第6話 新居

 



「キャーー! 見て見てコウ! 真っ白なふかふかの絨毯にソファー! チキュウの大型テレビにオーディオプレーヤー! さらにここにも魔導人形が5体もいるわ! きっと大浴場にもいるかも! これでレミアたちの負担も少なくなるわね。ここまで奮発してくれるなんてさすが皇帝よね! 」


「すごいですぅ! ふかふかですぅ! 大貴族になった気分ですぅ! 」


「すげー……こんなに広いリビングをこれから使えるのかよ」


「ここにも魔導人形が……それにソファーやテーブルも新品で、公爵家にある物より上等な物だわ。まさか陛下がここまでの物を揃えてくれるなんて……」


「皇帝としての見栄だろうな。内装まで嫌がらせされなくてよかったよ」


 俺は悪魔城に入ってからずっと満面の笑みを浮かべているティナに、ギルドの黒いミニスカートの制服姿のままOバックの白いパンツを丸出しでソファーにダイブしているシーナ。


 そしてリビングの広さに目を見開いて驚いているリズを見ながら、隣にいるいオリビアにそう言った。


 マジでよかった〜。外観は悪意をこれでもかって込めたような物だったけど、内装はヤバイくらいに豪華だ。ティナの機嫌も一瞬で直ったし、これなら外観がアレでもティナたちは満足してくれそうだ。




 俺たちは今、プライベートルームのある悪魔城の5階へとやってきている。


 メレスたちと一旦別れたあと、色々な意味でドキドキしながら悪魔城に足を踏み入れたんだけど、一階の大広間を見て俺は胸を撫で下ろしたよ。


 そこは真っ白な壁に赤い絨毯が敷き詰められ、天井からは豪華なシャンデリアがいくつもぶら下がっていた。そして壁や天井のあちこちからは阿久津家の旗が垂れ下がっており、その光景はまるで物語に出てくる王宮のようだった。


 そして驚くことに壁際には、10体の魔導人形と呼ばれる人工ゴーレムが整列していたんだ。


 魔導人形。


 オリビアに聞いた話によると昨年に地球の技術を取り入れ、前にギルド証製造機を作ってくれた帝国兵器省の筆頭技師であるジン・ライムーン伯爵が開発に成功した魔導人形らしい。


 この魔導人形は皇家と一部の公爵家にしかまだ販売していないらしく、その存在は俺も知らなかった。


 販売開始してまだ間もなく、そしてかなり高価らしい。オリビアの実家のマルス公爵家でもまだ5体しかいないそうだ。


 その魔導人形は体長1mほどの白く塗装されたずんぐりとした体型をしており、そこから二本のロボットらしい腕が伸びている。頭部には一つ目のカメラがあり、足はなく少し宙に浮いている。その姿は宇宙戦争をする有名な映画に出てくるロボットを、若干スマートにした姿に似ている。


 魔導人形に発声機能はないが、こちらの言うことを理解して動いてくれるようで掃除に荷物運びとかなり使えるらしい。マルスも追加購入を検討しているほどだそうだ。


 魔導人形の機体のメンテナンスは2体で相互に行い、その際に動力のDランク魔石の交換も行うから手間いらずとも言っていた。


 この時点で地球のロボットを超えているあたり、こんなものをたった数年で作った兵器省のジン・ライムーン伯爵の能力に俺は戦慄するほか無かった。正直言って俺は魔帝なんかより伯爵の方が強敵に思えるよ。


 そんな大広間と発売されたばかりの魔導人形を見て、ティナたちは大興奮だった。そりゃもう城の外観のことで落ちていたテンションが、爆上がりしているのがはた目にもわかるほどだ。


 オリビアはまあ生まれが生まれだからな。魔導人形がいたことには驚いていたけど、大広間の装飾なんかは特に無反応だった。幼い頃から帝城の晩餐会や高位貴族の夜会に嫌というほど出席してれば、当然ちゃあ当然だよな。


 そしてニコニコしているティナたちを連れ、二階の住み込み用の侍女居住区や厨房。同じく3階の住み込み用の騎士居住区を、魔導エレベーターで移動しながら見て回った。


 ここは全ての居室にキッチンと浴室があり、設備も魔導冷蔵庫にレンジ、オーディオなど最新の魔道具が設置されていた。これらは正方形の魔導リモコンに魔力を流し音声で指示するだけで、照明やお風呂など全ての魔道具を起動させることができるそうだ。


