第46話 隷属

 



 オズボード領の軍基地を無力化した俺は、宵闇の谷忍軍からの報告を聞きながら再び領都へと向かって飛んでいた。


 《殿。城壁の外にあるスラム街の獣人と思われる集団ですが、東門から逃げる住民を虐殺しておりましたので殲滅いたしました 》


「そうか……死体をスラム街と領都に晒し、便乗して暴れようとする奴は皆殺しにすると警告しておけ」


 《はっ! 》


 チッ、この街でもやっぱり便乗する奴が出たか。こりゃ街中でも起こってんだろうな。


 俺がギルロスとの通信を切り、心の中で舌打ちをしているとヤンヘルから念話が届いた。


 《主君。宮殿の制圧を完了致しました。オズボードは領都に潜入しておりました静音が地下にて捕縛しました》


「早いな。静音って……確かシルミアだったか。シルミアにはご苦労さんと伝えてくれ」


 シルミアは割と若いダークエルフで、最近御庭番衆に入ったショートカットのムチムチの子だったな。商人にダンジョンで酷使されていてずっとダンジョンにこもっていたらしく、奴隷解放されたのを知ったのはかなり後だったと聞いた。そのせいか若いのにやたらランクが高かったんだよな。


 《御意! 》


「もう領都が見えてきた。今から行く」


 俺はそう言ってヤンヘルとの念話を切った。視界の先には城壁の上からより明るく照らされた領都が見える。


 領都に入るとうちの軍の者とグリードの軍の者らしき者たちが手分けして各家に入っていく姿と、逃げる獣人を追い掛けている姿が見えた。


 やっぱ街中でも獣人が暴れていたか。数が多い分厄介だな。


 俺はオズボードの兵を倒すより面倒な者たちに対し、ため息を吐きながら宮殿へと向かった。


 宮殿前には荒川さんを始めヤンヘルと熊獣人がおり、それぞれが魔道通信機にて指示をしているようだった。


 あそこにいる熊獣人がグリードだろう。繁殖施設で見た記憶がある。


 俺は念話で領都のどこかにいるであろうオリビアたちに、宮殿前に来るように言ってから着地をした。するとすぐに荒川さんとヤンヘルとグリードが駆け寄ってきた。



「阿久津様! 」


「主君! 」


「アクツさん! 」


「お疲れ様みんな。荒川大佐、軍の被害状況は? 」


「はっ! 第一師団は四肢の欠損をした者が3名、軽傷者563名。死者はおりません。軽傷者は既にスキルとポーションにて回復しております」


「さすがですね。街中の状況はどうなっていますか? 」


 モンドレットの領都より敵兵の数が多かったから心配したけど、死者が出なくてよかったな。


「はっ! 敵兵は全て降伏しました。捕縛した後に監視をつけ領都の外に分散して隔離しております。領都内は現在グリード殿の軍と協力し、街中で混乱に乗じて略奪と殺人を行った者を順次殲滅していっております。また、各家にて罪を犯している獣人や逃亡兵がいないかも見て回っています」


「そうですか。さっきギルロスからも街の外のスラム街の獣人が、逃げる住民を虐殺していたと報告がありました。そういった者たちは例外なく処刑し、遺体を晒し領都に住む獣人たちへ警告をお願いします」


「はっ! 」


「アクツさん、今まで助けてもらった礼を言いに行けなくてすまない。それで男爵領の被害は軽微だと聞いているが、移住した同胞たちは無事だろうか? 」


 俺が荒川さんと話し終わると、隣にいたグリードが話しかけてきた。


「久しぶりだなグリード。軍に従事していた移民の男は何人かやられたが、女子供は全員無事だ。避難先の山で俺の親衛隊に守られてるから安心しろ」


 本当はライガンも連れてくる予定だったんだけどな。獣人救済軍の家族が移民にいるからと、そっちを守りたいっていうから置いてきた。


「そうか……ライガンが」


「グリード、こっに加勢してもらって悪いな。おかげで早く領都を落とせた」


「いや……俺たちがいなくても変わらなかっただろう。それよりも色々と気をつかわせてしまったようだ。申し訳ない」


「気付いてたか。ならその言葉はこの作戦を提案したライガンに言うんだな」


 俺は全部俺たちがお膳立てしたことに気付いている様子のグリードに、そう言って肩を叩いた。


「ああ、そうすることにしよう」


「それでそっちの被害状況はどうなんだ? 」


「獣人救済軍は欠損者含め重傷者242名、死者563名といったところだ。重傷者に関しては荒川大佐からポーションを提供してもらえたので命に別状はない」


「563……そうか。結構死んだな。重傷者は一か所に集めておいてくれ。俺がまとめて治す」


「すまない。助かる」


 南門の方が敵兵が多かったからな。グリードと一緒にいたハルロスも奮闘したようだし、レオンたちが内側から門を開けてバックアタックしたと聞いていた。それでもうちの軍に比べれば装備は雲泥の差だし、魔弾をレジストできる者も少なかったんだろう。


