第4話 竜心(りゅうごころ)は解らない

俺の竜サイズでは邸に入りきらない。多分入ったら壊れるのでぐる~と周り。邸の中庭に通じる渡り廊下の支柱から通り抜ける。

中庭では屋根つきの休憩所ガゼボでアイシャお嬢様とパールお嬢様が楽しくお茶会をしていた。ガゼボ内に設置されているテーブルと椅子にお菓子と豪華なティーセットが置かれ。二人は楽しく談話をしている。ただティーセットやお菓子を用意するだけのお金の余裕は家にはない。パールお嬢様がわざわざアイシャお嬢様のために用意したのであろう。

アイシャお嬢様とパールお嬢様のガゼボ内のテーブルで楽しくお茶会しているなか、一人のメイド姿の女性がその隣に立っていた。リリシャでもカーラでもない。パールお嬢様の関係者だ。だがパールお嬢様の付き人でもましてやメイドでもない。外見は人間の娘のようだが。彼女のメイドのカチューシャのついた頭部には左右に二本の角がついていた。長い透き通る青い髪を靡かせ。優雅にティータイムを楽しんでいるお嬢様達を優しげな眼差しで温かく見守っている。

俺は中庭の草を踏みしめお嬢様のいるガゼボに近づく。二人の楽しい談話を邪魔しないようにそっと角を生やしたメイド姿の娘に話しかける。



ギャア、ラギャア

「やあ、レイノリア。」


どしどし

俺は重い図体を動かしに声をかける。

角を生やしたメイド姿娘は俺の竜の姿に気づくと頬を赤らめうつむいてしまう。


「ラ、ライナ。お、おはよう···。」


たどたどしい言葉で返事を返す。

彼女がレイノリア、上位種、竜王(ロード)種のドラゴンである。外見が普通の角を生やしたメイド娘にみえるが正体は紛れもなくドラゴンである。

上位種、主に属性(エレメント)種、竜王(ロード)種、皇帝(エンペラー)種と呼ばれる竜は俺のような普通(ノーマル)種と違い人間の姿に変身できる。上位種を飼っている貴族は大抵騎竜を人型にして一緒に住んでいるのだ。貴族で竜舎に飼われているのは俺くらいである。別に人型になれるのを羨ましいとは思わない。何故なら人型なってしまえば背中に胸を押し付けてくれる確率が下がるからである。俺が人型の男性に変身したら誰も俺の背中に特に女性達が抱きつこうとは思わぬだろう。寧ろ避けられるのがオチである。だからかえって人間に変身できず竜の姿のままでいた方が俺としては都合が良かった。


ガアガアギャアガアギャア?

(俺に用があると聞いたけど?。)

「あの···その···。」


もじもじ

レイノリアは頬を赤らめ口をもごもごする。


ギャアガアギャアガアギャアラがあ?

(何なら俺の背中に抱きついてみる?。)


ぴろっと、竜の翼と背中と尻尾を見せびらかす。


「いえ、恥ずかしいので抱きつくのは無理です!。」


即断られた。

レイノリアは恥ずかしがり屋である。故になかなか背中に抱きついて貰えない。レイノリアの人型の姿は頭にかかる透き通る程の長い青髪と長身的なルックスをしていた。モデル体型と言うべきか。その体型の胸の膨らみはその体型と相まって見事なプロポーションをしていた。身体の比率と胸の比率がアンバランスになることが女性にはただよくあるが。レイノリアの場合体型と胸の膨らみが見事にマッチしていた。長身と胸の膨らみの形と大きさがバランスよく成り立っているのだ。彼女は巨乳というよりは美乳といった方がしっくりきた。是非あの形のよいおっぱいを俺の背中に押し付けて貰いたい!。きっと押し付けられた胸の肉肌は均等に別れ見事な押しくらまんじゅうの肉厚が出来上がるに違いない。

俺は相手がドラゴンだろうがエルフだろうが獣人だろうが気にしない。そこに二つの柔らかな膨らみがあるのなら惜しみ無く俺は背中に押しつけてもらいたいのだ。


「ラ、ライナ、レース頑張ってね。」


気恥ずかしげにレイノリアは呟く。


ガ ギャ ギャアガア?

