第10話 憑依
——悪魔城 家令室 阿久津公爵家 家令 エスティナ ——
《先日鹿児島の獣人女性を騙して攫った組織は壊滅させたわ。女性も他の領地に連れていかれる前に保護完了よ。それと南日本領と東日本領での犯罪率は獣人が圧倒的に多いわね。そのほとんどが詐欺に遭ったことに対しての報復や、同族同士の喧嘩による街の破壊ね。とりあえず拘束した全員をそっちにまとめて移送するから公爵家で裁いてちょうだい》
「そう、誘拐された子の件は良かったわ。獣人たちの事は……もうすぐ今年も終わるというのに相変わらずね」
私は南日本総督府の総督秘書であるエルミアから12月の定期報告を受け、ため息を吐いた。
どうして獣人はあんなに血の気が多いのかしら? あと騙され過ぎよね。ニホン領の人族のいいカモになってるし。これは騙した側の罪を重くしないといけないわね。
軍やギルド。そして獣人やエルフの犯罪は公爵家で裁いているけど、その他は総督府の司法に任せてある。といってもコウが色々いじったものだけど。それでも詐欺の罪が軽すぎるから、即ダンジョン送りにでもしないと駄目ね。獣人は騙されやすいというのがかなり広まっているみたいだし。
それにしてもこの数はコウがまた不機嫌になるわ。シーナから回収することに成功した、あのアイアンメイデンとかいう器具をまた拘置所の前に展示しそうね。でも不機嫌なコウを見るのは嫌だから、報告する時はおっぱいを出しながらにした方が良さそうね。そしたら口が塞がって文句も言えないでしょうし。
《それとダンジョンなのだけど、カナガワ地域の魔獣系初級ダンジョンがランクアップしたわ》
「ええ!? 魔獣系が!? なんでよ? 死霊や蟲と違ってそこまで人気がないダンジョンじゃないいでしょ? 」
ダンジョンは魔素と魔物が溜まるとその規模を拡大する。初級から中級に、中級から上級へと大きくなっていき、最後は上級ダンジョンが新しい初級ダンジョンを近くに生み出すわ。
だからどのダンジョンも満遍なく魔物を間引きしていかないといけない。でも帝国がこの世界にやってきてからそれは滞り、世界にダンジョンは増えてしまった。
前にいた世界ではダンジョンが増えるのは魔人にとって死活問題なので、増殖させるようなことはしなかった。ダンジョンが増えればそれだけ星の魔力を多く吸い取られ、星から地上に湧き出る魔素が減少するから。
でもこの世界は魔素が多い。だから帝国はむしろ資源が増えるといって不人気なダンジョンはそのまま放置している。このニホン領も最初の2年で初級ダンジョンが2つ増えたらしいのよね。
でも魔素が多いからこそ、世界中でダンジョンから魔物が外に出てきている事案が急増している。だからうちの領ではこれ以上ダンジョンを増やさないよう、成長させないようデビルバスターズとトレジャーハンターギルドに指示を出しているわ。
それでも不人気で難易度の高い、死霊系と蟲と植物系のダンジョンは成長させてしまっていた。だからこの二つならわかるけど、素材などで稼げる魔獣系のダンジョンが成長したのは理解できないわ。どうしてそんなことに……
《トレジャーハンターギルドのカナガワ支店長のせいよ。彼が勝手に入場を制限してわざと成長させようとしたのよ。中級ダンジョンになれば実入りも良くなるし、ノルマの魔石も多く手に入るからって》
「あっきれた! 初級ダンジョンの魔物が外に出てきてるっていうのに、この先中級ダンジョンの魔物が外に出ないと思ってるのかしら? それで被害が出るのはそこに住む住人なのに、危機感の欠片もない人ね。即刻解任してちょうだい」
ダンジョンをわざと成長させるために魔物の間引きの手を緩めるとか頭おかしいわ。チキュウにこれだけ濃い魔素が充満しているのに、初級の弱い魔物しかダンジョンから出てこないと思ってるなんて支店長失格ね。
《それが事はそれだけでは収まらないのよ。ダンジョンが成長する時に、たまたまヨコハマの関東探索者育成学園の生徒が実習で潜ってたの。それでダンジョンの成長から逃げ遅れた3人の生徒が、運悪く転移トラップにかかってしまって下層に飛ばされたのよ。三人とも無事救出されて事なきを得たんだけど、死人が出ていないとはいえ入場制限していたダンジョンに生徒を入れた支店長は重罪に処するべきだと思うわ》
「学園の生徒が潜ってたの!? なんて不幸な……そうね。支店長には望んでいた中級ダンジョンの刑務所で罪を償ってもらいましょう。他の支店の見せしめにも使ってちょうだい」
ダンジョンの成長時は下の階層が増えるだけではなく、1階の壁も移動する。その際に様々なトラップにかかる事があるわ。壁の移動自体はゆっくりだから逃げる余裕はあるはずなんだけど、一階層に滅多に現れない転移トラップに引っ掛かるなんて相当な不運ね。なによりも支店長の責任は重大ね。自分が中級ダンジョンにしようとしていた所に学生を入れるなんて。死人が出なかったからいいものの、彼にはしっかり罪を償ってもらわないと。
《ええ、そうするわ》
「でも不思議ね。転移トラップは三人もいっぺんに飛ばせないわよね? 一度に二人が限界のはず。いったいどうやって三人が下層に? 」
多くて2人までしか飛ばせないトラップに、どうやって3人が引っ掛かったのかしら?
