第8話 街づくり
『地形操作』
俺はイメージを固めたあと地面に手をつき、大量の魔力を込めてスキルを発動した。
すると地面から30mほどの長方形の平らな石が浮き上がり、それを持ち上げるかのように四方から高さ3mほどの石の壁が現れた。
《おお〜》
「ん〜よしっ! こんなもんかな。それじゃあドワール取り掛かってくれ」
俺は石製の長屋とでも呼べるその建物を、人が住めるようにするよう狸人族のドワールに指示をした。
ドワールは長年帝国で建築の奴隷頭をしており、桜島移住初期に家を建てるために送られてきた作業員だ。奴隷解放後そのまま家族を呼んで桜島に移住をしてくれて、島の住居建築の長として働いてくれている。
「へ、へいっ! 皆やるぞ! 1班は入口用の穴を開けろ! 2班は窓と通気口だ! 3班は排水用の穴と側溝を掘れ! 急げ! 」
《オウッ! 》
「暑いから無理するなよ〜! 『氷河期』! 」
俺は9月初旬でまだまだ暑いので、建物へ続く道以外を2mほどの高さの氷の柱で埋め尽くした。
《うおっ! 一瞬で氷が!? 》
《うひゃー! すげぇ! 冷てえ! 》
《涼しいなぁおい! 領主様ありがとうっス! 》
《スゲー! さすが上級ダンジョンを攻略した領主様だぜ! 》
「アクツさんありがとうごぜえやす」
「いいさ、んじゃ次の作っておくから壁に穴を開けたら呼んでくれ、硬化のスキルで固めるから」
俺は喜ぶ大工たちにそう言って次の現場へと向かった。
「ふう……これを今日はあと30回繰り返すのか……」
1棟で10世帯を詰め込むから300世帯分か。それでも1200人程度の住居にしかならない。これ何日繰り返すことになるんだろ……
参ったな……いくら来る者拒まずとはいえ、まさかここまで早いペースで増えるとはな。
飛空宮殿『デビルキャッスル』の甲板にそびえ立つ、悪魔城への引越しを終えてから5日ほどが経過した頃。
俺は帝国本土から毎日万単位で押し寄せる移民の住居造りに精を出していた。
なぜこんなことをしているかというと、3日前に鹿児島市郊外の平野部に設けた移民の受け入れ場所が、キャパオーバーしそうだと沖田が泣きついてきたんだ。
聞けば獣人の移民はもう既に30万人がやってきているらしい。これは想定していたよりもかなり早いペースだ。
これでは既存のマンションや団地の補修やリフォームが間に合っても、鹿児島県内だけでは数が足りない。かといってこのままじゃ、移民たちを受け入れる場所がない。
こうなったら鹿児島県以外への移住を許可するしかないと沖田は言っていたが、俺はそれを却下した。常識も民度も違う獣人たちを各県に分散させたら、必ずトラブルを起こす。特に獣人女性は危険が多い。ケモミミ好きにストーカーされたり、攫われる可能性がある。獣人たちが日本に慣れるまでは、一か所にまとめておくのが一番安全だ。
一番良いのは移住受け入れを一時停止することなんだけど、それはもう今さらだ。帝国各地で既に移動を始めてるからな。それでも一応は帝国の各街に人を送り、移動の時期をズラすように告知しに行かせてはいる。
ただ、モンドレットの元領地近辺の獣人たちは迫害にあいそうだから、移動を止めるわけにはいかない。
兵士のみとはいえ獣人が帝国人を大量に殺したからな。一応周辺の貴族には獣人を迫害したら宣戦布告するとフォースターを通して警告しているけど、民間人はそんなの関係ない。住み込みの仕事をクビになって、露頭に迷っている家族が多いみたいなんだよな。
じゃあ毎日のように増える移民をどうするか考えた結果。だったら鹿児島市の隣に街をもう一つ作ればいいじゃないということになった。人手はいくらでもいるし、やってできないことはないだろうと。
そういうことで移民受け入れ場所を街にするべく沖田に予算を組ませ、資材の手配をさせた。俺は俺で風精霊のエルフを大量に引き連れ、森の伐採をして木々を全て空間収納の腕輪に入れていき地形操作のスキルで整地をした。丸2日掛かったよ。
これで場所は確保できたと思ったら、今度はテントとプレハブの製造が追いつかなくなった。
魔物の皮で代用させようとしたけど、それでも足らないことから俺が急遽長屋を建てることになったわけだ。
あ〜暑い……石垣島か宮古島の海に行きたいな……今年はプールで我慢かなこりゃ。
メレスは西の塔のプールが使えるようになるのを楽しみにしてたな。
でもこの5日間は思ってた以上に忙しく、メレスの観光の付き添いを一回しかしてあげれていない。
それでも鹿児島市でのショッピングが楽しかったらしく、毎日色々な服を着て俺に見せてくれる。
プールに入れるようになった時用に買った水着も着て見せてくれたよ。白のワンピースタイプなんだけど、お腹の部分はパックリ開いていてハイレグでさ。お尻の部分の布の面積も狭くてもうサイコーだったよ。なんなのあの真っ白な肌!
