第45話 攻城戦

 



 ーー テルミナ帝国南西部 オズボード公爵領都 宮殿地下3階 臨時司令室 ゲハルト・オズボード公爵 ーー




「ペド! アクツ男爵軍の動きはどうなのだ! せ、攻めてくるのかなのだ!? 」


「衛星画像によると男爵領南部にて集まったままでございます。灯火制限もかけていない様子で、衛星からハッキリと確認できております」


「な、ならアクツ男爵は、我が輩の言い分を信じたということでいいのかなのだ? 」


「恐らく。アクツ男爵もニホンの衛星にて、こちらが戦闘態勢にないことを確認できているはずでございます。もうそろそろ和解案の返答が来るかと」


「ふぅ……よかったなのだ。タイワンの艦隊司令である、ケビル子爵の処刑と賠償金で手を打てたのだ」


 危なかったのだ。4時間前に夕食を食べながら、地下で側室たちがオークに寝取られるのをセレスティナと鑑賞していたら、アクツ男爵領を奇襲させた艦隊がアクツ男爵によって全滅させられたとの報告が飛び込んできたのだ。我が輩はそれを聞いて心臓が止まるかと思ったのだ。


 予想外なのだ。アクツ男爵がこんな早くハマール公爵領から戻ってくるとは思わなかったのだ。いったいどうやって戻ったのだ。不可能なのだ。


 我が輩はこのままではアクツ男爵が報復に来ると思い、寝取られ鑑賞を中止し急いで更に地下にある臨時司令室に向かったのだ。そしてロンドメルに援軍要請を送ったのだ。


 しかしロンドメルの奴は救援要請を無視したのだ。正確にはアクツ男爵を倒せる新兵器の準備と、艦隊の編成に二日待つように言われたのだ。我が輩は二日もあればアクツがやってきて滅ぼされると抗議したのだが、ロンドメルは通信を切ったのだ。


 そこでロンドメルの狙いに我が輩はやっと気付いたのだ。奴はアクツ男爵に我が輩を殺させるつもりなのだ。そのあとその新兵器とやらでアクツ男爵を殺し、我が輩の領地と財産を押収するつもりなのだ。そうすればロンドメルが経済まで握り、帝国の統治をするうえで絶対的な存在になれるのだ。


 失敗したのだ。ロンドメルの口車に乗らなければよかったのだ。しかし我が輩も馬鹿ではないのだ。飛空艦隊を一瞬で壊滅させられる悪魔と戦争などするつもりはないのだ。


 だから家令のペドにアクツ男爵に連絡をさせ、今回の襲撃には我が輩は関与していないと伝えたのだ。我が輩の派閥のケビル子爵がロンドメルに寝返って勝手にやったことなのだと、その証拠に消える艦隊はロンドメルの配下の艦隊なはずだと。これは我が輩とアクツ男爵を戦わせるための、ロンドメルの策なのだと説明させたのだ。


 アクツ男爵は通信に出なかったようだが、副司令官であるフォースター準男爵が代理として出て耳を傾けてくれたのだ。フォースターには我が輩の領地から飛空艦隊が発進していることを指摘されたが、ロンドメルに対応するためと誤魔化したのだ。疑うなら全ての艦を基地に戻すと約束したのだ。危なかったのだ。まだ領地から出てなかったからなんとかなったのだ。


 そして我が輩は裏切り者とはいえ、ケビル子爵が我が輩の派閥の者であることは間違いないので、多額の賠償金を払うと約束したのだ。ケビル子爵も我が輩の手で処刑するとも約束したのだ。


 フォースター準男爵はそこまでするのならば、アクツ男爵も矛を納めるだろうと言ったのだ。どうやらフォースター準男爵も、ロンドメルに喧嘩を売った以上は我が輩とまで戦いたくないのが本音らしいのだ。


 それでもその上にいるアクツ男爵がどういう行動を取るか不安だったのだが、どうやらうまく騙せたようなのだ。


「疑ってはいるでしょうが、アクツ男爵もロンドメル艦隊と既に一戦を交えております。戦略的判断で、オズボード様まで敵に回すのを避けたのでしょう」


「危なかったのだ。アクツ男爵があれほど早く戻るとは思っていなかったのだ。今回オリビアを手に入れられなかったのは残念なのだ。地下で側室たちをオークに寝取られたこの悔しさはセレスティナで発散するのだ……ん? どうしたのだセレスティナ? 元気がないのだ」


