第48話 エルフの森
俺は復讐を心に決めた者たちに餞別を渡した後、ティナたちの元へ戻りコビール侯爵の基地で手に入れたトラックを取り出した。
そしてその荷台にまだ幼い子供と、その世話をする職員たちを乗せていった。
しかしそれを見たほかの子たちも乗りたがったので、結局トラックを3台出すことになり年長の子供以外全員乗せることになった。
まあいいか。ゲートキーはティナの魔力を全部込めたとしても、最大の大きさにしたら10分もしたら門が消えそうだ。幅も人が5人通れるくらいが最大だし、この方が早く通過できるだろう。
それから時間まで俺は各施設に寄ってまたベッドや厨房機器、それと浴室にある魔道具やトイレの魔道具やらを1つの施設を除き片っ端から回収していった。
さらにはこの施設の各施設長の部屋には魔石式発電機があったので、これを5つ全部回収した。
どれも買うと高いからな。ダンジョンでやってる事と変わらないけど、どうせこの施設は使わなくなるんだ。俺が有効活用してやるさ。
ひと通り回収し終えて広場に戻ると、エルフや獣人たちが皆楽しそうに雑談して待っていた。
その中は手を繋いだり肩を抱いている男女も結構いた。ここでできたカップルなのかな? こういう場合どうなってたんだろうな。好きな子が毎夜違う男とか、そんなネトラレの日々とか俺なら発狂しそうだ。
これは聞かないでおこう。知りたくないしな。
「それじゃあ皆さん! 移動手段を説明しますね。実は俺は転移ができる魔道具を持っています! それで移動するので、門が現れたらトラックの後を駆け足で移動してください! 」
《 て、転移だって!? 》
《 アクツさんはなにを言ってるんだ? 》
《 いま門と言ったわよね? まさか皇家に昔あったというあの秘宝を持っているの? 》
《 あっ! それ小さい頃に里の長老に聞いたわ。おとぎ話だと思っていたけど、そんな長距離を瞬間移動する魔道具が本当にあるの? 》
エルフたちは聞いたことがあるようだが、獣人たちはさっぱりみたいだ。
近ければ車両で移動してもいいんだけど、さすがに大陸の最北から最南端への移動だからな。こんな大所帯で移動したら何ヶ月かかるかわからん。
「じゃあティナ。俺がすぐに魔力は補充するから、今ある魔力を全部込めて最大の大きさになるようにゲートを開いてくれ」
「ええ、わかったわ。ダンジョンで何度かやってるからまかせてちょうだい」
ティナはそう言ってゲートキーに魔力を大量に込めてから、空中にキーを挿し捻った。
するといつもより強い輝きを放つゲートが現れ、すぐに俺はトラックに乗り込みゲートを通過した。
ゲートを通過するとそこは大きな森の入口で、20mほどゲートから離れて俺はトラックを止めた。
そしてゲートを見るとリズの運転するトラックと、運転ができるダークエルフの乗ったトラック。そしてそれに続いて次々と獣人やダークエルフたちが、戸惑いつつも駆け足で門から出てきていた。
《 こ、ここは……水精霊の湖がある森の入口? 》
《 ま、間違い無いわ……300年振りだけどこの精霊に満ちた森は私たちの森よ…… 》
《 ということは風精霊の森もこの先ね 》
「コウ、なんとか全員通れたわ 」
「良かった。子供たちをトラックに入れて正解だったな」
俺が突然変わった景色に戸惑いつつも喜色を浮かべるエルフたちを眺めていると、光が弱くなり閉じようとしている門を背にティナが俺の元へと歩いてきた。
しかしゲートは10分も保たなかったか。
子供の足で通ってたら間に合わなかったかもしれないな。
「コウ、ここが私の故郷の森よ。ここにコウを連れてこられて凄く嬉しいの。早く里に行きましょう。ここからならすぐだから案内するわ」
「ああ、ここにマジックテントを張って獣人と子供たちにを休ませてからね。リズとシーナとニーナたちはここに残って皆の世話を頼むよ。もうお昼を過ぎてるから子供たちのご飯と、その他の獣人のご飯の用意も厨房にいた爺さんたちと頼む。夜には日本に戻るからそのつもりでいてくれ」
「わかった! シーナはニーナたちを集めてくれ。あたしは料理人の爺さんたちと女の獣人を集めてくる」
「はいですぅ。ニーナたちに声をかけてくるです! 久しぶりに子供たちにご飯を作るです! 」