《それが最初飛ばされたのは実習を受けた2年生と、その護衛に付いていた3年生の女生徒なのよ。彼女たちが転移トラップに引っ掛かった時に、3年生の女生徒の幼馴染という男子生徒が二人が消えた後の転移トラップに一人で飛び込んだの。そして彼は違う場所に飛ばされた彼女たちを探すために下層へと向かっていって、2つ下の階層で彼女たちを見つけて救助が来るまで彼女たちを何日も守っていたらしいわ。魔獣系のダンジョンで食料が豊富なのと、途中で水弾のスキルを手に入れたことで救助が来るまでの2週間を生き延びたみたい。その代わり彼は左腕を失ったようなのよね》
「あら、素敵な男の子ね。女の子を救うためにどこに飛ばされるかわからない転移トラップに飛び込むなんて、まるでコウみたい。いいわ、その子の腕は私が治してあげる。悪いけどエルミアが連れてきて。あなたエルフの森にも最近帰ってないでしょ? ついでに長老に顔を見せてきなさい」
いくら幼馴染を救うためとはいえ、中級ダンジョンの転移トラップに自ら掛かりに行くなんてそうそうできる事じゃないわ。学園の生徒ということはいいとこEランクくらいじゃないかしら? それでCランクは必要な下層で、女の子を守りながら生き延びるなんて大したものね。
私たちを守るために敵うはずのない帝国に喧嘩を売ったコウそっくり。これは失った腕を治してあげないと。
ふふっ、ニホン人という民族は見た目も中身もいい男が多いわね。
《こっちもエツジの世話で忙しいのよ。でもいいわ、私が連れて行く。顔を見たらものすごいイケメンでビックリしたのよね。確かダイキっていう名の子だったわ。イケメンで女の子を助けるために、ダンジョンの下層に助けに行く勇気のある男なんて良物件過ぎるわ。これはエツジから乗り換えるチャンスかも? 》
「よくいうわよ。二人がラブラブなのはこっちでも有名よ? エルフの女が浮気なんてできるわけないいんだから、そんなこと言っても誰も信じないわよ」
沖田さんへの愚痴という惚気をいつも聞かせてくるくせに、ほんとこの子は素直じゃないんだから。
《そういうんじゃないわよ。エツジが私にベタ惚れなだけ。ブサイクな男に言い寄られて迷惑してるわ。この間だって私との子供が欲しいっていうから仕方なく仕事を休んで旅行に行ってね? そこで二日間ずっと……》
それからいつも通りエルミアの愚痴という名の惚気を聞かされた私は、ちゃんとそのダイキという男の子を連れてくるように念を押してから通信を切った。
まったく、長い惚気だったわ。いったいどっちがベタ惚れなんだか。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
『あっさん! 次! 次のページだ! 』
「ハイハイ」
『『『おお〜! 』』』
『この犬耳っ子の裸はすげえな』
『俺はさっきの狐耳のボンキュッボンの子がいいな』
『俺はやっぱネズミ耳のロリっ子がいい! 阿久津さん、さっきの子のヌードはないのかよ? 』
「無いですよ。あの子はグラビアがメインです」
俺は飯塚や元自衛隊の人のリクエストに応えながら、3つのタブレットにダウンロードした獣人女性たちのグラビアやヌード写真を次々と表示させていった。
こいつら霊魂だってのになんでこんなに性欲があるんだ? ティナたちに見つからないよう、軍の獣人たちの名義を借りてダウンロードするのも大変だったんだぞ。
12月も半ばを過ぎた頃。俺は馬場さんを始めあの時このダンジョンで死んだ100人以上のニートと、70人近くの自衛隊の人たちの霊体に囲まれながら週に一度の座談会をしていた。
死者蘇生は蘇生する人の名前を知らないとできないんだけど、ここにいるみんなは石碑に名前が彫られてるからな。俺も恩人の自衛官の名前は全部覚えているし、俺の中から呼び出すことは簡単だった。
死者蘇生も使いまくってるうちに熟練度的なものが上がって、今では連続発動してもそれほどキツくはない。それで今までローテーションで呼び出していたみんなを、先週から全員呼び出すことにしたわけだ。
でもここにいるのは全員男だ。話すことは政治や世界情勢なんかよりもエロい話ばかりになる。そうなると一人ハーレムを満喫している俺が爆ぜろもげろの総攻撃にあうわけで、仕方なくエロ画像を見せて
馬場さんや浜田はこういう時は助けてくれない。むしろ黙って一番近くで見てるよ。このムッツリめ!
しかし最初は日本人や外人のエロ画像で満足していたコイツらも、だんだんケモミミがいいとかエルフがいいとか言い出してさ。俺の恋人のヌードを撮ってこいとか言い出しかねない雰囲気になったから、移民街で写真集や動画を制作している獣人が経営する会社からデータをダウンロードして見せてるってわけだ。
でもここに写ってる子みんな知ってるんだよな。犬人族のサリアや狐人族のラミーが脱いでたなんて知らなかった。鹿児島に来た時は二人とも痩せ細ってたのに、今じゃこんなスタイル良くなってたとは……知ってる子なだけに妙に興奮するなこれ。まあコイツらには口が裂けても知ってる子だとは教えないけど。絶対連れてこいとか言うだろうし。
『くあぁぁ! いいないいな! 阿久津ぅ! いいなぁオイ! こんな可愛い子たちに囲まれているなんて羨ましいなぁ! 』
『阿久津! 脱いでもいい子連れてこれないか? 俺とお前の仲だろ? 頼むよ』
『『『賛成! 』』』
「お前らここが泣く子も黙る古代ダンジョンだってわかってんのか? そんな所に脱いでもいいような子が来るわけねえだろ。無理矢理連れてきでもしたら俺の悪名がよけい広まるだろうが」
『魔王や悪魔公爵って呼ばれてんだろ? 今さらじゃねえか。若い女の子をさらって俺たちに生贄に出せよ。なに、悪いようにはしないさ。ちょっと脱いで色々見せてもらうだけだからさ』
『『『大賛成! 』』』
「大賛成じゃねえよ! 俺に誘拐をするよう
なんなんだコイツら! だんだん悪霊化してきてる!