「ヒッ! い、いえ……よ、喜んでご奉仕させていただきます……」


「グフフフ……そうなのだ。我が輩の言うことを聞いていれば、セレスティナをオークに犯させることはないのだ。我が輩を心から愛して尽くすのだ」


 オリビアが手に入ったらどうなるかわからないが、今はセレスティナを愛しているのだ。


 とりあえず我が輩は危機を脱したのだ。あとはロンドメルとアクツ男爵が潰し合うのを高みの見物をするのだ。アクツ男爵が死ねばオリビアは必然的に我が輩の物になるのだ。もう欲は出さないのだ。


「は、はい! オズボード様を愛しております。ですからオークにだけはどうか……」


「グフフフ……ならベッドでそれを証明するのだ。今夜の我が輩は猛っているのだ」


「よ、喜んでご奉仕させていただきます……」


 グフフフ……いいのだ。この引きつったセレスティナの笑顔がそそるのだ。今夜は必死に我が輩を満足させようとするのだ。



 ビービービー


 ビービービー



「なっ!? なんなのだ! 急にモニターが赤くなったのだ! 何があったのだ! 」


 我が輩は突然司令室の大型モニターが赤くなったことに、画面の前にいる兵に何が起こったのか確認した。


『北東に突然巨大な魔力反応が現れ、もの凄い速度でこちらへ向かってきております! 』


「巨大な魔力反応!? なんなのだそれは! 」


『ただいま映像を確認しており……人です! 黒い鎧を着た……あ、悪魔男爵です! 映像を出します! 』


「ヒッ!? あ……悪魔……き、来たのだ……奴が来たのだ! ペド! 話が違うのだ! どうしてアクツ男爵が来るのだ! 」


 我が輩はモニターに映し出された空を飛ぶ黒い人型を見て、それがアクツ男爵であることを確信した。そしてペドに話が違うと詰め寄った。


「ど、どうやらフォースター準男爵に嵌められたようです……我々は時間稼ぎをされたのかと」


「なっ!? 我が輩を嵌めたのかなのだ! 卑怯なのだ! 」


 騙されたのだ! フォースターはアクツ男爵がこの領地に来るまでの時間稼ぐために、我が輩を信じたフリをしたのだ! ロンドメルと我が輩を同時に敵に回すことはないと思っていたが甘かったのだ!


『ほ、報告します! 領都北東及び南東50kmの地点に敵軍と思わしき反応あり! その数およそ3千と1万! 駐留部隊と飛空艦隊に出撃命令を! 』


「しゅ、出撃させるのだ! だいたいどこからそんな軍が現れたのだ! アクツ男爵といい警戒網はどうなっているのだ! 」


『そ、それがアクツ男爵も北東の軍も突然現れたのです! 南東の軍も山の向こう側に突然……恐らくこちらはエルフの森からやってきたのかと』


「なぜエルフの森からやって来れるのだ! いったいどこの貴族の軍なのだ!? 」


『映像が出ます……北東の軍はアクツ男爵軍の軍旗を掲げています。南東の軍は獅子が描かれた旗。こちらは登録にありませんが、どうやら全て獣人のようです」


「アクツ男爵軍? あ、あり得ないのだ……この数の軍を、車両ごとどうやって運んだのだ」


 我が輩はモニターに映る黒地に銀で悪魔の頭と二本の剣が描かれている軍旗を見て、力なく椅子に座った。


 アクツ男爵だけならまだわかるのだ。あれほどの魔力を発見できなかったのは不思議だが、奴は空を飛べるのだ。しかしあの魔導装甲車や魔導トラックはどうやって上陸させたのだ。現在この大陸はアクツ男爵の敵だらけなはずなのだ。


 それに南東の獣人はバラバラの装備からして、恐らくこの大陸にいた者たちなのだ。たいした装備ではなさそうだが、数が多いのだ。いま領都には2万の兵しかいないのだ。ほかは東の軍基地の揚陸艦に乗ったままなのだ。すぐに戻らせるのだ。


