第43話 禁じ手
「ふぅ……間に合ったか」
俺は30隻近くいる艦隊から放たれた魔導砲を、デビルキャッスルへと当たる直前に消滅させることができ胸を撫で下ろした。
メレスと別れてすぐにティナから念話で敵の光学迷彩艦がオズボードの艦隊らしいことと、30隻ほどの増援部隊と接敵したと聞いた時に鷹の目を発動しておいてよかったわ。
俺は間に合ったことに安心しつつ、デビルキャッスルを確認すると魔力障壁を張っていなかった。恐らく装置を破壊されたんだろう。
フォースターめ、こんな状態で突っ込むなんていくら女神の聖域があるからって無茶し過ぎだろ。まあ悪魔城は無事みたいだから別にい……い……ん?
俺は徐々に近づいてくる悪魔城を見て、何かがおかしいとことに気づいた。そう、東西の尖塔のように悪魔城の最上階の上にあるべきものがない。いや、屋根の上の尖った部分だけではない。その下もごっそり無くなってた。
「あ……露天……風呂……露天風呂がない……サウナもラウンジも……ない……俺の花園が……」
俺は悪魔城の最上階フロアが吹き飛んでいるのを見て愕然とした。
そして徐々に怒りが湧いてきた。
「よくも……よくも俺の生きる楽しみを! オズボードのクソ野郎がぁぁぁぁ! 堕ちろ! 『滅魔』! 」
俺は怒りのまま視界に入った敵艦隊に向け全力の滅魔を放った。
それによりうちの艦隊からの砲撃を受けながら、再度主砲をデビルキャッスルに放とうとしていた敵艦隊は突然バランスを崩し次々と地上の山地へと落下していった。
そして次に俺は味方艦隊の側面から、主砲を放っては消える2隻の光学迷彩艦を見つけ、それに向かって全力の滅魔を放とうとして……思い留まった。
「危ねっ! ティナに言われたことを忘れるとこだった。光学迷彩と武装を解除するだけにしないと。『滅魔』! 」
俺はティナに光学迷彩艦を領地の防衛に欲しいと言われていたのを思い出し、鹵獲するために各種武装の魔力を抜くに留めた。
それから光学迷彩艦がいた場所の周囲を探知で集中して見てみると、もう一隻見つけたのでそれも同じように武装の魔力を抜いた。そして耳に嵌めた小型魔導通信機のチャンネルをフォースターへと繋いだ。
「フォースター、ご苦労だった。光学迷彩艦は無力化した。高速巡洋艦で包囲して降伏させろ。その後は尋問して光学迷彩艦の扱いと総数を聞き出せ」
《ハッ! 至急取り掛かります! 》
《コウ! 待ってたぜ! メレスは大丈夫そうか? 》
俺がフォースターに指示を終えるとリズから念話が届いた。
「遅くなってごめん。メレスは大丈夫だよ。みんなが危ないと言ったらすぐ戻ってくれたよ」
《そっか……父親のことよりあたしたちを……》
「俺が魔帝を連れ戻すって約束したからね。メレスはもうフェアロスに乗り込んでいる頃だろうし、メレスとリリアにも念話のイヤーカフを渡してあるから話してみるといいよ」
《おっ!? マジか! なら話してみる! またあとでな! 》
《コウ、お疲れ様。光学迷彩艦の鹵獲ありがとう。これで領地の防衛力が上がるわ。それで今さっきメレスから念話が来たんだけど、ハマール公爵領でも鹵獲したんですって? 私が言う前に領地の防衛に利用しようとしていたなんてさすがコウだわ》
「う、うん……まあね。一隻しか鹵獲できなかったけどね」
うっ……光学迷彩のシートを小型化して個人で使おうと思ってたのに、俺が鹵獲した艦も艦隊に編入する流れになっちまった。透明人間になってメレスと雪華騎士たちのお風呂を覗く計画が……レミアの入浴や移民街の野天風呂が……
《そんな残念そうにしないで。あれだけの船が4隻もあるならまた攻められても有利に戦えるわ。オズボードのところに行くんでしょう? 》
「あ、ああ……二度と手を出せないようにするためにね」
そうだ。オズボードの野郎、何が中立だ。何が阿久津男爵家とは友好関係を築きたいだ。あのクソ豚公爵の野郎は、やっぱり攻めてきやがった。今すぐぶっ殺しに行きたいが、軍の被害状況の掌握と防衛体制の再構築が先だ。
俺はハラワタが煮え繰り返るほどの怒りを覚えつつも、ティナに女神の聖域を解除してもらいデビルキャッスルへの東塔へと着艦した。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「「コウ! 」」
「「コウさん! 」」
「アクツ様。お待ちしておりました」
「アクツさん待ってたよ! 悪いねぇ、デビルキャッスルボロボロにしちまってさ」
「おっと……ははは。まあいいさ。みんなが無事ならそれで」
俺がエレベーターで最上階に向かい艦橋に入ると、ティナとリズ。そしてシーナとオリビアが駆け寄ってきて抱きついてきた。俺はみんなを軽く抱きしめ返した後、イーナにみんなが無事ならそれでいいと笑顔で伝えた。
大丈夫だ。俺には再生のスキルがある。露天風呂をあれで直せるはず。直せるよな?
