プロローグ 蘿蔔美咲3

「つ゛か゛れ゛た゛…」


ホームルーム直前、担任がやって来る前の僅かなこの時間。

周りの生徒達は仲が良い連中と集まり和気藹々と雑談に講じているなか

私はというと身体に溜まっている疲労を少しでも解消しようと机に突っ伏していた。


いや

結論から言うと間に合った。

間に合った訳だけれども…


どうやっても間に合うはずがない距離をそこは気合いと根性、後は地元民特有の近道を使いに使い(詳細は割愛)集合時間ギリギリに何とか到着できた!のだが

辿り着くまでに全ての体力を使い果たしてしまったのだ。その上、の持ち物検査である。

最早私がこうなるのは必然だった。


「大丈夫、美咲?」


声と共にポン、と突っ伏している私の肩を誰かが軽く叩いた。


「もう、無理…」


なけなしの力で返答し、声の主に目を向ける。

友人である滝谷舞が私を気遣う様な目で見ていた。


「その感じだと今日は特にギリギリだった感じか」


な、何故バレたし…


「いや、こんなんしょっちゅうじゃん」


と、私の目から言いたいことを察したのか舞がそう返してきた。

失敬な!しょっちゅうじゃないわよ。精々、月一…!


「月一はしょっちゅうでは?」


また読まれた。


「はい…」私は即座に降参した。


等々、くだらない世間話を繰り広げていると


-----ガラララッ-----


と教室の扉の開く音がした。

教師が来たのかと思い教室が一瞬しん、と静まりかえる。

と、その中を意を返さずフラフラと一人の男子生徒が入って来た。顔は青白く頬は心なしか痩せこけている様に見える。

教師ではないと分かると各々はまた会話を再開し、教室はさっきまでの喧騒を取り戻した。

その中をやはり意を返さずにフラフラと進み、窓際最後尾の自分の席であろう椅子に着席。同時に突っ伏した。図らずも私と同じ体勢だ。


そこまでの一部始終を横目で私と一緒に見ていた舞が呟いた。


「狩谷君また遅刻だよ。最近多いよね。」

「最近というか毎日だけどね。」


遅刻常習犯でサボリ魔というのが彼と今まで同じクラスだった生徒達の総評だった。

名前は連太郎だったっけ?

男子の名前なんて苗字しか覚えていないが、彼のフルネームを記憶していたのは風紀委員であるが故だった。


実際月一の持ち物検査で彼の姿を見た事がないし、

いつのまにか教室からいなくなってたり、

いつのまにか戻ってたりとそりゃあまあ要注意生徒なので会議の時もちょくちょく名前が上がるのだ。


「体調悪いのかな?顔も青いし…」


「それもほぼ毎日でしょ。徹夜でゲームでもしてるんじゃないの?」


等と気遣う友人の言葉に茶々を入れている内に今度は本当に教師が入って来た。


舞が「それじゃあね」と周りの生徒と同じ様に自分の席へと戻っていく。それに手を振り返し私はふと横目で狩谷君を見た。

見事に突っ伏していたこのまま熟睡コースかこの野郎。

彼みたいにはなるまいと、私は気合いを入れて教科書を開いた。



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