4-5 一人

 居間に入ると、優しい香りが鼻腔を掠め、微かな郷愁を刺激された。

 線香かと思ったが、花の香りのようにも思う。花弁を広げた白百合よりは柔らかで、日向の匂いも混じっている。ああ、と拓海は閃いた。田舎にある祖父母の家と、家の香りが似ているのだ。香りの正体究明には至らなくとも、拓海としては一応の結論が出たので満足だ。

 問題の答えに手が届き、正解を導き出す瞬間が拓海は好きだ。難問にぶつかっても、理解への道筋を見つけた途端、俄然やる気が湧いてくる。受験勉強が苦にならないのも、ゲーム感覚の爽快感が理由かもしれない。

 いくら異様な事件に関わっていようと、拓海達が受験生である現実は変わらない。つい帰宅後の勉強について考えていると、「坂上くん、どうしたの?」と七瀬が心配そうに訊いてきたので、慌てて「ううん、なんでもないよ」とかぶりを振った。

「広い家だな、って眺めてただけ。初めて来たのに、少し懐かしい感じがする」

「ふぅん? ねえ、また難しいことでも考えてたんじゃないの?」

 結構鋭い。拓海は観念して、悪戯っぽく笑う七瀬に苦笑を返した。

 藤崎の案内で通された居間は広く、縁側から日差しが燦々と射し込んでいる。八人程が卓を囲めそうな丸太のテーブルに、手すりに細かい彫刻が凝らされたソファ。唐茶からちゃ色に統一された調度はどれも小粋で風合いが渋く、見上げた天井付近には欄間らんまもある。その一方で、すみ色の縁金具ふちかなぐが艶やかな茶箪笥の天板には、硝子の火屋ほやで囲われた蜜柑色の洋灯が飾られていた。障子戸のある和室には一見そぐわない洋風調度は、不思議と空間にしっくりと溶け込んでいる。

 中でも一際目を引くのが、部屋の隅にある大きな置時計だ。硝子を隔てた薄暗がりの向こう側で、振り子がゆらゆら揺れている。撫子なら『オオカミと七人の子ヤギ』宜しく中へ隠れられるだろう。本人は背の低さを気にしているので怒られてしまいそうな想像だが、撫子が怒ったところなど見た事がない。その場合、拓海を怒るのは柊吾の役回りになりそうだ。

 置時計の文字盤は、一時四十五分を示している。

 約束の二時まで、あと十五分。緊張感がぶり返したが、生来の暢気さのおかげか、さほど息苦しさは感じない。それに、この和室に漂う異国情緒に酔ったのかもしれない。先程まで祖父母の家という感想を持ったことを忘れ、拓海は博物館のような一室を眺め、感嘆の吐息をついた。

「和洋折衷って、こういうのを言うんだなー……」

「そうだね。私はもう見慣れちゃってたけど、久しぶりに来たら、やっぱりちょっと不思議な感じ」

 七瀬は棚に飾られた西洋ランプの傘をつんと指でつついてから、手近な一人掛けソファにバッグを置くなり、ぱっと上着を脱いだ。タンクトップから腕がすっきりと露出しているだけだが、スタイルがいいからか、身体の線が結構出ている。往来を歩けば似たような格好の少女は幾らでもいると分かっていても、拓海は目のやり場に困ってしまった。

「……篠田さん、暑い?」

「ううん。でも、これ着てるのがちょっと嫌」

「え、なんで?」

「……だって。虫、付いたし」

 畳んだ上着をバッグに押し込んだ七瀬が、唇を尖らせる。すると近くで本棚を眺めていた柊吾が、「そんなこと言ったってな……虫が付いたのは、上着よりもそっちの方が」と言いかけて、涙目になった七瀬に睨まれ、慌てて口を噤んでいる。柊吾は七瀬相手になると、失言がやたらと増える気がする。「おい坂上。お前は何を笑ってるんだ」と半眼で凄まれたので、ごめん、と返して笑った時だった。

