第6話 一網打尽
「なんでお前らがいるんだよ……」
俺は十人以上のサキュバスとインキュバス一緒に倒れている、4人の仮面姿の中年オヤジたちを前にこめかみを押さえた。
あの日。ルリアと共にバルバラたちを隷属させた俺は、桜島に戻ると本来の姿に戻ったルリアたちサキュバスとインキュバスを恋人たちに紹介した。もちろん全員に阿久津公爵家の領民に対し身の危険を感じた時以外、魅了を含むあらゆる攻撃を禁止してある。
その際にティナからおおまかな話を聞いていたリズたちに、ルリアとした契約の話をしてこの世界にいる残りのサキュバスたちも殺さず捕らえないといけないことを説明した。相変わらず女に甘いみたいな目で見られたけど気にしない。これは魔界侵攻をスムーズに行うために必要なことなんだ。うん。
ティナたちはこれがサキュバスかって興味深く見ていたよ。肉感あふれるスタイルや、男女関係なく全員が妙に色気のある雰囲気を出していることに感心してた。言われてみればまだ若いインキュバスが妙に色っぽく見えてさ、ついつい見つめちゃったよ。まあ同性が好きな男もいるからそういう風に訓練されているんだろう。俺にその気はないけど。
そん時にリズが”コウのことだからよ、わざとサキュバスに魅了されてみたりしたんじゃねえのか? ニャハハハ!”とかとんでもないことを言いだした。すると隣でルリアがビクってなって俯いたもんだから、俺は慌ててそんなはずないだろと呆れた風を装って答えた。声は震えていなかったと思う。
バクバク鳴る心臓を落ち着かせつつもこれ以上は危険だと感じた俺は、ルリアたちを魔人の姿にさせたあと、とりあえず隔離すると言って小型飛空艦に乗せて桜島の東にある小さな温泉宿に移動させた。ここは交通の弁が悪く宿も小さいことから、つい最近営業を休止したばかりの宿だ。そこにルリアたちを入れ、食料の入ったマジックバッグを渡してその日は別れた。
家に帰るとメレスとリリアに魔帝とアルディスさんへは俺からタイミングを見て話すから、それまでサキュバスのことは内緒にしておいて欲しいと頼んだ。メレスたちは魔帝が知ったらサキュバス狩りが始まると思ったのか了承してくれた。俺は内心でほくそ笑んだ。
翌日ルリアたちのところに行き、魔界のことやサキュバスのことを聞き出した。その結果、魔界のことはナンシーから聞いていたこととそれほど大差は無かった。地球より遥かに狭い土地に魔王がいて、その下に四魔将がそれぞれ領地を持っており、さらにその下に配下の悪魔たちがいる。そして帝国と同じく貴族社会で、知能の高い悪魔同士での貨幣制度もあるとかそんな感じだ。
サキュバス族に関しては完全に女尊男卑社会で、ルリアたちの母である族長をトップにまとまっているそうだ。数もサキュバスが5千、インキュバスが2千ほどらしい。そう、魔界には5千人のサキュバスがいる。恐らくそのうちの2千人くらいはルリアたちと同じ若いサキュバスだと思う。2千人……
そして吸血鬼族との関係だが、完全に隷属しているようだ。そうしないと武力の低いサキュバス族は、他の悪魔に滅ぼされるか愛玩動物になるので仕方ないらしい。その吸血鬼族のサキュバス族にての対しての扱いだが、定期的に血を吸われに行くそうだ。といっても純粋な吸血鬼の数は500人程度と少なく、その眷属には吸わせなくていいようなので持ち回りでやればそれほど負担ではないらしい。
まあ吸血鬼も馬鹿じゃないから死ぬほど血を吸うことはないだろうしな。サキュバスが減ったり離反したら損するのは自分たちなわけだし。血を吸わせる以外では用があった時に呼び出され、命令を受けて精鋭部隊がほかの四魔将のとこに潜入して情報収集をさせられるそうだ。ルリアたちが今回その任務に就いたというわけだな。そのほかの者たちは薬草や果樹園の栽培などをしたりして生計を建てているらしい。
吸血鬼のエサ兼偵察要員かつ労働力って感じだな。血を吸われることに抵抗がないのは何千年もそうしてきたからそれが普通だと思っているのか、もしくは愛玩動物よりはマシと考えてるからだろう。
それにしてもエサとしてサキュバスから血を吸うなんて許せんよな。これは俺が救うべきだろう。純粋な吸血鬼はかなり強いらしいけど、たった500人だしなんとかなると思う。皆殺しにして俺がサキュバスたちの新しい庇護者になるべきだと思う。そうするべきだな、うん。