『チッ、一人だけリア充しやがって。お前は自分さえ良ければいいのか? 俺たちは命を賭けて共に戦った仲間じゃねえか。ここには俺たちを守って命を落とした自衛隊の皆さんもいるんだぞ? この人たちの未練を解消するのも生き残った者の務めだと思うんだけどな。どうですか自衛隊の皆さん! 生でケモミミを見たいとは思いませんか? 』
『『『はっ! 見たいです! 』』』
『あっさん、これは負けだよ。やるべきだよ。この狐耳の子をさ、ちょっと攫ってきてよ。公爵なんだからできるだろ? 』
「負けだよじゃねえよ! 仁科テメェ煽動してんじゃねえ! そもそもお前ら成仏する気ないだろ! そんなにしたいなら俺がここで聖域を発動してまとめて成仏させてやるぞ! 」
なんなんだこの数の暴力。やっぱいっぺんに蘇生させたのは失敗だったな。慣れてくれば来るほどわがまま言い出しやがって。
『じょ、冗談だって。そう怒んなって。俺たちはまだまだ阿久津を見守っていたいんだ。そこに嘘偽りはねえよ。たとえ霊魂なままでも俺たちは満足してるんだ。なあみんな? 』
『そうだよあっさん。こんな冗談を言い合えて俺たちは楽しいんだ。ちょっと欲を出しただけだって。だからエロ画像の続き頼むよ』
『阿久津さん。みんな悪ノリしただけですよ。本気で言っていないと思います。だから浄化とかしないであげてください』
「くっ……ずるい奴らだ」
俺は仁科や浜田の言葉に振り上げた腕を下ろすことになり、黙ってタブレットのページをめくっていった。それでもコイツらはめくるのが速いとかクレームを言ってくる。もう怨霊だろ。
「ん? 珍しいな』
俺が文句を言われながらも皆にエロ画像を見せていると、探知にこっちに向かってくる3体のヴェロキラプトルの反応が現れた。
多分最近ダンジョンに召喚されたか、生まれて間もない個体だろう。前からいる個体で俺に襲いかかってくる馬鹿はいないし。
『阿久津! ヴェロキラプトルだ! 』
『うげっ! トラウマ野郎が来た! 』
『あっさん! さっさと殺ってくれ! 』
「はいはい。『滅魔』 」
俺はヴェロキラプトルに気づいた馬場さんや、トラウマを思い出し青ざめるみんなの前で3体を瞬殺した。
『くそっ! このやろ! このやろ! テメェのせいで俺は! ケモミミとエッチなことができなくなったんだ! 死ね! 死ね! 』
「もう死んでるよ……というか和田にみんなも、霊体なんだから殴れないだろ」
俺は死んで目の前まで転がってきたヴェロキラプトルを、囲んでリンチしている和田やみんなにそう言ってやめさせた。
しかし恨みの理由がケモミミとエッチできなくなったからって……コイツら生きてたらできると思ってんのかね? エルフ以外は可能性が0に近いと思うんだけどな。これだけの数がいるのに見事にイケメンがいないんだよな。
『あー肉体欲しいわ! ヴェロキラプトルに復讐してえ! せめてさっきのスキルじゃなくてさ、剣とかでズバッとやってくれよ。その方がまだ気が晴れるわ』