「藤崎さん、お手伝いします」

 撫子が、涼やかな声で言った。服の裾をさっと翻して動き、居間を出ようとした藤崎の背中を追っている。

 立ち止まった藤崎は、柔和な眼差しで撫子を見下ろすと「では、お言葉に甘えて手伝ってもらいましょうか。雨宮さん、甘いものはお好きですか?」と楽しげに訊いた。撫子はきょとんとしてから「好きです」と答え、満足げな顔をした藤崎とともに、台所が見える隣の部屋へ歩いていく。

「あ、師範、撫子ちゃん。私も手伝う!」

 七瀬も二人を追おうとすると、振り返った藤崎が「七瀬さん、シャワーを使ってもいいですよ」と突然に言った。拓海と柊吾は、ぽかんとした。

「タオル類は、以前と同じ所にありますから。自由に使って下さい。服も、幸いにして用意がありますよ。良かったですね、お祭りの時期で。屹度きっと、気に入ると思いますよ」

「え、それって……師範、まさか」

 七瀬の顔色が、明るくなっていく。芋虫騒動で気落ちしていた表情に喜色が射して、瞳がきらきらと輝いた。

「いいのっ? 師範、ほんとにいいのっ?」

「ええ。着付け、七瀬さんは出来ましたね?」

「うん!」

 強く頷いた七瀬は「ありがと! 師範、大好き!」と言って、弾けるような笑顔を星屑のように振り撒いて、拓海と柊吾の間を風のようにすり抜けた。

「お、おい、篠田っ? どこ行くんだ?」

 柊吾が状況について行けない様子で声を掛けると、「坂上くん、二階に行くのちょっと待って、十五分!」と叫び、柊吾にはろくに返事もせずに、軽やかな足取りで去っていった。後には茫然とする拓海と柊吾が、ぽつんと居間に残された。

「うん、分かった、けど……え、シャワー? 篠田さん?」

「なんなんだ、あいつ……風呂にでも入る気か? 今から?」

「さあ……そうなんじゃないかな」

「……」

 居心地の悪い沈黙が生まれ、二人で石像のように突っ立っていると、背後から忍び笑いが聞こえてきた。藤崎が台所へ続く扉から身体を半分覗かせて、肩を震わせて笑っている。薄い唇の隙間から、白く並んだ歯が見えた。楽しそうに笑う人だな、と。拓海は自分が笑われている事を忘れて、暢気な感想を抱いた。

「七瀬さんの虫嫌いは筋金入りですからね。本当は家に帰ってシャワーを浴びなければ気が済まないほど厭なところを、相当に我慢していたと思いますよ」

 歳は、五十代前半だろうか。道場の師範を務めているだけあって、白シャツの袖から伸びた腕は健康的に引き締まり、少しだが日焼けもしている。背丈は拓海より若干高いくらいだが、身体に棒を入れたかのような姿勢の良さも相まって、人好きのする容貌には、穏やかさとは対照的な凛々しさもあった。

 藤崎克仁ふじさきかつみ。七瀬の師範。――呉野和泉と、通じる男。

「どうしましたか、坂上君」

「あ……いえ。すみません」

 視線に、すぐに気づかれた。藤崎は拓海の動揺に拘泥せずに、静々と居間に入ってきた。逞しい手には茶色の盆があり、オレンジジュースで満たされたグラスが三つ、行儀よく載せられている。透明なグラスはうっすらと汗をかいていて、氷がかろんと涼しげな音を立てた。

 グラスの数が三つなのは、シャワーを浴びてくるという七瀬の分を抜いているのか。それとも、もうじき二階へ離脱する、拓海の分を抜いているのか。

 判断に困って立ち尽くしていると、「坂上君、どうぞ掛けて下さい」とソファを勧められたので、これは拓海の分だったらしい。「はい」と軽く頭を下げてから腰掛けると、伽羅きゃら色の毛糸編みのカバーが掛かったクッションは、ふかふかしていて柔らかかった。対面に柊吾が座ったところで、撫子も台所から戻ってきた。華奢な両手には藤崎同様に茶色の盆があり、こちらにはかき氷が載せられていたので、「わ」と拓海は思わず声を上げた。