『あ、アクツ男爵が領都に到達します! 対空魔砲沈黙! 発射できません! 』


「な、なぜなのだ! も、もう駄目なのだ! アクツ男爵がこの宮殿に来るのだ! ペド! セレスティナ! 逃げるのだ! 」


 我が輩はアクツ男爵が宮殿内に来ることは時間の問題だと思い、セレスティナの手を取り緊急脱出通路の入口に走った。


『アクツ男爵が宮殿上空に到達! こちらに手を向けています! 何かをしよ……あぐっ……』


「グブヒッ!? な……なんなの……だ……力が……抜け……」


 しかし我が輩が脱出通路のドアを開けたところで、急に身体の力が抜けその場に倒れることになった。


 周囲を見るとペドもセレスティナも、モニターの前にいた兵士たちまでもが床に倒れ込んでいた。それはまるで全身の魔力を失ったかのようで……そうかなのだ……アクツ男爵の能力は魔力を……抜くことができる能力だった……のだ……勝てるわけがないのだ……魔人である我が輩らが勝てるわけが……



 それから我が輩は地面に倒れながら、魔力が回復し腕が動くようになるのを待った。


 そして30分ほどしてやっとなんとか腕が動くようになり、我が輩は腰のマジックポーチから魔力回復ポーションを取り出そうとした。


 ガタッ


 シャッ


「こちら御庭番衆くノ一の静音。地下にて対象を発見。これより拘束します」


 しかし突然天井から現れた何者かが、我が輩の手からポーションを取り上げた。その者は紫色の変わった服を着て頭巾をかぶっており、ミニスカートから出る褐色の長い足には網タイツを履いていた。


「だ、誰なの……だ……」


 我が輩は女に何者なのか問いかけた。しかし女は頭巾を外し浅黒い顔と長い耳を出したあと、我が輩を蔑んだ目で見つめたあとに我が輩の頭を思いっきり蹴り飛ばした。


「ブギっ!? 」


「オークに女を襲わせるとはこの下衆が……ここで殺したいが、貴様には親愛なるお屋形様が必ず地獄を見せてくれるはず。楽に死ねると思うなよ? 」


 我が輩は薄れゆく意識の中で、そう吐き捨てた女の声を聞き意識を手放した。





 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「よしっ! こんなもんかな。地下に魔物の気配があったけど、まさか飼ってたりしてねえよな? 感触的にオークかオーガくらいだったような……」


 俺はオズボードの宮殿の上空で滞空しながら、先ほど放った滅魔の感触に戸惑っていた。


 まさか地下闘技場でもあったのか? 公爵クラスになればやりそうだよな。ファンタジー物でよくあるもんな。


「まあいいか。とりあえずこれで宮殿内にいた奴は動けないはず。あとは軍に任せて俺は基地に行くか」


 俺は後方と前方からやってくる男爵軍と、グリード率いる獣人軍の魔力を感じながら、東にある複数の軍基地の一つへと星を眺めながら向かった。


 そして軍基地にたどり着き、離陸しようとしていたやたらと多い飛空艦を次々と無力化していった。兵士の命は取っていない。少し手間どったけど、コイツらはあとで使い道があるからな。半日動けなくできればそれでいい。


 さて、次の基地に向かうか。


 俺は一番大きな基地を無力化したあと、迫ってくる戦闘機を撃ち落としながらほかの基地へと向かうのだった。








 ーーオズボード領都北 阿久津男爵軍 第一師団長 荒川大佐 ーー





 阿久津様と別れてから暗い街道を車両で1時間ほど進み、オズボード公爵領都まであと3kmほどの地点に差し掛かった頃。


 先行しているドローンの赤外線カメラに、城門の前で敵軍が待ち構えている姿が映し出された。


 《こちらドローン偵察班。城門の前に敵軍! およそ五千の兵が魔銃を持ち待ち構えています! 城壁の上にも多くの兵の姿が見えます! 》


「通信手! 全車両に停止命令! 下車をしたのちに、獣王第一連隊へ魔防盾兵を前面に展開するよう伝えろ! ニート連隊は魔導装甲車と車内より、その後ろから射撃をしながら接近! 敵が崩れたのちに獣王連隊が突入! 大丈夫だ。城壁の魔砲は阿久津男爵様により無効化されている! 上にいる兵はダークエルフたちが向かう! 我々は目の前の敵に集中しろ! 」