「さすが私たちのボスだよ。居城よりも私たちの身を優先させるなんてさ。今度たっぷりお礼をしなくちゃねぇ」
「と、当然のことだからそんなに気にすることはないさ。そ、それよりオリビア、マルスを助けてやれなくてごめんな。必ず助け出すからもう少し待っていてくれ」
俺は花魁のような赤い派手な着物を着たイーナが、胸もとを広げながらお礼をすると言った言葉に頬が緩むのをグッと堪えオリビアにそう言って詫びた。
あの魔帝が死んだとは思えないけど、万が一ロンドメルが言っていたことが本当なら次はマルスが加護を得る可能性が高い。そうなれば間違いなく殺される。確か加護は早くて三日ほどで移行するらしいから、あと二日以内にロンドメルを倒してマルスを助け出さないといけない。
「私は貴族の娘です。覚悟はできています。お父様のことよりも、コウさんはこの領地にいる皆のために最善を尽くしてください。私は大丈夫です」
「それならオリビアのためにマルスを助けないとな。オリビアもこの領の一員だし、なにより俺の大切な恋人だ。悲しませたくないんだ」
俺は真っ直ぐ俺を見て毅然とした姿勢で、父親のことはいいと言うオリビアの頬を撫でそう答えた。
「コウさん……」
「もう、オリビア。無理をしなくていいのよ。コウに甘えていいの。コウはいつだって私たちの願いを叶えてくれたんだから」
「コウが来るまでずっと暗い顔してたくせに強がりやがって。心配なんかすることねぇって! コウがなんとかすっからよ! 」
「ですです! コウさんがあっという間にみんなやっつけてくれますです! 」
「みんな……ありが……とう……」
大丈夫だ。俺が必ず助け出すから。
「フォースター、軍の被害状況は? 」
俺はティナたちに泣いているオリビアを預け、フォースターに向かってまずは被害状況の説明を求めた。
「ハッ! 戦闘不能艦が重巡洋艦3、巡洋艦4の計7隻。ほか中破3。小破5となります。重軽傷者は280名。うち死者38名。重軽傷者はポーションにて応急処置を完了しております」
「……そうか。負傷者はこの艦に集めてくれ。ティナがラージヒールで回復させる。戦死した者は港の倉庫に運び込んでくれ。あとで俺が凍らせ、全てが終わったら合同葬儀を行う。あと……遺体はメレスに見つからないようにな。頼む」
メレスが知ったら自分が飛び出したからと責任を感じるはずだ。この戦争が終われば知られることだけど、今は知らない方がいい。ティナたちも犠牲者の数を初めて聞いたのか、目を伏せている。
そりゃ無傷でいられるとは思っていなかったさ。けど初めて死者を出しちまった。
「アクツ様……ハッ! メレスロス様の目に触れないよう運び出します」
「そんなに悲しい顔をしないでコウ……たとえコウが残っていても、近いうちにこの領はロンドメルの率いる大量の艦隊に包囲されて、今回よりもっと厳しい戦いになっていたわ。そうなったらいくらコウでも全てを守ることなんてできなかった。地上にだって上陸されたかもしれない。メレスを追い掛けたことによって、中立だったオズボードが敵だとわかったことは収穫よ。なによりみんな私たちの領地を守るために勇敢に戦ったわ。家族のために、未来のために戦って散っていったの。だから一人で背追い込まないで。彼らを称えてあげて」
ティナが俺を後ろから抱きしめながらそう言ってくれた。
確かに早いか遅いかの違いだったのかもしれない。ハマールとオリビア父親であるマルスが捕らえられていたんだ。メレスが行かなくても俺が行ったかもしれない。その時にオズボードは同じように動いただろう。