「そうは言ってももう死んでるし、他の個体は滅多に俺のところには来ないしなぁ」
『あっさん、じゃあコイツを蘇生して見せてくれよ。そういえば生き物が蘇生するの見たことないいしさ。一回見せてくれよ』
『む? それは俺も見てみたいな。本当に生きていた者が蘇生するのか一度見てみたいと思っていた』
『『『俺も見たい! 』』』
「馬場さんやみんながそういうなら別にいいですけど……ただ一度生き返らせたら襲ってこない限り殺しませんよ? いくら魔物とはいえ、命を弄んでいるみたいで嫌なので」
『それは確かにそうだな。仁科もそれでいいだろう? 』
『うーん、まあいいや。蘇生の方が見てみたいし、どうせ阿久津に襲い掛かってくるだろ』
「どうかな。まあじゃあやるよ? 『死者蘇生』 」
俺はリクエストに応えるために目の前に転がる3体のヴェロキラプトルの内、1体に死者蘇生のスキルを発動した。
その瞬間、魔法陣がヴェロキラプトルの上に現れ、遺体を光で照らした。すると死んだばかりだからだろう。俺の身体からではなく、ダンジョンの天井付近から白い魂が降りてきて遺体の中に入ろうとしたその時。
『うおっ! やべっ! 吸い込まれる! みんな助けてくれ! 』
ヴェロキラプトルの遺体のすぐ近くにいた飯塚が、遺体に足を吸い込まれている光景が目に映った。
俺はその光景を見て慌ててスキルを中断した。すると魔法陣は消え、入ろうとしていたヴェロキラプトルの魂は天井付近へと戻っていった。遺体に吸い込まれそうになった飯塚もどうやら事なきを得たみたいだ。
「なにがあったんだよ飯塚! 」
俺は一体なにがあったのか飯塚に確認した。
魔物の遺体に吸い込まれるとかただ事じゃないぞこれ。
『それがあっさんのスキルが発動した時にさ、魔法陣の下にヴェロキラプトルの魂が見えたから蹴れないかなと思って蹴ってみたら遺体にグイグイ引っ張られてよ。危なく霊体全部持っていかれる所だった』
「は? 何で? ヴェロキラプトルは飯塚の肉体じゃないだろ? なんで入れるんだよ」
どういうことだ? 今まで蘇生した人たちの身体に別の魂が入ったことはなかった。なのに飯塚だけ入れそうだった? あり得ないだろ。
このスキルはその辺の適当な悪霊を集めて、ゾンビやスケルトンにする還魂のスキルじゃなくて死者蘇生だぞ? そんなことができるわけがない。
『それが本当に入れそうだったんだよ。いや、多分入れたと思う。それくらいグイグイ来てた』
「そんな……他のみんなは? 」
『俺はなんともなかったな』
『『『俺も』』』
「魔法陣に足を突っ込んだ飯塚だけってことか……」
うーん……もしかして死者蘇生を2回行ったから? 一度目で飯塚を呼び出して、二度目はあの魔法陣に飯塚が触れていたから入れるようになったってこと? ということは、2回死者蘇生を掛けると好きな肉体に入れるってことなのか?