リズとシーナはそう言って直ぐに子供たちの乗るトラックのもとに行き、テントを展開していった。
俺はさっそく動いてくれたリズとシーナに感謝をしつつ、ティナと手を繋いで森の中へと入っていった。
途中ダークエルフや風精霊の森のエルフたちが改めて俺にお礼を言いにきて、是非里に寄って欲しいと言われたが、子供たちもいるので今日中に日本に帰りたいと言って断った。
ダークエルフたちは残念そうだったが、後日必ず里の長老を連れてお礼に行くと言い残しそれぞれが森に沿って自分たちの里へと帰っていった。
みんな森を見た瞬間生き生きとしだしたな。まるで水を得た魚のようだ。
俺には見えないけど、きっと精霊が喜んでるんだろうな。
水精霊の湖は森から入って1時間もしないところにあり、湖の周囲には大きな集落があった。
ここには500歳以上のエルフと30歳以下のエルフが600人ほど生活しているそうだ。
里の人たちは突然大勢のエルフが現れたことに驚いていたが、その都度ティナが代表して説明していた。
里の人たちはラジオで奴隷解放のことは知っていたらしく、すぐに理解して俺たちを迎えてくれた。
そして再会を喜び合うほかのエルフを眺めながら、俺はティナに連れられて長老の家にお邪魔することになった。
長老は800歳越えのエルフのようで、長い白髪に髭に杖とまさに長老という雰囲気のエルフだった。
彼は俺たちを家の入口で出迎えてティナに優しい眼差しでお帰りと声を掛け、ティナは目に涙を浮かべてただいまと言っていた。それを見てティナはずっと帰りたかったんだなと思った。
俺は自己紹介をした後に未だに首輪をしている長老と、護衛らしき40代くらいのエルフ2人の首輪をサクッと外した。
昨日の今日だから帝国もここではまだ手が回ってないんだろう。
突然首輪が外れて長老たちはビックリしていたけど、ティナが俺が【魔】の古代ダンジョン攻略者だと告げると驚きつつも納得していた。
やっぱりエルフはスキルのことを知ってるんだな。魔帝もエルフだけは慎重に扱っていたし、魔人とエルフの間にはなにかあるんだろうな。
「まさか帝国人ではなく人族がそのスキルを手に入れるとはのぅ。勇者様の再来じゃな」
「ん? ああ、帝国人の正体を知ってるのか。まあエルフだもんな。口伝やらなんやら山ほどありそうだしな。とりあえずあなた達はもう自由だ。長いこと奴隷だったからいきなり戸惑うかもしれないけど、時間はいくらでもある。俺は施設にいた人たちの身体は治したが、傷付いた心は治せない。里でゆっくりと癒してあげて欲しい」
やっぱり魔人のことは知っていたか。
しかし勇者ねえ……
「ありがたいのぅ。夢のような話じゃ。数千年の時を経てこの地に勇者様が再び舞い降り、我らを再び救ってくれるとはのぅ。しかも勇者様と同じ黒目黒髪のニホン人とは運命じゃな」
「勘違いしないで欲しい。俺はエルフを救うために皇帝と戦ったわけじゃない。好きな人を、ティナを救うために戦ったんだ。決してエルフの為じゃない。俺が勇者だってんならそれはティナの勇者だ。あなた達の勇者なんかじゃない」
冗談じゃない。何千人もいるエルフに勇者だなんだと持ち上げられてたまるかってんだ。
あんたらはついでに助けただけだ。帝国に復讐をとか言い出されたらマジで迷惑だ。俺を巻き込まないでくれよ?
「やだ、コウったら長老の前で私の勇者だなんて……コウ! 凄く嬉しい……」
「おっと、ティナ。本当のことを言っただけだよ」
うほっ! ティナが感激して俺に抱きついてきて、これでもかってくらい胸を押し付けてる。
この温もりと感触。昨夜のことを思い出しちゃうな。たまらんですわ。
「ふぉっふおっふおっ! そうですか……エスティナの勇者じゃったか。そんな所も話に伝わる勇者コウキにそっくりじゃ。勇者コウキも儂らをついでに助けただけと言っておったそうじゃからのぅ……そうか、エスティナと愛し合っておるのか」
「勇者もエルフと愛し合ってたのね。そうなの。私はコウが好きで仕方ないの。長老はハーフエルフができても認めてくれる? 」
うおっ! ティナがダイタン発言を! エルフとは子ができ難いのに、ハーフエルフが生まれることを心配するなんて……できるまで俺としまくる宣言に聞こえて興奮する!