「そうだぜコウ。みんな訓練の時によ、自分の家を持ったことのない俺たちが初めて家を手に入れたって喜んでてよ。それがマンションの一室でも、家族や恋人と毎日笑いながら過ごせる自分の家だって。そんな場所があるここが故郷なんだって、だからこの土地を守るために戦うんだって言っててよ……グスッ……死んでも俺たちのボスは家族を守ってくれるって、幸せにしてくれるって、だから安心して戦えるって……だからよ……だから……」
軍の皆はもともとギルド員だ。リズは目に涙を浮かべながら、同胞たちがどんな思いで戦っていたのかを俺に教えてくれた。
「そうか……なら守らなきゃな……」
わかってる。みんなが決して嫌々戦っていたわけじゃなくて、家族を自分の居場所を守るために戦ったことを。残された俺たちにできることは、死んでいった者たちの意思を継ぐことと、遺族を守ることだって。
昔みたいに俺だけで帝国を相手に戦えれば、こんな想いをしなくて済んだんだけどな。でも守るものができちまった。しかも何百万人て数の人たちをだ。古代ダンジョンを二つ攻略したって、どんなにチートな力を手に入れたって俺は一人だ。全てを守ることなんてできないのはわかってる。けどよ、仲間を失うのは辛いよなぁ。馬場さん……俺はまた失っちまったよ。あの頃より強くなったはずなんだけどな……
「コウさん……」
俺が湧き上がる悲しみと無力さに拳を握りしめ耐えていると、シーナが俺の手を優しく両手で包み心配そうに見上げていた。
「大丈夫だ。戦争はこれで終わらせる。もう二度と犠牲を出さないように、ロンドメルもオズボードも叩き潰してやる。フォースター、鹵獲した艦の指揮官に隷属の首輪を嵌めて光学迷彩艦の情報を聞き出せ」
俺はシーナの頭を優しく撫で、フォースターにそう指示をした。まずは情報だ。光学迷彩艦が中国や台湾にまだいるのかを確認しないと。
「ハッ! 」
「それとヤンヘル! オズボード領の情報を教えてくれ」
ガタッ!
サッ!
「御意! 」
俺が天井を見上げて声を掛けると、ヤンヘルがいつもよりゆっくりと天井から降りてきた。埃もあまり舞っていない。少しは学習したか?
それからヤンヘルにオズボード領の状況を確認すると、どうやら獣人反乱軍がオズボード領に向かっているらしい。どういうことかと聞くと、獣人反乱軍たちはたった2万の地上兵で手薄になったロンドメル領都を攻めようとしていたようだ。そこでロンドメルの一族を捕らえ、結界の塔を占拠するつもりだったらしい。俺はそれを聞いてあまりの無謀さにこめかみを押さえた。
それはライガンとヤンヘルも同じで、なんとか止めようと思ったようだ。しかし言って聞く相手でもないことから、どうするか悩んでいた時にちょうどうちの領が光学迷彩艦隊の襲撃にあった。しかもオズボード領に潜伏している者により、同じタイミングでオズボード軍がうちへ出撃準備をしていたことがわかった。
ならばとライガンの案で、獣人反乱軍でオズボード領を攻めて艦隊の出撃を邪魔をするように誘導したそうだ。その方がまだ生き残れる可能性があるだろうし、俺がオズボード領に攻め込む際の助けになると思ったようだ。
獣人反乱軍のリーダーであるグリードは、阿久津領に同胞がいることと、俺に恩を返すために反乱軍を説得したらしい。でも確か獣人反乱軍は旧コビール領にいたはずだ。距離的にどう考えてもオズボードの出撃を止めるのは間に合わないと思うんだけどな。恐らく嘘も方便てやつでグリードたちを釣ったんだろう。
どう考えてもアイツらがオズボード領に着く前に、俺が領地に攻めてきた艦隊を全滅させている。そうなればオズボードは、留守のはずの俺が現れたのに気付くだろう。奴のことだ、ビビって出撃を取りやめるはずだしな。
