第44話 集結

 



「はい、そうです。荒川大佐の指揮で、ニート連隊と第一と第二獣王連隊を車両に乗せた状態で鹿児島の演習場に集めてください。宵闇の谷忍軍には俺から連絡します。精霊連隊は引き続き光学迷彩艦の探索にあててください」


 《了解しました。至急移動させます》


「よろしくお願いします。では現地で」


 《はっ! 》



 飛空艦とデビルキャッスルの修復を終えた俺は、オズボード領へ向けて夕焼けに染まる太平洋上を低空で飛びながら各所に指示を出していた。


 フォースターには捕虜にした敵の尋問をやらせているから、待機中の陸上部隊には俺が直接指示を出している。


 飛空艦隊には引き続き警戒をさせている。被弾した重巡洋艦と巡洋艦とデビルキャッスルは、新しく手に入れた再生のスキルで再度戦闘可能になるまで修復したしな。


 このスキルは再生する対象の物が50%以上残っていれば発動する。しかし失った部分を魔力で造りだすため、かなりの量の魔力を消費するんだ。


 だから聖剣を使ってスキルを発動したんだけど、それでも魔力を相当使った。まあ対象が馬鹿でかい飛空艦だから仕方ない。ちなみに聖剣は初めて使ったが、体感だとスキルの威力を3倍くらいに増幅した感覚だった。


 魔力消費は激しいけどこの再生のスキルの威力は凄まじく、穴が空いていたり破壊されていたりした船体がみるみうちに元の姿に戻っていった。その光景を艦のクルーたちと一緒に、俺も唖然とした顔で見ていたよ。そして一隻あたり5分もしないうちに戦闘不能だった重巡洋艦が元通りになり、再び魔力障壁を張れるようになっていた。


 デビルキャッスルは装甲に黒鉄を混ぜた合金を使っていたり、砲塔にミスリルなど希少な金属を使っていたせいか全魔力を持っていかれた。リズなんか大はしゃぎてすげーすげー言ってて、ティナとシーナはこのスキルがあれば魔物の希少素材を無限に増やせるんじゃないかって目を円マークにしてたよ。それで試しにSランクの剥ぎ取り済みのグレータードラゴンを出して試したら、めちゃくちゃ魔力を持っていかれたうえに、時間も凄く掛かりそうだったから途中でやめた。


 あれなら古代ダンジョンに入って、魔寄せの鈴で呼び寄せて狩った方が早いし楽だと思う。うまくできてるよなこのスキル。


 ああ、そうそう。悪魔城も元に戻ったよ。オートマタは避難させていたから無事だったので、それほど魔力は使わなかった。俺の花園が復活してホッとしたよ。


 んで修復を終えた俺は、合流したメレスにもう少し待っててくれと言って領地を出てきたわけだ。



「さて、次は宵闇の谷忍軍か…………ギルロス、軍団をまとめて第一師団と行動を共にしろ」


 俺は荒川さんとの通信を終え、ギルロスへと繋いだ。


 《御意! 》


「お前たちには領都の包囲を頼む。一匹たりとも魔人を街から出すな」


 《フフフ、お任せくだされ殿。して、殿。拙者は名前を変えましてな。今は『銀無』と名乗っております。意味は拙者の髪の色が銀色であることと、ギルロスのロスをロストと掛けまして『無』としました。これは銀の閃光の前には全てが無に帰す……》


「じゃあしっかり頼むぞギルロス」


 俺はギルロスのどうでもいい話を打ち切り通話を切った。


 ったく、なんなんだよハルロスといいギルロスといい、急に名前を変えだしやがって。ハルロスなんか預金口座の名前まで勝手に半蔵に変えて、アイナノアとグローリーが給与を振り込めないって怒ってたんだぞ。自由過ぎだろアイツら。


 はぁ〜もういい、考えるのをやめよう。アイツらの相手をしても疲れるだけだ。とりあえずこれで全部の指示は終わったから、あとは奇襲を仕掛けるだけだな。


「オズボード、そっちが先に奇襲してきたんだ。こっちも同じ手を使ってやるよ」


 このダンジョンで手に入れた隠者のマントで魔力を消しながら近づき、お前がしたことと同じことをしてやる。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「見えた! 」


