第11話 トレジャーハンター





《 それではギルマスのパーティ『デビルキラー』による、ギルド『デビルバスターズ』初の上級ダンジョン攻略を祝いまして……『乾杯』! 》


「「「「「 かんぱーーい! 」」」」」


 福岡の上級ダンジョンを攻略した翌日に、ギルド員たちを発奮させるためにそのことを伝えたらあれよあれよと祝勝会をやることになった。連絡のつくギルド員たち全員が新人教育係のレオンによって呼び戻され、あっという間に2100人いるギルド員たちのうち1500人ほどが集まった。


 そしてギルドとギルド前にテーブルを置いて、料理人の爺さんたちも手伝ってくれて三田の音頭で祝勝会が始まった。乾杯をした途端にリズとシーナは子供達に囲まれ、ティナはエルフたちに攫われてしまった。


 リズもシーナもティナも、みんな楽しそうにダンジョン攻略の時の話をしているよ。リズは相変わらずガキ大将ポジションで剣を振り回し、下級竜との戦闘を子供達に語り聞かせてる。それを子供達は目を輝かせながら、おお〜とか言って聞いている。楽しそうでなによりだ。でも危ないから剣はしまって欲しい。


 俺は尊敬の目でお酒を注ぎに来たレオンや復讐組のヤンヘルとライガンと少し話してから、準備があるからとテーブルの横のパーテーションに囲まれた机の所に入った。そして準備をしながら、あちこちから聞こえてくるギルド員たちの会話に耳を傾けていた。


《 しかし凄えよな。1階層から始めて2ヶ月で上級ダンジョンをたった4人で攻略しちまうんだぜ? 》


《 しかも竜系のだ! もうギルマスは古代ダンジョン以外はどのダンジョンでも余裕だろ! 》


《 古代ダンジョンだって余裕だろ。ギルマスのあのスキルはこのサクラジマの…… 》


《 おいっ! 言うな! みんなわかってるけど口にしてねえだけだ! 貴族に知られたら面倒なことになる。例えサクラジマ内でも口にすんじゃねえよ! 》


 まあそうだよな。さすがに色々気付くよな。別に貴族に知られてもいいんだけどな。どうせアイツら信じないし。魔族の階級社会ってさ、プライドばかり高い脳筋バカ製造システムだよな。まあフォレスターとか一部マトモそうなのもいるけどさ。オリビアから聞けば聞くほど、上級貴族は自分の見たいものしか見ないし、信じたいものしか信じない馬鹿が多いと思ったよ。


 さすがに宰相もそれはわかってるみたいで、地球の領地を管理する貴族は厳選しているらしいんだけどね。

 でもモンドレット子爵みたいなのもいるし怪しいとこだな。多分何人か失脚させたい貴族を選んでると思うんだよな。統治が悪いとかいくらでも難癖つけれるもんな。お〜やだやだ。ドロドロの権力争いとか何が楽しいんだか。


《おっと、悪りぃ。危なく恩を仇で返すとこだったぜ。すまねえロビーノ 》


《 あっははは! みんなわかってるんだって。でもアクツさんはその力をさ、あたいたちを救うために使ってくれたんだよな。いい男だよ。リズのやつが羨ましいねぇ》


《 ああそうだな。返せねえくらいの恩があるな……しかしこれで一気にギルドの知名度が上がるな。へへへ、鼻が高いぜ 》


《 ばっか! あんた知らないのかい? アクツさんはキュウシュウ以外の上級ダンジョンも攻略するつもりだよ? 今度は下層に到達した冒険者を雇って階層転移陣で下層からスタートするらしいんだ。フクオカの上級ダンジョンはあたしたちがいつか挑むからって1階層から攻略したんだってさ。その他のダンジョンはそこまでしないから、時間を見つけて2ヶ月に1つずつ攻略するってさ。本当にそうなったらとんでもないことになるよ 》


 まあね。次は関西と関東の上級ダンジョンをサクッと攻略するつもりだ。

 世界中にギルドの名前を知れ渡らせてやるさ。この元ニートと元奴隷のギルドの名をな。

 日本と帝国の奴らがどんな顔をするか楽しみだ。


 まあ日本は暴動鎮圧に忙しくてそれどころじゃないか。霞ヶ関前は大荒れだもんな。

 しかし馬鹿だよな〜。暴動起こして鎮圧されて捕まったら、真っ先に徴兵される組に入れられるに決まってんじゃん。ダンジョンで力を付けてから暴動起こせばいいのにな。生き残れたらだけど。


 その一方で三井なんか鹿児島の港で開いた竜肉店が大繁盛で、忙しさに死にそうになってるけど。

 それでもダンジョンに入るよかマシか。毎日竜肉食えて寿命も延びるんだし恵まれてる方だろ。親父さんとおばさんは繁盛してる店が嬉しいみたいでさ、卸値も高いけど売値も結構な値で売れるからホクホク顔だったよ。


 竜肉に関しては鹿児島市長を始め九州の各県知事がこぞって売って欲しいと言ってきたから、ヴェロキラプトルとかギルド員が狩ってきたのを卸すことにした。日本の探索者じゃまだ数は狩れないからな。知事たちは県の財政が生き返るとか大喜びしてた。ご近所さんだからこれくらいはしますよ。


《 マジかよ! 2ヶ月毎に上級ダンジョン攻略って……伯爵になっちまうんじゃねえか? 》


《 あっははは! あの人が貴族に? そりゃ傑作だね! 周囲の貴族に戦争仕掛けまくって帝国を骨抜きにしちまうんじゃないかい? それはそれで面白いねぇ…… 》


 冗談じゃない! 俺が魔帝の臣下になんかなるわけねえだろ! あのジジイの下に付くくらいなら独立戦争起こすわ。それに貴族になったら周囲の貴族が攻めてくるに決まってる。貴族間の戦争が推奨されてる狂った国だからな帝国は。ずっと敵がいなかったからガス抜きなんだと。さすが魔人の国だわ。魔界に帰ればいいのに。


 俺は聞こえてくるギルド員たちの会話にウンザリしながら、せっせと空間収納の腕輪からアイテムを取り出し並べるのだった。


 そして並べ終わったところでアイテムに大きなシーツを被せ、パーテーションを取り外した。


「よーしみんな注目! いいか? 年末までの9ヶ月間で、ギルドに一番貢献した上位5パーティに所属の30人全員にこの中から好きな物を一人一つずつくれてやる! 」


 俺はそう言ってアイテムに被せていたシーツを取り除いた。

 そこには今回福岡上級ダンジョンで手に入れた、英雄級のミスリル製の鉤爪の付いたガントレットとミスリルの槍を目玉とした数々のマジックアイテムが並んでいた。


「「「「「う……うおぉぉぉぉ! 」」」」」


「このガントレットは英雄級だ! 切りつけると同時に風の刃が発生して不可視の刃が魔物に襲いかかる! そしてこのミスリルの槍は、魔物に突き刺すとその場所が凍る特殊能力が付いている! その他特殊能力は付いてないが、ミスリルの剣に鎧もある! マジックアイテムは豪腕の指輪に3等級の祝福の指輪とマジックバッグ! そして4等級の停滞の指輪が4つ!魔力の指輪や護りの指輪まであるぞ! さらにさらに! 1位のパーティには、この上位冒険者と貴族しか持っていないマジックテント中級を報酬としてやる! 2LDKだぞ! ダンジョン攻略が快適になるぞ! 」



《 英雄級!? マジか! あのガントレットがあれば…… 》


《 て、停滞の指輪よ! 4等級なんて老化速度が3分1になるやつよ! 》


《 俺は豪腕の指輪とあの槍が欲しい! 》


《 私はマジックテントがいい! あれがあれば毎日お風呂に入れるわ! 》


《 ミスリルの剣なんてSランク冒険者しか持ってるの見たことねえぞ! 5位に滑り込めれば手に入るかも! 》


 俺が上級ダンジョンを攻略するか、下層に行かないと手に入らないようなお宝を紹介するとギルド内は熱狂に包まれた。外で飲んでた奴らも皆がギルド内に雪崩れ込み、仲間に肩車やらしてもらってこのマジックアイテムを見て目を輝かせていた。


「この景品はギルド内のショーケースに入れて飾っておくからあんまり押すな。ほらっ! そこで揉めてんな! いいか! それじゃあこのお宝を手に入れるために必要な貢献度の説明をするぞ! ギルドへの貢献は当然魔石と魔物の素材だ。その換金額で競ってもらう。が! 仲間を死なせたパーティは即失格だ! そして四肢の欠損者を出したパーティも大幅に減点する! 欲にかられて無理してダンジョンに挑む奴が優秀なはずねえからな。9ヶ月間生き残ることが最低条件だ。新人は無理をするな。このイベントは2年ごとに開催してやるからそれまでに強くなれ! 生き残りさえすればいつか必ず強くなる! 死ぬな! 生き残ってこのお宝をいつか手に入れろ! 」


「「「「「 おおおおおおお!! 」」」」」


《 ギルマスあんた最高だ! やるぜ! 俺は絶対英雄級の武器を手に入れてやる! 》


《 きゃー! ギルマスカッコいいのに優しい! エスティナが羨ましいわ! 私たちも魔力と祝福の指輪を手に入れるために頑張らなくちゃ! 》


《 レオン! ニュービーたちの教育が終わったら私たちもやるよ! もういい年なんだ! 絶対に停滞の指輪を手に入れるからね! あんたも私が今のままの身体の方がいいだろ? 》