そのグリードたちは現在獣人救済軍を名乗り、輸送用の飛空艦に乗りオズボード領近くに移動している頃のようだ。
「なるほど。グリードたちを死なせないために上手く誘導したな。それでグリードたちがオズボード軍に接敵するのは何時ぐらいになる? 」
「はっ! あと5時間ほどかと」
「そうか……わかった。ヤンヘルにはこれを渡しておくから今後は念話で報告をしろ」
「これは奥方様らがつけていた……」
「念話のイヤーカフだ。6つ渡しておくからナルースと配下の者たちにつけさせておけ」
「……御意」
ヤンヘルは天井から現れることを封じられたことにショックを受けたのか、肩を落としながら天井へと戻っていった。
お前らが天井にいると思うと、ティナたちとの夜に集中できないんだよ。悪魔城は女性のダークエルフしか入れないとしてもだ。覗かれて燃える趣味はティナと違って俺にはないんだ。
さて、これからどうするかな。オズボード領はここから全力で飛べば4時間で行けるだろう。となればあと1時間で戦闘不能になった艦の補修を終わらせないとな。魔力を増幅できる聖剣を使えば早くできるかも。ちょっと試してみるか。
「ティナ、俺は先に重巡洋艦を直しに行ってくるから負傷者を頼む。リズたちはもうすぐメレスたちが着くだろうから、彼女のことを頼む」
「わかったわ」
「あいよ! 」
俺は負傷者とメレスのことはティナたちに任せ、艦橋から出て地上で煙を出している被弾艦へと向かった。
しかしオズボードのところに行くのはいいが、どうやってオズボードとその派閥の奴らと戦うか……奴らの支配する土地は広い。宣戦布告して艦隊を集めさせるか? それをやると帝国本土で戦っている最中に、アフリカや中東にいるオズボードの艦隊がこの領を攻めてくるか。
もう周りは全て敵だからな。オズボードと戦うなら短期決戦じゃないと領地が危なくなる。かといってオズボードだけ倒しても、残された派閥の貴族たちはロンドメルに付くしかなくなるから潰さないとまずい。放っておけばロンドメルのカミカゼ部隊を増やすだけだ。あれを領の街めがけてやられたら最悪だ。
ならどうやって短期間でオズボードとその派閥の領地を占拠する? 俺一人で帝国の本土の5分1もあるあの広大な土地を占拠なんてできないしな。
俺が単身で各貴族の飛空艦を潰したあと、陸上部隊をゲートキーを使って呼び込んで占拠するか? いや、それでも何週間も掛かるな。モンドレットの小領でも2日は掛かった。なによりあの広大な領地を占領し続けられる兵力もない。そもそもそんなに時間を掛ければマルスの身が危ないし、ロンドメルも内戦を終わらせ全方位から大挙して押し寄せてくるだろう。
別にロンドメル艦隊との戦闘になって負ける気はしないが、奴のことだ。光学迷彩艦に上陸用の兵士を乗せ、密かに南日本領に上陸させ虐殺を始めるかもしれない。そうやって俺を地上に釘付けにしてから、艦隊で攻めてくることも考えられる。いくら光学迷彩艦の魔力を感じ取れるとはいえ、いつ来るかわからず、この広い九州のどこに上陸するかもわからない光学迷彩艦を見つけるのは困難だ。やはりこっちから攻めて短期決戦するしかない。
となるとやっぱりアレを使うしかないか。できれば使いたくかったけど、アレなら領地を守ることはできるし短期決戦も可能だ。もう周りにどう思われようが関係ない。仲間と領民を守るためならなんだってしてやる。
俺はオズボードとその派閥の貴族たちを短期間で倒すため、封印していた禁じ手を使うことを決意した。
もう二度と仲間を失わないために。
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