 レミアたちも親衛隊と御庭番衆の女の子たちも喜んでくれると思う。


 3階をひと通り見て回ったあとは、4階のスポーツジムと屋内訓練場に向かった。スポーツジムの設備にリズは大喜びで、ここにも魔導人形が2体配備されていた。


 そして俺たちのプライベートルームのある5階へとやってきたんだが、真っ白な50帖の広いリビングの中央に10人はゆったりと座れるソファーがあり、その前にはテーブルと大きなテレビモニターが配置されていた。各種映像再生機器も設置済みで、魔導人形も5体もいてティナとシーナのテンションはこれ以上ないってくらい上がっていた。


 俺は胸を撫で下ろしながらも、喜ぶ恋人たちを見てついつい頬が緩んでいた。


 魔帝が見栄っ張りでよかったわ。


「フフフ、おっしゃる通りアクツさ……コウさんに皇帝としての力を見せつけたいのかもしれませんね」


「普段からやたらと皇帝としての力を見せびらかそうとしているからな。そのウザさもこういう時は役に立つよな」


 着信を無視しているとなぜ余に敬意を払わぬのだとか、余は世界の皇帝だぞとかことあるごとにうるさかったけどな。こういうところで凄さをアピールしてくるなら大歓迎だ。俺は凄いなんて口が裂けても言わないけどな。だってあいつポンコツだし。


「コウ! 部屋にいきましょ! リビングがこれだもの! お部屋もきっと凄いはずよ! 」


 ティナがキッチンのカウンターに胸を乗せ、俺に部屋を見て回ろうと呼びかけてきた。


 その大きな胸はティナの体重とカウンターに挟まれ、今にもブラウスのボタンを吹き飛ばし飛び出してきそうだ。


「コウさん。兎はお仕置き部屋を作ってくれてくれているか心配ですぅ。早く確認しに行くです」


 シーナもOバックのパンツから生尻と具を丸出しでうつ伏せになっていた状態から身を起こし、俺に特殊部屋を確認したいと言い出した。


 特殊部屋が何かというと、まあ実は部屋とは別に20帖ほどの空間を作らせてあるんだよね。


「あははは! シーナの拷問用具を移設しなきゃなんねえからな! あたしがまた鎖で吊るしてやるぜ! 」


「ふえっ!? リズさんはこの間くすぐったから嫌ですぅ! 兎は笑い死ぬかと思ったですぅ! 」


「痛いの嫌だっていうから、わざわざ鳥の羽まで用意してやったのによ。文句が多いやつだぜ」


 リズはシーナと俺のえっちの日によく参加しにくる。その都度シーナは恐怖に怯えた顔をするんだよな。でも虐められているところを俺に見られてるのが興奮するのか、リズに何をされてもなんだかんだ言いながら受け入れてる。


 特に鎖で吊るされて身動きの取れないシーナの前で俺がリズと愛し合っていると、シーナは顔を上気させて興奮しているのがわかるんだよね。


「リズさんに痛くされるのが嫌なんですぅ! コウさんに罵られて痛くされたいんですぅ! 」


「コ、コウさん……あの……私も望まれるのであれば……鎖とか……」


「ええ!? 望んでないよ!? 俺はノーマルだよ! シーナは特別なんだ。オリビアは気にしないでいいから! 」


 俺は顔を真っ赤にして何か誤解をしているオリビアに、そんなことは望んでないと必死に言い聞かせた。


「えへっ、ですぅ! 兎はコウさんの特別な存在なんですぅ! 」


 特別というか特殊な存在なんだけどな。


「もうっ! いつまで馬鹿なこと言ってるのよ。オリビアも染まらなくていいのよ。コウはそんなこと望まないから。でも私たちがして欲しいことはなんでもしてくれるの。だからシーナにもそうしているだけよ。さあそんなことはいいから早く行きましょ」


「そ、そういうことだったのね」


「ニヒヒヒ! あたしはコウの望むことをしてやってるけどな! まったくあたしのカレシはエロくて困るぜ! 」


「え? あ、うん。そうだね……」


 俺はリズが最近それとなく目隠しをされるのを望んでいるのを思い出しながら、口にしたらシーナが乗っかってきてティナに怒られる流れになりそうだと思い黙っていた。


 それから俺たちはリビングに繋がる20帖ある各部屋を見て回った。どの部屋もティナたちの注文通りの間取りにちゃんと作られていたからみんな喜んでいたよ。


 ティナの部屋は床はフローリングで、水色のベッドやカーテンに帝国の木を多く使った家具で統一されていた。ドレスルームも広く、お風呂も3人はいっぺんに入れそうな広さがあった。

