第32話 魔族の証明






「コウ……大好き……」


「コウ……コウ……もういっかいちゅーしてくれ」


「ゴウざ〜ん……うざぎももっとじだいでずぅ」


 間に合った……俺はこの大切な子たちを守れた……

 ウンディーネありがとう。君がいなければ俺は大切な人を失うところだった。


 俺がティナとキスしたあとに水筒から飛び出し、ティナのもとへ戻ったウンディーネに心から感謝の気持ちを送った。


 もう二度と離さないぞ。この子たちへ降りかかる理不尽は俺が全て潰してやる。

 まずは……


「ティナ、リズ、シーナ。侯爵令嬢が動き出した。このグラウンドにも多くの戦車らしきものが向かってきている」


 俺がティナたちの隷属の首輪を外す直前に、右手にある建物の2階に見覚えのある赤髪の女を見つけた。

 一目でダンジョンで会った侯爵令嬢だとわかった俺は、隣でなぜか椅子にしがみついている同じ赤髪のデブの男と共に滅魔で身体の魔力を抜いておいた。

 すると2人とも力が抜けたように倒れたんだんだが、どうやら起き上がったようだ。


 それと同時にこの基地の陸上部隊だろうか? 大きな魔力の塊が列をなして塀の向こう側から近付いてくるのが探知で確認できた。

 恐らく魔導戦車とかいうやつだろう。


 俺はもう一度キスしてというリズとシーナを引き剥がし、泣く泣く周辺の状況を伝えたのだった。


 くっ……あのリズがデレたってのに! シーナなんて次は舌を入れても受け入れてくれそうな雰囲気なのに!


「コウ、侯爵たちを殺して逃げましょう。子爵も侯爵が死ねば私たちのことなんて調べないわ。新しい寄親を探すのに必死でしょうから。だから私たちは古代ダンジョンに逃げて一生外に出なければ……」


「そ、そうだぞコウ! 早くアイツらを殺ろう! そして逃げて死ぬまで隠れてれば平気だ! 」


「そうですティナさんとリズさんの言う通り証拠隠滅して逃げましょう! ゲートキーならきっとバレないですぅ」


「ああ、侯爵と令嬢は殺すよ。基地にいる残りの魔族もね。でもその前に……ウンディーネ、ティナたちに指輪を。みんなは念のため装備を着けてくれ」


 俺はそう言ってティナの腰の無限水筒に話し掛けた。

 するとウンディーネが3つの指輪を持って水筒から現れ、ティナたちにそれぞれ手渡した。


 俺はティナたちに指輪から装備を取り出して着けるように言うと、3人はどうやら存在を知っていたようでそれぞれが装備を取り出していった。

 牢に入れられている時に役に立ったみたいだな。渡しておいてよかった〜。


「ありがとうコウ。凄く助かったわ。でも魔族って? 」


「そう言えばさっきも魔族がどうのって言ってたよな? 」


「確かに空から叫んでましたです……」


「アイツら帝国人は魔族なんだ。ウンディーネ、その辺の黒焦げのやつの胸から魔石を取ってきてもらえるか? ありがとう」


 俺はウンディーネに魔力を渡して周囲で焼け焦げている魔族の亡骸から、魔石を取ってきてもらえるように頼んだ。


「ええ!? 魔族!? そ、それに魔石!? 」


「ど、どういうことだよ! 帝国人が魔族って……悪魔ってことだろ? 」


「ふ、ふええ……う、兎はなんだかこれから知ってはいけないことを知ることになりそうですぅ」


 俺は百聞は一見にしかずと思い、3人に頷きを返しウンディーネの戻りを待った。

 ん? 侯爵令嬢がこっちの様子を窓からうかがってるな。

 俺を警戒して助けが来るタイミングを計っているのか?

 戦車らしき部隊はもうちょっとか。救助待ちか?



「ありがとうウンディーネ。これ魔力水な。いくらでもやるから遠慮なく言ってくれな。ほら、これが帝国人の身体の中にあった魔石だ。薄紫色の魔石なんて見たことないだろ? 俺も初めて見るんだけどね。スキルで魔石があることがわかったんだ。小さいから普通は気付かないと思う」


 俺は戻ってきたウンディーネから親指ほどの大きさのひし形の魔石を3つ受け取り、ウンディーネに魔力水の入った瓶を10本ほど渡した。

 そして俺も初めて見る魔石をティナたちにそれぞれ渡した。


「ま……魔石だわ……魔力は残ってないけど間違いなく魔石だわ」


「魔力がある時は紫色ってことか……これが帝国の奴らの身体から……」


「ふええ! 確かに魔石ですぅ! 」


 さすがにショックか。帝国人が神石と言っていることも聞いたことがないんだろうな。普通に弱点だから奴隷には言わないか。何か魔力を吸収する剣とかアイテムがあったら即死だもんな。


