第9話 ニートと恋と緊急放送
—— 東京地区 南武百貨店屋上 星夜女子学園2年 広瀬 ルリア ——
『もう駄目だ! 防火扉が破られる! 』
『ここに剣か槍は置いてないのかよ! 』
『このデパートは正規の避難施設じゃないからそんな物は配備されていない! ランク持ちなら素手でどうにかしてくれ! 』
『オークやオーガ相手に素手でどうにかできるもんか! そもそも俺はゴブリンしか倒したことがないんだ! 』
『と、トレジャーハンターやデビルバスターズの人はいないのか!? 』
『街にいる人たちを逃すためにみんな死んじまったよ……』
「ああ……もうだめ……私たちも道路にいる人たちのようにゴブリンやオークに……」
「ウチらもめちゃくちゃに犯されて殺されるか魔物の子供を産まされるんだ……」
「絵里、涼子。諦めちゃだめ! 領軍がこっちに向かっているって報道があったでしょ。大丈夫、帝国艦隊相手に無双した阿久津公爵軍なら、池袋にいるオークやオーガ程度すぐに一掃してくれるわ」
私は薄暗くなってきた屋上の片隅で、震える友達の手を取り精一杯励ました。
私たちの周囲にはこのデパートの従業員に買い物に来ていた女性や子供が100人ほどいる。そして50人ほどの男の人たちが、鉄パイプや椅子を手に持ち私たちの盾になるように展開している。
最初は池袋駅地下のシェルターに逃げようとした。けど、外は既に魔物で溢れかえっていて、この建物を出る事はできなかった。そしてどうしようと考えているうちに、外で暴れていたオークが建物の中に侵入してきた。
ここにいる男の人たちが少ないのは、私たちが屋上に逃げれるよう魔物たちを足止めしてくれたからだ。
すぐ下の階はレストラン街だから時間を稼げると思った。けどオークはレストラン街にある食糧を無視して屋上にやってきた。多分ここに女性がたくさんいるからだと思う。
オークが防火扉を殴り体当たりをする音がどんどん激しくなっていっている。きっと相当な数のオークがいるのかもしれない。
もう少しで助けが来るはずなのに……さっき戦闘機がダンジョンを銃撃しているのが見えたし、ラジオで九州のにいる公爵軍の本隊も出発したという報道が流れていた。あと二時間。それだけ耐えれば私たちは助かる。世界最強の軍が助けてくれる。
「で、でも魔物がダンジョンから出てきたのは池袋だけじゃないって……いくら公爵様の軍でも複数のダンジョンから出てきた魔物を簡単には抑えきれないわ……その間に私たちはオークに……」
「もうオークはすぐそこまで来てる……どう考えても間に合わないって」
「そ、そんなこと……」
無いと言い返そうとした。しかし私の言葉は、大きな鈍い音が聞こえたことで中断された。
『扉が破られた! オークが来るぞ! ま、守れ! 子供と女性たちを守……ぐあっ! 』
防火扉が破られ、そこから剣を持ったオークが姿を現した。それと同時に扉の前で鉄パイプを構えていた男性たちが、次々とオークの持つ剣や棍棒によって斬られて殴り殺されていった。
「きゃあぁぁぁぁ! ルリ! もう駄目! 犯される! 殺される! 」
「ヒッ! オ、オークがあんなに……」
「ああ……」
間に合わなかった……オークが10、いえ20体以上はいる……もう助からない……私たちはあのオークに犯されそして最後には殺される……ああ……神様お願い……どうか私たちを助けて……お願いします……
私たちを必死に守ろうとする男の人たちが次々と殺されていく中。私は二人と抱き合いながら、目をつぶり神に祈った。
しかしその願いは神には届かなかった。
数分もしないうちに屋上にいたすべての男性たちが殺され、股間を膨らませたオークたちがニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべ私たちの元へとゆっくりと歩いてくる。
犯される!
