第2話 プライド

 



 《そうか。日本と台湾を統治することになったのか》


 《よかったぁ。阿久津さんが家族は保護してくれているとはいえ、同級生や友達が心配だったんです》


 《まあ日本には色々思うことはあるけどよ。やっぱ生まれ育った国だしな。阿久津が統治するなら安心だ》


 《帝国本土にも日本より広い領地を持ってるんだろ? さすが公爵様だよな》


 《台湾は友好的だったし、うちは震災時に色々世話になったしな。あっさん、日本と同じようにしてやってくれよ》


「ああ、色々事情があって徴用制度は無くせないけど、安全には気を付けてる。俺たちが35万のローンで買わされた装備より、遙かに良い装備を無償で貸与したりな」


 やってることはあの時の日本政府と同じだけど、なるべく死者が出ないようにしている。訓練は厳しめだけどうちの軍からベテランを派遣しているし、訓練が終わればダンジョンには格安で用意した寮や自宅から通える。毎月の魔石と素材のノルマさえこなせばいいだけだ。


 どうしても戦えない者には、換金所の仕事や警備や貸し出した武器防具のメンテナンスなどの雑用を用意してある。徴用した全員が全員ダンジョンに入るわけじゃない。


 《確か18から30歳までの健康な男子が徴用対象だったよな? 戦えない者を除いたとしても300~400万人はいるだろ。それを一度にではないにしろ、半年間の訓練の後に2年間ダンジョンに通わせるのだろう? その装備を無償で用意してやるとはな》


 《三ヶ月の訓練しか受けれなくて、借金して買った防具でそれが壊れたら修理費用をまた借金して、そうしてダンジョンに入っていた僕たちとは大違いですね》


 《なんだよそりゃ……そんなの余裕じゃねえか。俺たちの時もそれだけの訓練期間と装備があれば……くそっ! 俺の手で探索者協会の奴らをぶっ殺したかったぜ》


 《仁科落ち着けって。木更津で約束したことを阿久津は守ってくれたんだ。それだけでいいじゃねえか》


 《和田さんの言うとおりっスよ。こうして残していった家族や日本の事を聞けるだけでも感謝っスよ》


 《和田……飯塚……そうだな。今さら文句言っても仕方ねえか。阿久津ありがとよ、家族と日本を頼むわ》


「任せとけって。まあおかげで財政難なんだけどな。早く日本の経済を立て直さないとな」


 軍の大規模拡張に9千万人がいる東日本領の統合にギルドの再編成。オズボードの資産や産業を手に入れたけど、大量の飛空戦艦にダンジョン装備。そしてポーションなどを買い集め配布するなどの初期投資が大きすぎて財政は火の車だ。おかげで頻繁にダンジョンで魔石を作りに行かされるはめになってる。まあその度にこうしてみんなと雑談したりして楽しいんだけどな。


 そう、俺は馬場さんたちとまた会うことができたんだ。


 あの日、再会した時にもう会えないかと思っていたんだけど、一週間位してからダメもとでもう一度死者蘇生を試したら普通に現れた。


 もうめちゃくちゃ嬉しくてさ。馬場さんも浜田も喜んでくれてたよ。その時に馬場さんから、ほかの仲が良かった木更津ダンジョンの仲間たちにも会いたがっていたと聞いて、木更津では他のパーティだったあの時一緒にこのダンジョンに入った仁科や和田や飯塚たちの魂を呼んだんだ。


 そしてお互いに再会を祝ったあとに、三田たちが生き残ってること。馬場さんたちが死んでからのことをいっぱい話をした。世界が帝国に征服されたことや、俺が帝都に殴り込みに行って魔帝を倒したこと。そして貴族になった事を説明したらもうみんなめちゃくちゃ驚いてたよ。馬場さんなんて声が出ないくらいだったし、浜田なんてキラキラした目をして俺を褒めまくりで、仁科たちなんてスゲーとかやべーとか大合唱だった。


