第7話 嫉妬

 



 ーー ハマール公爵管理地 帝国アメリカ領 ワシントン地区 キシリア・アーレンファルト女侯爵 ーー




 《キシリア、本日のアクツ様のご様子は? 》


「ハマール様、本日は曇りです。アメリカ総督府の偵察衛星では確認できません」


 私は最近導入したテレビ電話に映るハマール様へ、アクツ男爵領の映像を本日は送れないことを伝えた。


 《んもうっ! 情報局のサクラジマ支局の者の買収はどうなってるの? 》


「誰一人としてアクツ男爵を恐れてなびきません。諦めた方がよろしいかと」


 《ああもう! これじゃあアクツ様の今日のご様子がわからないじゃない! 》


「昨日皇軍と飛空宮殿らしき黒い城が、サクラジマへと到着した映像はお送りしました。そこへアクツ男爵が引越しをしている様子も。たった1日で動きがあるとは思えません」


 私は首に巻いているスカーフの端を噛み、苛立ちげにしているハマール様に湧き上がる負の感情を抑えながらそう答えた。


 毎日毎日アクツアクツと……ハマール様の代わりにこの難しい土地を治めているというのに、私には全然会いに来てくれない。夜の生活もハマール様がアルディス湖に行ってからまったく無くなったわ。


 そういえばあの日からハマール様は首にスカーフを巻き始め、私にサクラジマを監視するように命令したのだったわね。


 いったいあそこで何があったと言うの? そして現在帝国で一番危険な男になぜハマール様は執着されるの? まさか恋?


 いえ、そんなことはあり得ない。ハマール様は女性以外に興味はないわ。幼い頃に信じていた実の兄に犯されてから、ハマール様は男を憎むようになった。その兄がダンジョンで還らぬ人となってからは、言い寄る男は徹底的に痛めつけてきた。そんなハマール様が男に恋心を抱くなんてあり得ないわ。


 あり得ないけどこの異常な執着……


 《それでも気になるのよ! ああ……早くお会いしたいわ。あの全てを奪うお声を聞きたいわ》


「ハマール様……なぜそのようにアクツ男爵などに執着なさるのですか? まさかとは思いますが恋心など……」


 《恋? そんなんじゃないわ。これはそうね……私の命……いえ魂ね。その魂をあのお方は握っているのよ。早く会って戦いたいわ》


「戦いたい……ですか……そうですか、安心しました」


 そういうことね。あのアクツ男爵と戦いたくて気になっているということなのね。


 魂というのが引っ掛かるけど、戦士の魂的なものかしら? ハマール様は戦闘がお好きだから、きっと戦士の魂がアクツ男爵と戦いたいと言っているというところね。


 恐らくアクツ男爵とは、アルディス湖で会ったのでしょう。そこで一度戦われたのね。その時に引き分けたから再戦をしたい。今はアクツ男爵の動向を調べて、その機会を伺っているというところかしら? それなら納得だわ。


 でもあのハマール様と引き分けるなんて、さすが上級ダンジョンを攻略しただけはあるわね。それに戦争も強い。いくら戦艦を保有していたからといって、領地無し男爵が領地持ちの子爵に勝つなんて前代未聞だわ。子爵の兵士を皆殺しにしたことには眉をしかめたけど、元はこの世界の三等民。野蛮なのは仕方ないわね。


 できればあんな野蛮な男とハマール様には会って欲しくないけど、いくら無知で野蛮な男爵でも公爵を手にかけることはないでしょう。そんなことをすれば陛下まで敵に回すことになるもの。


 《まあいいわ。もう少しの我慢だもの。シュヴァインの豚はもう出発するのよね? 》


「はい。もうすぐニホンへと出発すると報告が上がっています」


 《まったく、チンタラして。またあの贅肉を燃やしてやろうかしら? 》


「シュヴァイン伯爵は治安の悪いニューヨーク地域を担当しておりましたので、その引き継ぎに手間取るのは仕方ないかと。かなりの数の反乱分子を処刑して、なんとか引き継ぎができたようですので」


 まったく、この土地の住民はやたらと反抗的な者が多いわね。そして兵たちを買収しようとする者も後を絶たない。兵の装備も盗まれ紛失する事も多く、その摘発にも追われているし。いっそロンドメル公爵のように住民を半分ほど殺して見せしめにしてやりたいけど、それをすれば魔石の獲得に支障が出るのはロンドメル公爵が証明しているわ。


 本当にこの地域は独立志向の者が多く扱いが難しいのよね。ニューヨークもそうだけど、ほかの地区を管理している寄子の者たちも、殺しても殺しても反抗する者が後を絶たないと言っていて手を焼いているし。


 まったく……我々が来る前まではこの世界で最強の国だったようだけど、いつまで過去の栄華にすがっているのかしら? 我がテルミナ帝国の奴隷に等しい存在だと認めさせるには、もうしばらく時間が掛かりそうね。