そう思った時だった。オークたちの背後に見える夕陽に複数の黒い点が現れた。そしてそれはみるみると大きくなっていった。その形には見覚えがあり……
「あ、あれは飛空艦!? 」
助けが来た! そう口にしようとした時だった。
その真っ黒に塗装された飛空艦のうちの一隻が、ものすごい速度でこちらに向かってきた。そしてその後部から次々と人が飛び降りた。
その人たちはバーラシュートを展開することなく、剣を大上段に構えたまま私たちのいるこの屋上に向けて真っ直ぐ落下し
ドンッ!
《ブギャッ! 》
着地と同時にオークを真っ二つにした。
「クソ豚どもが好き放題やってくれたなぁっ! 分隊は豚どもを殲滅! スキルをぶっ放せ! 」
小太りの男性が憤怒の表情でそう叫んだ。
「「「了解! 」」」
「あ……あの人たちは……」
黒い戦闘服に黒い革鎧姿……それに胸に縫い付けられた、ゲームのコントローラーと枕と剣の部隊章。あれは確か阿久津公爵軍のエリート部隊である、ニート連隊の部隊章だったはず。
彼らがここにいるということは……公爵軍が助けに来てくれた……助かった……私たちは助かったんだ!
私は目の前で様々なスキルを放ったあと斬りかかり、たった8人で次々とオークを打ち倒していく彼らの強さに助かったと。もうオークに犯され殺されることはないと確信した。
「こんなもんか……男は全滅か。でも女性と子供たちは無事なようだ。ランクなしばかりなのにオーク相手に立ち向かうなんてな。なかなかやるじゃないか。津田! 遺体を集めて氷壁のスキルで氷漬けにしておけ! きっと阿久津さんがなんとかしてくれる! 他の者たちは下にいるオークとオーガどもを殲滅するぞ! 」
「「「了解! 」」」
「あ、あの! 」
私は背を向け階段の方へ向かおうとする、小太りの隊長らしき人に声を掛けた。
「ん? ああ、もう大丈夫ですよ。俺たちがこの建物にいるオークとオーガを一匹残らず狩りますから。それにとんでもないモンに乗った最強の本隊がもうすぐここにやって来ます。だから安心してください」
隊長らしき人は私たちを安心させるためだろう。その大きな鼻とニキビの痕だらけの顔をめいっぱい崩し、笑いながらそう言った。
イケメンとは程遠い。けど、私はそんな彼の笑顔に胸が高鳴るのを感じていた。
「ああ……ありがとうございます。貴方たちが来てくれなかったら私たちは……隊長さんですよね? お、お名前をお聞かせくださいますか? 」
「ハハッ、俺はただの戦うニートですよ。それじゃあこれで! 行くぞ! 」
彼は少し照れながら私に答えた後、部下を連れて階段へと駆けて行った。
「ただの……戦うニート……」
かっこいい……ニートってこんなにもかっこい人たちだったの?