 透明な器に盛られたふわふわの白雪は、アイスクリーム、白玉、餡子あんこで飾り付けられていて、頂にはサクランボまでちょこんと得意げに鎮座している。喫茶店のショーケースから取り出してきたような甘味の銀嶺ぎんれいだった。恐縮した拓海が「ありがとうございます」と礼を述べると、柊吾も詫びるような目を藤崎に向けた。

「なんか、すみません。俺ら、坂上についてきただけなのに」

「いえいえ。道場の子がよく遊びに来るものですから、用意だけはいつも整えているのですよ。れに、君達は七瀬さんのお友達ですからね。お気になさらず」

 丁寧に述べた藤崎は、屈託なく笑った。

 驚くほど、腰の低い人だ。相手が中学生であろうと、慇懃に接してくれている。それが少しだけ新鮮で――その喋り方が、気になった。

「……」

 拓海は面識こそなかったが、特徴や個性について、柊吾と七瀬から説明を受けている。この小さな符号に、果たして意味はあるのだろうか。あるいは、拓海の勘ぐり過ぎだろうか。根拠のない疑惑を持った事に、拓海は後ろめたさを覚えた。

 少なくとも、目の前の男は拓海から見て善人だ。藤崎の顔にも行動にも、悪意や害意は感じられない。かき氷のシロップを選ぶ柊吾と撫子を見る瞳には、自分の子供の成長を見守る父母のような慈愛があった。そんな藤崎だから、七瀬にも慕われているのだろうか。

「……」

 もう少し、思考を練った方がいい。その方が、いざ藤崎へ質問をぶつける時に、無駄のない問答ができるだろう。そう拓海が作戦を立てていた時だった。

 不意に――藤崎が、穏やかに、淡々と、拓海に告げた。

「君は、私が呉野氷花さんをお預かりしている事が、不思議で、不思議で、堪らないのでしょう? 私の喋り方が、君達の知る〝誰か〟を彷彿とさせる事も」

「……」

 拓海は、口を利けなかった。対面では、柊吾がイチゴシロップを取り落としている。撫子だけは特に表情を変えなかったが、聡明に澄んだ琥珀色の瞳が、藤崎の動向を注意深く捉えている様子が見て取れた。

 じじじじじ……と、蝉の大合唱が、居間を満たす。喋る者がいなくなると、先程まで意識さえしなかった障子窓の向こうの喧噪が、生々しい沈黙を埋めていく。

 沈黙の質の急速な変化に、藤崎はすぐさま気づいたらしい。藤崎がこの時見せた笑みは、ひどく薄幸なものだった。目元に笑い皺とともに刻まれた情感を、拓海はなぜ寂莫感だと思ったのだろう。理由は分からなかったが、初老の男の浮かべた笑みを、泣き笑いだと思ったのだ。

「私はあの子の親代わりですが、親ではありませんからね。本来の親としての役割を、私が全て埋められるとは思っておりません。其れに、果たしての関係を家族だと豪語して良いものなのか、の距離感もいまだに掴みかねています」

「……」

 柊吾が口を開きかけたが、唇を噛んで、拝聴の姿勢を保持している。どことなくもどかしげな顔つきになったので、気づいた拓海は息を詰めた。

 柊吾の家庭事情について、拓海が知ったのは最近のことだ。ひょっとしたら母親が、柊吾の伯父に当たる人物と、再婚するかもしれないという。

 拓海の目には、柊吾がその祝い事を喜んでいるように見えた。だが、本音はどうだか分からない。それこそが本音なのだと薄々気づいてはいたのだが、感覚的な理解を鵜呑みにして良いものなのか、拓海にはまだ自信がなかった。