 おっ! 侯爵令嬢たちが階段を降り始めた。戦車も到着したみたいだな。包囲しようと展開している。


「色々思うところはあるだろうけど、アイツらは人族じゃないとだけ今は認識しておいてくれればいい。3人とも装備は着けたね? なら俺に抱き付いてくれ。空を飛ぶからしっかりね」


「ええ!? わ、わかったわ」


「よし、『結界』 これで大丈夫だから。じゃあ行くよ! 」


「「え? 結界!? 」」


 俺は背中にシーナを背負いベルトで固定し、ティナとリズの腰を強く抱いて魔力全開の結界を張り、飛翔のスキルを発動して一気に上昇した。


「色々秘密にしていてごめんな。俺は3つのユニークスキルを持っているんだ。この飛翔と結界。そしてもう一つは、【魔】の古代ダンジョンの最下層のボス部屋で手に入れたこの……『滅魔』だ! 」


 俺は驚くティナたちを抱えながらグングンと上昇していき、眼下で豆粒のようになったグラウンドを囲む300ほどの戦車と、恐らく1000はいるだろう兵士に向かって滅魔を放った。


 ドンッ!


 そして地上にいる軍から大量の魔力が俺の身体を経由して大気へと放出され、その一部で俺は消費した魔力を補填した。


「さ、さっきの……」


「観覧席の兵士が一斉に倒れた……」


「これが滅魔。視界に映るもの全ての魔力を吸収し大気に放出する。今やったのは戦車の燃料である魔石と、魔族の生命活動を維持している体内の魔石から魔力を抜いたんだ。魔石の魔力が無くなったら死ぬなんて魔物と同じだよね。だからコイツらは人型の知能の高い魔物。魔族なんだ」


「あ……だから首輪の魔石が……魔物が動きを止めたのも身体を流れる魔力が無くなったから、自らの身体を支えきれなくなって……」


「ま、魔力を抜き取るとか魔物相手じゃ最強じゃんか……す、すげー……」


「ふええ!? あ……世界を手に入れられるスキルって……」


「ああ、あのダンジョンの魔王は俺が倒した。ギリギリだったけどね」


 倒してから手に入れたんじゃなくて、ヴリトラが寝ている間に漏らしながらほふく前進でコソコソ宝箱から盗んだことはナイショにしておこう。あまりにもかっこ悪すぎる。

 いま彼女たちの俺への好感度は限界突破してるんだ。なにもわざわざ落とすことないよね。


「コ、コウが【魔】の古代ダンジョンの攻略者なの!? なんてこと……私が好きになった人が神話の時代の偉業を……」


「ティナさん……コ、コウさんが魔王さんを……兎は……兎は……もう……もう……」


「マ、マジかよ!? あたしの男があの神話の人族と同じ魔王討伐者!? か、身体が熱くなってきた……くぅぅ」


 俺は彼女たちの羨望の眼差しに対し、精一杯カッコつけて「フッ」と彼女たちに笑いかけた。

 そして内心で嘘は言ってない。ちょっと順番が逆なだけだと言い訳しながら眼下の建物を見た。


 そこには滅魔の範囲から外した侯爵令嬢と恐らく父親の侯爵と思われる男がおり、迎えに来たのだろう、目の前の兵士が突然倒れて死んだことに腰を抜かしてへたり込んでいるようだった。


 俺はティナたちを抱えながら侯爵令嬢たちの前に着地した。


「ひっ! あ、悪魔! いったいいつからこの世界に……く、来るな! わ、私はテルミナ帝国貴族コビール侯爵だぞ! き、緊急魔導通信で帝都と周囲の貴族たちに応援を要請した! いくら悪魔といえどもう終わりだ! 帝国の精鋭部隊がすぐにやってくる! に、逃げるなら見逃してやる! 去れ! 今すぐここから去れ! 」


「あ……ああ……悪魔……お、お父様悪魔……殺される……」


「何言ってんだデブ。俺はもうマスクを外してるだろ……失礼な奴だな。俺は地球世界の日本人だ。お前ら魔族と違って純粋な人族だよ」


 俺はシーナを固定しているベルトを外しながら、悪魔に悪魔と言われたことに呆れていた。

 デビルマスクをしている時ならともかく、素の顔で言われると腹立つな。


 しかし悪魔をやたら恐れてるな。確か魔族とか悪魔とか呼ばれる存在はダンジョンにはいなくて、テルミナでは伝説の生き物と言われていると聞いた。その辺は地球人の悪魔に対する認識と同じだよな。