 《アメリカ領は相変わらず反抗的な地域ね。見せしめのために、またどこかの田舎に核とかいうのを落とした方がいいんじゃないの? 》


「それは難しいです。このアメリカ領の僻地に一度落としていますし、中東やアフリカ領でオズボード公爵も落としています。あの核というのは使い過ぎるとこの星の環境を破壊するそうですので、これ以上は使わないよう帝国政府から言われております」


 《呆れた。そんな自分の首を絞める物を何百発も持ってたの? 愚かにもほどがあるわね。そんな物はもう全て破棄しなさい。そして反乱分子は徹底的に、それを支援している組織もあぶり出し皆殺しになさい》


「はい。そのように致します」


 《そう、ならいいわ。アクツ様の様子がわかったらすぐに連絡しなさい。まったく、オリビアの小娘さえ邪魔しなければお声だけでも聞けるのに……ああもうっ! アクツ様……こんなに私の魂を虜にして罪な人……早く会いたいわ……会ってこの命をあのお力で支配して……ああっ! 堪らないわっ! 》


「ハ、ハマール様……その今度はいつワシントンへ来て頂けるのですか? そろそろ私もお会いしたく……その……夜も……」


 《しばらく行けそうもないわね。これから忙しくなるもの。アメリカ領はキシリアに任せるわ。貴女は優秀だから何も心配していないわ。夜はそうね……今は気分じゃないのよね。アクツ様のことで頭がいっぱいなの。そういうことだからまたね》


「そ、そうですか……」


 くっ……アクツ男爵め! 男のくせに私のハマール様にこれほどまでに気を掛けられていてなんて憎らしい!


 私は通信が切れ真っ暗になったモニターを見つめ、愛しのハマール様の心に巣食うアクツという男を呪いたくなっていた。


 ふう……こんな顔をしていたらいけないわ。皺ができてしまう。これはハマール様がアクツ男爵に勝つまで我慢するしか無さそうね。


 でもそれはシュヴァイン伯爵がニホンへ行くことですぐ実現するでしょう。ハマール様も、もう一度戦えば気が済むはず。


 あり得ないことだけど万が一アクツ男爵がハマール様より強かったとしても、今度は引き分けではハマール様は納得しないわ。決着が着くまで戦わせるはず。そして最終的に身分の差で、アクツ男爵は手を抜き負けなければならなくなる。


 そんなことをすれば、戦いに妥協を許さないハマール様はアクツ男爵を許さない。その場で殺すか、興味を失うのは間違いがないわ。


 フフフ、それまでの辛抱よ。アクツに興味を失ったハマール様は私のもとへ帰ってくる。


 そして私たちはまた、ベッドで熱い夜を過ごす日々を送れるようになるわ。


 そう、もう少しの我慢よ。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「コウ、起きて。朝ごはんできたわよ」


「んあっ? ん〜もう少し……ティナ……」


 俺は寝ている間にいなくなり、朝食を作り終え起こしにきたエプロン姿のティナをベッドに引きずり込んだ。


 あ〜眠い……昨日は引っ越しとかで忙しかったうえに、夜遅くまでティナとオリビアと3人でえっちしてたからな。


 昨日この元飛空宮殿であるデビルキャッスルが届いてから、みんなで新居となるこの悪魔城を見て周ったあと引っ越しを始めた。


 港にある桜島総督府ビルの引っ越しは電子機器などあり大変なので、後日やることにしてまずは住居の引越しをした。9月中には悪魔城の一階で男爵家の政務を全て行えるようにするつもりだ。


 住居の引っ越しと同時に整備士総動員で温泉の汲み上げをさせ、情報局員たちには盗聴器や盗撮機器が無いか城の隅から隅まで調べさせた。まあ彼らはその道のプロだからな。


 いつも新規で購入した戦艦などでもやってもらってるから、手慣れたものだった。彼らも毎回高額報酬をもらえるから大喜びでやってくれているし、オリビアも一緒にやってくれてるから安心して任せられる。


 その結果だけど、盗撮用カメラが見つかった。


 そんなものがどこにあったかというと、西の塔の客室に配置されている二体の魔導人形の頭部カメラだけ外部と繋がっていた。


 俺は予想通り魔帝がメレスを心配して取り付けたんだろうなと思ったよ。だからメレスにそのことを教えてあげた。そしてたらすごく怒って魔帝に電話してたよ。ざまぁ。


 まあそんなこんなで引っ越しを終え、レミアとニーナたち6人を寝室のフロア専属のメイドとして配置した。レミアはメイド全員を取りまとめるから大変になるけど、副メイド長のポーラが補佐をするからなんとかなると思う。魔導人形もいるしね。


 親衛隊と御庭番衆の女の子たちにも、3階と塔の宿舎へ引っ越しをしてもらった。ナルースはヤンヘルと同居しているから通いになる。ここでは田辺の恋人のセシアが、住み込みの御庭番衆の管理をすることになるみたいだ。さっそくナルースとセシアが、ダクトを通って天井裏に入って行ったよ。埃が落ちるからほんとやめて欲しいんだけどな。


 それからメレスとリリアを呼んでみんなで夕食を食べ、西の塔の遊戯施設にあるゲームセンターで遊んだ。メレスは太鼓のゲームが楽しかったみたいで、すごく楽しそうにしていたよ。俺も太鼓を叩く度に揺れるメレスとリリアのおっぱいを眺められて凄く楽しかった。