「愛し合った結果なら仕方あるまいて。昔と違いエルフは何倍にも増えたからのぅ。それに人族相手には掟は無効じゃ。アレは魔族に対してのものじゃからの」
ん? 魔人とのハーフは禁止されてんのか? まあエルフを人間扱いしていない魔族とは、そんなもん無くても子はできないと思うけど。でも過去に物好きな魔族がエルフと愛し合ったと言ってたしな。万が一のための掟か。
「うふっ、嬉しい。コウ、これでいつでも子供を作れるわ。何十年掛かるかわからないけど、コウとの子供が欲しいの。コウはイヤ? 」
「そんな事あるわけない! もちろんティナとの子供は欲しいよ」
何十年ってそこまででき難いのかよ。でもそれはエルフ同士の基準だよな? エロに関しては他の種族の追従を許さない人族を過小評価してないか?
それにしても俺の子を産みたいとか、なんて男冥利に尽きる言葉だ。こんな美しい子にここまで言われてNOとか言える奴なんて存在しないだろ。
作りますともハーフエルフでもなんでも! ティナに似ないと可愛そうだけど。残念エルフとか地球の奴らに言われそうだけど。美的感覚の違うらしいエルフにはモテそうだが……
「嬉しい……コウに森を案内するわ。ウンディーネの生まれた湖も見て欲しいの」
「ああ。それじゃあ長老。近々この森と桜島を往復する飛空艇乗り場ができるから、日本に遊びに行きたい人たちは桜島に寄越してくれ。俺の方で面倒を見るから。それと帝国から逃げてくる人たちがいたら匿って俺に連絡して欲しい。すぐに迎えにくる」
「おお……この大陸の外へ飛空艇が? ふむ……なるほど承知しました。この大陸から出たい者はアクツ様のところに送ることにしよう。いずれにせよこの森だけでは養いきれんからのぅ」
「一応帝国から生活保護はある。けど、世話になりたくない者もいるだろう。そういった者にはこっちで仕事を用意する。ダンジョンで稼がせることもできるし、島の仕事をしてもらうこともできるから安心してくれ」
俺はそう言って頷く長老に連絡先を書いた紙を渡し、長老と護衛の人に挨拶をした後に家を出た。
それからはティナと森を散歩して、ウンディーネの生まれた湖に行き、ほかの精霊と共にはしゃぐウンディーネをティナと2人で眺めていた。
そしてティナが森にいた頃に秘密の場所としていた湖のほとりで、俺とティナは生まれたままの姿となり水浴びをした。そのあと興奮した俺はティナに近くにあった石に両手を付くように言い、そのかわいいお尻に手を置いて激しく愛し合った。
ティナは愛する人といつかこの森で愛し合いたいと、幼き頃に見た夢が叶ったと幸せそうだった。
俺は火照った顔で幸せそうにそう言うティナが愛しくなり、ティナに口で元気にしてもらった後にもう一度愛し合った。
そしてお互いの愛情を確かめ合った俺たちは、しばらく湖を見つめてからリズや子供たちの待つ森の入口へと戻ることにした。
いつの間にか周囲は日が落ち暗くなり始めていた。
俺はティナを抱きしめて一気に森の入口へと飛んで行くと、森の入口で子供たちと遊ぶリズとシーナたちが見えた。
俺は遅いぞと膨れるリズの腰に手を回し頬にキスをしてなだめ、テントを回収して日本に戻ることを皆に告げた。
「それじゃあみんなの新天地となる桜島に案内する! 」
俺はそう言ってゲートキーを取り出しキーを空中に挿した。
そして行き先をダンジョン前ではなく、初めて桜島に探索者として上陸した際に降りた島の西端にある港街を思い浮かべながら捻った。
やっとこの大陸から出れる。たった2日だったけど濃かったなぁ……
でもこれで俺の弱点は減らすことができた。
エルフは残していくけど、首輪の外れたエルフが数千人もいれば帝国も手を出し難いはずだ。
帰ったら島の皆に住居を掃除してもらって住環境を整え、同時に三田たちを呼び寄せるか。
アイツらと別れてまだ2日だし青木ヶ原のダンジョンにいるだろう。
そして帝国からの魔道具が届くのと、俺の依頼を遂行しているであろう子爵の成果を待つ。
そうそう、街に行って慰霊碑の作製依頼もしないとな。
やることは山積みだけど、あと少しだ。あと少しで俺は一つの区切りを付けられる。
そしてやっと、やっと前へ進める。
俺は門を潜る皆を見送りつつ、この大陸での出来事を振り返り今後やるべきことを考えていた。
そして皆が門を通ったのを確認したのちに最後に門を潜り、テルミナ大陸を後にしたのだった。
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