ひと通り話を聞いた後、ルリアたちには食料は定期的に運ばせるから、しばらく温泉にでも入ってくつろいでくれと言ってその日は別れた。意気消沈しているルリアとバルバラたちを見ているのも辛かったし、なにより7人のサキュバスを前に話しているとムラムラしてくるんだ。どうも彼女たちの体臭にはそういう効果があるらしい。旅館に食料を運ばせるのは獣人の老人にした方が良さそうだ。
そして翌日以降も日中に領民の蘇生を終えた後、ちょくちょくルリアのところに顔を出した。ルリアもバルバラたちも温泉を気に入ってくれたようで、初日に比べれば少し元気になっていた。
でも姉のヒルデガルドをどうするのかと心配していたので、俺はもうそろそろやるかと思ってアルディスさんに電話した。そして帝城にサキュバスが潜入しており、魔帝が籠絡されている可能性が高いと深刻そうに話した。アルディスさん激怒してたな。
それから半日もしないうちに帝城が半壊したって連絡が入った。魔帝? なんかボロボロになった状態でアルディスさんにどこかに連れられたらしい。多分アルディス湖に帰って搾り取られてるんじゃないかな。その証拠にメレスはしばらく俺のところで寝泊まりするようにと、そうアルディスさんに言われたらしい。それを聞いて俺は一石二鳥だなと上機嫌になった。
んで目的は達成したことだし、そろそろヒルデガルドとその配下の者たちも捕らえることにした。まずは連絡係のインキュバスを使いヒルデガルドの居場所を調べさせ、帝都を攻めるからという理由で呼び寄せることにした。
そして大陸の阿久津公爵領の飛空艦発着場で待ち構え、降りてきたヒルデガルドらしきサキュバスとインキュバスたちを滅魔で一網打尽にしたんだが……
「ベルンハルト……なんでお前らがここにいるんだよ」
俺はサキュバスとインキュバスと共に、目の前で魔力を抜かれ倒れている配下の黄金の仮面をした魔人にこめかみを押さえながら話しかけた。
いや、なんでコイツらがサキュバスと一緒にいたのかは予想はついてはいる。魔帝に近い者が籠絡されたというのはコイツらのことだったんだろう。
「ぐっ……いきなりなにをするんじゃアクツ」
「何をするんじゃじゃねえよ……お前こそ何をしてんだよ」
確か休暇を取って帝国観光に行くとは聞いていた。ジャマルとの戦争では最前線で頑張っていたし、故郷をゆっくり見物させてやるのもいいかなと思って仮面を外さないことを条件に許可した。
それがまさか帝都にいるとはな。悪趣味な仮面姿でよくあんな人の多い帝都を歩けたもんだわ。というかサキュバスもよくこんな変な仮面をしてる奴らを籠絡しようと思ったよな。
「何をじゃと? 愛するヒルデガルドとナニをしようがワシの自由じゃろが」
「そんなこと聞いてねえよ色ボケジジイ! 」
俺はあまりにもつまらない返しにベルンハルトの腹を踏みつけた。
「ぐえっ! 」
「「「ベルンハルト様! 」」」
「お前らもお前らだ。全員サキュバスに籠絡されやがって」
お付きの4人全員籠絡されるってどうなんだ? コイツら全員SSランク以上だぞ?
「サキュバスがなんだというのじゃ。愛に種族の壁など関係……グエッ! 」
「やかましい! サキュバスは悪魔だろうが! 魔人は一度酷い目に遭って……ああ、お前らの時代じゃないか」
初代だもんな。サキュバスに帝国が混乱したのはずっと後のことか。それじゃあ知らないのは仕方ないが、それにしたって地球にいない種族だと思わなかったのかね。いや、ルシオンと同じで完全に隷属させられたことで、そこまで思考が行かないようになっているのか。
「うっ……ルリア……バルバラ……これはいったい……くっ、身体が……」
ベルンハルトを再び踏みつけていると、うつ伏せで倒れていた栗色の長い髪をした女性が顔を上げた。そして俺の隣で悲しそうな顔をしているルリアとバルバラへと話しかけた。
「アクツに魔力を抜かれてそうなってるの。ごめんなさいヒルデガルド姉様」
ルリアがそう泣きそうな顔で謝った。
そうか。彼女が長女のヒルデガルドか。少し垂れた目に泣きぼくろとか色気が凄いな。それにルリアたち同様におっぱいが大きい。お尻もなかなか柔らかそうだ。この身体をベルンハルトが……くっ、なんてうらやまけしからんのだ!