『了解! 』


 私が目の前にいる通信手にそう指示をすると車両が止まり、輸送トラックから兵士たちが次々と降りて隊列を組んで行った。


 敵軍も我々の存在に気付いたのだろう。我々がいる位置に魔導ライトを向け明るく照らした。


 それから300人ほどの全身鎧に身を包んだ熊人族と虎人族の兵士が、身を隠せるほどのアダマンタイト製の赤黒い大楯を構え横一列に並び前進した。中央にはレオン少佐の姿が見える。私は第一連隊長が最前列にいることに頭を抱えたくなったが、止めるだけ無駄なので見なかったことにした。レオン少佐が負傷すれば、第二連隊長のケイト殿が獣人たちをまとめるだろう。


 そしてそんな大楯を持つ彼らの後ろを200両の魔導装甲車が続き、最後に獣王第一と第二連隊も前進した。歩兵の両側面には15両の魔導障壁車が守るように追随している。


 城壁の魔導砲は放たれる気配はない。城門前で待ち構えている敵軍にも魔導戦車や装甲車は見当たらない。恐らく阿久津様がついでに無効化していってくれたのだろう。


 こちらは三千だが、最前列には阿久津様がダンジョンで手に入れた大量のアダマンタイトの大楯と装甲車。そして魔銃により放たれる魔弾をレジストできる、Bランク以上の者が多くいる。弱兵で有名だというオズボード公爵軍など鎧袖一触にできるはずだ。


 《こちら偵察部隊。ドローンを撃ち落とされました! 》


「やっとか。いったい何発撃って当てたんだ? 全軍に伝達。見ての通り敵の射撃能力は低い、まさか当たる馬鹿はいないだろうなと伝えてくれ」


 《ははっ、了解しました! しっかり煽っておきます! 》


 私はたったドローン3機を落とすのに全軍で射撃をしていた敵軍を見て、思ってた以上の練度の低さに勝利を確信した。


 問題は後方にいるリズ殿なのだが……ヤンヘル殿とナルース殿では抑えきれないだろう。間違いなくモンドレット子爵との一戦の時のように前に出てくるはずだ。それまでに敵兵力を削いでおかなければ。


『師団長! 大楯隊敵射程距離に入ります! 』


「全軍駆け足! 突撃せよ! 」


『全軍突撃! 敵軍を殲滅せよ! 』


 私の号令に大楯を持った獣人が走り出し、それに続くようにニート連隊が乗る装甲車と獣王連隊が続いた。私の乗る指揮官用装甲車も速度を上げ、師団長付き護衛中隊の元陸上自衛隊の精鋭たちも車両を守るように続いた。


 《敵軍一斉射撃! 》


 《大楯にて防御成功! 》


「扇状に展開さないよう敵軍右翼と左翼に射撃を集中させろ! 」


 私はアダマンタイトの盾で全ての魔弾を無効化したのを確認し、敵が盾の横から攻撃するのを防ぐために右翼と左翼を集中して攻撃するように命じた。


 《お、御庭番衆がいつの間にか城壁を駆け上がっています! 》


「気にするな。恐らく車両の影に潜んでいたんだろう」


 闇の精霊魔法でそういったことができると聞いたことがある。夜の戦場は彼らの得意とする場所だ。


 しかし影に潜むなど本当に忍みたいだな。さすがヤン……確か弥七にお銀だったか……私が最初に呼ぶのは抵抗があるな。阿久津様が呼んでくれればいいのだが……


 私は城壁の上にロープを引っ掛け、次々と登っていく忍者軍団を見ながら、ヤンヘル殿と直接通信する機会がないことを祈っていた。


『装甲車と歩兵の攻撃により敵軍混乱! 魔銃を放り出し逃げる者多数! 』


「今だ! 獣王連隊に装甲車の陰から飛び出すよう命令! その際に今回は武器を捨てた者には追撃をしないように言われていること。降伏を受け入れることを忘れるなと伝えろ! 」