 でもみんな三田たちが生き残ってることを喜んでくれた。

 それになんだかんだ残していった家族が心配だったみたいで、その辺はちゃんと保護して仕事も与えてると言ったら安心してた。


 こうして何度かみんなと会う内に、この死者蘇生の黄泉がえりバージョンは一定期間置けば使えることがわかった。その期間は人によりバラバラなんだけど、一週間ほど置けば同じ人を呼べるのは確実だ。馬場さんが言うには、俺の中から出るにも霊力というかそういう力を結構使うらしいんだ。だからその力が回復したら出てこれるということらしい。


 このように死者蘇生の能力は未知な部分が未だに多くて、色々試してるところだ。最近分かったのは、黄泉がえりバージョンが使えるのは術者である俺の中に魂がある場合のみだということだ。


 この間さ、ダークエルフのかなり昔にダンジョンで亡くなった仲間の遺体が残っていて、その仲間を殺した魔物を倒した者を立ち会わせて死者蘇生したけど駄目だったんだ。恐らく魂は精霊界にとっくに還っていっていて、立ち会ったダークエルフの中から魔物の魂と一緒に吸収した仲間の魂は出てこなかった。


 ダークエルフは残念がっていたが、間違いなくお前の魂の中に仲間はいる。ずっとお前を見守っていてくれると言ったら泣きながら俺の横で頷いていた。


 もちろんちゃんと蘇生できた者もいる。獣人が多いんだけど病気で亡くした親やスラムで死んだ兄弟など、今のところ1年前に亡くなった人も蘇生に成功している。たとえ骨だけになっていてもね。


 こうして毎日死者蘇生をしに帝国本土に行ったりして、全然休みがないんだけどみんなの嬉しそうな顔を見るとやめられないんだよな。もう獣人の一般人たちからは神扱いされてるよ。軍やギルドの奴らからは相変わらず魔王呼ばわりされてるけど。



 《財政難か。しかし日本は徴用期間の短縮狙いで農家の跡取り不足が解消されているんだろう? 自給率が上がっているようだし、これから経済も良くなっていくだろう》


 馬場さんが言うように、確かに農家の子供には家を継ぐことで徴兵期間の短縮を認めている。そのせいか新たに農家を営む者も増えた。いずれは穀物の輸入を減らせるようになるかもしれない。まだ先だけど。


 《帝国との貿易が対等にできるようになるし、通貨も円より帝国通貨の方が強いんですし物価が下がれば大丈夫じゃないですか? 》


 まあそれはそうなんだけど、今はインフレ真っ最中で物価が高いんだ。失業率も高止まりしてるし、まだまだ時間が掛かるんだよ。


 《公爵なんだしどうとでもなんだろ。発電所も帝国の魔石式発電機てのを使うんだろ? 中東も寄子とかいう配下の貴族が管理してるって言ってたよな? 格安で資源を得られるならすぐに財政は回復するんじゃねえか? 》


 確かにエネルギーに関しては未来が明るい。でも日本全土を補うほどの魔石式発電機は高いんだよ。それに数も必要だ。原子力発電所は戦争時に狙われると危険だから廃炉していかなきゃなんない以上、安いとはいえ火力発電で石油を大量に使うことになる。そうなれば今までと変わらない出費になるんだよな。


「まあ将来的に領地の経済に関しては、征服される以前より良くなるのは間違いないとは思う。でも恋人が白亜の宮殿を建てたがってるから、俺は早く家の財政を回復させたいんだよね」


 ティナはなにも言わず家のお金を出してくれるけど、目が悲しそうなんだよな。早いとこ稼いで白亜の宮殿を建ててあげたい。そしてティナの喜ぶ顔が見たい。


 《恋人か。阿久津がどれだけその女性を好きなのかは伝わってきていたぞ。その女性のために命を懸けていたこともな。そこまで愛せるなど同じ男として尊敬するぞ》


 《とても強い想いでした。あそこまで好きな女性を想えるなんて、カッコ良すぎですよ阿久津さん》


 《恋人がいるのは羨ましいが、女のためにあそこまでがんばられちゃな。お前の幸せを願わないわけにはいかないだろ》


 《ほんと、毎日毎日よくあそこまで強く想えるよな。一人の女をそこまで愛せるなんて羨ましい限りだ》


 《チッ、俺なんてニートになってから全く縁がなかったってのによ。あっさんが羨ましいぜ。やっぱ彼女はエルフなの? 美人なん? 》


「あはは、俺も好きな子のためにあそこまでがんばれるとは思ってなかったよ。そうそう、写真あるけど見る? 」


 《おお、是非みたいな》


 《僕もエルフとか見たいです! 》


 《見たら嫉妬しそうだけどまあ、興味はあるな》


「じゃあ自慢しちゃおうかな。これが俺の恋人だ」


 俺はそういってスマホを取り出し、ティナ・リズ・シーナ・オリビア・メレス・リリアの風呂上がりの浴衣姿を撮った写真をみんなに見せた。


 《これは……凄い美人ばかりだな》


 《エルフに猫耳に兎耳まで! いいなぁ羨ましいです! 》


 《くっ……こんな子がダンジョンの外にいたなんて……死ぬべきではなかった》


 《確かにこれは想像以上の美女たちだな……この赤髪の子が魔人か。本当に人間そっくりだ》


 《ぐっ……羨ましい。あっさん、それでこのエルフの子が恋人なのか? 》


「ああ、というかここに写ってる全員なんだけどね。エルフのこの子はエスティナっていって、隣の猫耳の子はリズで……」


 《ま、待て阿久津! いま全員と聞こえたが? 》


「そうですよ馬場さん。みんな俺が愛する恋人たちです」


 》》》


「あれ? みんな黙り込んじゃってどうしたんだ? 」


 俺は驚愕の表情をしたまま黙り込んでしまったみんなに、首をかしげながらそう聞いた。


 《なんというか凄いなお前……》


 《こんな美女たち全員が恋人って……》


 《マジかよ……毎日感じていたあの感情は、一人にじゃなくて日替わりで複数の女に向けてたってことか》


 《こんなスタイルバツグンの美女たちと毎晩……》


 《爆ぜろ! 》


「なんか恥ずかしいな。まあハーレムと言われればそれまでだけど、全員平等に愛してるよ。結婚もするつもりだ。その時は祝福してくれよな」


 俺はなんとなく仁科たちから負のオーラが出ているのを感じ、全員と将来のことも考え誠実に付き合っていることをアピールした。


 《ふ、ふざけろ阿久津! お前ばかりいい思いしやがって! 》


 《そうだぞ阿久津! なにがハーレムだ! こんな美女と毎晩……くっ! 呪ってやる! 》


 《爆ぜろ! もげろ! 》


「うおっ! やめろ! 既に俺は魔神に呪われてんだよ! お前らの呪うスペースなんてねえって! 」


 俺は嫉妬に狂った表情で急に飛び掛かってきた三人へ、そう言いながら広間中を逃げ回った。


 《逃げるな阿久津! 呪わせろ! お前に不幸を! 》


 《振られろ! インポになれ! 》


 《あっさんもげろ! 爆ぜろ! 》


「やめろ! EDの呪いとかマジやめろ! 浄化するぞ! 」


 そうして嫉妬に狂った三人としばらく追いかけっこをしていると、三人の姿が徐々に小さくなっていった。


 《仁科! もう時間だ戻るぞ! まあなんだ、阿久津。羨ましいがお前が幸せそうでなによりだ》


 《阿久津さん。今度は動画を見せてください。できれば恋人以外の女性たちも見たいです》


 《くそ! お前の中に戻ったら他の皆にチクってやる! 》


 《あ~あの子たちとイチャイチャしてる想いを毎日感じなきゃらないのか。見るんじゃなかった》


 《あっさんを内側からみんなで呪ってやる。嫉妬のパワーで内側から爆ぜさせてやる! もげろ! 爆ぜ……》


 仁科たちはそう叫びながら人魂となり、俺の中に戻っていった。


 飯塚だけ悪霊化しかかっていたけどまあ大丈夫だろう。いざとなったら浄化すればいい。魂ごと消えちゃうけど。


「いや、参ったな。みんなもう霊魂だしそういう感覚はないと思っていたんだけどな。生前の欲とかちゃんと残ってるんだな」