「魔力を!? そんなことが本当に……」
「アクツにはできるのよ。騙してごめんなさい姉様。でも仕方なかったの。私たちはアクツに隷属させられて逆らえないのよ」
ヒルデガルドの疑問に今度はバルバラが答えた。
「れ……隷属? バルバラ、それはどういうことなのです? 」
「こういうことだ」
俺は聖剣を取り出し、驚いているヒルデガルドとその配下のサキュバスとインキュバスに向けて魂縛のスキルを放った。
「え? な、なんですかこの黒い霧……あうっ! んああぁぁぁ! 」
「ヒ、ヒルデガルド! アクツ貴様! ワシらだけではなく愛するヒルデガルドにまで! まさか無理やり命令してワシから寝取るつもりか! 許せん! 」
「黙ってろ、命令だ」
「なんじゃと! これが黙っていら……ぐあぁぁぁぁ! 」
「馬鹿が……」
ほんと俺に隷属している自覚がねえよな。それに寝取るとかとんでもねえ言い掛かりをつけやがって。
しかしこのヒルデガルドは苦しむ姿すら色っぽいな。
俺は眉間に皺を寄せ、魂が縛られる苦しみに耐えているヒルデガルドの表情に思わず生唾を飲み込んだ。
こんな女性に誘惑されたら思わず……ハッ!? いかん! ベルンハルトと兄弟とか冗談じゃない!
「ハァハァハァ……いったい私たちに何を……」
「魂を縛り隷属させた。俺の命令に逆らうと魂が縛られ地獄の苦しみを味わうことになる。そこのジジイみたいにな」
魂を縛り終え、すがるような目で俺を見上げるヒルデガルドへ、苦しみでのたうち回っているベルンハルトに視線を向けそう答えた。
ほんとイチイチ色っぽいな。
「そんな……」
「というわけで命令だ。ベルンハルトたちに掛けた魅了を解け」
「姉様もみんなも言う通りにして! 」
「ルリアの言う通りよ。早く解いて。命令に逆らうと本当に苦しいの。死んだ方がマシと思えるほどに……」
「わ……わかりました」
ルリアとバルバラの言葉に、ルデガルドとその配下のサキュバスは素直にベルンハルトたちに掛けた魅了を解いた。
といってもベルンハルトたちに特に変化は見えない。ルシオン同様に一度でも完全に隷属してしまうと、元の正常な思考に戻るには時間が掛かるらしいからな。もちろんもう命令を聞いたりはしないそうだが、どうしてもサキュバスの肉体への依存は残るそうだ。確かにあんな気持ちいい思いを長期間すれば、なかなか忘れられないだろう。隷属してない俺だってもう一度したいと思うくらいだ。まるで麻薬だな。
一昨日帰ってきた和田も、ルシオンの感度が悪くなっていて大変だったって言ってた。でも最終的にはルシオンをドMにすることで目を覚まさせたらしい。それを聞いてそれは目を覚まさせたんじゃなくて、目覚めさせたんだろとツッコミたかったが、和田のやりきった感溢れる表情を見て何も言えなかった。まあサキュバスの肉体の感覚的な快感を精神的な快感で上書きしたということだろう。荒療治もいいとこだな。
しかしあの俺様野郎のルシオンがドMか……うえっ、想像したら気持ち悪くなった。忘れよう。
その後、俺は魅了を解いたヒルデガルドとその配下の者たちに、桜島の旅館に繋げたゲートを潜るように命令した。そしたらベルンハルトが付いて行くってうるさかったから、欧州でダンジョンから出てきた魔物の残党狩りをするように命令した。そしたら行きたくないだの鬼だの悪魔だのと文句を言いながらも、リチャードたちに引きづられて飛空艦に乗って向かっていったよ。
アイツわかってんのかね? あのままだったら俺と敵対して、サキュバスと俺のダブル隷属効果で地獄の苦しみを永遠に味合わうことになるかもしれなかったって。わかってないだろうな。
俺はため息を吐きながらベルンハルトたちを見送り、罪悪感で落ち込んでいるルリアとバルバラを慰めつつゲートを潜るのだった。
さて、魔界侵攻の時までにこのサキュバスたちをどうするかな。俺の野望のためには隷属したからではなく、心から味方になって欲しいんだけどな。そして魔界にいる一族を取り込みたい。
時間はある。じっくり考えるとするか。
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