 でもいい歳してここまで恐れるほどの存在か? まさか本当に大昔にいたとか? いや、天使や吸血鬼がダンジョンにいるんだから別にいてもおかしくはないんだけどさ。

 いったいどんな伝説なんだろ。サタンとかルシファーとか? 是非一度聞いてみたいもんだ。


「ち、ちきゅうの人もどきだと! しかもデルミナ神の血を色濃く受け継ぐ私を魔族呼ばわりするとは! 貴様! 」


「さ、三等民!? う、嘘よ! 神に見放されたちきゅうの弱い下等種が、こんな……こんな力を持っているはずがないわ! あ、悪魔よ! この世界には悪魔がいたんだわ! 」


 マジかよ。コイツら高位貴族なのに自分たちが魔族だって自覚が無いのかよ。

 魔族も悪魔も同意語だからやっぱそうなんだよな?

 そもそも自覚があったら同じ悪魔を恐れるわけないか。

 マジで侯爵クラスでも神族とか思ってんのか。


 そりゃ私たちは魔族ですって言うよりは、神の子とか高尚な存在にした方が統治もしやすいだろうし自尊心も満たされるだろうが……どんだけ長い期間洗脳したらこうなるんだろうな。

 俺からしたら裸の王様を見てる気分だ。滑稽もいいところだな。


 まあそれでも一応鑑定してみるか。


『鑑定』


「なっ!? 貴様! 」


 俺は鑑定に気付いて騒ぐ侯爵を無視して鑑定結果を見た。




 ウルノース・コビール


 種族: _ 人族


 体力:C-


 魔力:B+


 力:C


 素早さ:C


 器用さ:B+



 取得スキル:【 隠蔽 Ⅳ 】.【身体強化 Ⅱ 】.【危機察知 Ⅰ 】.【炎槍 Ⅱ 】

【氷槍 Ⅰ 】.【スモールヒール Ⅳ 】




 ぶっ! ランクはパワレベで上げたのか? スキル全然育ててねえ。中級スキル持ってんのにほとんど使ってねえなこれ。


 隠蔽する必要あんのかこれ? 俺が鑑定Ⅳだから魔力値の高い俺が見ることができたけどさ。ショボ。


 上級スキルを高位貴族なのに持ってないのは、魔力値がAランクにならないと使用制限スキル入りするからもしも見られたら恥ずかしいからか?


 スモールヒールが育ってんのは高位貴族のことだ、部下や奴隷を回復させながら虐待でもしてんだろ。貴族が市民を無償で治してますなんてことはないだろうしな。


 それより人族の前の空欄は一つか……こっちは半魔人じゃなくて魔人てことなんだろうな。やっぱりテントの書物に書いてあった通り髪が赤いほど皇族に近い。つまり純粋な魔人に近いってことなのかもな。弱いけど。


 さて、前回見そびれた女の方はと……『鑑定』


「ヒッ! 」



 ヒルデ・コビール


 種族: _ 人族


 体力:C-


 魔力:C


 力:C-


 素早さ:D+


 器用さ:C-



 取得スキル:【 隠蔽 Ⅲ 】.【身体強化 Ⅲ 】.【危機察知 Ⅱ 】.【鑑定 Ⅱ 】【風刃 Ⅲ 】

【炎槍 Ⅲ 】. 【 土壁 Ⅲ 】.【スモールヒール Ⅲ 】



 女の方はCランクか。コイツは父親と似たようなスキル構成で熟練度はどれもⅢだな。

 隠蔽は貴族に必須スキルなんかね?

 でもよくこれであのダンジョンに入ったよな。スモールヒールで兵士を回復させて戦わせてたってとこかもな。


「オーケー、お前らは自分たちが魔族だって知らないのはわかった。神族だっけ? それならそれでいいや。その体内の魔石も神石なんだろ? それもいいや。どうせお前らはここで死ぬんだし」


 さて、魔人のことが少しでもわかればと思ったけど、このレベルの貴族でも駄目か。

 こりゃ皇帝くらいしか知らなさそうだな。

 お? さすが侯爵だ。収納の指輪に護りの指輪とか色々してんな。


 とっとと殺して全部頂こうかな。



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