第24話 佐世保署襲撃

 



「いやっほーい! ざまぁだぜ! 」


「やったなロイ! 今までさんざん俺たちに因縁つけてきた特警の奴らを斬ってスッキリした! 」


「あははは! 動きは鈍いしツインスネーク、いやデススネーク以下だったよね。私の弓があんなに命中するなんてさ! ボスのスキルは凄すぎだよ! 」


「なあボス! これから佐世保署も襲撃に行くんだろ? 俺たちにもやらせてくれよ! 」


「それいいな! ボスに一般人並の能力にされた奴らなんて俺たちだけで十分だ! 」


「くおらっ! テメーラ調子に乗ってんじゃねえ! 銃弾程度でダメージ受ける奴らにやらせるわけねえだろ! 荷台でおとなしく見てやがれ! 」


「ぎゃんっ! 痛てえ! きょ、教官……」


「アッハハハ! 威勢がいいのはいいんだけどね。Dランクになってからだね。あとはアタシたちに任せときな」


「あはは! レオンとケイトの言う通りだ。ロイたちは良くやった。あとは先輩たちに任せておとなしくしててくれ」


 俺がレオンにゲンコツを見舞われて涙目のロイへそう言うと、荷台に座るほかのBランクの教官たちも笑いながら頷いていた。


 Eランクじゃ拳銃やら機関銃の銃弾を防げないからな。あとは迎えにきたトラックに乗ってきた、レオンほか教育隊の教官である5人の獣人たちにやらせるさ。


「わかったよボス……」


「まあ多人数相手に良い動きをしていたよ。ロイのスピードはなかなかだった。ベルクもその大剣でよくモーラとノノを守っていたし、2人の弓も正確だった。ああ、ワムの槍も良かったぞ。よくロイの補佐をしていたしな」


 俺は良い気分だったところで頭を押さえられ、急に暗くなったロイたちを褒めた。いくら俺の滅魔で一般人レベルにまで能力が落ちた相手とはいえ、6倍の数相手に無傷だったんだ。そこはたいしたもんだと思ったよ。


「ほんとかボス!? やったぜ! ボスに褒められた! 」


「いえーい! 」


「やった! ボスに褒められた! ボス! リズ姐さんにも言ってね? わたしリズ姐さんにも褒められたい! 」


「あっ……わ、わたしも……です。嬉しい……です」


「あはは、わかった言っておく。だから評価を下げたくなかったらおとなしくしてろよ? 」


「「「はーい! 」」」


 相変わらず子供たちからのリズの人気は凄いな。特に女の子たちからは憧れの存在になってるしな。鹿人族のモーラなんて時折リズの口調を真似してるし。ノノもおとなしい狸人族なはずなのに、いつかリズのようになりたいとか言ってる。今回の囮役を決める時もロイのパーティが真っ先に志願してきたしな。


 とりあえずここまでは順調だ。2日前から今回の襲撃を準備した甲斐があった。


 しかしバレないもんだな。ヘルメットを脱げと言われたらどうしようかと思ったよ。当初リズは俺に猫耳と髭を着けさせて、シーナはどこで手に入れたのかトゲ付きの鞭を俺に持たせた変装をさせようとしてた。俺は絶対バレるだろって面白がる2人に言って、新人のカードを借りてフルフェイスヘルメットを被っただけにしたんだがバレないでよかった。だいたいトゲ付きの鞭とかどこの奴隷商人だよ。


 変装が必要だったのは、フォースターから特警の奴らは俺を見掛けたらすぐに撤退するように厳命されていると聞いたからだ。さすがヘタレの日本総督府だなと思ったよ。どうせ俺に直接手を出さなければ、そこまで怒りを買わないとか思ってんだろうな。ギルドに被害が出て俺が文句を言ってきても、モンドレットが間に入って貴族の階級差で俺を黙らせられると信じてるんだろう。そうは問屋が卸さないんだけどな。


 まあいいや。今日で特警は潰す。九州だけじゃない、全国の特警も全てだ。俺が今回張った罠に、傲慢な特警の奴らは絶対に食い付いてくるはずだ。俺たちはその罠の成功率を上げるため、特警を挑発して数を集めさせる必要がある。そのために前日にゲートキーで寮にいるギルド員たちを迎えにいき、俺が早朝からロイたちとダンジョンに入って仕込みをしていたんだ。



「ったく、まだまだガキだな」


「何言ってんだい。アンタもガキの時はあんな感じだったじゃないか」


「おいおいケイト。 俺はもっと冷静だったぜ? 」


「よく言うよ。虎人族としょっちゅう喧嘩ばかりしてたじゃないか。お互い貴族の命令を無視して首が締まりながら殴り合ってさ、あの子たちの方が賢く見えるくらいさ」


「あ、あれはあの男がお前に……お、男には引けねえ時ってのがあるんだよ」


「引き時ってのがあるんだよ。ほんとしょうがない男だよ」


「ははは、ケイトそれくらいにしてやってくれ。みんな笑ってるぞ? 」


 俺は突然始まったレオンとケイトの夫婦漫才に苦笑いをしつつ、ロイたちや同席している者たちがニヤニヤしていることを教えてやった。レオンは恥ずかしさからか牙を剥いて荷台にいる者たちを威嚇し、ケイトは威嚇して子供たちを怖がらせるレオンの頭を叩いていた。


 やっぱ獣人て力が強い種になればなるほど女性の方が強いよな。レオンとケイトはその頂点の獅子人族だからなおさらそう見えるわ。


ただそんな女性に弱い獅子人族の男だが、統率力が高い。虎人族ほど脳筋過ぎないし頭も良い。だから警備隊長を辞めてトレジャーハンターで稼ぐというレオンとその恋人のケイトに頼み、教育隊長になってもらった。俺は悪いなと言ったけど、後進を育てるのも悪くないし、高給だし喜んでやると受けてくれたんだよな。ほんと面倒見の良い奴で助かったよ。欲しがってた停滞の指輪を今度2人にプレゼントしてやるかな。