 各所に指示を終えたあと、フォースターから尋問の結果の報告を受けてから2時間ほどした頃。


 俺の前にはライトアップされた結界の塔と、海岸線沿いに広がるオズボードの領都が現れた。


 領都は他の貴族の領都とは比べ物にならないほど広く、夜だというのにまるで昼間のように明るかった。鷹の目で街並みを見てみると、10階建て以上の建物が多く建ち並んでおり、大陸側は長く高い壁に囲まれていた。さらにその壁の上には魔導砲が数多く備え付けられていた。


「すげーな。こりゃ帝都民より裕福なんじゃないか? 前にモンドレットのとこに攻め込んだ時は、高高度で通り過ぎただけだったらよく見てなかったけど、まさかこんなに栄えてたなんてな。お? あの中央にある宮殿みたいな城がオズボードの居城っぽいな。しかしなんというか形が卑猥だな。悪趣味な……」


 宮殿の屋根がどう見てもチン◯ンなんだよな。しかも金色でライトアップまでされてるし。あれを毎日見せられる住民はどんな気持ちなんだろうな。


 まあいいや、どうせすぐに取り壊すし。とりあえず迂回してあの山の裏に行くか。


 俺は低空飛行のままオズボード領都を迂回し、領都の北東にある山の裏側へと向かった。


 ここまでまったく見つかっていない。飛空艦隊も離陸していないことから、フォースターがうまくやったようだ。


 それから山を越えて街道に面したところで降り、俺は時間が来るのを待った。


「あと10分か……」


 今頃グリードとハルロスは南東の山の麓に着いた頃かな。先走らなきゃいいが……


 しかし世話の焼ける奴らだ。ライガンがどれほど説得しても、いずれ国を作らせてやると言っても反乱計画をやめようとしなかったのにな。今思えば奴隷の時のように、貴族にただ与えられるのは嫌だったのかもしれないな。恐らく自らの力で勝ち取りたかったんだろう。


 なのにうちの領が襲撃されたと知った途端に全てを諦めてよ、同胞を救うために戦おうとしてんだもんな。まったく、アイツらなんのために二年近く準備してきたんだよ。


 アイツらは自治よりも建国よりも、うちの領にいる同胞を助け俺に恩を返すことを選んだ。これまでの苦労を水の泡にして、命を懸けてそれを実行しようとした。


 馬鹿な奴らだ。けど目的のためには小さな犠牲だと同胞を見捨てるような奴らより、俺はそういう馬鹿が好きなんだよな。


 だから戦わせてやる。戦って勝ち取らせてやるよ。お前らが一番欲しかった物をよ。


 《お屋形様 》


「お? ハルロスか。準備はできたのか? 」


 《半蔵です。獣人救済軍1万2千名。車両に搭乗しました。残りは飛空艦を戻しておりますゆえ、追って合流致します》


「よくやった。しっかりグリードたちに民間人に手を出さないことと、略奪と強姦をさせないように言い含めておけよ? うちの軍はそういう奴らを躊躇わず斬るからな? 」


 《御意! 拙者とほかの草によりしかと監視しておきます》


「ならいい。それじゃあみんなを呼ぶからそっちはもう動いてくれ。頼むぞハルロス」


 《半…… 》


 俺はハルロスの返事を待たずに通信を切った。


 俺が頑なに半蔵と呼ばないのは、半蔵と呼んだら認めたことになり、後に続く者が出そうだからだ。そうなったらアイナノアとグローリーだけじゃなく、家計を総括しているティナにまで怒られそうだしな。


「よし、時間だ。『ゲート』 」


 俺はゲートキーが再使用可能になったのを確認し、演習場をイメージして目いっぱい魔力を込めながらキーをひねった。


 すると大型トラックが通れそうなほどの黄金色に輝く門が現れ、そこからバイクに乗りサングラスを掛けた忍者軍団が飛び出してきた。


 それは5列縦隊で延々と続き、門の左右にドリフトしながら次々と並んでいった。そして最後の一台が並び終わったところで、全員が下車をして門の横にいる俺に片膝をついてこうべを垂れた。


「御庭番衆頭領。風車の弥七、以下100名。参上つかまつりました」


「宵闇の谷忍軍団長。閃光の銀無、以下3000名。参上つかまつりました」


「風車? 弥七? 」


 俺はバイクのあとに続く輸送トラックが起こす風を受けながら、目の前でこうべを垂れているヤンヘルにそう確認した。


 いや、わかってるんだ。わかってるんだけど、その口に咥えている風車と名前がどうしても気になったんだ。


「ハッ! 拙者は名を変えまして、今後は弥七とお呼びいただければと。印籠はただいま製作中ゆえ、しばらくお待ちください。出来上がった際はライガンが印籠を……」


「わかった! もういい! 」


 水戸◯門かよ! しかもライガンに印籠を持たせるのかよ! 


