第4章 ニートと富国強兵
プロローグ
――マルス公爵領 イギリス地区 ロンドン郊外 ハロルド・フリンク巡査 ――
「この辺りか……」
「はい、あそこが通報があった森ですね」
僕は車を止めた先輩のマケイン巡査長に助手席から森を指さした。
「ゴーストがロンドンの死霊のダンジョンから外に出たなど信じられないが、本当だったら一大事だ。取りあえず確認しに行くぞ」
「はい」
僕は先輩と共に後部座席に置いてある剣を取り車を降りた。
外はもう春だというのにまだ寒い。外套を羽織り剣帯を付けた僕たちは、懐中電灯を片手に深夜の森へと足を踏み入れた。
1時間ほど前に署から市内を巡回していた僕たちへ、郊外にあるこの森に行くように指示があった。どうやら昼間に森に入った者が帰ってこないらしい。この森は数週間前から度々深夜にゴーストらしき物体を見たという通報があったことから、もしかしたらその仕業の可能性があるということで下っ端の僕たちが様子を見に行かされたわけなんだけど……
もしもゴーストがいたら大変なことだ。ダンジョンから魔物が出てくるなんて、帝国人は本来は有り得ない事だと言っていた。なんでもダンジョン内と外では、魔物が生きていくのに必要な魔素という物の濃度が違うかららしい。外は魔素が薄いから、ダンジョンの魔物は数日で死んでしまうそうだ。魔物もそれはわかってるから出てこないみたいだ。
ただ、地球に来てから何度か低級の魔物が外に出てきた事例があったとも言ってた。どうも地球の魔素は帝国がもともといた世界より濃いみたいだ。だから全てのダンジョンの入口に警備兵を多めに置いているのだとか。
しかし1ヶ月と少し前に起こった帝国の内乱と、それに乗じて起こった欧州総督府及び世界各国の元大国による反乱でダンジョンを警備する者がいなくなった。もしもこの森にゴーストがいるとするなら、恐らくその隙に出てきたんだろう。
ゴースト程度なら行方不明者が出る前に討伐に来るべきだったんだけど、欧州総督府の独立軍がマルス公爵に鎮圧され、その後欧州全土がマルス公爵領となったりで、最近まで治安が悪化していてそれどころじゃなかった。独立軍に参加した各市警の警官も、かなりの数の人が処刑されたり捕まったりしたからね。人手不足で大変だったんだ。
僕の同期も捕まって犯罪者用の中級ダンジョン送りにされた。僕らが徴兵や訓練で入る初級ではなく中級ダンジョンにだ。反乱者は一生出てこれないらしい。それを聞いて同期には悪いけど、参加しなくて良かったと胸をなで下ろしたよ。
塀で囲まれた犯罪者用の中級ダンジョンの様子がテレビで常時放送していてさ、それを見ていると毎日誰かしらがダンジョンから帰ってこないのが分かるんだ。こんなの死刑と変わらない。
そんな彼らの姿を見て、もう二度と帝国に刃向かおうなんて思う者はいなくなった。ただでさえイギリスには欧州領の領主であるマルス公爵の長男がいるし、大規模な領軍も駐屯している。もうイギリスという国は滅んだんだ。もういい加減ここは帝国の一地方領であり、僕たちは三等民であることを受け入れないと。
僕がそんなことを考えていると、前を歩く先輩がこちらに振り向いた。
「この辺でいいだろう。フリンク、探知を掛けてくれ」
「はい。『探知』……これは!? せ、先輩。この先の空にDランク以上の反応が複数体あります」
「なっ!? Eランクのゴーストじゃなかったのか!? Dランクで空を飛ぶ魔物は死霊のダンジョンにはいないぞ!? まさかCランクのバンシーじゃないだろうな!? 」
先輩が驚くのも無理はない。ロンドンには死霊の中級ダンジョンがある。だから目撃者の証言から、てっきりそこの一階層から出てきた黒いゴーストだと思っていた。でも明らかにこの反応はDランクのスケルトンやD+ランクのグールに近い。
「いえ、そこまで強い反応ではないです。ですが明らかにゴーストではないのは確か……!? 先輩! 気づかれました! 5体ほどこっちに向かってきます! 」
まずい! D-ランクの僕とDランクの先輩の二人じゃ、5体の同ランク以上の空を飛ぶ魔物相手には敵わない!