西の塔にはゲームセンターだけではなく、ボウリングやプールもあるけどまだ使えないんだ。領内で機器やメンテナンスの仕方がわかる人間を手配してるから、その人間が来るまではお預けだ。その人たちが来たら、親衛隊や魔導人形に教えておいてもらう予定になってる。


 そしてメレスたちと別れたあと、いよいよ俺は恋人たちと一緒に大浴場と露天風呂に入ったんだ。もう最高だったね! 夜空をバックに4人に身体を洗ってもらって、美女たちに囲まれて湯船につかってさ。まさに城の城主の気分だったよ。そこでリズとシーナには百合ってもらうという、恥ずかしいお仕置きもしたしね。まあ恥ずかしがってたのはリズだけだったけど。


 そんなリズとシーナを見て興奮した俺は朝までオッキ君を飲んで、ティナとオリビアと一緒に夜遅くまでベッドで楽しんだ。ティナはもう上機嫌だったからすごくサービスしてくれた。オリビアもティナと俺が愛し合うのを横で見て、やっと恥ずかしさが吹っ切れたのか、今までの受け身から積極的に貴族家の子女に伝わる房中術を披露してくれた。


 あるとは聞いていたし、オリビアも口でしてくれてる時にその片鱗を見せていたからもしかしてと期待もしていた。


 魔人も子供は人族ほどできやすくないし、それに高位の貴族家だ。絶対オリビアもそういう教育を受けていると思ってた。だけどまさかあれほどのものとは思ってなかった。


 本気の舌技とあの腰の動きはヤバかった。ティナも初めて見たみたいで、速攻でオリビアに弟子入りしてたよ。寝る時なんて我に返ったオリビアが、色々聞いてくるティナに顔を真っ赤にしてたっけ。そのギャップが堪らなかったね。


 んで、起きたらティナもオリビアもベッドからいなくて、俺は寂しくなって起こしに来たティナをベッドに引きずり込みスカートをまくり上げて小尻を撫で回しているところだ。


「あんっ、もう……朝からこんなにして……昨日の夜あれだけシタのに……」


「朝の息子は別なんだよ。だからいつものを頼むよ……な? 」


「んもう……オリビアたちが待ってるのに……仕方ないわね」


 俺がティナにいつものをお願いすると、ティナは仕方ないと言いながらも微笑みを返しキスをしてくれた。そして布団の中でエプロンを外し、着ていたベージュのセーターもまくり上げてその大きくて柔らかい胸を露出させ下へと潜った。


 そして俺の足の間に入り、両乳と口で朝のマッサージをしてくれたのだった。




 ティナの口に全て吐き出しスッキリした俺は、少し気怠いながらも心地良い気分でベッドから出た。それからティナに着替えさせてもらってから、部屋の洗面所に行き顔を洗い歯を磨いた。


 そしてリビングへと向かうと、オリビアとリズとシーナがダイニングテーブルの前に座って談笑していた。


 テーブルの周りでは魔導人形とニーナやポーラたち専属メイドが、キッチンにいるティナとレミアから渡された料理を次々と配膳している様子だった。


「みんなおはよう」


「コウ遅いぞ! まあナニしてたかは知ってっけどな! あたしとシーナも朝は求められて大変だからな! イシシシ! 」


「ですです! コウさんは朝からいつも元気ですぅ」


「おはようございますコウさん。先に起きてエスティナの手伝いをしていました」


「あはは、まあね。おはようオリビア。ティナを手伝ってくれてありがとうな」


 俺はリズとシーナの言葉に笑いながら頭を掻いてごまかし、オリビアに挨拶を返していわゆるお誕生日席と言われる席へと座った。


 まあとなりにも席があるんだけどね。ここはティナ専用の席だ。


 それからレミアたち6人のメイドたちも皆席につき、みんなで朝食を食べてから仕事着に着替えて恋人たちを連れてメレスのところに様子見に行った。


 メレスたちも朝食を食べ終えたばかりで、4人で少し話してから午後に近場を案内する約束をした。そして夜は雪華騎士の子たちと露天風呂を満喫して欲しいと言ってメレスのところを出た。


 メレスは観光も露天風呂も初めてだから、すごく楽しみにしてくれてたよ。


 俺も凄く楽しみだけど、焦ってはいけない。混浴はもう少しあとだ。まずはラウンジで接待をして、それから彼女たちと少しずつ少しずつ距離を詰めていずれ必ず!


 メレスの部屋を出た俺たちは、そのまま甲板にある小型飛空船に乗り込み仕事先へと向かった。ちなみにこの飛空船の操縦は親衛隊がしている。


 今まで雨の日はゲートキーで、それ以外の日は車でそれぞれが出勤していたけど、今後はゲートキーか飛空船で出勤することになりそうだ。いちいち艦を降りるの面倒だしな。


 そして港で降りてオリビアは情報局へ、リズとシーナはギルドへ。俺とティナは総督府ビルへと、それぞれの職場に向かったのだった。


 さて、お仕事しますかね。

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