2-2
朝が来る。夜を裂くように、太陽が海の向こうから昇り始め、ありとあらゆるものが白んでいく。かつてこの場所で夏葉と出会った時のことが、とてつもない速さで頭の中を駆け抜けて、そのままこの海の向こうへ行ってしまいたかった。
それなのに、「こんなところで、何をしているんですか?」そんな声で現実に戻って来る。振り返ると、女の子が一人、そこにいた。少女は僕を繋ぎ止めるように僕の手を握って、ジッと瞳を僕に向けてくる。
「別に、何もしていないよ」
思わず「夏葉」と声に出してしまいそうになった。それほど、この少女は夏葉によく似ていた。きっと、歳も僕と同じ位で、夏葉が今も生きていたのなら、こんな風になっていたかもしれないと、そう思えるほどだった。
でも、似ているけれどやはり違う。彼女はこんなにも髪は長くなかったし、こんなにも怯えた表情をするような子ではなかった。
「手、離してくれない?」
「いや、です。離してはいけないような気がします」
弱々しい声なのに、どこか芯の通った声で、弱々しい表情なのに、見るべきものを見ている力強い瞳をしているように僕には見えた。
「それに、ようやく会えたのですから」
「ようやく会えた?」
どういうことだろうか。少なくとも、僕はこの少女のことを知らない。
「遠坂遙生さん、ですよね」
「どうして、」
「どうして名前を知っているのか、ですか? 知っていますよ。あなたのことは、お姉ちゃんから何度か聞いていましたから」
少女はどこか悲しそうに笑みを浮かべる。その笑い方には見覚えがあった。
「戸部夏葉を知っていますよね。夏葉は私の双子の姉です」
「夏葉の、」
夏葉の妹だと、その少女は名乗った。
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