「クッ……車に戻るぞ! 」
「は、はいっ! 」
僕は先輩と共に全力で森の外へと向かった。そして車にたどり着いた所で、後方からやってきた魔物に追いつかれた。
「なっ!? あ、悪魔!? 」
僕が振り向くとそこにはコウモリの羽と尖った尻尾を持つ、赤ん坊ほどの大きさの魔物が空中で滞空していた。その青白い顔は醜悪で、まるで物語に出てくるインプと呼ばれる悪魔のような容姿だった。
すると僕の視線を感じたのか、先頭のインプがまるでおもちゃを見つけた子供のような目でニヤリと笑った。
「フ、フリンク! 乗れ! 逃げるぞ! 」
「は、はいっ! 」
インプの姿を見て固まっていた僕は、先輩の言葉にハッとなり急いで車に乗り込んだ。そして車は勢いよくバックをしながら急旋回し、ロンドン市内へと向かった。僕は車の激しい揺れに耐えながらも、追いかけてくる5体のインプをバックミラー越しに見ていた。
「こちらマケイン巡査長! 先ほど通報のあった森でコウモリの羽を生やした赤ん坊ほどの大きさの悪魔……」
「先輩! 何か撃ってきます! 」
先輩が運転をしながら無線で連絡をしていると、バックミラーに映る悪魔が片手をこちらに向けた。僕はスキルか何かを放とうとしていると思い、先輩に回避するように促した。
「くそっ! 遠距離スキル持ちかよ! 」
「僕が牽制します! 」
僕は拳銃を取り出し窓から身体を乗り出した。
僕たちみたいな末端の警官は攻撃スキルは覚えさせてもらえない。先輩は身体能力強化を、僕は探知のスキルを運良く覚えさせてもらえただけだ。銃じゃ倒せないのは分かっているけど、牽制くらいにはなるはず!
僕はそう考え、何かを放とうとするインプにむけ発砲した。
しかしインプたちは全く怯むことなく、5体の手から黒い玉のような物を放った。
そしてそのうちの一発が後部トランクに着弾した。
「がっ! 」
「ぐっ! 」
僕たちが乗る車はその勢いにより宙返りするようにひっくり返り、回転しながら数十メートル進み止まった。
「フリ……ンク……にげ……ろ……」
「せ……せんぱ……い……」
僕が運転席にいる先輩を見ると、先輩はハンドルとシートと天井に挟まれ身動きが取れない様子だった。
僕はとにかく外に出ようと、助手席の窓から這うようにして車の外へと出た。
しかしそこにはニヤついた顔で僕を見下ろすインプたちの姿があった。
車からは署から壊れかけた車載の無線機越しに、僕たちを呼びかける声が聞こえてくる。
「あ……ああ……」
固まっている僕へとインプたちはゆっくりと腕を伸ばし、その手のひらから黒い玉を放った。
そして激しい痛みと共に、僕の意識はそこで途絶えたのだった。
♢♢♢♢♢
「あんっ……コウ……まだそんなに元気なの? 昨夜はメレスとリリアの相手をしてたのに……」
「そんなの関係ないよ。ティナとならどんな時でも何度でもできるさ」
俺はそう言って一戦を終えたばかりだというのに、ベッドの上で生まれたままの姿でいるティナに覆いかぶさった。
「嬉しい……いっぱい愛して」
「今日は仕事はもう終わりにするから、このまま夕食の時間まで愛し合おう」
そしてティナとキスをしながら三回戦目に突入した。
帝国の内乱が終わってから1か月と少しほど経ち、戦後処理の仕事もなんとか落ち着いた頃。
俺は日課となっているグリードたちの仲間の蘇生から帰ってきたあと、執務室の隣の部屋に常時展開しているマジックテントの中で昼間からティナとイチャイチャしていた。
恋人が二人も増えた俺は、今まで以上に恋人たちとのスキンシップをするように心掛けている。恋人が増えたからって俺をずっと一途に愛してくれて、支えてくれたティナたちに寂しい思いをさせるなんて最低だからな。
リズやシーナやオリビアのところにも、昼以降はちょくちょく顔を出している。そして夜は恋人たちとみんなでボーリングをしたりカラオケをしたり、一緒にゲームをしたり映画を観て過ごしたりした後。露天風呂に入ってマッサージし合ってスッキリしてから、ラウンジでお酒を飲んだりたりして過ごしてる。
その後ベッドではティナが決めた順番で毎日一緒にみんなと寝てる。その順番にメレスとリリアが入ったんだけど、昼間の俺の頑張りからリズやシーナからは文句は出ていない。むしろ前より一緒にいる時間が長くなって嬉しいと言われてるくらいだ。
そうなんだ。メレスだけじゃなくてリリアも恋人になったんだ。
メレスと結ばれたあの日以降、俺はティナたちの許しを得て三日に一度深夜にゲートキーでメレスの部屋に通ってたんだ。そして遮音のスキルを発動して、朝までメレスと色んなプレイをして楽しんでいた。こんな間男みたいなことをしているのは、雪華騎士たちににバレるわけにはいかなかったからだ。魔帝に知られたらめんどくさいからな。
でもメレスはリリアに俺と恋人になったことを話した。そういう約束だったらしい。それでメレスの部屋に行った時に、そこにリリアがいて告白されたんだ。ずっと俺のことを好きだったって、でも姉と慕うメレスの気持ちを知ってたから先に言うことができなかったって。魔人の私だけど恋人にして欲しいって。