 《 アクツさん。もうすぐ佐世保署に着きやす! 》


「わかった。着いたらそのままゲートに突っ込んでくれ。結界を張ってあるから大丈夫だ」


 俺は助手席から荷台へと無線で知らせる狐人族の獣人に、トラックで門を突き破るように指示をした。


 《 へ、へいっ! 信じてますぜ! 》


「大丈夫だ。それじゃあレオンたちはトラックが止まったら署に突入して、保管室にある魔石や素材を回収してきてくれ。オルバの母親の形見の懐中時計もな。数人なら見せしめに殺していい」


「わかった! 好き放題やってくれた報復だからな。派手に暴れてやるぜ! 」


「コラっ! レオン! モタモタしてると追いつかれちまうだろ! 予定通り15分で終わらせるんだよ! 」


「わ、わかってるって! 」


「トラックは大丈夫だ。結界があるからな。囲まれてもどうってことない。懐中時計だけは必ず回収してきてくれ」


「おうっ! 任せとけ! 」


 まったく……直前に泣きながら訴えてきた猫人族のオルバの話を聞いて特警には呆れ果てた。魔石や素材だけじゃなく貴金属も奪うとはな。まるで盗賊じゃねえか。やっぱあんな組織はいらねえな。


 《 アクツさん突っ込みやす! 》


「よしっ! それじゃあここにいる5人で暴れてこい! 」


「「「おうっ! 」」」


 俺はトラックが特警の佐世保署の門に突っ込み停車したタイミングで、革鎧に身を包んだ猛獣たちを解き放った。


 しかし恐らく連絡が来ていたのだろう。佐世保署の前には剣や槍を持った隊員と銃を持った者たちが200人ほど待ち構えており、レオンたちを銃で撃ち牽制したのちに剣で斬りかかっていった。


 俺はそれらの隊員と探知のスキルに映る署内にいる全ての人間に対し、大気中の魔素を介して滅魔を放った。その途端にレオンたちに向かって行っていた特警隊員たちは、走る速度が遅くなり転ぶ者が続出した。


 そこへレオンたちは一気呵成に襲い掛かり次々と斬り伏せていった。俺も暇だったので風刃のスキルを発動し、後方で銃を撃つ奴らの腕を切り刻んでいった。


 署の前にいた特警隊員たちを無力化したレオンたちは、倒れている隊員を2人ほど引きずってそのまま建物内へ入っていった。


そして10分ほど経過した頃、レオンが渡しておいたマジックバッグを掲げて建物から出てきた。


 タタタン! タタタン!


 パシーン パシーン


「お? 追い付いてきたみたいだな」


 レオンたちが出てきたタイミングで、後方から追い掛けてきた10台ほどいた装甲車やトラックが追い付いてきた。奴らは特警署の入口の門を塞ぐように止まり、装甲車に取り付けてある銃を俺たちの乗るトラックの下方に向けて撃っていた。


 恐らくトラックのタイヤを撃ち抜いて、逃げられないようにしたいのだろう。全て結界で弾いているし、万が一結界が破られてもタイヤにはスキルの硬化を掛けてあるから無駄なんだけどな。


「レオン! ズラかるぞ! このまま包囲を突破して県内を横断して海岸線に出る! モーラ! 反撃しなくていい! 撃たせておけ! 」


「は、はい! 」


 俺は銃撃と同時に装甲車から降りてくる隊員たちを見て、レオンに早くトラックに乗り込むように指示をした。その際にモーラが弓で特警車両のタイヤを撃ち抜こうとしていたのを止めた。


 追い掛けてくる数が減っても困るし、こっちもスケジュールが詰まってるんだ。ここで倒した特警の奴らも、ポーションで回復する程度の傷しか与えていない。すぐに追い掛けてきてくれるだろう。


「それじゃあ飛ぶぞ! みんな手すりに捕まれ! 」


 俺はレオンたちがトラックの荷台に乗り込んだのを確認し、床板に設置した金属製の二つの取手を持ち飛翔のスキルを発動した。


 かなり重かったが俺の全力の飛翔スキルによりトラックは宙に浮き、署の入口に展開する特警車両を飛び越え大通りへと着地させた。


「スゲー! 飛んだ! 飛空艇みたいに飛んだ! 」


「あははは! トラックが飛んだよ! ボス凄い! さすがリズ姐さんの惚れた男だよね! 」


「ガハハハ! ケイト見たか? 特警の奴ら目を丸くしてたぜ? 」


「ああ、愉快だったねえ。アクツさんといるとほんと飽きないよ」


「さすがにこの重量はキツかったけどな。それよりレオン、懐中時計はあったのか? 」


「ああ、保管室になくてよ。隊員を1人殺したら署長が持ってるって吐いたから、そのまま署長室に行って机の下に隠れてた署長をぶっ殺して取り返してきたぜ。ただ保管室には素材はあったが魔石は無かったな」


「そうか。魔石はもう中央に運ばれたっぽいな。まあ懐中時計が見つかったならいいや。署長はまあ別府署が本部だからいなくても大丈夫だろ。きっと怒り狂って追ってくるだろうし予定通りだな」


 まあいいさ。魔石はいくらでも後で取り返せる。ここへ来たのは挑発と懐中時計が目当てだったからな。余計な物を奪わなきゃ命は助かったかもしれないのに哀れな奴らだ。


 さて、あとは追ってくる奴らを引き連れてお散歩だ。別府署の応援部隊が合流するまで引き摺り回すとするか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る