第15話 助っ人

トントン


「お嬢様···お嬢様··お食事をお持ちしました。扉を開けて下さいませ。」

「·······。」


リリシャは返事のない部屋の扉の前でパンとスープとサラダが用意されたトレイを持ったままたちつくす。


「お嬢様、お食事のトレイを扉前に置いておきますね。ちゃんと食べて下さいね。」


コト

リリシャはトレイを扉前に置きその場を去る。


ボイン ボイン

リリシャは力のない胸を揺らし邸の玄関を出る。

邸の庭ではメイドのカーラとライナが待っていた。


「どうでしたか?リリシャ。」


リリシャは眉を寄せ頭を振る。


「駄目です。お嬢様は一向に部屋から出ようとしません。」


アイシャお嬢様はクリムゾン杯敗北以来部屋に引きこもるようになってしまった。

順調に勝っていたのが。上位種の力の差を知らしめられ。ショックを受けてで引きこもりになってしまったのだ。いつも遊びに来る親友であるパールお嬢様の面会でさえ断り逢おうとはしない。


「駄竜、あなたもお嬢様に何か言ってあげてください。お嬢様の部屋にむけて鳴き声を上げればもしかしたらベランダから出てくれるかもしれませんよ。」


カーラさんの提案に俺は無言でくるり尻尾を振り後ろ向いて邸から離れる。


「まあ、家の駄竜は薄情者ですねえ!。」


カーラさんは眉を上げ憤慨し口許がへのじに曲がる。

今のお嬢様に何を言っても何の慰めにもならない。問題があるのは自分の方なのだ。自分が上位種の竜に渡り合えるだけの力を持たなければなんの意味もない。

俺は考え思考し。上位種に対等に渡り合える方法を模索した。魔法、スキル、能力、技、それら全てにおいてノーマル種は劣っている。ノーマル種が上位種に勝るものがあるかと考えれば全くなかった。だからこそ最後の綱にすがるしかなかった。誰かに頼るのはみっともないのかもしれないが、もう後がなく。これしか方法は考えられなかった。


俺はマーヴェラス邸から更に離れた牧場の草原にたつ。

心で呼びかける。

アルピス様、アルピス様おられますか?。

俺は何度も女神の名を発っした。

困ったことがあれば何でも相談に乗ってくれると言うあの女神の約束を今果たして貰おうとする。


『豊様?お久しぶりですねえ。』


聞きなれた声が頭に響く。


女神アルピス様がお願いあってお呼びしました。

『お願いですか?。』

はい、単刀直入に聞きます!。ノーマル種の竜で上位種の竜にレースで勝つ方法がありますか?。


····数分の通信の会話の間が空く。


『なるほど···。やはり壁にぶつかりましたか····。』


女神アルピスは何か察したように納得する。


それで結論からしてどうなんでしょうか?。


俺は息を飲みもう一度聞いてみる。


『結論からしてノーマル種が上位種の竜に勝つ方法はありません。そして豊様に竜である以上スキルを贈呈することも不可能です。』


女神アルピスの現実を突き付けられる言葉に俺の緑の竜の首はガックリと低く項垂れる。


そうですか····。


わかりきったことだ。この世界でノーマル種が上位種にレースで勝ったという話など一切聞かない。そういう話があれば歴史に名が残り。伝説になっている筈なのだ。期待が喪失感へと変わる。


アルピス様、どうかお願いします。もし何か上位種にレースで勝てる方法があるなら教えて下さい。スキルか駄目なら魔法で魔法が駄目なら能力で能力が駄目ならその時は····

俺の心の会話が鬱ぎみに口ごもる。


『転生をやり直すという方法では駄目なのですか?。また転生し直して今度こそ能力やスキル、魔法に長けた上位種の竜に生まれ変わるという方法も可能ですよ。』


俺は転生をやり直すという女神アルピスの言葉に一瞬泣きじゃくるアイシャお嬢様の悲痛な幼い顔が脳裏によぎる。

···········

すみません····それは無しの方向でお願いします。できればノーマル種で上位種を倒したいのです。そうでなければ意味がない。


「そうですか····。ノーマル種で上位種に勝つ方法····。」


女神アルピスは白い空間の部屋で瞬時に本棚をだし一冊の本をめくる。

異世界ドラゴニスにはノーマル種が上位種に勝ったという事実は存在しない。前例もない。それでも女神アルピスは転生者鴛月豊の切なる願いに何とかしようとその方法を模索する。

やはりノーマル種が上位種に勝つ方法など書かれていませんねえ。

異世界ドラゴニスの全ての情報が書かれた本にも乗っていなかった。「ノーマル種がレースで上位種に勝つ」それは豊の世界で言えばアリが戦車に勝つということだ。アリが戦車に勝つなど万に一つもあり得ない。数で押しきれば勝てる要素はあるかもしれない。ただ力比べなら普通に敗ける。能力も造りも全く異なるのだ。

他に方法は····

異世界ドラゴニスの全ての情報が記憶された本棚にふと本ではなく資料が挟まっていた。

はて?あの資料なんでしたっけ?。

女神アルピスは本棚に本と本の隙間に挟まるペラペラの資料を抜き取る。

資料を手元でおきめくるとそこにはある転生者の資料が書かれていた。

嗚呼、そう言えば彼もこのドラゴニスという異世界で竜に転生していましたっけ。鴛月豊も竜に転生する変わり者であったが。資料に記載された転生者も別の意味で変わり者であった。

そう言えば彼は確か·····。

転生者の資料に転生前の情報のページをめくる。

やっぱり····。

女神アルピスは転生者の転生前の資料に目を通すと納得する。

これならばもしかしたら豊様を強くできるかもしれない。この世界の理が駄目でも他の世界の理ならイケるという事例は何度かあった。

チートの種類でいう別の世界の知識チートというべきか。転生者の前の世界での知識が別の世界でいかされるという話は転生者の中ではよくある話だ。

彼ならばノーマル種でも豊様を強くできると確信があった。何故なら彼は転生前は強くなるための専門職に就いていたからだ。彼が手にかけた選手は何でもオリンピックという世界大会で何度も優勝しているそうだ。

それほどの腕前ならノーマル種だろうと上位種に勝つ方法を知っているかもしれない。

女神アルピスはうんと頷き豊に通信を送る。


『豊様、何とかなるかもしれません!。』

本当ですかっ!?。

『はい、3日後に貴方に相応しい頼もしい助っ人を用意します。』

はあ~助っ人ですか?。


助っ人という言葉にライナ(豊)は竜の眉間が上がる。


『彼ならばきっと貴方を上位種でも勝てる騎竜にしてくれる筈です!。』


女神アルピスの提案にライナは内心不安が過る。


「解りました。3日後待ってみます。場所は?。」

『マーヴェラス家の納屋のある牧場付近でどうでしょう。』


女神アルピスはあちらの世界の情報も把握していた。


解りました。3日後その助っ人と言う····え~と、人ですか?。

『いえ、普通に竜ですよ。』


えっ、竜なの?。

ライナ(豊)は強くしてくれるというから人間の調教師だとおもっていた。

段々と幸先不安になってきた。


わかりました。それでお願いします。


『それでは3日後お待ち下さい。』


そして3日後女神アルピスが鍛えてくれるという竜と待ち合わせすることになった。

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