 氷花の生い立ちについては、母子家庭で育った柊吾が一番、理解や共感ができるのかもしれない。氷花への怨恨が強い柊吾こそが、最も仇と近い考え方ができるのは、皮肉な巡り合わせに思えた。拓海は覚悟を決めて、口火を切った。

「……。呉野氷花さんと暮らすようになって、何年になりますか」

 柊吾が、驚き顔で拓海を見た。撫子はやはり表情を変えなかったが、目が合ったので、拓海の内心を汲み取ってくれたのだと分かる。

 ――会話の舵は、拓海が取る。こういった積極的な役回りはあまり得意ではないが、この局面は柊吾ではなく、拓海が出るべきだと思ったのだ。

 その為に、拓海は藤崎克仁邸を訪れたのだから。

 藤崎は、温和な眼差しで拓海を見ていた。そして、特に考える素振りは全く見せず、それでいて言葉を選ぶように黙考してから、よく通る低い声で、拓海の質問に答えてくれた。

「あの子が、六歳の時です。もう九年になりますね」

 柊吾が息を吸い込んで、「六歳……っ?」と声を上げた。

「呉野は、そんなにも幼い時から、親がいなかったんですか」

「ええ。両親を一時に亡くしてしまいましたから。親戚もおらず、私の家で預かっています。戸籍上は呉野神社の神主さんの家族ですが、彼女は勘当を言い渡されています。勘当と言っても、言葉の上でのことですが。そんな経緯から、私の家の預かりとなりました」

「どうして、藤崎さんの家で預かる事になったんですか」

 拓海は、柊吾に先んじて言葉にした。ショックを受けたような表情の柊吾を、撫子が気遣わしげに見上げている。そんな少年少女の様子を気にかけるように、藤崎は目を細めた。

「私が呉野神社の神主さんと親交があるからですよ。旧知の間柄だからこそ、可愛いお孫さんの仮住まいとして、信頼を置いて下さっているのだと思いますよ」

「……神主さん?」

呉野國徳くれのくにのり。私の友人です。氷花さんの祖父に当たる方です」

「……勘当の理由を、教えて頂けませんか」

 拓海は、慎重に訊ねた。質問の不躾さは、百も承知だ。藤崎の機嫌を損ねたことで答えが得られない場合は、用意していた言葉を言うつもりだ。

 ――氷花の〝言霊〟について、藤崎に暴露する。

 そうする事は、全員で話し合って決めていた。〝言霊〟について藤崎がどの程度知っているのか、探る意味も含んでいた。心臓の鼓動を意識しながら、拓海は口を開いたが――ふ、と吐息のような笑い声に、拓海の〝言挙げ〟は止められた。

 皺の刻まれた手の平が、すうと制するように伸ばされる。

 それが何を意味するのか、拓海はすぐに理解した。

「あ……」

 ばっ、と弾かれたように置時計を振り返ると、柊吾と撫子も気づいたようで、「あ」と放心の声が上がった。

「坂上君。此方こちらから話を振っておきながら、申し訳ありません。時間になりました。続きは、二階で話しましょう」

 藤崎は、盆に拓海の分のかき氷とジュースを載せて、持ち上げた。拓海は慌てて「俺、自分で持ちます」と申し出たが、「お客様ですから。此方へどうぞ」と答えた藤崎は、先程入ってきた玄関扉に続く廊下へ出ようとする。

「坂上」

「坂上くん」

 柊吾と撫子が、口々に拓海を呼んで、立ち上がった。近寄ってくる二人を振り返った拓海は、淡く笑った。不安はあるが、今は笑顔でいたかった。強がりという立派なものではなく、単純に、二人には安心してもらいたかったのだ。