私は高鳴る胸を両手で押さえながら去っていく彼の後ろ姿を見送った。
この日、私はニートに恋をしたのだった。
—— 東日本 東京地域 板橋区 板橋駅西口 下板橋町内会自警団 新田 広志 ——
「みなさーん! こちらでーす! この先に区役所がありますので女性と子供を先頭に向かってくださーい! 」
俺は池袋方面から避難してきた集団に対し、駅ではなく区役所へ向かうよう誘導した。
子供を抱いた女性に会社の同僚だろうか? スーツ姿の怪我をした男性に肩を貸している人や、女性を背負っている人もいた。ただ、この中に老人はいない。逃げきれなかったんだろう。
「あ〜こっちまで来たか。北池袋駅もやべえのかな」
隣で本田が諦めたような表情で、南にある隣駅の地下鉄北池袋駅が危ないのかと呟いた。
「さっき交戦に入ったって連絡があった。大塚駅も魔物で溢れているらしい。となると、さくら通りに配置された滝野川自警団もそろそろだろう」
つい先ほど北池袋駅の防衛に向かったエクセレント板橋率いるトレジャーハンターと警察が、30体ほどのオークとオーガの群れと交戦に入ったと連絡があった。それと同時に南東方面の大塚の自警団も50体ほどのゴブリンとオークの群れと戦闘に入ったらしい。
ちなみに池袋のすぐ北にある駅が北池袋駅で、東にある駅が大塚駅だ。
魔物がダンジョンから出てきてもう5時間だ。池袋で暴れ尽くした魔物が次の獲物を求め、隣の北池袋駅と大塚駅までやってくるのは当たり前と言えば当たり前だろう。
北池袋が突破されれば、この板橋にももうすぐ魔物がやって来るはずだ。
怖い……けどここまで必死に逃げてきた女性や子供たちを見ると、せめてこの人たちだけでも助けたいと思う。種を存続させるための本能ってやつなのかもな。
「Dランク以上のトレジャーハンターと警察ならなんとか抑えてくれるとは思うが、大塚の自警団は時間の問題だな」
本田がそう呟いた時だった。
耳に装着しているインカムから団長の声が聞こえてきた。
《下板橋自警団長より各位! 北池袋と交戦中のトレジャーハンターと警察だが、新手のオーガの群れの奇襲により全滅した! それにより50体のオークとオーガの群れが北上してこちらへ向かってきている。下板橋自警団は避難民の誘導を中止し、南口に設置した防衛陣地に集合せよ! 》
「トレジャーハンターたちが!? 」
そんな……この地域の最大戦力が……しかもオーガが減るどころか増えてるなんて。
こりゃとうとう順番が来たみたいだ。
「ハハッ……終わったな……」
「行くしかないだろ本田。大丈夫だ。みんなで死ねば怖くない」
俺は隣で死んだ魚のような目で笑っている本田に諦めたようにそう言った。
「死ぬのは確定かよ! クソッ! もうヤケクソだ! 最後にオーガをぶっ倒してやる! 」
「俺たちがオーガを倒せば2つくらいランクアップするかもな。二階級特進ってやつだな」
「自力じゃねえか! 」
「実感できるだけマシだ。それより急ごう」
そう本田に言ったあと、避難民に急いで移動するように告げた。そしてほかの団員と共に南口へと向かった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「皆聞いてくれ! ここと大塚駅を繋ぐさくら通りを封鎖している滝野川自警団だが、大塚方面から流れて来たゴブリンとオークと接敵したため動けない。よって我々だけでここを死守する! 安心しろ! ニート連隊が新宿と池袋に到着した! 阿久津公爵様も自ら軍を率いてこちらに向かっているそうだ。公爵軍が来るまで耐えれば勝ちだ! とにかく時間を稼ぐぞ! 後ろにいる家族を守るために! 」
南口の前で乗り捨てられたバスや車を積んだ防御陣地で配置に着くと、団長が援軍がやってくると皆を鼓舞した。