「お屋形様。このナルースも名を改めまして、『お銀』と今後はお呼びいただきたく」


「ナルース……お前もか……」


 そういえばフォースターが最近この夫婦が水戸◯門の再放送にハマっているとか言ってたな。フォースター夫妻と仲良いんだよなこの二人。フォースターの奥さんは明るい人だから受け流せるだろうけど、頭の固いフォースターにはこの二人の相手はキツイだろうな。


「とりあえず銀行の口座名を変える時は、アイナノアかグローリーにちゃんと報告してくれ」


「「「「「御意! 」」」」」


 くっ……全員が返事しやがった……もう好きにしてくれ。


「コウ! なにボーッとしてんだ? もう全車通ったぜ? 」


「え? うえっ!? リズ!? それにシーナにオリビアも!? 」


 俺が数の暴力に負けを認めてうな垂れていると、リズとシーナとオリビアがフル装備で目の前に立っていた。


「へへへ、ティナに頼んで来ちった! みんなの仇を取りたくてよ」


「兎はリズさんのお目付役ですぅ」


「私もお二人を見るようにエスティナに言われて……」


「あ〜そっか。まあ仲間を殺されたしな。わかったよ。リズたちはヤンヘルとナルースと共に行動してくれ」


「なんだよ、レオンとケイトの部隊じゃねえのかよ」


「あんなとこに編入したらリズを止めるの大変だからね。自分がS+ランクになったことと、強力な装備を身に付けていることを忘れないように」


 獣王連隊なんかにリズを編入したら、周りに釣られて暴れまわるのは目に見えてる。少数の御庭番衆に編入した方がまだいい。彼らと領都で憲兵をしてもらった方が街の被害がなくて済む。


「ちぇっ! 暴れられると思ってたのによ。信用ねえなアタシ」


「日頃の行いですぅ」


「なんだと! 」


「ふふふ、二人ともみんなが見てるわよ? こんな所でコウさんに恥をかかせるのは駄目ですよ。それに部隊も整列したようだし、その辺にしておきましょう。コウさん、荒川大佐が報告をするために待っているようです」


「ああ、ありがとう」


 リズとシーナがいつもの羞恥プレイを始めると俺が身を強張らせていたら、オリビアが間に入って収めてくれた。


 ティナ、オリビアをこの二人のお目付役にしてくれてありがとう。


 俺はデキる恋人に感謝しながら、リズたちの後方で気まずそうな顔をして立っている荒川さんに目を向けた。


「阿久津男爵様。第一師団全て移動完了致しました」


「ご苦労様です。戦争前だってのに緊張感の欠片もなくてすみません」


「ははは、お二人はかなり強くなられた様子。余裕の現れなのでしょう」


「そうですね。陸上戦なら離れていても大丈夫なくらいにはなりました。では第一師団はオズボード領都の北門から攻めてください。敵艦隊と城壁の魔砲は無力化しておきます」


「はっ! 第一師団はこれよりオズボード領都北門へ移動します! 」


「ああ、それと三田。ニート連隊に無理をさせるなよ? 」


 俺は荒川さんの後ろにいる三田を始め元ニートの皆に目を向けてそう言った。


 全員魔銃を肩から掛け、剣を腰に差している。モンドレットとの戦いの時よりは装備がいいが、やっぱ心配なんだよな。今回は機甲科部隊は練度不足で連れてきていないしな。


「はいっ! 初陣の者もいるので無理はしません! 」


「ならいい。宵闇の谷忍軍は全ての出入口を見張れ。街から出ていく者は全て拘束しろ」


「「「「「御意! 」」」」」


「それじゃあ俺は先に行ってる。オリビア、リズとシーナを頼んだ。何かあったらすぐ念話をしてくれ」


「はい。コウさんもお気をつけて」


「すぐ追いつくからよ! 待っててくれよな! 」


「ああ、ちゃんと獲物は残しておくよ」


 俺はそう言って上空へ飛び立ち、オズボード公爵領都へと向かったのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る