リリアは赤のビキニタイプの水着を買ったはずなんだけど、恥ずかしがって着て見せてはくれなかった。メレスは堂々としてたんだけどね。彼女の場合は男が周りにいなかったから、結構見られるのは平気なんだよね。
一緒に買ったティナたちはネットで事前に調べていたらしく、当日のお楽しみっていってどんなのか見せてくれなかった。どんな水着を見せてくれるのか楽しみで仕方ないよ。
メレスとリリアはそんな感じで毎日のように悪魔城に来るもんだから、もうメレスとリリアと護衛の雪華騎士団長のオルマの3人をプライベートエリアに自由に出入りできるようにした。それでおとといから朝食と夕食を一緒に食べるようにもなった。
オルマは40年前にメレスをフラウから守るために足を失い、その後団長の座を退いた30代半ばほどの美人だ。俺が治したことにより、騎士団員の強い要望で復帰したそうだ。長い赤髪を後ろで編んでいてさ、なんというかカッコいい女性なんだよね。
そうそう、ほかの雪華騎士の子たちもきのう最上階の露天風呂に招待したんだ。俺はレミアたちに用意させた浴衣をみんなにプレゼントした。もちろん丈が短めの特別仕様だ。
そして露天風呂から出てきたメレスや雪華騎士の子たちを、ラウンジで俺と恋人たちで接待した。
お酒を片手に窓際でゆっくり飲む子たちや、ビリヤードやダーツゲームをする子など50人の女の子の中で男は俺一人。念願の女の花園を拝ませてもらったよ。
ビリヤードはみんな知っていて、リズとシーナが教わってた。急遽設置したダーツゲームの方は知らなかったらしく、みんなきゃあきゃあ楽しそうにしていた。
俺は横ではだけた浴衣から見える胸の谷間に興奮してた。いやぁリリアが一番デカかったわ。Hカップなうえに背が低くて、腰も細いもんだから余計にデカく見えた。普段はキツめの顔なのにダーツで良い点数取ると嬉しそうに笑ってさ、あのギャップが堪らなかったな。
その一方でメレスは嬉しいのに必死に表情を抑えて、当然よって顔をしてた。メレスは嬉しい時は頬が緩むからわかりやすいんだよね。可愛い子だよ。
雪華騎士の子たちも楽しんでくれたみたいで、今回定員オーバーで来れなかった子たちも露天風呂に入りたいと言ってたようだから定期的に誘おうと思ってる。
みんな良家の子たちだから、あまりハメを外すことが無かったんだろうな。西の塔の一階にあるゲームセンターを自由に使っていいよと言ったら喜んでたよ。
そんな感じで夜は割と楽しいんだけど、昼がなぁ……
まあ忙しいのは俺だけじゃなくてみんなそうなんだけどさ。
ギルドは陸軍にゴッソリ人を取られて、新人が圧倒的に多くなったから初期講習でかなり忙しい。
その一方で新人ではないけど領内の元探索者たちには、うちのギルドのルールを覚えさせる講習を強制的に受けさせている。数が数なだけに担当しているリズやシーナは大忙しだ。
せめてもの救いは新人ギルド員の教育はダークエルフの里からきた、真宵の谷忍軍が請け負ってくれたことかな。みんなCランク以上のベテランだし、3000人以上いるからすぐ育つと思う。この辺に関しては来てくれて助かったな。