 いつかはどうせバレる事だしまあいっか。飯塚はしばらく呼ばないでおこう。うん、そうしよう。


 一週間後は他の奴らを呼ぼうかな。


 俺はそんなことを考えながら家へと戻るのだった。



 ♢♢♢♢♢



「ただいま~」


「コウお帰り」


「おっ! 待ってたぜコウ! 今日はあたしとリリアで作った八宝鳥の唐揚げだぜ! 」


「コウさんおかえりなさいです。もうすぐ夕ご飯できるので待っててくださいです」


「光、おかえりなさい」


 俺が家に帰ると、恋人たちとレミアとニーナたちが夕食の準備をしていた。


 俺はテーブルに次々と配膳していく魔導人形や、忙しそうな彼女たちを横目にソファーへと腰掛けた。


 するとキッチンからエプロン姿のティナが顔を出した。


「お帰りなさいコウ、悪いんだけどカーラを呼んできてくれる? あの子また三日食べてないみたいなのよ」


「またか……わかった、呼んでくるよ」


 俺はそう言ってソファーから腰を上げ、旅館へと向かった。


 カーラは蘇生してから最初の一ヶ月はあちこち出掛けてたんだけど、ここ最近は旅館に引きこもっている。


 原因は分かってる。俺がいろんな魔道具や素材を渡したからだ。


 そのうえ研究室が欲しいという彼女に、とりあえず大型のマジックテントをあげたらまったく外に出なくなってしまった。


 そんな彼女は毎日帝国から色んな機材を取り寄せて研究に没頭している。


 それだけならまだいいんだけど、どうも食事をあんまりとってないらしくて、心配したカーラの世話係のメイドたちがレミアにそのことを相談したみたいなんだ。それでレミアから聞いたティナが、ご飯を食べるように直接言いに行ったんだけど効果が無かった。


 それで困ったティナに相談されて俺がカーラのもとに行き、ちゃんとご飯を食べるように言ったらどういうわけか素直に食べた。


 それからはカーラが食事をしない時は、俺が彼女を呼んで一緒に夕食を食べるようにしている。


 カーラには念話のイヤーカフを渡してるんだけど、研究に集中したいのか耳に付けてないんだよね。だから俺が直接呼びに行くことになってる。どうも俺以外が行くと駄目らしい。リズが行った時なんか、机にかじりついて抵抗してたって言ってたしな。困ったもんだ。



 ♢♢♢♢♢



「カーラ、入るぞ……って、相変わらず凄い散らかりようだな」


 俺が旅館の一室に展開されているマジックテントに入ると、兵士用の100帖はある室内に色んな機材や魔物の素材に魔石。そして何かの設計図や魔石式発電機などが所狭しと置かれていた。


 俺はその機材や素材の山を避けながら、部屋の奥にある大きな机の前で背を丸めて座っている白衣姿のカーラのもとへと向かった。


「カーラ、おいカーラ。ご飯の時間だぞ」


 そして俺が来たことに全く気づかないカーラの肩を揺さぶり声を掛けた。


「あっ……コウ……今日も夕食のお誘い? 昨日一緒に食べたばかりよね? 」


「なに言ってんだよ。前回一緒に夕食を食べたのはもう三日前だぞ。さあ、着替えて一緒に行こう。今日はカーラの好きなBランクの八宝鳥の唐揚げだぞ」


 俺はボサボサの髪に眠そうな顔で、時間の感覚が完全に麻痺しているカーラの背中を軽く叩いて着替えるように促した。


 ここ数週間カーラの部屋に入ったりしてわかったんだけど、正直いってこの子は駄目な子だ。


 研究を始めると風呂に入らないし、身だしなみも適当だ。髪がボサボサじゃない時を見ることの方が少ない。そのうえ片付けるのが異常に下手だ。前に昔初めて付き合った男に逃げられて以降、誰からも告白されなくなったって話をしていたけど、この惨状を知っている俺とティナとリズは納得したよ。さすがに落ち込んでいた彼女には言わなかったけど。


「そう、いつの間にかそんなに時間が経過していたのね。でもこの研究が一段落……わかったわ。着替えてくる」


 カーラは一瞬何かに抵抗するような表情を見せたあと、椅子から立ち上がり着替えが置いてある浴室へと向かった。


 その時に前のボタンをとめていないカーラの白衣から、紫色の上下の下着が見えた。


 相変わらず部屋の中じゃ無防備だな。まあ俺はそのほうが嬉しいけど。


 それから少ししてカーラが黒のワンピースに着替えて出てきた。髪もちゃんと整えてある。こうして見るとやっぱり超絶美人だよな。長く濡れ烏のようなしっとりした黒髪も綺麗だ。