「あ、うん。それだけ?。」

「そう、ライナと一瞬に学園通いたいから····。」


青い眉が上がり口元が緩む。


ギャ ギャア····

「そ、そうか····。」


レイノリアは口数は少ない。恥ずかしがり屋なのだから仕方ない。時々この竜(こ)の気持ちが解らなくなる。


「アイシャ、次はどのレースに出るの?。」


ガゼボ内に設置されたテーブルと椅子に座るアイシャお嬢様とパールお嬢様は会話を弾ませる。


「うん、次はマンゴスチン杯に出ようと思うんだ。」


向かい合う椅子に座るアイシャお嬢様がこたえる。

何故にマンゴスチン?。俺は緑色の竜の眉間に紫波を寄せ困惑する。

異世界にもマンゴスチンというフルーツがあるのだろうか?。確かマンゴスチンはフルーツの女王と呼ばれた高級フルーツだった気がする。日本ではあまり手に入りにくいというかそれなりに高かった筈だ。

俺は異世界なのだからあまり深く物事に突っ込まないようにした。気にし過ぎると疲れるだけだし。


「ごめんなさいアイシャ。メルドリン家で融資しようしたけど。お母様に止められて。」


青いドレス着るパールのような真珠色の独特な髪と瞳を秘めたパールお嬢様が申し訳無さそうに呟く。メルドリン家は人魚の血を引いているという噂がある。メルドリン家の血筋は髪の毛も瞳も真珠色で独特なのである。


「気にしないでパール。私はレースで優勝して戦績をつんでパールと一緒に無事アルナビス騎竜女学園に入学するから。」


アイシャお嬢様はニッコリと微笑む。


「アイシャ·····。」


パールお嬢様の真珠色の瞳がうるうると潤ませる。

微笑ましい程の女性同士の友情である。俺もアイシャお嬢様の為に頑張らなくては·····。

アイシャお嬢様とパールお嬢様の楽しいお茶会は終わり。俺は次のレース、マンゴスチン杯の為の訓練をしていた。

訓練には指導してくれるものはいない。マーヴェラス家の財政は本当に圧迫している。

本来ならレースに出場する騎竜には調教師が付くのだが。その騎竜にあったカリキュラムを組み訓練を行うのだ。だがマーヴェラス家は貧乏である。調教師を雇う金もない。だから俺は独学で竜の身体をきたえているのである。柔らかなおっぱいの感触を背中に味わうためなら日頃の鍛練は惜しまないのである。


    ・・・・・・・・・


ギャッホ ギャッホ

マーヴェラス家の一応広い芝生の敷地を太い竜の脚で疾走する。


殆んど独学で竜の身体を鍛えているのだ。スタートの走り込み。翼の広げるタイミング、飛行中の旋回など取り敢えず騎竜レースで必要な訓練は一通りしている。


『転生具合はどうでしょうか?。』


突然女神アルプスからの通信が頭に入る。あまりにも突然だったせいで駆けている芝生の敷地からづッこけそうになる。

俺はもつれる竜の脚を止め。態勢を立て直し一呼吸する。


嗚呼、問題ない····。気楽にやってます。


ライナ(豊)の心で伝える。

女神の通信は心で会話ができた。

騎竜に転生して楽な人生もとい竜生を歩んでいないが。自ら選んだ路である。悔いもない。寧ろ色んな女性の胸を背中に押し付けてもらえる機会が増えて感謝している。騎竜になって苦はあるが。背中に色んな女性の胸を押し付けてもらえる対価としては安いものである。


『そうですか。もしお困りでしたら相談してくださいね。転生して家柄もそうですが。竜種にも恵まれなかったようですから。』

「別に気にしなくてもいいよ。」


俺が上位種の竜に転生できなかったことには後悔していない。没落な貧乏貴族の家に転生したことにも不満もないし。これからも楽しくレースに優勝して気ままに騎竜生活(ライフ)を楽しむことにする。



『いえ、そうではないんです。竜種の種類が豊様の重荷なると思いましたので。』

?。別に普通(ノーマル)種に転生したことに不便は感じてないよ。


女神アルピスの言葉に竜の長首を傾げ困惑する。


『いえ、いずれぶつかる筈です。レースでの竜種というなの能力の違いの差を。それでは豊様、ご機嫌よう····』


女神アルピス意味深な言葉を残し通信が切れる。豊(ライナ)は特に女神アルピスの残した意味深な言葉を気にせず訓練を続ける。

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