『了解! 』


「モンドレット子爵の時とは違うな……」


 私は部隊を招集する際に、阿久津様に皆殺しにしなくていいと言われたことを思い出していた。



 《降伏を受け入れてよろしいのですか? 》


 《今回は捕らえるだけでいいです。俺に考えがあります》


 《はっ! では武器を捨て逃げる者は放置し、降伏した者は捕らえます》


 《そうしてください。レオンたちには俺から言っておきますが、でもアイツら頭に血が昇るとウッカリ殺しそうなので監視をお願いします。一定数生き残っていてもらわないと困るので》


 《はっ! 私からも念を押しておきます! 》



 阿久津様はこの領都を占領すると思っていたのだが、敵兵を皆殺しにしないということは違うようだ。


 阿久津男爵軍の力を見せ、オズボードを殺したあとに敵対しないよう牽制するのが目的か? まずはロンドメルを倒すことを優先するということかもしれない。しかしオズボードがいなくなれば、派閥の貴族はロンドメルに付く可能性もあると思うのだが……


 私がここで考えても仕方ないな。阿久津様が考えがあるとおっしゃっているのだ。私は信じて従うまで。


『敵軍の隊列崩壊! 逃げる者多数! 城壁の上の兵も御庭番衆にて次々と討ち取られていっています! 』


「順調だな。あとは御庭番衆が門を開……」


 《荒川大佐! 門はあたしたちに任せな! シーナ! オリビア! 行くよ! 》


 《ま、待ってくださいですぅ! いきなりホークに乗って行かないでくださいですぅ! 撃ち落とされますですぅ! 》


 《ちょっとリズさん! コウさんに怒られますよ! 》


 私が御庭番衆が城壁の内側に降り門を開けてくれるのを待とうとしていると、突然オープンチャンネルでリズ殿たちの声が聞こえてきた。そしてそれと同時に獣王連隊の頭上を3台のホークが飛び越えていくのが見えた。


「いかん! 全軍リズ殿を援護しろ! 」


 私はリズ殿を援護するよう指示をしたのだが、門の前で剣を振って接近戦を行なっていた獣人たちは一斉に左右に飛び退いた。


 そこへリズ殿がホークから飛び降り、マジックポーチから薄っすらと青白い光を放つ槍を取り出した。その槍はミスリルの材質に見えるのだが、なぜか魔鉄のように青白い光を放っている槍だった。


 《へへへ! 使ってみたかったんだこれ! 伝説級の破邪の槍だ! 喰らいやがれ! 》


 《ふええ! こうなると思ってたですぅ! 『光矢』! 》


 《もうっ! エスティナじゃないとリズさんを抑えるのは無理ね。こうなったらやるしかないわ。『炎槍』! 》


 ドーーン!


 リズ殿が投げた槍は門の前にいた兵ごと分厚い門を突き破り、そこへシーナ殿とオリビア殿のスキルが撃ち込まれた。その結果、門には数人が通れるほどの大穴が空いていた。


 《よっしゃ! 穴が開いた! やっぱ貫通の特殊能力は使えるな! ならもいっちょいけぇ! おっと危ねっ!『空歩』! よっほっと! もうちょい広げるか。ならトドメは破邪の双剣で! 『光刃』! 》


 そこへ落下中のリズ殿が同じ槍を再度投げたあと、空を二度蹴ってから槍と同じ材質の双剣を取り出して穴の開いた門へと叩きつけた。その際に光の刃がいくつも現れ、穴の周囲を切り刻んでいった。


「なんという威力だ……」


 フォースター副司令からあの門は鉄よりも遥かに固くて重いらしく、黒鉄並みの強度があると聞いていた。魔導戦車の魔導砲でも破壊するのは容易ではないと。だから御庭番衆に内側から開けてもらうはずだったのだが……


 これが古代ダンジョン攻略者の力……


 獣人たちはこうなることがわかっていたのか。だから逃げることを優先したというわけか。


「どうやら阿久津様のおっしゃる通り、地上戦では彼女たちの身を心配する必要はなかったようだ」


 私は大きく開いた穴から次々と都市へと雪崩れ込む獣人たちを見て、そう呟くのだった。



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