 別に6帖ほどの書斎があり、そこには机とパソコンが設置されていた。14帖の寝室に6帖の書斎という間取りだ。


 シーナは真っ白な部屋で、床にはふかふかの白い絨毯が敷き詰められていた。家具も白で統一されていて、収納がやたら多かった。この部屋にも書斎があって、机とその上に最新型のパソコンが置いてあった。


 リズの部屋はベッドにソファー、そして家具も全て地球の物だった。大きなオーディオプレーヤーにスピーカーが窓際に設置されていて、大型テレビも最新のゲーム機もあった。そして壁のあちこちに武器を飾れる金具が取り付けられており、好奇心旺盛で新しい物好きなリズらしい部屋だった。もちろん書斎なんてない。リズがそんなもの作るわけがない。


 オリビアは飛空宮殿の設計には参加していなかったから、好きな部屋を選んでもらうことにした。その結果、ティナの隣の部屋の書斎のあるタイプの部屋を恥ずかしそうに選んでいた。その部屋はピンクで統一されており、かわいい物好きのオリビアらしいなと思ったよ。


 シーナが心配していた特殊部屋もしっかりとあり、シーナは何も置かれていない一見倉庫のような部屋を頬を緩ませながら熱い眼差しで見ていた。何を想像していたかとかは聞かない。ナニを想像していたんだろうし。


 そして最後に一番奥にある30帖の俺の部屋に入った。


 そこは15帖のリビングと寝室があり、全て地球の家具で統一されている。リビングにはソファーとオーディオにテレビとパソコンが設置してあり、15帖の寝室には部屋のほとんどをキングサイズのベッドを二つ繋げたかのような大きなベッドが占めていた。俺はそれを見て大満足していた。


 これなら全員と夜を過ごしても大丈夫そうだ。


 浴室やドレスルームもやたら広く、10人は余裕で入れる広さがあった。部屋の窓も大きく、目の前には桜島の火山がよく見えてなかなかの絶景だった。


 ティナは俺の世話もあるからか、さっそく部屋中をチェックしていたよ。オリビアもその後を着いて行っていた。シーナとリズはベッドで飛び跳ねて遊んでいた。


 それからいよいよ6階の大浴場フロアに皆で向かった。


「うおっ! すげーオシャレじゃんか! 」


「キャーー! ネットで見た高級ホテルのラウンジみたい! 旅館とはまた違っていて、こういうのもいいわね! 」


「ですです! 大人の女の遊び場って感じですぅ! 」


 プライベートエリア専用のエレベーターを降りると、大きな特殊強化ガラスの窓に囲まれた高級ホテルにあるようなラウンジが目に映った。


 窓際にはソファーがいくつも並び、対面にはバーカウンターがあり、ラウンジの中央にはビリヤード台が3つ設置されていた。


 そしてバーカウンターの横には5体の魔導人形も並んでおり、全員がそのずんぐりした胴体にウェイターの服を身につけていた。


 なんというか衣装を着せると可愛いな。


「これは凄いですね。この設計もコウさんが? 」


「ああ、ネットで色々調べてね。俺たちには広すぎるけど、いつも頑張ってくれているレミアたちにも使って欲しいと思ってさ。50人はくつろげるように作ったんだ」


 マジで作って正解だったな。これならメレスにリリア、そして雪華騎士たちとも楽しい夜が過ごせそうだ。


 そうだ! 雪華騎士たちもいることだし、ダーツも追加しようかな。なるべく長くラウンジにいてもらいたいしな。


「フフフ、コウさんのそういった身分を問わず優しいところも好きです」


「元々は社会の最底辺にいたからな。今は立場は確かに上がったし偉そうにしなきゃいけないこともあるけど、本来そういうのは苦手なんだよ。俺はそんなデキの良い人間じゃないから、ボロが出ないかいつもビクビクしてるよ」


 何万人もの人を守る立場になり、不安にさせないために強がってるけど所詮は元ニートだし。本当はなるべく人と接しないで、ストレス0で恋人と毎日イチャイチャしていたい。


 まあそんなことはもう不可能なんだけど。


「そんなにご自分を卑下しないでください。コウさんは素晴らしい男性です。他人のためにいつも一生懸命で、困っている人を見捨てられない優しい方だということを近くで見てきた私は知っています。そして愛した人のために命を懸けて戦うことのできる方だとも」