俺は頭にはてなマークを浮かべている皆に、考えていたことを話してみた。
その結果。
『そ、それは本当か阿久津! 』
『もしそうだとしたら僕たちも……』
『そうだよ! もしかして生き返れるんじゃないかコレ!? 』
『キターーーッ! あっさん! 人間の肉体をくれ! 俺が実験台になるから! 』
『お、俺もなるぞ! 生き返ってケモミミとイチャイチャヌルヌルするんだ! 』
『飯塚も和田も抜け駆けするんじゃねえ! 阿久津! 俺も使ってくれ! さあ、早く! 』
『『『俺の霊体も! 是非! 』』』
「ええ!? そんなこと急に言われても……」
俺は目を血走らせながら迫ってくる仁科たちに迫られながらも、いきなりそんなの用意できるわけがないと抵抗した。
『お前魔王なんだろ! 殺しまくった遺体とかなんか持ってるだろ! 早く出せ! そろそろ時間切れになる! 一週間も待ってられるか! 』
『そうだあっさん! 時間がない! 早く! 』
『『『お願いします阿久津さん! 』』』
「わ、分かったって。しょうがねえな……じゃあこれ。あとこれとこれくらいか? 」
俺は百人単位の霊体に包囲され、渋々空間収納の腕輪に保管していた物を皆の前に並べて行った。
「っと、これで全部だな。とりあえず30体しかないからあとは今度ということで。で? 誰からやる? 」
俺は並べ終えた遺体を前に、急に黙り込んだ皆を不思議に思いながらも誰から蘇生するのか確認した。
『おい阿久津……』
「ん? どうしたんだよ仁科。って、みんなもそんな怖い顔をしてなんだよ」
何なんだよみんな怖い顔して。早く出せっていうから出したのに勝手な奴らだ。
『どうしたじゃねえよ。これは何だ? 』
「なんだって、見ればわかるだろ。ゴブリンとオークとオーガだよ。オーガは数が少ないから早い者勝ちな? 」
オーガは5体しかないからな。飯塚はオークでいいだろ。性欲強いし。
『『『早い者勝ちじゃねえよ!! 』』』
「うおっ! 何だよ! 何が気に入らないんだよ! ヴェロキラプトルよりいいだろうが! ちゃんと人型だしみんなオスだし! なんの不満があるんだよ! 」
俺は霊体なのに殴りかかってくる皆から、反射的に頭を庇いつつ反論した。
ちゃんとあっちも勃つしなんの不満があるんだってんだよ。
『ふざけんな阿久津! 魔物じゃねえか! 俺にゴブリンに転生しろってのかよ! どこのネット小説の主人公だよ! 』
『オークに転生したらエロ小説のような展開になる前に狩られるだろうが! ここを出た瞬間狩られるだろうが! 』
『あっさん! オーガになったら風俗店入れんのかよ! 街で獣人とかに狩られない保証あんのかよ! 』
「い、いや……それは一応身分証明書的な物を発行するし……」
無駄かな? うちのギルド員なら反射的に襲い掛かる可能性が高いな。
『そういう問題じゃねえ! 何でこんな醜悪な顔の魔物に転生しなきゃなんねえんだ! なんか進化したら人間になれるとかあんのか? オークキングになるくらいだろうが! 豚はどこまで行っても豚だろうが! 』
『人間だ! 阿久津、人間の肉体を持って来い! 魔人でもいいぞ! とにかく醜悪な魔物は却下だ! 』
『そうだそうだ! 人間の肉体を持ってきてくれ! 俺は人生をやり直したいんだ! 』
『『『阿久津さんお願いします! 』』』
「ええ!? さすがにそれは無理だろ。死んだ人間には遺族もいるんだし……」
さすがに死んだ人間や魔人の遺体にコイツらを入れるのは抵抗がある。人としてそれはやっちゃっだめだろ。