当然俺は健気にずっとメレスに仕え、色々話というか波長が合うリリアが好きだったから即OKしたよ。こんに可愛くて健気な子を断るとかあり得ないし。
俺の返事を聞いたリリアは、キツイ印象を受けるその目をフニャッと緩ませて、まるで少女のように喜んでメレスの手を取ってはしゃいでた。俺はそのギャップに萌えまくってリリアを抱きしめてキスをした。そしてそのままメレスと一緒に朝まで愛し合ったんだ。
愛し合ってる時に当然腰の加護に気付かれてさ、リリアは目ん玉飛び出るくらい驚いてた。色々説明したんだけど、陛下に加護が無いなんてと深刻な表情をしていた。でも最後は本当にとんでもない人ですねって言ったあと、魔王様の恋人として可愛がってくださいねって言って笑ってた。その時のいたずらっ子のような顔が超可愛くて、インターバル中だったのに誰が魔王だぁ〜って言って襲い掛かっちゃった。
いやぁしかしリリアってさ、小柄で爆乳なのにまったく垂れてなくてさ。あの弾力と張りのある胸で俺の悪魔棒を挟んでもらった時は、アレ? 俺のが埋もれてる!? ってビックリしたよ。そのうえ初めてなのに一生懸命俺の上で腰を動かして尽くそうとしてくれてさ。最後なんて二人のお尻を並べてたら、メレスとリリアがキスしててもう最高だったよ。
というかオリビアもそうだったけど、貴族の娘って夜の知識が凄いよな。メレスだけ何にも知らなかったけど。まあ親がアレだからな。でも顔を真っ赤にして恥ずかしがる高貴な女性に口でのご奉仕とか、上に乗って動くこととか色々教えていくのもまた興奮するんだよね。
まあ、そんな感じでリリアも恋人になったわけだ。ティナたちは予想していたみたいで、やっぱりねって笑ってた。リズとシーナも歓迎してくれたし、オリビアも陛下に知られないようにしないといけませんねって言って笑ってた。
それでそれから数回メレスの部屋へ行って二人と愛し合ってたんだけど、夕食時にリズがオルマの前で今夜はメレスのとこだっけって口を滑らせてさ、同席していたオルマに速攻でバレた。俺は一瞬やべって思ったんだけど、オルマはクスリと笑ったあとにメレスを抱きしめておめでとうございますって言ったんだ。ずっと恋を知らないメレスを心配してたって、俺への恋が実って嬉しいって。
そんなのを見せられたらオルマたちに黙ってたのが申し訳なく思えてさ、リリアとも恋人になったって全部話したんだ。メレスとのことは、魔帝がうるさいから秘密にしておいて欲しいとも。万が一バレても俺がみんなを守るからって。
そんな俺の頼みにオルマはそうですねと頷いて、秘密にしてくれることを約束してくれた。メレスの護衛兼監視役なのにずいぶんとあっさり約束してくたなと思っていたら、実は前々からメレスが俺とくっ付いたらどうするか団員たちと話し合ってたと教えてくれた。
その時に全会一致で知らなかったことにするという結果になったらしい。みんなメレスに恋をして幸せになって欲しいし、魔帝に知られたらあの何にもないアルディス湖での勤務に戻ることになるからだそうだ。
そういえば雪華騎士のみんなは非番の時に女性専用の野天風呂に行ったり、街に買い物に出掛けたり映画やカラオケに行ったりしてたなと思ったよ。夜は夜で近くのバーや居酒屋に行ってたしね。そこでうちにいる元ニートたちにモテモテらしい。アイツらがいくら頑張っても身分の差はどうしようもないんだけどな。
なによりアルディス湖に比べここは安全だ。メレスの指示で雪華騎士の子たちは休みが多いし、勤務時間も短い。夜も俺がいるこのデビルキャッスルからメレスが出ないから、最小限の護衛で回してる。彼女たちからしたらここは最高の勤務地なんだろう。
そんなこんなで晴れて雪華騎士公認となった俺とメレスとリリアは、夕食後に西塔に帰ることなくそのままみんなで露天風呂に入ったりした。そしてその後は西塔に帰したり、そのまま俺の部屋で愛し合ったりしてる。
本当は悪魔城に移住して欲しいんだけどね。さすがにそこまでやると雪華騎士たちの立場が無くなるから、二人には通ってもらってる感じだ。
というわけで俺は6人となった恋人たちと、とてもエッチな毎日を過ごしてる。
でも来週には公爵に陞爵するし、正式に東日本やオズボードやほかの領地も手に入る。そうなれば相当忙しくなるだろうな。なんとか丸投げできるようにしないと。ライガンや沖田には犠牲になってもらうか。
俺が毎日恋人たちとイチャイチャできるようにするために。
「ああっ! コウ! イイッ! 愛してるわ! 」
俺は上に乗り腰を振って乱れまくるティナの大きなおっぱいを揉みながら、そう決意を固めるのだった。
新たな敵がこの世界にやって来ていることも知らずに。
※※※※※※※※※※
4章スタートしました。
この章は短めで、ほぼ日常回になります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます