第12話 爵位





 ーー テルミナ帝国 帝城 皇帝執務室 ゼオルム・テルミナ ーー




「リヒテンラウド、魔王は動き出したようじゃな」


「はい。チキュウの暦で3月始めにフクオカの上級ダンジョンを攻略し、翌月の終わりにはオオサカの上級ダンジョンをあっさり攻略しております。現地の者が最下層のフェンリルの素材と魔石を確認しておりますし、ダンジョンより大量の魔素が放出されたのを観測しております」


「ククク……そうか、やっと動き出したか。早く【冥】の古代ダンジョンに挑まぬかのう。あそこを攻略すれば若返りの秘薬の上級という物と、2等級以上の停滞の指輪が5つずつは手に入ると人族の残した文献には書いてあった。得られるスキルは不明じゃが、そうなればどれか一つはもらえるじゃろ。あのダンジョンは魔王と相性が良いゆえ簡単に攻略するじゃろうしな」


 あれだけ催促してやっとか。しかし動き出したのならすぐに古代ダンジョンに行くようになるじゃろう。恋人にエルフがおるからのう。魔王と獣人の娘2人で3つは必要になるはずじゃ。帝国で未だ誰も攻略した事のないあのダンジョンを攻略させれば、余にも30年若返るという若返りの秘薬の上級か停滞の指輪が回ってくるというものじゃ。通常の若返りの秘薬でも、貴族どもは手に入れるとその場で飲むからのう。欲しいのう。余もあと200年生きられるかどうかじゃからのう。


 なに、あやつへの褒美などもう考えておる。帝国の美女100人との家を用意して、いつでも来れるようにしてやればいい。あの男はスケベじゃからのう。オリビアも気に入っているようじゃし、マルスに言って嫁に出させても良い。マルスもオリビアの性格がキツすぎて嫁の貰い手がいないと嘆いておったしの。ついでに魔王を取り込めるしでWIN-WINの関係というやつじゃな。


「確かに滅魔のスキルは死霊と相性が良いですな。古代ダンジョンのある欧州担当のマルス公爵も、頑張ってはいるようですがなかなか難しいようです。アクツ殿をなんとか欧州に行かせましょう」


「うむ。ギルドも順調なようじゃし、もう少し待っておればエルフのために動くじゃろう。して、話は変わるが魔王のスキルは確定か? 」


「はい。間違いなくラージヒールを会得しております。アメリカ総督府の偵察衛星とニホンの街の監視カメラで、確かに四肢を欠損した者が回復しておりました。それも最低でも500人……間違いありません」


「やはりか……アレは【時】の古代ダンジョンだけではなく、【魔】の古代ダンジョンにもあったのか。さすが魔王のいるダンジョンよのう」


 おかしいと思っておった。帝国からサクラジマに行ったという施設にいた者たちが、元気に街で買い物をしていると聞いた時は耳を疑ったものじゃ。そして魔王が集めた人族の者たち。これをオリビアと衛星で監視をしていた。余が指示をするまでオリビアとその配下の者は知っていて黙っていたようじゃがな。よほど魔王が恐ろしいらしい。しかしさすがに数が数じゃ、隠しきれぬと思ったのであろう。特に口止めもされていなかったようじゃから、確かに魔王が回復させていたと話しおった。じゃから魔王に詰め寄ったのじゃがな。


 しかしあやつはとぼけおった。じゃから衛星と監視カメラで動かぬ証拠を得させた。

 これで魔王がとぼけようとも、確実に追い詰めることができるのう。


「はい、恐らくはそうでございましょう。しかし公となれば貴族たちが黙ってはおりません。サクラジマは今は政府管理の領地となっておりますが、ラージヒールを持っていると知ればロンドメル公爵辺りがアクツ殿を手に入れようと動き出しましょう。いえ、どうもモンドレット子爵を唆しているとの情報も入ってきております」


「ロンドメルは魔王に絡むじゃろうの。余の話をまったく信用しておらなかったからの。古代ダンジョンの攻略など人族には不可能だと笑っておった。帝城を襲撃したのも悪魔の仕業だと信じておるようじゃ。すぐに手を出さないのは、念のため情報収集をしているというところじゃろう。あやつは野心が強く残虐じゃが、妙に慎重なところがあるからのう」


 あの男が魔王を見逃すはずがないからの。次期皇帝になるために、古代ダンジョンの攻略に人生を捧げてきたような男じゃしの。今は自らが滅ぼした中華大陸をまとめるのに忙しく動けぬようじゃが、そのうちまた動き出すじゃろう。


 それに余が気に掛けているというだけでも魔王に絡むじゃろう。あやつは余が嫌いじゃからの。

 余も嫌いじゃし、滅ぼすネタはいくらでもある。が、地位もそうじゃが配下の者たちの戦闘力と寄子の貴族たちの戦闘力が高すぎる。間違いなく内戦となるであろう。負ける気はせんが、こちらも多くの犠牲が出る。そのうえロンドメルとその配下の者たちを滅ぼせば、地球の支配が弱まる。


 そうなれば地球の者たちがその隙に色々と動き出すじゃろう。それは面白くないからの。歯がゆいところよ……まあ魔王がなんとかするじゃろ。その時は余もバックアップしてやろう。