「お待たせ。どうやらお腹が減っていたみたい。早く行きましょう」


「はいはい。まったく、腹が減っていたことも忘れて研究していたのかよ」


 俺は片手でお腹を押さえながらお腹が減ったというカーラに、呆れながらそう返した。なんというか大人なんだか子供なんだかわからないよな。本当に古代王国の大魔導師だったのか?


「ふふふ、王国にいた時の生活に戻ったみたいで懐かしいわ。あの時に比べてこの身体は寝なくても食べなくても無理がきくし、コウには感謝してるわ」


 カーラは頬を緩ませ嬉しそうに言った。


「無理がきくってだけで、身体には良くないだろ。あんまり心配掛けるなよ」


「ふふっ、私の家族と同じ事を言うのね。分かったわ、なるべく心配掛けないようにする。あ、でもこの世界のダンジョンの素材で、転移装置を作る目処めどがついたから作らせて。その後は結界の塔も作りたいの。これもダンジョンの素材で作れるのがわかったから、人手さえもらえれば作れるわ」


「え? 転移装置がもうできるのか? それに結界の塔も!? あれって帝国が元いた世界の古代遺跡だぞ? 」


 マジか、結界の塔まで作れるのかよ。


「別に結界くらいたいした技術じゃないわ。あの結界の塔を作った技術も、私がいた世界に比べれば遅れてるわ。問題はあそこまで広範囲をカバーする結界には、大量の希少鉱石と魔石が必要になるのよ。でもコウなら揃えられるでしょ? 」


「ああ、素材や魔石はなんとかするけど……しかし凄いな」


 結界の塔があれば日本を守れるし、帝国本土の領地も個別に守ることができる。転移装置を作れる時点で帝国の魔導技術より上だとは思っていたけど、まさか古代遺跡を作った文明すら超えていたとはな。


「貴方の役に立ちたいの。私に自由と新たな人生を与えてくれた貴方に恩返しをしたいのよ」


「ん~気持ちは嬉しいけど、前にも言ったとおりカーラにはそういうのは気にせず好きなことをやって欲しいんだ。恩返しとかそういうので無理はして欲しくないんだ」


 魔道具の作製よりも、もうちょっと年相応の女の子らしくして欲しいよな。年中白衣姿じゃなくてさ、せっかく美人なんだしもったいない。


「好きなことをしてるわ。研究という好きなことをして、コウへ恩返しをしたいの。ニホンではこういうのを一石二鳥というのよね。いい言葉ね」


「それならいいんだけど……でも何日も部屋から出てこないってのはなぁ」


「ふふふ、本当にコウは優しいのね。私の能力を知っても、王みたいに私にあれを作れとか絶対に言わない。それどころかそんな心配そうな目で私を見てる……コウに出会えて良かったわ」


「そりゃ何日もご飯も食べない子がいたら心配するさ。それにカーラの技術はあれば便利だけど、なくてもなんとかなるし」


 そのための軍備の増強であり、領民の武力強化だ。魔導兵器ばかりに頼った防衛じゃ、カーラのいた世界みたいになるかもしれない。こういうのは無くてもなんとかなる位がちょうどいいんだ。


「それは錬金術師としては聞き捨てならない言葉ね。いいわ、凄い魔道具を作ってさすがカーラ様って言わせてみせるわ」


「ええ!? なんでそうなるんだよ! 普通の女の子のようにしてくれればいいってだけなのに」


 どうやら魔道具がなくてもなんとかなると言ったのは失言だったようだ。


「ふふっ、錬金術師のプライドに火を付けたコウが悪いのよ。さあ、もう行きましょう。エスティナたちも待っているし、私もお腹がペコペコよ」


 カーラはそう言って俺の腕に自分の腕を絡め、俺を引きずるように部屋の出口へと歩いて行った。


「ちょ、おい……」


 俺はそんなカーラに引きずられながら、余計なことを言っちゃたなと後悔するのだった。


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