「そ、そうかな? でも愛した女性を守るのは当たり前だろ? 」


「フフフ、それを当たり前と言えて、実行までできる男性は帝国でもそういませんよ。帝国の女はそういう男性に弱いんです。それに強いのに驕らず、底無しに優しい男性にも。コウさんはその全てを持っているんです。もっと自信を持ってください」


「そ、そうかな。自信かあ……自信ね。持てるといいな。アハハ……」


 帝国人には魔猿とか変な顔とか言われてるんだけどな……まあ帝国の女性はあまり外見にこだわらないってことかもな。それでもエルフの方が俺は安心して付き合えるのは、やはりイケメンと言われるのが心地良いからなんだろうな。


 あれは決して聞き飽きることの無い麻薬に等しい言葉だし。



「だあぁぁ! 難しい! なんで玉が真っ直ぐ進まねえんだ! 」


 俺がオリビアと話していると、ラウンジの中央でビリヤードをやっていたリズがキレ出した。


「リズさんそのキューとかいう棒は逆だと思いますです。遊び方を説明している動画だと、細長い方で打ってますです」


「はあ? なんでだよ! 太い方を玉に当てる方が当たりやすいだろ。なんで細長い方で打つ必要があんだ? 」


「槍と同じですぅ。持ち手が太い方が打ちやすいです」


「あっ、そっか! 槍か! なるほどな! 何年も使ってないから忘れてたぜ! よっし、次こそは! 」


 リズは今度はキューを腰で構え、槍を突くように玉を目掛けて両腕を突き出した。


「ふええ!? リズさん思いっきり打ち過ぎですぅ! 玉がいっぱい飛び出したですぅ! 」


「なんだよそういうゲームだろ? この台から玉を全部弾き飛ばすんじゃねえのか? 」


「違いますぅ! あの穴に入れるんですぅ! 」


「あ〜そういうことか! わかった! 次こそは入れてみせるぜ! 」


「ブブーッ! リズさんは白い玉を外に出したからもう終わりです。 次は兎の番ですぅ」


「なんだよそのルール。全部穴に落としてからでいーじゃねえか」


「それじゃあゲームにならないですぅ! 」




「ははは、なんというかリズとシーナは見ていて飽きないな」


 俺はビリヤードで遊んでいる二人を見て、笑いながらそうオリビアに言った。


「フフフ、リズさんもシーナさんもいつも元気いっぱいですものね」


「ほんと、いつも騒がしくて見ているこっちも元気になるよ」


「コウさんがいるからですよ。二人とも幸せだって言ってました。コウさんは優しいし、仲間もたくさんいるしで毎日が楽しいと。私も同じ気持ちです。コウさんのその……恋人になれて毎日が幸せです」


「そっか……ははっ、男冥利に尽きるかな」


 俺はオリビアの言葉に少し照れながらそう答えた。


 元ニートで逃げてばかりいた情けない俺が、恋人に幸せを感じさせてあげられるなんてな。これほど嬉しいことはないよな。



「コウ! 露天風呂凄かったわよ! 雨の日は屋根が出るみたい」


「ああ、見に行くよ。オリビア行こう」


 俺がオリビアの言葉に照れていると、大浴場の方からティナが呼ぶ声が聞こえた。


 俺はビリヤードで楽しそうに遊んでいるリズとシーナに先に行っていると声を掛け、オリビアと共に大浴場へと向かった。


 大浴場には洗い場の中央に大きなマットが敷いてあり、俺はそこでのプレイを思い浮かべて頬を緩めていた。そしてサウナルームを見て、大浴場から繋がる岩風呂と檜の露天風呂へと向かった。


 露天風呂は注文通りの作りだった。岩風呂は30人はいっぺんに入れそうなほど広く、檜風呂はそれより小さかったが、それでも十分な広さだった。


 あとは源泉をポンプで引いてくるだけだな。タンクは艦内に大型のを用意してあるし、遠征する時は循環式に切り替えれば問題ないだろう。


 うん、素晴らしい!


 魔帝はよくやってくれた! これほどの出来なら外観なんか気にならないほどだ。


 高価な魔導人形も17体もくれたしな。


 いやぁ、今度魔導通信が来たらすぐ出てやるかな。そこで多少自慢げに言われても、昔上司の自慢話を聞き流していたスキルを活かして相槌を打ってやるか。


 ああ……早くこの露天風呂に入りたいな。さっそく引越しをして、源泉を汲み上げて今夜はみんなでお風呂に入るとするかな。


 俺は西の塔の見学は明日にして、明るいうちに引越しを済まそうとティナたちに声を掛けて悪魔城を出たのだった。


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