ニート連隊が来たか。でも先に新宿と池袋駅周辺の魔物の対応をするだろうな。後からくる本隊もダンジョンの封鎖を優先するはずだ。魔物が出てくるダンジョンを先に封鎖しないと増える一方だしな。
となると周囲に散った魔物の討伐に兵を回してくれるのは早くて明日か……それまでオークとオーガ50体相手に耐えろと? 無茶を言ってくれるよな。
ここにはほかの自警団も合わせて100人ほどしかいないってのにな。しかもみんなEランクときたもんだ。
でも俺たちがここでオークとオーガを抑えきれば、駅のシェルターにいる家族もさっき誘導した避難民も生き残れる確率が上がる。
ならオーガの足に喰らい付いてでも足止めしてやる。
俺がそう覚悟を決めた時だった。隣で回線がパンクして繋がらなくなったM-tubの代わりに、ツイッタラーを見て情報を集めていた本田が突然騒ぎ出した。
「お、おい! ツイッタラーを見ろ! 岡山のダンジョンにドラゴンが現れたってよ! 」
「はぁ? 本田お前何言って……本当だ……」
本田の言葉が信じられなかった。けど差し出された画面には、ダンジョンに向かって炎のブレスを吐く真っ赤なドラゴンが映し出されていた。
嘘だろ? まさか九州のダンジョンからも魔物が? そんな……嘘だろ……
「神戸のダンジョンにも緑色のドラゴンが現れて、魔物をブレスで切り刻んでいると書かれてる! どうやらエルフがドラゴンを操ってるらしい」
「なっ!? エルフが!? なんでエルフがドラゴンに乗ってんだよ! そんなことあるわけが……」
俺は本田の言っていることが信じられず、自分のスマホでも確認した。
周囲の団員たちも一斉に携帯を見てる。
「あ……本当だ……あれ? この人ギルドマスターのリズさんじゃないか? 隣にいるうさぎ耳の女性はシーナさん? 」
恐らく個人所有のドローンで撮影したんだろう。新しく投稿された画像には炎に包まれるゴブリンとオークと、それを赤いドラゴンの上で満面の笑顔で見ているリズさん。そしてその腰にしがみついて何か叫んでいるいるシーナさんが映っていた。
赤いドラゴンの周囲には、複数のエメラルドグリーンのドラゴン。そしてその背にはエルフの姿も見える。
ダンジョンの周囲は火の海だ。火炎竜巻まで発生している。市街地から少し離れた畑の中にできた岡山のダンジョンじゃなかったら、魔物に殺されるより多くの死者が出ていただろう。
「ど、どうなってるんだこれ? まさかダンジョンから出てきたドラゴンを飼い慣らしたのか? 」
俺が次々と投稿されるSNSを見て混乱していると、突然駅ビルにある大型モニターから緊急を告げる声が聞こえてきた。
《ば、番組の途中ですが、ここで阿久津公爵家より領民の皆様への緊急のメッセージがございます。これより全てのテレビ局及びまたはラジオ局は阿久津公爵家の管理下に置かれます。それでは映像を切り替えます》
「緊急メッセージ? 」
なんだ? この緊急時にどんなメッセージがあるってんだ?
「メッセージなんかより早く助けに来てくれよ! もうすぐそこまでオーガが来てん……うわあっ! ド、ドラゴンと悪魔!? 」
本田がモニターに向かって文句を言った時だった。
突然画面に黒いドラゴンの顔と、その頭の上で仁王立ちしている黒い甲冑姿の男が映し出された。
男の顔は浅黒く目は赤く釣り上がっており、口元からは二本の牙が覗いていた。頭には側頭部から二本の角が生えているヘルムをかぶっていて、両手にはまるで血管のような赤い模様が描かれた黒い大剣を持ち、それをドラゴンの頭に突き立てている。
その姿はどこか見覚えのある姿で……
「あれ? あれってクリエーション・オブ・ヘルの主人公じゃないか? 」
「ああ、そっくりだな」