「悪いがお前たちには義勇兵として引き続き協力して欲しい。全てが終わったら礼はする」


 グリードたちの軍は寄せ集めだが数は多い。これはこれから俺がやることに必要だ。うちの弱点は数が少ないことなんだよな。


「礼なんてとんでもない。俺たちはアクツさんに恩返しをしなけりゃならない立場だ。できることならなんでもするつもりだ」


「奴隷解放と復讐の手伝いの件か? 奴隷解放はついでだし、あの時渡した金や装備はたいした額でも品物でもない。命を懸けて返すほどの貸しじゃねえよ」


 腹減ってる時にメシを奢ってもらった程度のことで命を懸けられたら、それこそ俺の方が居心地悪くなる。


「それだけじゃねえ。アクツさんは俺たちの同胞を受け入れてくれた。同胞に自由と生きる希望を与えてくれたんだ」


「それもこっちにメリットがあったからだ。でもそう思うならその同胞のために協力してくれ。だが混乱に乗じて暴れるような奴は誰一人許す気はない。俺は強い者がいる時はおとなしく、いなくなった途端に牙を剥くような奴が死ぬほど嫌いなんだ。容赦なく斬っていくからそのつもりでいろ」


「わかった! 俺もそんな獣人の顔を汚すような奴らは許せない。同じ獣人として、率先して斬り捨ててやる」


「そうしてくれ。さて、そろそろオリビアたちが来る頃なんだけど……」


「コウ! 」


「「コウさん! 」」


 俺が街に視線を送りオリビアたちが来るのを待っていたら、恋人たちがホークに乗ったまま目の前に降りてきた。


「お疲れ様三人とも。無茶はしてない? 」


「リズさんがしましたです! 味方が戦っているのに城門に突っ込んで行きましたです! 」


「ばっ! 速攻チクッてんじゃねえよシーナ! 」


「親友を更生させるためです。愛の鞭ですぅ」


「ごめんなさいコウさん。リズさんを抑えきれなかったんです」


「リ〜ズ〜? 」


 俺はやっぱり抑えきれなかったかと思いつつもリズをジト目で睨んだ。


「にゃっ!? ニャハハハ! ちょ、ちょっと破邪の槍を試したくてよ。破邪の槍とシーナとオリビアのスキルで敵兵ごと城門をこうドッカーンてよ! 味方は誰も巻き込んでねえし、おかげでグリードのおっさんを早く助けに行けたしさ! ここは結果オーライってことで、な? 」


「結果オーライはもう通用しないって前に言っただろ。帰ったらお仕置きな。またシーナに変身してもらうから」


「はいです! リズさんに変身してコウさんに愛される姿を見せつけるです! 」


「げっ! それだけはもうやめてくれ! あんなことされて悦ぶ自分の顔なんか見たくねえよ! 」


「ダメ。どんなに注意してもすぐ忘れるリズには、お仕置きをすることにしたんだ。さて、ヤンヘル。オズボードのところに案内してくれ」


 俺は焦った顔で抗議をするリズをスルーして、オズボードのいるところへ案内するようにヤンヘルに言った。


「御意! この弥七がご案内いたします」


「……どうしてもそう呼ばないといけないのか? 」


 俺は弥七の部分を強調して言うヤンヘルに、ため息混じりにそう聞いた。


「主君……我らの名には意味がありません。産まれた時に施設の帝国人職員が、古代エルフ語から適当に付けたものゆえ……しかし自由の身になった今、せめて意味のある名で新しい人生をと」


「え? そうだったの? 」


 知らなかった……言われてみれば産んだ母親が名付けたのなら、自分の子かどうかわかるはずだ。でも、ティナの母親は現れない。リズやシーナの母親もだ。


 施設にいた年配のエルフや猫獣人や兎獣人たちは、皆がティナたちを娘のように可愛がってくれている。でもその中の誰が母親かは正確にはわからない。なるほどな。施設の職員が適当に付けたというのならそれも納得だ。ほんとロクでもねえ施設だったな。


「ニホン語は文字そのものに意味があります。名で何者かがすぐにわかるこの言語を配下の者たちは気に入っております。ですから敬愛する主君にも是非そう呼んでいただきたく」