《 え? お、俺はあのガントレットが……い、いや!そ、そうだな! ケイトの言う通りだな! 停滞の指輪を手に入れれば現役で長くいられるからな! 》


《 停滞の指輪……先輩もしているあの指輪があればセシアさんと長く一緒に……》


《 やべえ、ぜってー死ねねえ。欠損もやべえ。慎重に、かつ効率的に狩りをしなきゃな 》


 よしよし、予想通りやる気になったみたいだ。

 レオンはしっかり尻に敷かれてるな。田辺もいい感じの仲になっているダークエルフの子との、寿命の違いを縮めるべく気合いが入っているようだ。


 福岡上級ダンジョンではマジックポーチなんかも結構途中の宝箱から手に入ったし、70階層の上位竜からは英雄級の装備のほかにミドルヒールのスキル書に時戻しの秘薬も一本手に入った。

 ミドルヒール はかなりの大当たりで、早速魔力量の多いティナに覚えさせた。ティナは魔力がSランクになったからな。

 その他にも絡んできた冒険者や貴族からのドロップ品がある。これはポーション類にマジックポーチやバッグに、4等級の護りの指輪や祝福の指輪やらのマジックアクセサリーと、ミスリルの剣や黒鉄の槍とそこそこいい物が手に入った。


 マジックポーチなんかはギルドでCランク以上のパーティに貸し出しをしているから、たくさんあればあるほどいい。中級ダンジョンの下層でたまに手に入るようなレベルの物だから、Bランク以上の奴らはそのうち自力で手に入れるだろうけどな。


 うちは結構装備のレンタルとか充実しているから恵まれてると思うんだよな。魔石の買取額も冒険者ギルドより高いしな。

 とにかく死なせないようにしつつ、早く強くなってもらうためには物で釣るのが一番だ。

 そしてこの竜系ダンジョンしかない九州で鍛えれば、本土のダンジョンも攻略が可能だ。早く日本中にギルド員を解き放ちたいもんだ。

 しかし人口の4分1がギルド員なんだよな。凄い比率だよな。


「みんないい目になったな。そうだな……今日からみんなはトレジャーハンターと名乗るのはどうだ? ダンジョンでお宝を手に入れるのが俺たちのギルドの目的としよう。みんな俺の装備を知ってるだろ? あれはダンジョンで得た神話級の装備だ。そしてこの指に嵌めている指輪や腕輪を見ろ。これは全て2等級以上のマジックアクセサリーだ。みんなもこんなお宝を手に入れようぜ! これらは全てダンジョンの中にある! 戦って生き残ってお宝を手に入れる! トレジャーハンターとして! 」


「「「「「うおぉぉぉぉ! 」」」」


《 トレジャーハンターか! いいじゃねえか! 冒険者より俺たちらしくてよ! 》


《 あははは! 冒険とか探索とかどうでもいいもんな! 良い武器に強力なマジックアクセサリーが欲しい! 金もだ! 》


《 せっかくギルマスのおかげで自由になれたんだ。俺はお宝を手に入れて残りの人生楽しみまくるぜ! 》


《 私も長生きして今までの分取り戻さなくちゃな! 》


《 金持ちになって豪遊ってのしてみてえ! アクツさんみてえにハーレムも作りてえ! 》


《 ばっか! お前なんて身ぐるみ剥がされて捨てられるって! 》


《 アクツさんなら4人目でもいいわ……エスティナにお願いしてみようかしら? 》


《 トレジャーハンターか……悪くねえな。ギルマスはいつも面白いことを考えやがるぜ 》


 総称なんて冒険者でも探索者でもハンターでもなんでもいいと思ってたけど、俺が古代ダンジョンからお宝を手に入れて生き残ったことを考えると、トレジャーハンターの方がなんかしっくりくるんだよな。

 実際ボスを倒して宝箱から正当な報酬を得るよりも、骸から手に入れたお宝の方が多いしな。まあキャリーオーバーのクジが当たったようなもんだな。ジャックポットでもいいけど。


 俺個人としてのギルドの目的は持っていたけど、ギルドの皆の目的は特に定まってなかったからちょうどいい機会だったな。せっかく奴隷から解放されて自由を手に入れたんだ。彼ら彼女らは今まで虐げられてきた分、残りの人生を楽しく生きて欲しい。


 俺個人の考えだけど、人生が幸せだったとか不幸だったたとかは、死ぬ時に思い返して総決算すればいいことだと思う。


 叶うならここにいる皆が最後を迎える時に、自分の人生は幸せだったって思って欲しいな。



 俺は触らせてくれと寄ってくる獣人たちに見るだけだと言い、さっさとギルドの一階の受付横にあるショーケースにアイテムを入れていった。

 そしてショーケースに硬化と全力の結界を張り、恋人たちを連れてエレベーターでギルドの5階にあるギルド長室へと向かうのだった。


 なおも一階から聞こえる喧騒を耳にしながら。



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