。それが何か?。」


教頭は首を傾げ困惑する。


「戦績表の最後にクリムゾン杯一着優勝と書かれています。」

「それが何か?。」

「解らないのですか。クリムゾン杯と言えばあの何度も我が学園の入学を拒んだ貴族、レイン・ルポンタージュが出場しているレースですよ。」

「まさか······。」


教頭は目を見張る。


「クリムゾン杯と言えばあの上位種エレメント種の炎竜が所縁としている特別なレースです。それを一着ということは····。」

「そのアイシャ・マーヴェラスの騎竜であるノーマル種が上位種であるエレメント種の炎竜に勝ったと?。」


コクリと学園長が頷く。

教頭は驚愕な目を浮かべる。


「信じられません。ノーマル種が上位種に勝つなど。」

「現にこのように証拠として賞状がありますでしょうに。」


デスクに置かれたクリムゾン杯の賞状を学園長は提示する。


「いやしかしノーマル種が上位種に勝つなど···。炎竜が手を抜いた?。いやそれは絶対有り得ない。好戦的で上下関係を重んじる炎竜族がレースでしかも炎竜族に所縁のあるクリムゾン杯に手を抜くなど···。」

「事実なのでしょう。そして上位種の炎竜に打ち勝つだけの力をこのノーマル種のライナという竜は持っていると。」


学園長はスッと立ち上がり。手を後ろに組み学園長室の窓際を見上げる。ふくよかな顔が笑みが浮かべる。


「面白いですね。没落したと思われたマーヴェラス家がノーマル種という最下位の竜を従えて我が学園の門をたたくのですから。」

「学園長何をお考えで。」


教頭は学園長が考えていることが理解出来なかった。


「この学園に大きな変化をもたらすかもしれませんね。ノーマル種が上位種の竜だらけこの学園でレースで勝ちまくったとしたらそれはそれはとてもとても面白いことになるでしょう。上位種の騎竜達にもそして我が学園の生徒達にも良い経験になるでしょう。」


学園長はニッコリと微笑む。


「そうでしょうか?。私には大きな波紋を呼び起こす気しかしませんが。」


上位種の騎竜が集まり。貴族のご令嬢が学ぶこの学舎で。最下層のノーマル種の騎竜が入ったとなったら。良からぬ未来しか思い浮かばなかった。


「それも善いでしょう。平凡な日常にも少し飽き飽きしてきましたから。」

「また、学園長の悪い癖が出ましたねえ。」


教頭ははあっと力の抜けたため息を吐く。

学園長は元々優秀な騎竜乗りである。温厚な今の性格とは裏腹に昔は女傑と呼ばれるほど豪胆で豪快で好戦的な性格をした騎竜乗りであった。幾多のレースを連勝し。引退するまでその激しい性格は直らなかった。引退して相棒の騎竜とは離れてから落ち着きはしたが。それでも昔の騎竜乗りの血が騒ぐのだろう。こういった予想外で常識外れなことに関しては大好物なのである。


「とても楽しみです····。」


学園長の温厚な顔が昔の生き生きした騎竜乗りの頃に戻っていた。昔は相棒の騎竜と意気投合して世界を駆け回ったことは今でも懐かしい思い出である。あの筋肉馬鹿は今は何処で何をしているやら。昔の相棒思い出したら学園長は少し不機嫌になる。



アルナビス騎竜女学園はノーマル種を騎竜にする貴族の少女を入学することを許可をした。それが新たな騎竜伝説を作ることになるとは誰も知るよしもない。


      幼少編   完






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