「そうか……わかった。弥七。案内を頼む」


 そういうことなら呼ばないわけにはいかないよな。ダークエルフたちが自分らしく生きようとしてるんだから。たとえそれがドラマに出てくる登場人物の名前でもだ。


「主君……御意! 」


 俺は感動した様子の弥七(ヤンヘル)の後ろを、未だに騒いでいるリズとシーナたちを呼んでついて行くのだった。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




 弥七に連れられて宮殿の3階へ行くと、そこはまるで謁見の間のように赤い絨毯が敷かれている広い部屋だった。奥には金色の玉座が置かれており、その前には二人の赤髪の男が5人のくノ一に囲まれた状態で両膝をついていた。


 赤髪の男の一人は200kgはありそうなデブで、白を基調とした装飾過多な特大サイズの貴族衣を身に着けていた。コイツがオズボードだな。写真より遥かにデブだけど、あのプチトマトみたいな髪型は間違いない。


 もう一人はオズボードとは対照的で長身で細身だ。黒の帝国貴族衣を身に纏っていることから、フォースターが話したというペドとかいう家令だろう。


 しかしくノ一たち全員がオズボードを睨みつけているな。なんだ? 何かやったのか?


「「「「「お屋形様! 」」」」」


「ヒッ!? 悪魔! こ、殺さないでくれなのだ! 男爵領を襲撃したのは子爵の独断なのだ! 我が輩は関係ないのだ! 」


 俺が部屋に入ったことに気付いたくノ一たちが一斉にこちらに顔を向けたあと、それに気付いたオズボードが顔を青ざめさせて苦しい言い訳を始めた。


「お前がオズボードか。そんな言い訳が通用すると思ってんのか? お前の領には俺の配下の者たちが姿を変えて潜んでたんだよ。彼らからの情報で奇襲が全てお前の指示で行われたのはわかってんだ。よくも俺の留守を狙って襲撃してくれたよなぁ? オラっ! 」


 俺はそう言ってオズボードの腹を蹴り飛ばした。


「ブゴッ! い、痛いのだ! ぼ、暴力反対なのだ! 」


「暴力反対だぁ? 飛空艦隊を差し向けておいてそれはねえよだろ。こっちはお前のせいで仲間が死んでんだよっ! 」


「ブギッ! ウブッ……あ……血……我が輩の高貴な血が……や、やめるのだ! 金ならやるのだ! いくらでも賠償金を払うのだ! だから殺さないでくれなのだ! なんでも言うことを……ん? オ、オリビア!? なぜここにいるのだ! そ、そうなのだ! 同じ公爵家の者同士、我が輩を助けてくれなのだ! 捕まったマルスを釈放するよう、ロンドメルに我が輩が話をしてやるのだ! 我が輩の言葉をロンドメルは簡単には無視できないのだ! だからこの悪魔から我が輩を助けるのだ! 」


 オズボードは俺の後ろにいるオリビアに気付いたのか、顔面を蹴られ鼻と口から血を出しながらも彼女に命乞いをし始めた。


「オズボード公爵。ご自分が何をしたのか理解されていないご様子。宣戦布告なしに貴族領に攻め込んだのです。和解など不可能なのは貴方が一番よくわかっているはず。それに父はアクツ男爵が救い出してくれますので、貴方の世話になる必要はありません。そういうことですので、おとなしく討たれてください」


「い、嫌だ! 我が輩は死にたくないのだ! ぜ、全財産をやる! 命だけは助けてくれなのだ! 」


「そうだな。お前はまだ利用価値があるからな。いいだろう。生かしておいてやる」


「本当かなのだ!? もう二度と逆らわないのだ! 約束するのだ! 」


「「「「「お屋形様!? 」」」」」


「主君!? 」


「コウ! マジかよ! 仲間を殺した親玉だぜ!? 」


「そうです! 生かしておいたら絶対に裏切りますです! 」


 俺がオズボードの命を取らないと言った途端。オズボードを殺すと思っていたくノ一やリズたちが、驚いた表情で俺を見ていた。


 まだ殺さないさ。まだな。


「コウさん。何か考えがあるんですね? 」


「ああ、コイツにはやってもらいたいこ……」


 俺がオリビアに生かす理由を説明しようとすると、突然くノ一たちの中心にいた静音が飛び出してきて俺の足元で片膝をついた。


「お屋形様! 恐れながら申し上げます! このオズボードという男は地下で五人の側室たちをオークに襲わせておりました! そしてそれを笑いながら見ていたそうです! 女性たちはオークから救い出し、今は別室にて介抱しておりますが、全員が心に深い傷を負い放心状態でございます。このようなことを行う外道を生かしておくなど到底納得ができません! どうか! どうかご再考を! 」


「なんだそれ? オークに自分の妻を襲わせた? それを見て笑っていた? オイ! クソ外道! テメーなにやってんだ! 」


 クソが! あの時に反応があったオークは、自分の妻を犯させるためのものだったってことかよこの外道が!


