第18話 闘志を燃やせ


マーヴェラス邸内の書斎で古びたスーツを着てる男性が椅子に腰を降ろし考え込んでいた。

愛娘であるアイシャがいまだ部屋出てこないことに頭を抱えている。


「カーラ、まだアイシャは部屋から出てこないのか?。」


書斎に腰を降ろすマーヴェラス伯爵は室内で片付けの作業をするメイドのカーラに声をかける。


「はい、旦那様。アイシャお嬢様は一切部屋から出ておりません。お食事はちゃんととっておりますのですが。まだクリムゾン杯の敗北が尾を引いているようで。」

「嗚呼~、アイシャ、申し訳ない。不甲斐ない父親を許しておくれ。上位種の竜さえ手に入れていれば。お前にそんな苦労はさせなかったのに···。」


マーヴェラス伯爵は指を絡ませ。空を仰ぐように悲嘆の顔を浮かばせる。


「それでは旦那様私はこれにて····。」

「嗚呼、カーラ。手伝いありがとう···。」


マーヴェラス伯爵は弱々しく返事をする。

カーラはお辞儀をし書斎を出る。

無表情で書斎の扉を閉めるとはあっと息を吐く。


「ふ~、何とかお嬢様を部屋から連れ出さなくては。それにしてもあの駄竜、お嬢様をほったらかしにしといて一体何しているのですか?。」


お嬢様が部屋に引きこもっている間、ライナは一切お嬢様に逢おうとはしなかった。そればかりか竜舎を抜け出し。何処かマーヴェラス領内の牧場で遊び呆けているようなのだ。竜舎にお嬢様の恩赦で鎖に繋いだりしていないが。主人であるお嬢様を差し置いてこれ程まで自由奔放な生活するなら考え直さなくてはならない。鎖に繋げるいえこれは寧ろしつけが必要でしょう。さてどんなしつけを与えてあげましょうか?。鞭責め、足責め、言葉責め、竜でためしたこともありませんが電気あんまもいいですねえ。三角木馬なんてのも竜にやったことはありませんがためすには良い機会かもしれません。うふふカーラは引き締まる艶のある唇が冷たい不適な笑みを浮かべる。


カーラは邸を抜け庭に出る。


ボインボイン

リリシャがたわわな胸を揺らしながら生えすぎた邸前のガーデンの庭木の枝木を切っていた。

カーラはそのままライナの寝床である竜舎の中を確認する。

ザッ


「·····。」


ライナがいるであろう藁の寝床はもぬけの殻である。


やはり留守ですか。あの駄竜一体どこをほっつき歩いているのですか。


カーラは段々とむかっ腹が沸いてきた。アイシャお嬢様があんなにも部屋で意気消沈して落ち込んでいるのに当の騎竜は主人をほっぽいて道楽に明け暮れているのだ。これは許しておける事柄ではない。これは今直ぐにでも駄竜にきっちりとした躾が必要である

カーラは竜舎を後にし庭で作業するリリシャに声をかける。


「リリシャ、あの駄竜は何処にいきましたか?。」


ボインボイン

リリシャは豊満なたわわ胸を揺らして向きを変える。


「ライナですか?。ライナでしたら変な竜と修行しています。」

「変な竜?リリシャ、ライナの居所と何をしているのか知っているのですか?。」

「はい、私もライナはいつも何処に出掛けているので気になっていて、ついていってみたんです。そしたら変な黒眼鏡をかけた筋肉質の竜と一緒に身体を鍛えていました。」

「身体を鍛えている····。」


カーラの眼鏡をかけたキリッとした瞳が揺らぐ。


「いつも毎日その眼鏡かけた筋肉質の変な竜にしごかれてましたよ。」


カーラは眉を上げる。

てっきり遊び呆けていると思いきやあの駄竜。鍛えていたとは···。少し評価を変えましょう。ですがお嬢様を放置していることは頂げませんね。ここはきっちりとした躾を受けさせねば。

カーラは頷き決意する。


「リリシャ、ライナの居場所に案内して下さい。用があります。」


キリッとした眼鏡かけるカーラはリリシャにライナの居場所の案内を頼む。


  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ふんぎゃっ ふんぎゃっ

俺は竜の図体を仰向けにして上半身を上げ下げして腹筋をする。竜の骨格構造上無理かと思ったが以外といけた。

隣ではレッドモンドさんが掛け声をかけている。


ギャドラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャドラガアギャアギャアラギャギャドラガアギャドララギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャドラガアラギャアガア!ガア!