「ニホンと中華大陸は近いですし避けては通れませぬな。その際に帝国が混乱しないよう手は打っておきましょう」


「うむ。そうしてくれ。それでラージヒールの話じゃが、長くなるであろう娘の治療を魔王はやってくれるかの? 」


「アクツ殿は女性に甘いですからな。メレスロス様の美しさと現状を見れば間違いなく助けようと動くはずです。それにアクツ殿は飛空戦艦と戦闘機が欲しいと言っておりました。教練をする者とそれら魔導兵器を褒美にすれば受けるでしょう」


「飛空戦艦をか? ふむ……地球の人族対策かの。あやつも大変よの……ならば爵位をやろうかの。貴族であれば地球の人族もちょっかいをかけぬじゃろ」


 ちょっかいをかけてくる貴族と戦うにしても、魔王に飛空戦艦など必要あるまい。恐らくは地球の各総督府を警戒しておるのじゃろう。飛空戦艦と戦闘機はいずれ地球の科学を取り入れたものに入れ替える予定じゃし、先に処分したと思えばいいじゃろう。


 そのうえ魔王がダンジョンを攻略しに行きやすいように爵位でもやれば、地球の者たちは手を出せまい。

 どうせアホウの多い貴族は何をしても魔王に絡んでくる。言っても聞かぬ者は滅べばよい。

 魔王には今後定期的に帝国に来てもらい、メレスロスの面倒を見てもらわねばならぬからの。それに古代ダンジョンの攻略に、魔界の対応もしてもらわねばならぬ。地球の人族への煩わしさくらいは取り除いてやろう。

 しかしあの男に野心のかけらもないことが帝国にとっては幸運じゃったの。

 色々調べさせたが、まさか本当にハーレムだけが望みだったとはの。筋金入りのスケベじゃのう。


「しかしアクツ殿が爵位を受け取るでしょうか? 魔導通信での会話を聞きまするに、陛下とは口喧嘩ばかりしているように思えるのですが……」


「ククク……受けぬじゃろうな。余に忠誠を誓うなどあり得ぬじゃろう。じゃから魔王が爵位を受領したことにすればよい。本人が否定しようが貴族院で認め世界に公表すればよいのじゃ。そうじゃな……上級ダンジョン2つ攻略したゆえ、男爵でよいじゃろ。貴族になったのじゃからサクラジマの管理も魔王に委任するよう手続きをしておくのじゃ。ククク……思ったよりも早くロンドメルともお別れになりそうじゃのう」


 世界を支配しておる余がそうと決めたらそうなるのじゃ。魔王がどんなに否定しようがの。あやつも帝国の領民であることは認めておる。領民である以上貴族になれる可能性はあるのじゃ。ダンジョンを攻略すれば当然貴族に取り立てられる。本来なら上級ダンジョン2つも攻略すれば子爵じゃが、三等国民じゃからの。男爵が妥当じゃろう。文句を言う者がおれば、魔王と同じ期間での上級ダンジョン攻略を命じればよい。誰もが黙るじゃろうて。


「……陛下……知りませぬぞ? アクツ殿は相当怒りますぞ? 」


「よいよい。怒らせておけばよいのじゃ。あやつが貴族になれば人族も発奮するじゃろうて。それより飛空戦艦も飛空空母も戦闘機も好きなだけ渡してやるのじゃ。それを餌にメレスロスの面倒を見させる。貴族の件で文句を言いにくるじゃろうからそのタイミングで引き合わせるかの」


「はぁ〜……わかりました。しかしメレスロス様がもしアクツ殿を気に入った場合はどうするので? 」


「ククククク……ハアーーッハハハ! あり得んあり得ん! メレスはあんな不細工な男には見向きもせんよ。母親に似て顔にはうるさいからの。万が一にもあり得ぬ。それにメレスは余の言うことは聞くからの。あんなスケベな男はやめよと言えば言うことを聞く。ククク……しかしメレスが魔王にか……これは面白い冗談じゃのう」


 そもそもメレスは男に興味がないからの。幼き頃に余のお嫁さんになると駄々をこねたくらいかの。

 余よりいい男はおらぬからの。メレスには余が父であったことも、体質と同じく不幸なことじゃったかもしれぬ。なんと不憫な子よ。


「そうですか……」


「リヒテン、あの子はあまり表に出してやれなんだ。せめて温かく毎日を過ごさせてやりたいのじゃ。女としての幸せもあの身体では死ぬまで得られるぬであろうからの」


 かわいい娘じゃが、余のせいで呪いともいえる体質に苦しんでおる。余も手を尽くしたが駄目じゃった……なんとかその苦しみを取り除いてやりたいものよ。

 そのためならば魔王に飛空戦艦程度いくらでもくれてやる。そんなものがなくてもあの男がその気になれば帝国は滅ぶからの。SSランクの者が持つ結界と滅魔。本当に恐ろしいスキルの組み合わせじゃのう。


「はっ! 私もメレスロス様を幼き頃から見ておりますれば……幸せを願うばかりです」


「リヒテンが面倒を見てくれたおかげじゃ。ほかの娘たちに比べても少々キツイところがあるが、良い子に育った。感謝しておる」


「もったいなきお言葉……しかし性格のキツさはアルディス様にそっくりでございますな」


「ククククク。確かにの。アルディスに似ておる。それでは仕方ないのう。ククククク……」


 確かに亡きアルディスにそっくりじゃな。

 それでは仕方ない。魔王も手こずるじゃろうな。

 その姿を見るのも一興よのう。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る