冒険者という職業 2
ほどなくして四人の中で唯一の女性冒険者が、ある依頼を発見し小さく声を上げた。興奮気味に依頼書を止めていたピンを素早く外すと、ウキウキした様子で仲間のもとへと駆け寄っていく。
仲間の三人も、その依頼書を見て明らかにテンションを上げている。
その後また吟味を再開したが、四人はすぐに掲示板の前を離れカウンターの列へと並んだ。
見つけた依頼がよほど良いものだったのか、列に並んでいる間も四人は楽し気に会話を弾ませていた。しばらくして順番が回ってくると、リーダーと思われる背の高い青年が依頼書をカウンタ―へと置く。
受付の若そうな女性職員は四人に微笑みかけると、髪を耳にかけながらスッと視線を依頼書に落とした。
慣れを感じる仕草だが雑さはない。表現するなら『洗練された』という言葉がしっくりくる動作だった。
女性職員の胸には、ミリエラ・スエルと表記された名札が付いており、名前の横には副主任という記載もある。
尖った耳に切れ長の目、肌が白く目や髪の色素も薄い。それだけでエルフに近しい種であることが見て取れる。二十代そこそこに見える外見だが、経験豊富なベテランなのだろう。
ミリエラはざっと文面に目を通してから顔を上げ、またニコリと微笑んだ。
「明水露鉱石の採取依頼ですね、冒険者カードの提示をお願いします」
そう言われ、青年は「はい」と返事をしながらあらかじめ用意していたカードをカウンターに置いた。
冒険者カードは手のひらサイズの長方形で、表面には冒険者の登録番号、ランクとクラス、名前、年齢、冒険者として活動している年数、性別、種族が表記されている。
ミリエラは微笑みを浮かべたままその内容を確認すると、小さく頷いてから顔を上げカードを青年の前に戻す。
「ガナット・レティー様ですね、確認お願いします」
その言葉を受け、ガナットと呼ばれた青年は右手で自分のカードに触れる。そしてカードに魔力を流し込むと、印字された文字が青白く発光した。
冒険者カードの印字には登録者本人の血を混ぜたインクが使用され、偽造防止の付与魔法が施されている。こうして登録者本人が微量の魔力を流し込むと、血を混ぜたインクでの記入部分が反応するようになっているのだ。
「確認結構です、それでは少々お待ちください」
印字の発光を確認したミリエラは、カードをガナットに返し席を立つ。そしてカウンターの背後にずらりと並んだ棚へと向かうと、棚の仕切りに表記された文字を確認しながら紙の束を取り出した。
この紙は冒険者経歴書と呼ばれ、冒険者カードと同じ記載のほかに、さらに細かなプロフィールや過去に受けた依頼の情報などが細かく記載されている。
ミリエラはそれを持ってカウンターへ戻ってくると、経歴書の束を四つに分けてガナットたちに声をかける。
「今回もパーティーでの受注ですか?」
「はい、そうです」
「かしこまりました。それでは皆さんもカードのご提示よろしいでしょうか」
ミリエラに促され三人がカードをだすと、ガナットの時と同じように本人確認が行われる。
三人の本人確認を終えカードを返却すると、ミリエラはパーティー経歴書と依頼書を見比べながら口を開いた。
「パーティーランクはD4ですね、依頼ランクはD3ですので通常受注が可能となります。受注前に本依頼の注意点を確認しますか?」
「いえ、何度か受けた依頼なので大丈夫です」
「かしこまりました、それでは手続きを行いますので少々お待ちください」
ミリエラはガナットの答えに微笑むと、経歴書に必要事項の記入を始めた。
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