「三浦、雨宮さん……篠田さんに、十五分、待てなくてごめん、って伝えてくれないか? 待ちたかったけど、時間だから」

「十五分ならもう経ってる。間に合わせられなかった篠田が悪い。それより」

 柊吾が撫子に目配せすると、頷いた撫子が、ポケットから携帯を取り出した。

「何かあったら、かけて。すぐに出るから」

「それに、大声出せ。上の部屋に飛び込むから。いいな?」

「……ん。ありがとな。二人とも。……じゃあ、行ってくる」

 待たせていた藤崎を振り返ると、中学生達の無礼なやり取りが聞こえていただろうに、藤崎は笑みを崩さなかった。ただ、少しだけ寂しげな声で、こう言った。

「……イズミ君は、いい子ですよ。多少、人を食ったようなところは見受けられますが、あの子は心根の優しい、いい子です。……私は屹度きっと、誰よりも、れをよく知る者のうちの一人ですからね」

 意味深な、台詞だった。掘り下げて質問したい気持ちに駆られたが、拓海は言葉を呑み込んだ。二階に着いてからでも、同じ質問はできるはずだ。

「……ご案内します。行きましょうか」

「はい」

 居間を出て、襖を閉める。狭まっていく隙間の向こうで、柊吾の厳しい表情と、撫子の心細そうな表情が見えた。ぱたん、と呆気ない音がしじまに響くのを最後に、蝉の大合唱が遠くなる。一気に真夏の喧騒が失せた廊下はしんと冷たく、薄暗く、玄関扉の小窓から入る明かりは、対照的にぼうと白い。外はきっと、まだ暑い。

「階段を上って、左へ。突き当りの部屋です」

「はい」

「坂上君。あの子を、頼みました」

「……え?」

 藤崎は拓海を振り返り、薄く笑った。やはり寂しげな微笑だった。まるで、何かを諦めたような。

「さっきもったように、あの子は心根の優しい、いい子なんですよ。我儘を呑んでくれた君には、感謝しています。大人のする要求ではないというのに、無茶を聞いてくれて、有難う」

「……いえ。こちらこそ」

 拓海は、首を横に振る。藤崎の「あの子」という言い方も引っかかり、据わりの悪さを覚えてしまった。質問したいことが増えたが、全てはきっと、二階に行かなければ始まらない。拓海は藤崎の背中についていく。

 玄関扉の向かいに伸びた階段は、年季を吸収したかのように黒々としている。高い位置にある吹き抜けの天井に、薄闇がわだかまっていた。窓からの外光をとろんと照り返す階段は、一段上がるごとに負荷で軋る。無性に、喉を潤したくなった。結局、ジュースもかき氷も口にしていない。拓海は救いを求めるように、ズボンのポケットへ手を伸ばした。

 携帯と定期ケースを、そこに入れていた。携帯に関しては七瀬の物だ。今朝、七瀬を自宅まで迎えに行った時に預かったのだ。

『何かあったら、これで撫子ちゃんと連絡を取って』

 そう言って、七瀬は携帯を持っていない拓海の為に、自分の携帯を差し出した。

 柊吾達は一階にいるのだから、万一危険が迫ったとしても、大声を出せば事足りる。それでも七瀬や撫子が携帯に拘るのは、『鏡』の事件で携帯が役に立ったからだ。きっと使わずに済むだろうが、気遣いが嬉しかった。

 それに、拓海には〝お守り〟もある。状況が不審だったから全員が疑り深くなっただけで、本当は最初から、怖がる理由などどこにもないのだ。

「坂上くん」

 不意に、階下から声が掛かった。

 ちょうど階段を上がりきった拓海は、手すりから一階を見下ろし、息を呑む。

「……いってらっしゃい。気をつけて」

「……ん。行ってきます」

「うん……待ってる」

「篠田さん」

 拓海は、階下に向けて、そっと囁いた。

「浴衣、似合ってる」

 七瀬の小さな息遣いが、森閑とした廊下の薄暗がりに、ひっそりと響く。「此方こちらですよ、坂上君」と藤崎に呼ばれたので、拓海は名残惜しさを振り切ると、先を行く藤崎に続いて、廊下の突き当たりの部屋を目指す。

 呉野氷花の、部屋を目指す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る