俺は本田がつぶやいた言葉に頷いた。
『クリエーション・オブ・ヘル』は日本で人気のソーシャルゲームだ。内容はプレイヤーが主人公の魔王となり、あらゆる世界を征服し魔界を作るという単純なものだ。しかしストーリーやガチャで手に入る配下の魔将たちのキャラデザインと設定が秀逸で、男性だけではなく一部の女性からも圧倒的な人気があるゲームだ。
一部の女性と言ったのは、配下の魔将に美男子や美少年が多いからだ。つまり主人公である魔王とその彼らとのBL的な展開が好きな層というわけだ。
BL好きの妹から聞いた話では、実際かなりの数の同人誌が出ているらしい。最近はダークエルフの魔将と主人公が恋に落ちる同人誌が出たらしく、本物のダークエルフがそれを描いていることで同人界隈ではかなり話題になっていると言っていた。
その人気ゲームの魔王の衣装を着た人間がモニターに映し出されている。それもゲーム同様、黒竜に乗った姿で……
そんなことを考えながらドラゴンの頭の上に乗る男を眺めていると、男の隣にダークエルフの美女が現れ何か耳打ちをした。すると男は頷いたあと大剣から手を離し、下の方へと右腕を向けた。
カメラがその腕が向いている方向を映すと、恐らく横浜のダンジョンだろう。そのダンジョンの入り口と、その前に転がっている大量のオークらしき焼死体があった。
本田と顔を合わせ何が起こるんだと思っていると、突然オークの死体の下から黒い魔法陣のようなものが複数現れ回転し始めた。そしてものすごい速度でオークの身体を復元していった。
「ま、魔法陣? 」
「オークの身体が元に……」
俺たちがその光景に驚いていると黒い魔法陣は回転を止め、ひときわ強い光を放ったあと消えていった。
その直後。
死んでいたはずのオークがゆっくりと起き上がり、ゆらゆらと身体を揺らしながらダンジョンの中へと入っていった。
「なっ!? い、生き返ったのか!? 」
「いや動きがおかしかったし目が虚ろだった。あれはゾンビにする魔法か何かだろう」
どう見ても生き返ったというよりはゾンビ化したって感じだ。前に動画で見た、死霊系のダンジョンのゾンビの動きそっくりだった。
「じゃ、じゃああの魔王コスプレの男はネクロマンサーだっていうのか? そんなスキルがダンジョンにあんのかよ」
「わからない。でも現に今目の前で死んでいたはずのオークがゾンビ化したのは間違いない」
あんな能力があるなんてあの男はいったい……
そう思った時だった。
カメラが男を再び写し、女性の声が聞こえたと思ったら男が姿勢を正した。そしてカメラを持っている人の手だろうか? 指が五本から四本、三本と減っていくのが見えた。恐らくカウントダウンをしているのだろう。
そして0カウントになった時。男がカメラに向かって口を開いた。
《苦難に耐える日本領民よ。皆に領主である俺から伝えるべきことがある》
「ちょっ!? あの魔王コスの男は阿久津公爵様だったのかよ! 」
「マジか……面影がまったくないぞ? 」
俺たちは謎のコスプレ男が阿久津公爵様であることに驚いた。
浅黒い肌に吊り上がった赤い目に二本の角。そして口元から覗く牙……どこからどう見てもゲーム内の魔王そのものだ。
俺は以前ネットで見た温和そうな公爵様とかけ離れたその姿に、同一人物とは思えないでいた。
なんであんな姿になっているんだ? コスプレ好きなのか? というか公爵様ってネクロマンサーだったのか?
そんな俺たちの驚きをよそに、公爵様は言葉を続けた。
《今この地球は魔界の悪魔からの侵攻を受けている。それにより領内だけではなく、世界中のダンジョンから魔物が溢れ出てきている》
「なっ!? 」
魔界!? え? 帝国みたいに別の世界から悪魔が侵略しにきているってこと?
ゲームの設定じゃなくリアルで!?