団長のギルロスは初の任務だって張り切ってた。なんか黒鉄で手裏剣を作ったとか言ってたから見せてもらったけど、全く的に当たってなかった。もう一度映画を見て勉強しますとか悔しそうに言ってたけど、映画とかって見た目重視の投げ方だから見るだけ無駄な気もするんだよな。まあダンジョン以外でなら好きにすればいいと言っておいた。
軍は軍で荒川さんたち元自衛官は東京や大阪などを中心に勧誘に飛び回っているし、ライガンや三田たちは魔銃の射撃訓練をしている。初めて使う彼らには、エネルギーの魔石はいくら使ってもいいから当たるようにしておけと言ってある。
飛空艦隊も移民から募った新規クルーの教育を種子島基地でしている。なんとか定員は集まりそうだ。指揮官クラスは、荒川さんの勧誘に期待するしかないけど。
ティナもアイナノアやグローリーほかエルフ10人で、領地全体の管理や男爵家の経理で忙しそうだ。特に移民のお金の建て替えに引き落とし業務が大変そうだった。今度宰相の爺さんに、帝国銀行出張所作ってくれないか交渉してみようと思う。
レミアたちも募集して集まったメイド希望の子たちの面接に忙しそうだった。今のところ40人は確定していて、順次悪魔城で働き始めてる。
まあ全てがまだ始まったばかりだしな。永遠に忙しいはずはない。昼に恋人たちのとこに行ってイチャイチャできないけど、今は我慢だ。
俺は忙しいのは最初だけで、夜は恋人たちとイチャイチャできると言い聞かせ長屋を建てていった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「あ〜マジで疲れた……」
俺は長屋造りを終え、悪魔城のリビングでぐったりしながら夕食ができるのを待っていた。
「コウ、電話よ。フォースターさんから」
俺がソファーで寝転がっていると、キッチンでレミアやオリビアと夕食を作っていたティナが俺の魔導携帯を持ってきた。
「んあ? なんだ? 確か霞ヶ関に行ってなかったか? なんかトラブったか? 」
俺は新しく日本領の管理者に赴任した貴族と、さっそくトラブったのかと思いながらソファーから身を起こした。
確か昨日新しい管理者がやってきて、上位貴族ということもあり息子のクラウスとフォースターの二人で応対していたはず。
魔帝には変なの寄越すなと言っておいたから大丈夫だと思ったんだけどな。
「そうじゃないみたい。判断を仰ぎたいから連絡したと言ってたわ」
「判断? まあいいか。ありがとう」
「もうすぐで夕食ができるから、電話が終わったら部屋で倒れてるリズとシーナを呼んできてね」
「ああ、わかったよ」
俺はティナから魔導携帯を受け取り、一日中慣れない講習をやって死んだ顔をして帰ってきた二人を呼びに行くことを約束させられた。
やだなぁ、リズ不機嫌だったしな……
俺は絶対愚痴を聞かされるだろうなと思いつつ、魔導携帯の保留を解除して電話に出た。
「待たせたな」
《夜分申し訳ございません。少々ご判断を仰ぎたい件がございまして》
「気にするな。それで? どんな内容だ? 」
《はっ! 新しく日本領の管理者に赴任した者が、アクツ様にご挨拶したいと申しておりまして》
「帝国貴族が俺に挨拶? 確か上位貴族だったよな? 」
俺はフォースターの言葉に一瞬耳を疑った。
三等民の成り上がり貴族だとか、悪魔だとか野蛮人だとか帝国中で言われてる俺に上位貴族が挨拶?
