冒険者という職業 1

 夜明けを迎えた冒険者ギルド・レーテル本部のギルドホールは、今日も今日とて通常運転を続けていた。


 フロアの各所に配置された魔導灯の明かりは消され、代わりに均等に並んだ大きなガラス窓から朝日が差し込んでくる。数本の太い柱が影を作り、ホール内にくっきりとしたコントラストを生んでいた。


 夏も終わりが近付き夜は過ごしやすい日も増えてきたが、日光に暖められたホール内は少し暑さを感じる気温になっていた。


「パティ、窓開けて。全開で」

「あ、はーい」


 先輩の指示を受け、新人とおぼしき女性職員が窓を左から順に開けて回ると、涼やかな風がホールに吹き込み一階フロアに広がっていく。


 一見すると心地よい晩夏の一幕といった雰囲気だが、このギルドホールに関していえば、そんな爽やかさ、もしくは哀愁といった情緒は微塵も感じられない。

 

 まだ早い時間だというのに、二十台用意された依頼斡旋・報告受付カウンターには、すでに多くの冒険者たちが列を作っていた。

 仲間と談笑する者や一人仏頂面を浮かべる者など様々だが、その多くが手に依頼書を持ち自分の順番を待っている。


 広々とした一階フロアには椅子や机は置かれておらず、左右の壁にそれぞれ三枚ずつ依頼書を貼り出す掲示板が設置されている。


 ホールに入って右手の壁にはFからDまでの下位ランク依頼が、左手の壁にはCからAまでの上位ランク依頼が貼りだされている。どちらも手前から奥に行くに従いランクが上がっていき、どの掲示板の前にいるかで冒険者のランクも大体把握することができる。


「これ全部Dランクね、お願い」

「はい、分かりました!」

「ロイ、いつまでやってんの!? 早く貼りだし行って!」

「はいっ、すいません!」


 せわしなく職員が走り回り新しい依頼が貼りだされると、すぐに冒険者たちが群がってくる。


 依頼を貼り出す時間は決まっていないが、日に何度か掲示板を整理しまとめて依頼が貼りだされる時間がある。

 その一つである早朝は、こうしてギルドホールが冒険者で溢れるのだ。


 そんな中、ギルドホールの飾り気のない重厚な両開き扉が開き、また冒険者たちがギルドホール内へと入ってきた。

 その冒険者たちは四人組で、男性三人に女性一人の組み合わせだった。見たところ、みな二十代前半くらいだろう。


 どこの冒険者ギルドでも、所属している冒険者の多いランクは大体同じである。まずEランクとDランクがもっとも多く、次にFランク、そしてC、B、Aと順番に所属人数が減っていく。


 そんな訳で下位の依頼が貼りだされる右手の掲示板は、いつもすごい混雑ぶりを見せるのだ。より良い依頼を確保しようと冒険者同士で諍いも起こり、職員が止めに入ることも珍しくない。


 四人組の冒険者たちはフロアを見渡すと、出遅れてしまったという感じに少し顔を歪める。

 しかしすぐ右手の壁に向かっていくと、慣れた様子でDランク依頼が貼りだされた掲示板の前で足を止めた。


 そして先に来ていた冒険者たちと軽く挨拶を交わしてから、横に広がりそれぞれ依頼の吟味をはじめた。

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