「いいねえ、凄くいいよ~、キマッてるねえ。筋肉が筋肉がとてもよろこんでいるよ~。段々筋肉が仕上がって来ているよ~。筋肉がふくらんでるよ~。後もう少しだよ~。はい筋肉!筋肉!。」


レッドモンドさんの昔の職業柄の癖なのか俺に何度も声援をかける。

しかも俺がトレーニング中ずっとである。

はっきり言って鬱陶しいというかウザイつうか邪魔だった。何度も声援の言葉に筋肉を盛り込み。尚且つ何度もキマッテルネ、イイねえの繰り返す。鬱陶しいにも程がある。解ったからトレーニング中は集中させてよ~。

俺はそんな想いを過りながらトレーニングを続ける。


「リリシャ、あれは何をしているのですか?。」


遠くの大木の物陰から遠目でリリシャに質問する。


「ああやってライナは身体をを鍛えているんです。変な眼鏡をかけた筋肉質の竜は調教師ではないでしょうか?。」

「調教師····。」


カーラは眉を寄せ困惑する。本来調教師が竜に調教を施すのは走り込みとか飛行方法だけである。

あのような訳のわからない鍛え方はしない。この世界の住人にとって腹筋や背筋、腕立て伏せ、ストレッチという類いは一般的にはやらない。騎士や剣闘士の訓練には似たようなものはあるが基本それを騎竜に強いることはない。騎竜乗りの騎竜にとって肉体的に重要なのは飛行による翼の飛行スピードと走り込みによる脚力だけだ。騎竜乗りが騎竜に求めるのは魔法と能力、スキルの強さの多様性である。竜の肉体的強さは求めていない。何故なら騎竜そのものが肉体を鍛えることは無意味だからである。竜は生まれもった能力と魔力と特性、精霊との干渉度によって強さが決まる。貴族の騎竜はある程度鍛えるが。それは肉体的向上ではなく。肉体維持と身なりに他ならない。


「はあ~、ほんとに無駄なことをしてますね。流石は駄竜というところですか。」


カーラは何とも言えないため息を吐く。


ギャドラガアラギャアガアギャアラギャアギャドラギャア

「さてある程度身体があったまたところで集気法やってみよう。」

ガアギャアギャ!

「待ってました!。」


俺は立ち上がり。レッドモンドさんの指示で集気法を行う。牧場内にあった大岩の目の前にして瞑想して構える。


「何をしているのですかね?カーラ。」

「リリシャ、貴女にもわからないのですか?。」

「はい、あのような行動を見たのは初めてです。」


リリシャにもわからないというのだからライナの行動は意味不明である。最初から変な竜だがあの黒丸眼鏡の筋肉質の竜のせいで更に変さに磨きがかかっているのではないかと心配になる。

じっと二人はライナの行動を見守る。


ライナは地面にめり込んだ大岩を目の前に空手の組手のような構えをする。鉤爪の右手掌後ろへと下げる。

黄色の粒子がライナの竜の身体に集まる。


「竜破掌(りゅうはしょう)!。」


サッ 掌打するように鉤爪の掌を前につきだす。


ドッゴっーーーーンッ!!

ガラガラ

大岩は木っ端微塵に砕け散る。


「なっ!?。」


カーラとリリシャはその状況に開いた口が塞がらず呆気にとられる。


ギャギャドラギャアガアギャアラギャアガアギャドラギャア?

「うむ、大分様になってきたな。でも何だその技のような名は?。」

ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャア

「炎竜が必殺技放つときにいっていたので言わなきゃいけないのかと。」

ギャドラギャアガアギャアラギャアガアギャ···

「なるほど厨二的なことか。若い頃が懐かしい···。」


レッドモンドさんはうんうんと頷き物思いに耽っていた。

別にそう言う訳じゃないのですが····

ライナは微妙な竜の顔を浮かべる。


「カーラ、カーラ、あれは一体何なんですか!?。大岩が砕けました。あれライナがやったのですか?。」


リリシャはカーラの裾を何度も引っ張りボインボインと胸を弾ませ興奮している。


「解りません。ただ状況からそう判断せざる得ないでしょう。」


あの駄竜がいつの間にかこんなことまでできるようになったのか。変な竜が更に超が付くほど変になってしまったことにカーラは大いに狼狽える。それと同時にライナのあの駄竜の可能性に目をやる。


「リリシャ、どうやら私は間違っていたようです···。」

「カーラ?。」


リリシャがカーラの素顔を見ると何処か吹っ切れたように清々しかった。


「しつけせぬばならないのは駄竜ではありません。もうそろそろあの方には新鮮な空気のある大空を目指してもらいましょう。薄暗いじめじめとした巣穴はあの方には相応しくありませんから。」

「····?。」


カーラはとある決意を固める。

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