罠だな。罠としか思えない。
《はい。シュヴァイン伯爵が是非にと》
「シュヴァイン伯爵? 」
《はい。北アメリカ自治区のニューヨーク地区を管理していた伯爵で、温厚で政務に関しては非常に優秀な人物です》
「げっ! アメリカ自治区って確かハマールが管理してたよな? 」
《はい。シュヴァイン伯爵家はハマール公爵家の縁戚となります》
「やられた! あのクソジジイ! モンドレットを倒した時の含み笑いはこのことだったのかよ! 」
変なやつ寄越すなって言ったのに変態を寄越しやがった!
《アクツ様。ハマール公爵家と過去に何か? 》
「公爵本人にいきなり襲われたんだよ。まあ返り討ちにしたけどな。あの変態女の配下のやつが日本領の管理者かよ……嫌な予感しかしねぇ……」
《ハマール公爵に!? た、確かにアクツ様ほどの武勇を持つお方ならば、あの戦闘狂と恐れられるハマール公爵が戦いを挑んできてもおかしくはないでしょうが……なんとも噂どうりの方のようですね。しかし変態……ですか? 男に対しては異常なほど残虐なことは有名ですが……》
「変態も変態。ド変態だよあの女は。とりあえずハマールの関係者なら断れ。うちの領地に一歩でも足を踏み入れたら叩き出すと伝えておいてくれ」
関わったら駄目だ。お隣さんとは不干渉が都会で住む者の常識だ。どうしてもというなら手紙で挨拶してもいい。でも会うとかお近づきになるのは駄目だ。
《お、お待ちください! 相手は伯爵位で非常に顔の広い人物です。男爵家の外交を担当する者としては、是非繋がりを持ちたいと考えております。そもそも男爵に対し伯爵が出向くなどあり得ないことです。これを断れば今以上に他の貴族から不評を買い、今後外交及び帝国内の情報収集は困難を極めます。今回は是非お受けいただきたくお願い申し上げます》
「ぐっ……それはそうだろうけど……ハマールは……」
フォースターの言うことは最もだとは思う。確か貴族社会では、上位の貴族の誘いを断るのは御法度だってオリビアが言っていた。俺はそんなの関係ねえと思えるけど、俺の代わりに矢面に立っているフォースターはたまったもんじゃないだろう。
貴族の情報はオリビアから手に入る。けど、情報局は帝国の情報機関だ。俺にばかり情報を流していたら、そのうちほかの貴族が騒ぎ出してオリビアの立場が悪くなるかもしれない。
だからフォースターに外交を担当させて帝国内の情報を収集させようとしたが、フォースターは貴族の間では寄親を裏切った男という扱いだ。しかも三等民あがりの貴族の寄子になっている。情報収集にはかなり苦戦しているのは想像に難くない。
難しいのはわかっていたさ。でもフォースターくらいにしかできない仕事でもあるんだよな。俺が対応するのは嫌だし。
でもハマールはちょっと……いや、かなり関わりたくない。
《ハマール公爵はニホンには来ておりません。今回シュヴァイン伯爵は、ハマール公爵にアクツ様と友好関係を築くようキツく言われたようです。それで挨拶に来るということになったようですので、ご心配には及ばないかと》
「友好関係ね……うーん……わかった。フォースターには嫌な仕事してもらってるしな。ハマールと会うわけじゃないならいいよ。シュヴァイン伯爵となら会うことにする」
仕方ない。できれば関わりたくないけど、俺のわがままでフォースターに負担を掛けられない。
俺はフォースターの今後の仕事の影響を考え、今回は折れることにした。
《ありがとうございます。シュヴァイン伯爵をテコに多くの貴族と繋がりを持ち、必ずや男爵家に有益な情報を収集いたします》
「期待しているよ。それじゃあ日程が決まったら教えてくれ。俺はいつでもいいから」
《はっ! ご連絡いたします》
俺はやる気に満ちたフォースターの返事を聞いてから、ため息を吐きつつ電話を切った。
シュヴァイン伯爵か……ハマールに俺とモメないよう言われたから友好関係を築くために会いにくる……まあそれなら納得はできるかな。
うん、まあ適当に挨拶してすぐ切り上げればいいだろう。あとはフォースターに任せる。
俺は深く考えるのはやめにして、ティナに言われたとおりリズとシーナを呼びに行くのだった。
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