《不幸中の幸いともいうべきか、魔界と繋がっていると言われている鬼系ダンジョンからしか魔物は出てきていない。だが今後もそうとは限らない。そこで俺はこの未曾有の危機を乗り越えるため、古代ダンジョンにいる竜を使役した。どれも下層に生息する強力な竜ばかりだ。そんな竜が50頭、各ダンジョンのある街へと向かっている。東京にももう着く頃だろう》
「マジか……すげえ……やべえ……うちの領主様はとんでもねえぞ……」
「公爵様がドラゴンを使役……それもデビルバスターズでさえ入ることを躊躇う古代ダンジョンの下層にいるドラゴンを50頭も……だからエルフがドラゴンに……」
あの魔物をいとも簡単に焼き尽くしていたドラゴンが、全て公爵様の支配下に……ははっ、本当にとんでもない人だ。
《もう怯えることはない。竜が魔物の動きを止め、そして焼き尽くす。今しばらく避難シェルターで待っているがいい》
公爵様はその恐ろしい顔で尊大に、そして力強くそう語った。
《さて……俺が来るまで魔物を押さえたトレジャーハンター及び各街の自警団よ。よくここまで耐えた。その命をかけよく領民たちを守ってくれた。俺が来た以上は守る戦いはもう終わりだ! 今度はお前たちが狩る側となる! 竜に怯え逃げ惑う魔物を追え! そして一匹残らず狩り尽くせ! この日本の土地を荒らし同胞を傷つけた魔物を生かしておくな! お前たちの後ろには俺が! 世界最強の軍が! そして50頭の竜がいる! 殺せ! 狩られるためにダンジョンから出てきた魔物どもを殺し尽くせ! 》
公爵様がそう言い切った時だった。
池袋の上空に、10頭以上のドラゴンの姿が現れた。
『ド、ドラゴンだ! ドラゴンの群れが池袋に! 』
『本当にドラゴンがここに……』
『勝てる! オーガだろうがなんだろうが勝てるぞ! 』
『やるぞみんな! 逃げてくる魔物を! 好き放題暴れてくれた魔物どもを狩り尽くすぞ! 』
『『『『うおおぉぉぉ!! 』』』
自警団長の号令に、皆が腕を突き上げ叫んだ。
「うおぉぉぉ! やってやる! さんざんビビらせやがって! 逃げるゴブリンとオークを狩り尽くしてやる! 」
隣で本田が威勢がいいんだか情けないんだかわからないことを叫ぶ。
気持ちはわかる。ダンジョンでも稀に逃げる魔物がいる。そうなったらボーナスタイムだ。武器を捨て背を向けてにげる魔物なんて、簡単に狩ることができる。それだけ逃げる魔物は狩りやすい。
なら俺たちでもオークを大量に狩れるかもしれない。そうなればランクが一気に上がるだろう。オーガにさえ気を付ければ狩れるはずだ。
オーガは軍に任せ、残りは俺たち狩り尽くしてやる!
そんな俺たちの意気込みが伝わったのだろう。公爵様はフッと笑ったあと、続けて口を開いた。
《魔物も必死だ。窮鼠猫を噛むともいう。思わぬ反撃を受けることもあるだろう。だが安心しろ。勇敢に戦い死んだ者は、【冥】の古代ダンジョンを攻略し手に入れたスキルで生き返らせてやる。俺にはそれができる。だから安心して戦い……そして勇敢に死ね。ああ、まさか魔物を前にして逃げる者はいないと思うが、もしいたなら敵前逃亡で竜に喰われることを覚悟しておけよ? わかったならさあ逝け! 大和の
公爵様が大剣を突き出しながらそう告げると、大型モニターの映像がニュースキャスターの顔へと切り替わった。
ニュースキャスターの顔は驚愕したまま固まっていた。
周囲を見ると、さっきまで威勢のいい声をあげていた皆も腕を上げたまま固まっている。
「に、新田……生き返らせるってやっぱさっきのことだよな? 」
本田が青ざめた顔で俺に確認してくる。
「ああ……さっきの光景と【冥】の古代ダンジョンで手に入れたスキルって言ったら、どう考えても死んだらゾンビとして生き返らせるって意味だろう」
ゾンビがウヨウヨいる死霊系のダンジョンで手に入れたスキルだ。どう考えたって死者をゾンビ化するスキルだろう。ご丁寧に最初に見せてくれたしな。
「死ねねえな」
「ああ、絶対に死ねない」
ゾンビになるなんて冗談じゃない!
「逃げたら本当にドラゴンに食われるのかな? オーガが相手でも? 」
「多分……あの人なら本気でやるかもしれない」
「うぐっ……やっぱ公爵様ってさ、噂通り魔王だよな」
「本物のな」
死んだ後もゾンビとして俺たちを戦わせようとするなんて……魔王そのものだろう。
もしかして魔界から来た悪魔たちって公爵様を迎えに来たんじゃないのかと、俺は本気でそう思うのだった。
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