 俺は静音の言葉に一気に頭に血が上り、空間収納の腕輪からミスリルの剣を取り出しオズボードの腕を斬り飛ばした。


「ぎゃあぁぁぁ! うで……我が……輩の……イダイ……痛いのだ……スモール……ヒー」


「なにやってんだって聞いてんだよ! 」


 俺は怒りのままに次に腕を失い転げ回るオズボードの足首を斬り落とし、そして残った腕も斬り飛ばした。


「オイコラッ! 答えろ! 答えろよクソ豚! 」


 そして醜く太った腹を何度も剣で突き刺した。


 どうして妻にした女性をオークに襲わせるなんてことができんだ? それを見てどうして笑ってられるんだ? なんなんだよコイツはよ!


「あぎゃっ! ぐひっ! いだい……やべで……なのだ……じぬ……血が……死……にだぐ……ない」


 オズボードは血塗れになり、痙攣しながらもただひたすら俺に命乞いをしていた。


 隣にいるペドとかいう家令の男は目をつぶり、下を向きながら震えている。


 そして俺はオズボードの心臓目掛けて剣を振り下ろそうとしたところで……我に返り剣から手を離した。そして悔しさに歯を食いしばりながらスキルを発動した。


「クソったれ! クソッ! クソッ! 『ラージヒール』 」


「コウ? 」


「コウさん? 」


「お、お屋形様……」


 俺がオズボードにラージヒールを掛けたことに、恋人たちも静音も皆が驚いていた。


「静音。俺もこの外道を殺したい。けどもう少し待っていてくれ。コイツにはやってもらわなきゃならないことがあるんだ。それが終われば必ず殺すから」


「……はい。お屋形様のお気持ちはわかりました。私も昔オークキングの苗床にされた友と、宮殿の地下で見た女たちの姿が重なり感情的になっておりました。申し訳ございません」


「謝ることはないさ。コイツには必ず相応の報いを受けてもらうから」


 このクソ豚だけは楽には死なせねえ。地獄の苦しみを味合わせてから殺してやる。


「はっ! 親愛なるお屋形様がそうおっしゃるのであれば」


「ありがとう。オイ! クソ豚! 今は生かしておいてやる! テメーにはやってもらうことがあるからな」


「う、腕が生えてきたのだ……これがラージヒールかなのだ……ハッ!? い、嫌なのだ! 言うことを聞いたら殺す気なのだ! 」


「あ、アクツ男爵殿。どうやら我々に協力して欲しいことがあるご様子。殺さないと契約スキルにて約束していただけるのであれば、オズボード様も私も喜んで協力いたします。男爵の配下になれというのであれば、この身を粉にして働きましょう」


「ふんっ! ついさっきまで震えてたくせに交渉ができると思ったら、急にペラペラと喋り始めたな。ふざけんなよ? 俺はテメーらと取引なんかする気はねえ! 」


 このペドって男は俺がオズボードを殺さなかったことで、自分たちが死んだら俺が困ると気付いたみたいだ。んで賭けに出たってことか。だが残念だったな。その賭けは最初から成立しねえんだよ。


「な、なら協力しないのだ! 困るのはアクツ男爵なのだ! 」


「取引はせずに私たちに言うことを聞かせると……隷属の首輪を使うおつもりですか? 」


「んなもん使わねえよ。お前らや派閥の奴らは解除キーを持ってるからな」


 高位貴族はどんな首輪でも外せる解除キーを複数持っている。そんな奴らに隷属の首輪を嵌めたら、ずっと見張ってなきゃならない。それじゃあ駄目なんだ。だいたいあの首輪は目立つしな。


「ではどうやって我々に言うことを聞かせるおつもりで? 」


「これを使うんだよ」


 俺はそう言って空間収納の腕輪からスキル書を取り出した。


「コウそれっ! 」


「と、とうとう使うです!? 」


「き、金色のスキル書なのだ! 初めて見たのだ! 超貴重なスキル書なのだ! 」


「ユニークスキルかレアスキル確定のスキル書ですか……鑑定しても? 」


「ああいいさ」


 俺はシーナのキラキラした目から目をそらし、ペドに鑑定することを許可した。


 するとオズボードとペドはそれぞれ鑑定のスキルを発動し……その顔がみるみると青ざめていった。


「な、なんなのだそれは……」


「こ、魂縛の……スキル書」


「そうだ。これは魔力のランクが3ランク下の者の魂を縛り、隷属させることができる。魂を縛られた者は術者の命令に背くと魂を締め付けられ、この世のものとは思えないほどの苦痛と恐怖がその身に襲い掛かる。そして命令に背き続けるとやがて死に至る。魂を潰されて死ぬんだ。それはどれほどの苦しみなんだろうな? 死んだあとの魂はどうなるんだろうな? エグいよなこれ。そんなスキルを俺は今から覚えてお前らに使うというわけだ」