『阿久津……俺は苦労しているお前の力になりたいんだ。本当はオーガでもいいんだが、それだとお前に迷惑がかかるかもしれない。ただでさえ魔王などと言われているんだろ? そんなお前がオーガやオークを身近に置いたりでもしたら弁解のしようもなくなるじゃないか。だからさ、もう少し人に見れるようなのを用意できないか? 』
『俺も霊体じゃなくて肉体を持ってお前の力になりたいんだ。俺たちとの約束を守ってくれたお前を守りたいんだ。お前の中にいたらそれができなくてな……ずっと悔しかったんだ』
『あっさん。本当は女の子なんかどうでもいいんだ。こんな限られた時間じゃなくて、もっとあっさんとふざけ合いたいだけなんだ。俺はあっさんが好きなんだよ。だからあっさんの迷惑にならない肉体を用意してくれよ。頼むよ』
「仁科……和田……飯塚……そんな風に思っていてくれていたなんて……わかったよ。何とか探してくる。でも数はそんなに用意できないかもしれないから少しづつで頼むよ」
俺はいつもふざけたことばかり言う三人が真顔で、照れながらも言ってくれた言葉に胸を打たれそう約束した。
三人の後ろで馬場さんと浜田と何人かが困った顔をしているが、きっと俺に無理をさせないために何か言いたいのを抑えているんだろう。
『ありがとう阿久津。来週を楽しみにしてる』
『あっさん、こんなこと言うのも何だけど、なるべくイケメンで頼む。モテない男の情けない要望だと笑ってくれてもいい。それでも何とか頼むよ』
「ははっ、まあ気持ちはわかる。何とか探してみるよ」
『よしっ! そろそろ時間だ。頼むぞ阿久津! 』
『来週が楽しみだな! 期待してるぞ阿久津! 』
『あっさん! ほんと頼む! 待ってるから! 』
『あ〜、阿久津。あんまり無理するなよ? 俺は今のままでもいいから』
『そうですよ阿久津さん。僕は今のままで十分ですから。どんな姿でも阿久津さんを応援する気持ちは変わりませんから』
「馬場さん、浜田。ありがとう。でも俺もまたみんなと騒ぎたいし何とかするよ」
俺が二人にそういうと皆が次々と消えていき、俺の中へと戻っていった。
うーん。まさかこんなことになるとはな。本当に憑依? 転生? まあどっちでもいいか。そんなことができるのかな。
しかしどうしよう。さすがに墓荒らしをして人間や魔人の遺体は用意できないよな。
ダンジョンの魔物で人型で言葉が話せそうなやつなんているか? アラクネ……はメスか。というか下半身蜘蛛じゃ怒りそうだな。
人間ねぇ……ゾンビってどうなんだろ? 元はどこかの世界の人間だったのかな? いや、なんとなくあの腐った姿がデフォのような気がしないでもないな。そういう種族とか? もしもあの身体にみんなを入れて、身体が腐ったままだったらヤバいな。やり直しなんかできないしな。
人型かぁ……人型でイケメンな魔物……人型で……人型……ん? アレならいけるんじゃね?
アレならイケメンだし強いし文句ないだろ。
ちょっと確認しないといけないこともあるけど、それは直接聞けばいいな。多分言葉は通じると思う。
もしもアレで蘇生ができたら、みんなとまた一緒に飲んだり騒いだりできる。
荒川さんだって喜ぶはずだ。
よしっ! そうと決まったらさっそく動くか!
俺は失ったかつての仲間たちを生き返せるこために、悪魔城に戻り恋人たちと相談して狩りに行く日程を決めるのだった。
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