 本当はこんな魔王が使うみたいなスキルを覚えたくないんだけどな。けどこれしかないんだ。このスキルなら周囲に隷属させられていることがバレないし、解除されることもない。領地の皆を守るためにはこれが一番いい方法なんだ。


 俺はそう自分に言い聞かせてスキル書を開いた。


 その瞬間スキルの効果と使用法がより具体的に俺の脳裏に浮かび上がった。それは今まで覚えたどのスキルよりも俺の気分を悪くした。


 うげっ! 魂を縛られるってやべえ! イメージだけで吐きそうだ。これならドラゴンに喰われて死んだ方がマシだ! 


 俺は脳裏に浮かんだスキルの効果イメージだけで吐きそうになった。それは死の恐怖なんて生優しいものではなく、まるで自分の存在がこの世から無くなるような恐怖を与える物だった。


 この内容を知ったうえでスキルを発動するのか……沖田からデビルマスク返してもらえばよかったな。


「お、覚えたです……とうとうコウさんが魂縛のスキルを……ハァハァ」


「……そういうわけだ。お前らにはこのスキルを受けてもらう。ああ、抵抗しても無駄だ。俺はSSS-ランクだからな」


「ヒッ!? 嫌なのだ! 我が輩はそんなの受けたくないのだ! ブギッ! 」


「逃げても無駄だって言ってんだろ! 『魂縛』! 」


 俺は逃げようとして静音に踏まれ、床に固定されたオズボードにスキルを放った。すると俺の手から黒い帯状の霧が発生し、オズボードの胸の中へと吸い込まれていった。そしてその霧が何かを縛るイメージが俺に伝わってきたことで、スキルが成功したことがわかった。


「グヒッ!? あぐがっ! ぐ、ぐうぅぅぅ……」


「うげっ……なんちゅう気持ち悪い感覚だ。とりあえず試しに何か命令してみるか。静音、その豚にクナイを放り投げてくれ」


 俺は胸を抑えうずくまるオズボードにクナイを投げるよう静音に命令した。


「はっ! 」


「おい、クソ豚。命令だ。そのクナイで自分の腹を刺せ」


「ハァハァハァ……い、嫌なのだ! なんでそんな……ぶぎゃぁぁぁぁ! あがきごぶべ……あひいぃぃ! さ、刺す……のだ……ウグッ……痛……い……ぐうぅぅ」


「これは……」


 俺は命令に背いたオズボードが突然奇声を上げながら胸を抑えて転げ回り、そのあとなんの躊躇いもなくクナイを手に持ち自分の腹を刺した姿を見てドン引きしていた。


 オズボードの股間はびしょ濡れだ。恐らく大も漏らしたのだろう。くノ一たちが鼻に手を当て眉を潜めている。俺と恋人たちは清浄のネックレスがあるから無臭だ。なんかごめんな。


 しかしまさかあのオズボードがこんなにあっさり自らの腹を刺すとは……それほどの苦しみだったということか。


「こ、これは……怖い……です……でもコウさんになら……」


「いや、シーナ。これはシャレになんねえって……」


「なんて恐ろしいスキル……コウさん以外が手にしていたと思うと背筋が凍りますね」


「使った俺が言うのもなんだけど、正直ドン引きしたよ」


 でも使わなきゃなんねえんだよなぁ。


 俺は皆がスキルの効果に引いている中。オズボードの隣で青ざめているペドにも魂縛のスキルを放った。


 ペドは逃げられないと思ったのか目をつぶってスキルを受け入れ、オズボードと同じように胸を押さえて魂を縛られる感覚に耐えているようだった。


「それじゃあ、お前たちにはやってもらうことがある。さっきの苦しみをもう一度味わいたいなら別に拒否してもいいぞ」


「い、言うことを聞くのだ! あんな思いもう二度としたくないのだ! 死んだ方がマシなのだ! 」


「そうだ。それでいい」


 俺は死んだ方がマシだというオズボードに満足げに頷き、これからやることを指示をしたのだった。


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